7月2週 月曜日
村35 町49
ダ40 討伐1 フ13
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復73
治療76
採取100
草25 花5 実49
料理8
石工4
木工25
漁1
歌3
体55
女7
岡目八目という言葉があるように、自分のことを正確に理解することは、中々難しいものだ。
人の良いところや悪いところならいくらでも言えるが、自分自身の良いところや悪いところは、すぐには言えないものである。
俺の良いところってどこだろう。これから頑張るべきものってなんだろう。
俺はそんなことを考えていた。
戦いの最中に。
だから、振られたナイフが、俺の手の甲を掠めていった。
「――っと! いっ――、当たっちった」
直撃は躱したのだが、ギリギリ手の甲に触れ、一文字に傷が付く。血がジワリと滲み出た。
傷の深さは1mmか2mmか。ナイフで斬られたにしては傷は深くない。だが、ジンジンと燃えるように熱く痛む。
「大丈夫ですかエト様!」
「大丈夫大丈夫このくらい。……油断したなあ」
「相手がゴブリンとはいえ、油断禁物です。来ますよ!」
『ゴブリン
ジョブ:小鬼
HP:100 MP:100
ATK:2 DEF:1
CO:--』
敵はゴブリン、3匹。
馬車から降りて、休憩をしようとしたその瞬間、突如現れ、そして襲いかかってきたのだ。
馬車に乗っている間は、鎧を装備しない。防具を装備すると、体重が200kg300kgになるので、馬車を引く馬の負担になってしまうためだ。
普通は、軽い防具を購入して、移動中も身につけるものなのだろうが、俺達は結局買わずにきてしまった。しかし、休憩に入れば、鎧を装備する。ダンジョン用の重い鎧だ。休憩中はどんな防具を身につけようが、馬の負担になるようなことはない。襲われる確率が一番高いのは休憩中なので、それで良いと思っていた。
しかし今回は、休憩に入ろうとした瞬間、つまり、鎧を装備する前にゴブリンに襲われてしまった。
普段なら手の甲は、手甲か何かで守っているため、斬られてもなんともないのだが、そういうわけで露出しており、流血を許してしまった。
俺はこれからだ、と思った翌日に怪我をするなんて、なんてツイてない!
俺は手の甲から流れ出る血を、チラリと見て確認し、ゴブリンへと目を向け直す。
「この!」
そして、怒りを込めた蹴りを打ち込んだ。
鎧を装備していないため、俺の体重はそのまま、90kgくらい。
蹴りの威力はいつもと比べれば限りなく貧弱だった。だが、ゴブリンのような小さな生き物には、それくらいで十分脅威足り得る。
「――い!」
「ギャギャ!」
ゴブリンは脇腹に決まった蹴りに、少し吹き飛んでから転び、1回転2回転。
「ギャ……」
ヨロヨロと起き上がると、脇腹を抑えながら逃走を開始した。
3匹いたゴブリンの内、1匹が逃げ出したことで、もう1匹も逃げ出す。残る1匹は、既にアンネに殺されてしまっているので、これでゴブリンはいなくなった。
「ふう……終わりましたよ。――もう大丈夫です! 出てきて大丈夫ですよ!」俺は馬と一緒に隠れていた行商人に声をかけた。
「おおー、そうか、あー、ビックリした。いや、ゴブリンなんて簡単に倒せるんだけどな。普段なら。今日はちょっと朝から腰が痛くてよお、ほら、嫁さんと久しぶりに会ったから。分かるだろう? だからちょっと戦いたくなくてなー、本当は余裕なんだけどな」
聞いてもいないことまで喋る行商人に、「分かります分かります。強そうっすからねー」と適当に相槌を打つ。
しばらく言い訳を聞くと、行商人は満足したのか、「休憩終わったら声かけてくれよ。あんたらに合わすよ」と言って、興奮する馬を宥めに向かった。
俺はそれを見届け、すぐに反対側を向いた。アンネの元ヘ行かなければならないからだ。
街道で魔物を倒したなら、その死体を街道から離した場所に持っていかなければならない。馬車が通っても大丈夫なように、他の魔物が食べに来ても大丈夫なようにするため。ただ、その作業を、今はアンネ1人に任せてしまっていた。
ゴブリン1匹なので、1人でできない作業ではないから、俺は、もう終わったかもな、申し訳ない、と思いながら、アンネの元ヘ向かった。
しかし作業は、全く終わっていなかった。
「エト様」
「え、なに?」
アンネは、馬車の荷台の方に行っており、荷物の中から水筒を取り出し、俺の方へやってきた。
「手を」
「手?」
「はい。失礼します」
アンネは言うや否や、俺の怪我した手を自分の方へと引っ張り、傷口を観察する。
そして、水筒の水を口に含むと、その傷目掛けてペッと吐き出した。
「汚え!」
俺は避けた。何をする!
