7月1週 休日
村35 町49
ダ40 討伐1 フ12
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復68
治療76
採取100
草25 花5 実44
料理7
石工4
木工22
漁1
歌3
体55
女7
中学、シニア時代の最高球速は、最後の大会で出した136km/h。
練習では、134km/hまでしか出したことはなかったが、それが生涯の最高球速。
それから身長が5cm以上伸び、体重が10kg以上増えはしたが、投球用の筋肉をつけることも難しければ、フォームチェックしてくれる人もいない。
その時以上に速い球は、俺にはもう、一生投げられないだろう。
だが、それでも。
「第一球、振りかぶって……んんっ」
まだまだ余裕で100km/h以上は出る。
投げた石は、10m近く離れた場所に立つアンネが掲げた枝の葉っぱに、見事に命中した。
「ふうー」フォロースルーの後、腕をプラプラさせながら、俺は驚く顔のアンネを見る。「どう?」
「す、素晴らしいですねエト様。これは……本当に凄いですよ! 速過ぎて見えませんでした」
「だろう?」
「盗賊達が慌てふためいていたのも分かります」
「……ふふ。だろう?」
俺は、とんでもないドヤ顔を披露しているに違いない。
俺達は今朝早く、サンリュー村から行商人の馬車の荷台に乗って出発した。
無蓋の馬車だったので、いつも通りに雨を避けられる屋根を作ろうとしたところ、「木の枝に引っかかったら危ないからやめてくれ」と言われ、降りしきる雨の中、アンネと2人、1枚の皮の雨よけに身を寄せ合っていた。
そして触れ合う肩や腕の温かさに、なんだか気恥ずかしくなってきた頃、盗賊が出たのだ。
一番最初に気付いたのは、アンネ。
ふと前を見た時に、森の中に隠れる黒い影を発見したらしい。
すぐさま行商人に伝えると、行商人は馬車のスピードを上げる。しかし、盗賊達は、そんなことなどお構いなしに、馬車の前に立ち塞がり、馬を止めようと槍を構えた。
それで馬が止まってしまったなら、彼等は荷物を奪いにやってくる。
俺達は護衛であるから、それを防がなくてはならない。間違いなく戦いになるだろう。
護衛が乗っていれば襲われないとは、なんの話だったのやら。
戦いとは、すなわち殺し合いだ。
一度経験したことはあるものの、経験したことがある分、それは嫌だった。
だから俺は、投擲用にと持っていた石を、走る馬車の荷台の上で振りかぶり投げつけたのだ。戦いを避けられる可能性を上げるために、ビビれっ、と。
俺としては、不安定な馬車の上でもあったため、速い球は投げられなかったと思ったのだが、馬車が進むスピードを利用したからか、そのスピードは、盗賊が腰を抜かすほどだった。
盗賊は、「うひゃああ!」なんて声をあげて、1人が尻餅をつき、2人目に投げつけても、同様に尻餅をついた。
3人目は投げる振りをしただけで飛び退いて転げたため、馬車はそのまま盗賊達の間を通過。立ち上がり走って追いかけようとした盗賊達だが、馬車の全速に追いつけるはずもなく、雨の彼方に消えて行った。
そして、休憩中の現在、アンネから、もう1度投げたのを見たいと言われたので、実演していた。
「まあ、昔はもっと速かったんだけどね。今は……120そこそこかな? 肩あっためたら、5は出ると思う」
「何を言っているのかは分かりませんが、おそらく投擲紐よりも速いのではないかと思いますよ。正確ですし、凄いですっ。さすがはエト様」
アンネはキラキラした目で俺を褒め称える。
今までにないくらい、褒めちぎられていた。
ちょっと投球練習して、しっかりしたフォームで投げたら、120なんて誰でも出ると思うが、異世界には野球なんてものはない。投げる動作こそ、多々存在するのだろうが、そこまで速度を突き詰めたりはしていないに違いない。だったら、100km/h以上は、未知の領域である。
現状では、世界で一番、俺の球速が速い。
つまり。
こんなところに。
こんなところに、俺が、異世界で主人公になれる力があったということだ。
……いや、球速が速いことは、ダンジョン物のファンタジーには関係ないだろうが。
ともあれ、凄いと言われるのは気持ちが良かった。
「流石は、投石紐のない世界で生きてきただけのことはあります。昔の人は、やはり体が強かったのですねえ」
ますます原始人扱いされているが。
「スライダーもあるよ」
「スライダー? えええ、曲がった! 曲がったぞ今!」
「カーブもあるよ」
「カーブ? おおー。……これは、遅いな。さっきのをもう一度投げて下さい! おおおお!」
俺はアンネに色々球を見せ、その度に称賛の声を浴びた。同時に、行商人のおっさんからも浴びたが。まあ、気持ちが良かった。
だから、もっと凄いと言われたいな、俺はそう思った。
他にも、俺しかできないことはないだろうか。自分の過去を振り返ってみる。
科学や学問が進んだからこその自慢は駄目だ。例えば、微分積分ができる、と言っても、アンネには分からないだろうし。
しかし、それを抜いてしまったら、努力をさしてしなかった俺だから、人様に自慢できるようなことは何もなかった。
そして、自慢できることは見つからなかったというのに、昔を思いだしたせいで、もう二度と出会うことのない家族や友人の顔、二度と通うことのない学校や、帰ることのない家など、失ったものばかりが思い返され、少し泣きそうになった。踏んだり蹴ったりだな。
だが、その時初めて、それらを考えないようにしていたのか、と気づいた。
自分でそう決めたわけじゃないので、無意識にである。人間の自己防衛本能は、無意識でもよく働くものらしい。
だが、泣きそうになったのは、少しだけだ。
どうやら俺はもう、大丈夫のようだった。
節々で思い出してセンチになるのかもしれないが、それだけだ。心が折れたりはしない。
俺はこっちでやっていくよ。
だから、まあ、過去に自慢できることが見つからなくても良いか。
「これからだ。これから。未来で探せば良いだけだ」
まさか、こんなショボイことで、こんな前向きになるとは思わなかった。俺って結構単純なやつなのかな? 自分でそう思った。
俺の物語は、きっとこれから始まる。
お読み頂きありがとうございます。
あと2週間くらい経った頃、ひと波瀾ある予定です。
頑張ります。