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112/144

6月4週 土曜日

村34 町45

ダ39 討伐1 フ8

人1 犯1

魔100 中13 上1

剣100 剣中13 剣上1

回復39

治療72

採取81

草16 花5 実33

料理7

石工4

木工12

漁1

歌3

体55

女7

 春。

 夏。

 秋。

 冬。


 それら4つの季節に加え、雨季が存在する。


 雨季は、春から夏にかけての時期にある。基本的には1ヶ月間。その間、雨が降り続くのだ。


 太陽や月が見えることはほとんどなく、常に雨は降り続き、その際の降水量もまた少なくはない。

 川は増水し、氾濫し、山は崩れ、作物は枯れ。雨季は人の暮らしに甚大な被害をもたらす。


 唯一の救いは水不足の解消であるが、ダムとはほど遠いため池程度しかないため、貯水はあまりできない。雨季が終わった後に日照りが続けば、結局水は不足する。

 科学技術が発展していない異世界では、自然の力はあまりにも大きい。


 とはいえ、異世界に生きる人々は、何十年何百年、何千年も前からそんな自然と付き合って生きてきている。毎年来る雨季に対して、村や町を放棄するほど脆弱なわけはなく、生活がままならなくなるわけではない。


 ゆえに、例え雨季の激しい雨で、道がぬかるんでいたりしようとも、行商人は荷を運ぶ。


 俺達はダンジョンを午前中で切り上げ、市場に立ち寄り次の旅路の準備をしていた。


 霧のような小さな雨粒が舞っているが、誰しもが活気にあふれている。そんな中で、俺達は馬車に乗せてもらう手筈の行商人と出会った。

「丁度良かった」行商人はそう言って、明日の昼頃出発する予定を俺に伝えてきた。


 明日の天気は雨。それも、強く降るとの予報が出ている。

 馬車で通る道の水はけは、それなりに良いものの、流石に強い雨だとぬかるんでしまうそうだ。そのため、晴れていれば1日で着くオキロ-町までの道のりだが、途中にある洞窟で一泊するのだとか。


「雨と寝床の準備、ちゃんとしとけよ?」

 行商人はそう言って、市での仕入れを再開させた。

 意気揚々と色々な店の店主に話しかけては、様々なものを購入していく。


 俺はそれを見送ってから、右横、少し下を見ながら話しかけた。

「雨の準備ねえ。食べ物とかは買ったけど、あとは何がいる?」


 その声に、顔を上げて答えたのは、アンネ。

「まず雨避けだ……でしょうね。見たことはありませんか? 木の棒に皮を張って、それを立て、その下に入ります」俺を見てそう言った後、キョロキョロと周囲を見回し、指を指す「丁度、あの店の屋根のような形です」


「なるほどね、あんな感じか。わかった。……でも、なんで急に敬語?」

「奴隷でいる内は、けじめだ。ダンジョンに入るたび銀貨2枚を貰っていますから、雇用主のでもありますし」

「そ、そう。慣れないな……」


 再びこちらを見たアンネから、俺は少し気恥ずかしくなって顔をそらした。


 俺は、アンネを売らなかった。

 これからも、売るつもりはない。

 まあ、元々覚悟して買ったのに、あんなことになったんだから、これからまた売りたくなることもあると思うが。


 しかし、アンネがどこにも行かないと言うのなら、俺には成す術などない。

 天才が決めたことを覆すなんてこと、その他大勢にできるはずもないのだから。


 ゆえに、俺達はこれからも一緒に旅をする。その旅路がどうなるのか。そして人生がどうなるのか。それは多分誰にも分からない。

 頑張らなくても頑張っても苦しいそうなので、苦しいものになることは確定だが。


 これだけ才能があるのに苦しい人生になるだなんて……。

 思わずため息が出た。


「ため息をつくほど、か。敬語には慣れろ」

「ああいや、ため息は違う違う」

「? まあ、ともかく、皮を買え――買って下さい。安い物で構いません。立てるための棒は、部屋の間仕切りに使っている棒を使えば良いですが……、ああ、塗る油はいるな。さっきのところで売っていましたね。少し戻るか」


 アンネは敬語が入り混じった口調でそう言うと、くるりと振り返り、来た道を戻って行った。

 異世界には色々な髪色の人がいるが、アンネほど鮮やかな赤色の髪は珍しい。真紅と呼び変えても良さそうな色の長い髪の毛を、雨に濡らしながら歩くその後ろ姿は、とても目を引く。