「避けないで下さい。こうしておかないと、傷口が悪化しますよ。特にゴブリンのナイフは、掠っただけでも死んでしまうことがあります」
「ああー、感染症とかってこと? 怖っ! ……でも、あれだぞ、アンネ。舐めたら消毒できるとか言うけど、あれって逆にばい菌つくこともあるから、最近はあんまり推奨されてないぞ」
「くちゅくちゅ。ぺっ」
「冷た! 話聞けよ……、汚い……」
「あと、足。ゴブリンを蹴った時、痛がってましたよね。その後も少し引き摺ってましたし、痛めましたね? ねんざですか? 縛って固めますので、少し腰掛けて下さい」
「捻挫あんのね、異世界も。というかよく見てたな……。別に良いよ、大したことないだろうし」
「いけません」
アンネはそう言うと、無理矢理俺を座らせようとした。
なんだか恥ずかしかったので、「課金があるから、課金。そっちでなんとかするって」と言って、それを躱した。
「えーっと、ナイフのは……、消毒もか」
『キリキズナオールスコーシ 銅貨30枚』
『キズグチキレイナール 銀貨1枚』
まずはそれを購入。アイテムボックスに入っていたのは、絆創膏と、プラスチックボトルに入った液体タイプの消毒液だった。なんでだよ。
絆創膏は、5枚入り。使用期限は1週間。
消毒液は、結構な量が入っていて、使用期限は1ヶ月。使いきれはしないだろう。銀貨1枚は高い。
俺だけに使うのは勿体ないので、アンネの怪我も探して使っておいた。足に、枝で切ったらしい傷ができていたので。
「それと、足は……」
『イタイノトンデーク 銀貨5枚』
「こっちは高いし、治るわけじゃなさそうだから」
『サッキイタメタトコナオールスコーシ 銅貨60枚』
「こっちかな?」
購入すると、アイテムボックス内に、湿布が追加されていた。
「湿布か……」俺は呟く。なんか、世界観がなあ。この、剥がした後の透明なフィルムとか、どう処理すりゃ良いんだろう。
ともあれ、効果は凄まじい。貼った瞬間から効き始め、あっという間に痛みはなくなった。
「よし。これで良いだろ?」訝しげに見ていたアンネに向かって、俺は言う。
課金は本当に凄いな。継続的にお金を稼ぐようなことには向かないが、こういう緊急時は非常に役に立つ。
これからの未来、ってことを思うなら、課金についてもよく考えた方が良いかもしれない。
まだ異世界に慣れていないので、どの程度大っぴらに使って良いのか分からなくて、我のために課金しておれルートを避けるため、積極的には使えなかったが、何か方法を……。
身体能力を一時的に上げる課金を使って、強大な魔物を倒すとか。
ATKDEFを上げて、ダンジョンの高い階に挑むとか。何か……。
あ、土壌を改善する課金を使って、農業をするとかもあるのか。うーん、でも冒険者で行くって決めてるからなあ。それに、農業は運の要素も強いから恐い。農協がないから、天候次第で死ぬみたいだし。飢饉は怖い。
何か、今以上に活かす方法はないんだろうか。町についたら、結局あのATK+5のスプレーとかしか使わないと思う。ちょっと勿体ない気がした。
「治ったようですね」俺が手足をプラプラさせたのを受けて、アンネは言う。「しかし、ゴブリンごときにそれほど怪我を負わせられるとは」
「フィールドで戦った経験ってほとんどなくてねー」
俺は言い訳のように答えた。
「確かにダンジョンと戦い方は違いますが。ゴブリンと戦ったこともないのですか?」
「……ない……、わけじゃないけど。どうなんだろ、あるよ。あるある」
「装備などはされてましたか? どういう場面でです?」
「さあ、どういう場面だっけ」
しかし次の言葉にはとぼけて答えた。あまり思いだしたくない記憶だったから。
「それより、ゴブリンの死体を片付けよう」
俺はすぐに話を変え、死んだゴブリンの元ヘと向かった。
「私がやっておきますよ」と言うアンネを制し、2人で一緒にゴブリンの死体を運んだ。
腕を握り、引き摺るように。
ゴブリンの腕は、生暖かく、ぶよぶよしていた。
腕を掴んでいたので、手は歩く度にブラリと揺れていた。そのため、たまにだが俺の腕にもその手が当たった。その手がバッと掴んでくる、ようなことはもちろんない。手は、まったく力が入っていない、例えるならゴムまりというか、祭りですくった水風船のようなものだった。
ああ、もう生きてないんだな。俺はそう思った。
俺達はそれを、街道から少し外れた茂みに放り込んだ。そして、街道についた血を、土を盛って消していく。
ゴブリンの痕跡は、どこにもなくなる。
「エト様、顔が真っ青ですよ」
「大丈夫。大丈夫だ。全然」
「先ほどゴブリンとの戦いを聞いた時、濁していましたが、それと関係あるのですか?」
アンネが心配そうに探ってくる。
「ないない。違う違う。ただ単純に死体が気持ち悪かっただけ。なんであんなブヨブヨしてんだろうね」
俺は触っていた方の手を、ブンブン振りながらそう答えた。
「俺、こうやってダンジョンの外で戦う人、向いてないわー」
「そのようですね」
アンネは即答した。否定してくれよ、と少し思わないでもなかった。
「というか……、いえ、今は良いですか」
「なに?」
「いえ、なにも」
アンネが言いかけ止めた何かが気になるが、気分の悪さが勝ったので、俺は会話を続けず、課金リストを開いた。
『キブンアガールスコーシ 銅貨10枚』
そして隠れて1本飲む。少し元気が出てきた。
「トートサスさん、休憩終わりましょう。こっちはもう大丈夫です。行きましょう行きましょう。いざ、トルポ山道町へ!」
「お前が仕切るなよ。でもまあ、行くかー」
トルポ山道町は、俺が見た異世界の町の中で、最も大きく栄えていた。
色々見て回ろうかと思ったが、気分が悪かったので、俺はすぐに宿で眠った。疲れもあったのか、爆睡だった。何度か、アンネが枕下に立って、お腹を鳴らしている音が聞こえたが、起きてやらなかった。
お金持ってるんだから、自分で食べに行け!
お読み頂きありがとうございます。
ブックマークや評価、ありがとうございます。励みにしています。
早く投稿する詐欺を、依然として続けている状態です。先の展開が決まっているのですが、そこまで書いたら良いのか迷っています。力がないなりに、少しでも面白くを目指し、奮闘していますが、やはり力がないため難しく……。
大変ご迷惑をおかけしております。
スピードも心がけ頑張ります。
読んでいただいてありがとうございました。