7月1週 金曜日
村34 町48
ダ40 討伐1 フ12
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復65
治療76
採取100
草25 花5 実44
料理7
石工4
木工22
漁1
歌3
体55
女7
人の力は凄まじい。
その力は、合わされば、地図だって塗り替えられる。森だった場所を、わずか数年で集落や、道に変えられるのだ。
しかし、自然の力の方が、より凄まじい。
その力は、たった一晩で、地図を塗り替えてしまう。
「――っとと」急に馬車が停車したため、バランスを崩しそうになった。すかさず俺は手で荷台の端を掴んで耐え、体の傾きを修正する。「なんだ?」
俺は振り返り、馬車の進行方向を見た。そこには、道がなかった。
「どうなってるんですかこれ」
俺は、操車する行商人の少年が馬車から降りたのを見て、そう声をかけた。
雨音が激しいせいか、聞こえなかったようで、返事はない。仕方がないので俺も馬車を降りて、着ている服の襟首を持ち上げ傘代わりにしつつ、行商人の隣まで小走りで行った。
「土砂崩れ……ですね」
俺が来たことに気づいた行商人は、唖然としたともとれる声で言う。
しかし、それも仕方がないだろう。近くで見たそれは、凄まじかった。
この道は、山の側面に作られた道。
進行方向に沿って右を見れば、登りの斜面があり、左を見れば下りの斜面がある。道幅は3mもないような細さで、中々スリリングな道だった。
だが――。
「うわあ、本当だ」
そんな道は、俺達の立つ1,2m先で、ぷっつりと途切れていた。土砂が体積しているわけではない、道が抉れ、なくなっているのだ。
向こうに見える道までは、ざっと30mほど。その間が、全て消え去っている。
覗き込むと、道よりも2,3m下に、土肌が見えた。
降りしきる雨で、泥になっているが、そこには、大木が巻きこまれていたり、魔物が巻きこまれている。
右、山の上の方を見たなら、山肌にはくっきりと土砂崩れの痕ができていた。
扇状に広範囲を巻き込み、木の根も残さない凄まじい威力が見て取れる。
生まれて初めて、土砂崩れの現場を見た。
凄まじいとしか言いようがない。これに巻きこまれたなら、そりゃあ、助からない。
「よくあるんですか?」俺は、行商人の少年に聞いてみた。
「雨季の間は、何度かそういう話を聞きます。特にこの辺りは、山道が続くので。……でも、この辺りは地盤が固いって話だったんですけどねえ」
行商人は、道の端に立って、下を覗きながらそう言った。
さっき俺もそうしていたから、人のことは言えないが、やめた方が良いと思う。見てるだけで怖い。
「これは……。こんな風になるものなのですね」
アンネ、お前もか。
「どうします? トーラン君。この道を通らないと、サンリュー村に行けないんですよね?」
「いえ、そういうわけではないです。こういう時のために、ルートはいくつかありますよ。とはいえ、時間がかかりますので……。すみません、僕は今回はサンリュー村に行かないことにします。この近くにも小さいですが村があるんですよ、そちらで商売しようかな、と」
「そうなんですか。じゃあ、行きましょう行きましょう」
「いえ、でも多分そこから、キュレトン市方面に行く人はいないと思うんですよね。だからお2人は、サンリュー村まで行った方が良いですよ。ここから近いですし、そのままこの道を行ったらすぐです」
俺が聞くと、行商人はそう答えた。
この道を?
俺は抉れた道を見て、行商人の言葉の真意を考える。……え、死ねってことか?
