表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/144

7月1週 休日

村35 町49

ダ40 討伐1 フ12

人1 犯1

魔100 中13 上1

剣100 剣中13 剣上1

回復68

治療76

採取100

草25 花5 実44

料理7

石工4

木工22

漁1

歌3

体55

女7

 中学、シニア時代の最高球速は、最後の大会で出した136km/h。

 練習では、134km/hまでしか出したことはなかったが、それが生涯の最高球速。


 それから身長が5cm以上伸び、体重が10kg以上増えはしたが、投球用の筋肉をつけることも難しければ、フォームチェックしてくれる人もいない。

 その時以上に速い球は、俺にはもう、一生投げられないだろう。


 だが、それでも。


「第一球、振りかぶって……んんっ」


 まだまだ余裕で100km/h以上は出る。

 投げた石は、10m近く離れた場所に立つアンネが掲げた枝の葉っぱに、見事に命中した。


「ふうー」フォロースルーの後、腕をプラプラさせながら、俺は驚く顔のアンネを見る。「どう?」

「す、素晴らしいですねエト様。これは……本当に凄いですよ! 速過ぎて見えませんでした」

「だろう?」

「盗賊達が慌てふためいていたのも分かります」


「……ふふ。だろう?」

 俺は、とんでもないドヤ顔を披露しているに違いない。


 俺達は今朝早く、サンリュー村から行商人の馬車の荷台に乗って出発した。

 無蓋の馬車だったので、いつも通りに雨を避けられる屋根を作ろうとしたところ、「木の枝に引っかかったら危ないからやめてくれ」と言われ、降りしきる雨の中、アンネと2人、1枚の皮の雨よけに身を寄せ合っていた。

 そして触れ合う肩や腕の温かさに、なんだか気恥ずかしくなってきた頃、盗賊が出たのだ。


 一番最初に気付いたのは、アンネ。

 ふと前を見た時に、森の中に隠れる黒い影を発見したらしい。

 すぐさま行商人に伝えると、行商人は馬車のスピードを上げる。しかし、盗賊達は、そんなことなどお構いなしに、馬車の前に立ち塞がり、馬を止めようと槍を構えた。


 それで馬が止まってしまったなら、彼等は荷物を奪いにやってくる。

 俺達は護衛であるから、それを防がなくてはならない。間違いなく戦いになるだろう。


 護衛が乗っていれば襲われないとは、なんの話だったのやら。


 戦いとは、すなわち殺し合いだ。

 一度経験したことはあるものの、経験したことがある分、それは嫌だった。


 だから俺は、投擲用にと持っていた石を、走る馬車の荷台の上で振りかぶり投げつけたのだ。戦いを避けられる可能性を上げるために、ビビれっ、と。

 俺としては、不安定な馬車の上でもあったため、速い球は投げられなかったと思ったのだが、馬車が進むスピードを利用したからか、そのスピードは、盗賊が腰を抜かすほどだった。


 盗賊は、「うひゃああ!」なんて声をあげて、1人が尻餅をつき、2人目に投げつけても、同様に尻餅をついた。

 3人目は投げる振りをしただけで飛び退いて転げたため、馬車はそのまま盗賊達の間を通過。立ち上がり走って追いかけようとした盗賊達だが、馬車の全速に追いつけるはずもなく、雨の彼方に消えて行った。


 そして、休憩中の現在、アンネから、もう1度投げたのを見たいと言われたので、実演していた。


「まあ、昔はもっと速かったんだけどね。今は……120そこそこかな? 肩あっためたら、5は出ると思う」

「何を言っているのかは分かりませんが、おそらく投擲紐よりも速いのではないかと思いますよ。正確ですし、凄いですっ。さすがはエト様」

 アンネはキラキラした目で俺を褒め称える。


 今までにないくらい、褒めちぎられていた。

 ちょっと投球練習して、しっかりしたフォームで投げたら、120なんて誰でも出ると思うが、異世界には野球なんてものはない。投げる動作こそ、多々存在するのだろうが、そこまで速度を突き詰めたりはしていないに違いない。だったら、100km/h以上は、未知の領域である。

 現状では、世界で一番、俺の球速が速い。


 つまり。

 こんなところに。

 こんなところに、俺が、異世界で主人公になれる力があったということだ。


 ……いや、球速が速いことは、ダンジョン物のファンタジーには関係ないだろうが。


 ともあれ、凄いと言われるのは気持ちが良かった。

「流石は、投石紐のない世界で生きてきただけのことはあります。昔の人は、やはり体が強かったのですねえ」

 ますます原始人扱いされているが。


「スライダーもあるよ」

「スライダー? えええ、曲がった! 曲がったぞ今!」

「カーブもあるよ」

「カーブ? おおー。……これは、遅いな。さっきのをもう一度投げて下さい! おおおお!」

 俺はアンネに色々球を見せ、その度に称賛の声を浴びた。同時に、行商人のおっさんからも浴びたが。まあ、気持ちが良かった。


 だから、もっと凄いと言われたいな、俺はそう思った。

 他にも、俺しかできないことはないだろうか。自分の過去を振り返ってみる。


 科学や学問が進んだからこその自慢は駄目だ。例えば、微分積分ができる、と言っても、アンネには分からないだろうし。

 しかし、それを抜いてしまったら、努力をさしてしなかった俺だから、人様に自慢できるようなことは何もなかった。


 そして、自慢できることは見つからなかったというのに、昔を思いだしたせいで、もう二度と出会うことのない家族や友人の顔、二度と通うことのない学校や、帰ることのない家など、失ったものばかりが思い返され、少し泣きそうになった。踏んだり蹴ったりだな。


 だが、その時初めて、それらを考えないようにしていたのか、と気づいた。

 自分でそう決めたわけじゃないので、無意識にである。人間の自己防衛本能は、無意識でもよく働くものらしい。


 だが、泣きそうになったのは、少しだけだ。

 どうやら俺はもう、大丈夫のようだった。

 節々で思い出してセンチになるのかもしれないが、それだけだ。心が折れたりはしない。


 俺はこっちでやっていくよ。


 だから、まあ、過去に自慢できることが見つからなくても良いか。

「これからだ。これから。未来で探せば良いだけだ」


 まさか、こんなショボイことで、こんな前向きになるとは思わなかった。俺って結構単純なやつなのかな? 自分でそう思った。

 俺の物語は、きっとこれから始まる。

お読み頂きありがとうございます。

あと2週間くらい経った頃、ひと波瀾ある予定です。

頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