「いえ、私がエト様を持って運ぶということだと思いますよ」
考えが顔に出ていたのか、アンネが俺の耳元でそう囁いた。
「アンネが?」
「ドラゴニュートですから、飛べますので。エト様は大きいですから重いと思いますが、向こう岸まで程度でしたら、運べないことはありません。疲れますけど」
「な、なるほど」
そうだった。アンネは空を飛べるのだ。
高くは飛べないが、飛んで移動するだけなら、かなり自由が効くらしく、人を運ぶことも可能である、と。
凄いな。
人間にそんな機能をつけるには、ドローンみたいなのをつけないといけないだろうに、ドラゴニュートはそのままいけるのか。
アイテムボックスといい、種族格差が大きすぎる。
そりゃあ、種族の差別がなくならないわけだ。
まあ、そんな考えは置いておいて、俺達は行商人の提案通り、ここで別れることにした。
力を合わせ、細い道の上で馬車を反転させると、行商人は走り出す。俺は、頑張れ少年、と応援しながら、その後ろ姿を見送った。
そして、いざ。
「では、体を結びます。一応、手でも抱えますが、念のために。エト様は動かないで下さいね」
「お、おう……」
アンネは俺の後ろに立つと、俺の体と自分の体をロープでしばっていく。
お互いの腰と腰を、ひとくくりに結ぶようだ。俺の方が身長が高いため、ちょっと屈むよう言われた。
「ぐえ!」思い切りギュっと縛られたので、腹から空気が出て、そんな声を出してしまった俺。
「我慢して下さい」アンネに言われる。
ただ、その頃になると、恐怖が薄れてきた。
なぜなら……、背中に柔らかい胸の感触が当たっているから……。
アンネは、気づいていないのか? ロープを結ぶために、凄く当たっている。
「ん、しょっと。これが……よっと」
押し付けてきている。
また、なんだか良い匂いがする。アンネの匂いは、最近凄く良い匂いになっているのだ。
幸せな時間だった。
幸せ過ぎて、ちょっと愚息が大きくなってしまった。仕方ないじゃないか、最近欲求不満なんだから。
ただ、それに気取られると嫌われそうな気がしたので、俺は必死にお婆ちゃんのことを考えた。
お婆ちゃん、懐かしい。萎えるどころか、泣きそうだ。
そうして、俺がアホをやっている間に、ロープがきちんと結ばれていた。
アンネは俺の脇の下に手を入れ、ホールドするように持つと言う。
「では、飛びますよ。地面を蹴らないと高くは飛べないので、一緒にジャンプして下さい。せーのっ」
アンネが膝を曲げたのを感じ取って、俺も膝を曲げ、そして伸ばす。
俺達は一緒にジャンプした。
ジャンプは、予想以上に高くまで上がった。数十cmどころの話ではない、2m、いや3mほどまで一気に上がったのだ。
その中空で、俺達の体は静止する。
俺の体は、ロープと、脇の下に入れられたアンネの腕で宙ぶらりんになっているだけだが、アンネは確かに浮いている。
いや、だったら俺も浮いていると言って良いだろう。俺は空を飛んでいる。
「どうです? 飛ぶのは、中々面白くありませんか?」
「ああ、凄いな、これは」
見える景色が全然違う。真下の地面が、凄く遠い。
これは……。
アンネは前進を始めた。
羽が羽ばたく音は聞こえない。しかし、スーッと滑らかに俺達は空中を動く。歩くスピードと同じくらいの速度で、俺達はぐんぐん向こう岸に近づいていく。
ただ、俺はそこで気づいた。
「アンネ、今、俺も初めて知ったんだけど」
「なんでしょうか、今大変なんですが。エト様結構重たいので」
「俺、高所恐怖症だわ」
「……頑張って下さい」
お股がひゅんとする……。
大きくなりかけた愚息は、向こう岸に辿り着く頃には、小さく小さく縮こまってしまっていた。
それからは道をずーっと歩いた。1時間ほど経った頃、サンリュー村に辿り着く。
サンリュー村は、つい1年前まで町だったらしく、様々な設備があり人口も多かった。
俺達は、乾燥小屋と呼ばれる、雨季に濡れた服を乾かすために、夜以外は常に火が焚かれる小屋を利用させてもらった。
ただ、その小屋に服を干す作業は、奴隷の仕事らしく、アンネに手伝いを拒否され、俺はキュレトン方面に向かう行商人探し。
行商人は20人ほどいたが、その内18人ほどが、キュレトン方面に向かうらしく、交渉は楽だった。
アンネと合流してご飯を食べ、宿屋も選べる程度にはあったので、ベットが2つある部屋をチョイス。
着替えて横になり、俺達は眠りについた。
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