 まあ、誰よりも目を惹かれているのは、俺の心の問題もあるのだろうが。


 ふとアンネは立ち止まって、こちらを振り向いた。

「何をしている。来い」


 俺は、小走りで追いつき、軽く謝罪しながらまた隣を歩き始めた。

 そうして、先ほど言っていた油や皮、それから雨季の移動に必要な物を買い揃えていった。

 結構な大荷物になってしまったため、大きめのリュックを購入した。両肩に背負うものではなく、片方の肩に背負うタイプ。


 俺はそれを、左肩に背負う。

 野球をやっていた癖で、何かを背負う際は基本的に左肩に背負ってしまう。だからというわけではないのだろうが、アンネはまた、俺の右側を歩いていた。


 市は人でごった返しているため、俺とアンネの体はたまに触れ合う。左肩に背負うリュックが重いから、俺自身右に傾いているのも、関係あるだろう。

 着ている服が濡れているせいで、触れ合っても冷たい感覚があるだけだが、たまに長時間触れ合うと暖かさを感じた。それは、それなりに心地よいものだ。


 それがなぜかを、俺は深く追求するつもりはない。けれど、まあ、だから、苦しい人生でも別に良いか。俺はそう思った。


 ……しかし。


 しかし1つだけ、奴隷としてアンネと旅をする上で、要改善の事案がある。


 夜。

 アンネが寝静まった頃、俺はベットの中で動き始める。


 アンネを購入してから1週間とちょっと。16歳の少年ならば、既に暴発していてもおかしくはないが、なんにでも才能のある俺は、未だそれを抑え続けることに成功していた。

 だが、1つ年上の美しい女の子と、1つ屋根の下。いや、1つ部屋の中。俺の臭いに混じる、別人の甘い匂い。それらは俺の我慢の限界をゴリゴリと削っていく。


 なので、こう、もぞもぞと。布団をかぶってもぞもぞと。

 スマホで何かを見たりできるわけではないが、そんなものなくたって余裕なほどのリビドーを、俺は今まさに解放し――。


「おい、うるさいぞ。しゅっしゅ、しゅっしゅ、何の音だ」

「え、あ、え、えっと……」

「目が覚めたじゃないか。何を動いている、スライムでも出たのか?

「いや、出たというか出そうというか、スライムと言えばスライムなのかもしれないけど」


 改善すべき事案とは、そう、こういう処理をどうしようという問題だ。

 アンネが奴隷である以上、俺達は一緒に住まなければならない。アンネ用に部屋を借りるといっても、奴隷にはどこも貸してくれない。性奴隷であり子供を作れる状態のため、他の奴隷と同じ場所に住まわせるわけにもいかない。

 だから選択肢は同居しかないのだが、同居すると俺のこういうのが……。


「歯切れが悪いな」アンネはそう言って、立ち上がった。

 間仕切りは、もうそこにはない。


 明日この町を出発するため、はずしてしまったのだ。出発は昼過ぎだが、お世話になった人達へ挨拶回りに向かうために、そんな暇がなさそうなので、と。

 馬車の荷台で使う、雨避けを作るのに、間仕切りの木の棒が必要ということもあったし。

 だから……音も、よく聞こえたんだろう。その、一定間隔でこする音が……。


「スライムが出たのなら任せるぞ。いや、前のように手づかみで捕まえられても困るが」

「いやスライムじゃなくてね」

「じゃあ何が出たんだ」

「まだ出てはなくて……」

「まだ? これから出るのか?」

「ええっと」


「意味が分からん。というか何をもじもじしているんだ。もしや布団の中にいるのか? 以前にも言ったが、スライムを飼うのは無しだぞ! 分かっているのかっ?」

「いや、分かってる分かってる。もうそんなことは言いません」

 以前、この部屋にスライムが出た時、可愛いから飼っても良いかと聞いたのを、覚えていたようだ。まあ、衝撃的な顔をしていたから、こっちも覚えているが。


「……信用ならんな。ちょっと布団をめくってみせろ」

「えっ? そ、それはちょっと……」

「やっぱり隠しているのか!」

「隠してない隠してない」

「ならめくって見せてみろ!」

「落ち着け! 落ち着くんだ!」


 アンネは数歩近づいてきて、窓の蓋を外した。こんな時に限って、雨季のくせに雨は止んでおり、月が見えている。

 そして、アンネはその光を頼りに、俺の布団に手をかけた。


「布団のこの盛り上がりはなんだ! 何かいるじゃないか!」

「待て待て待て。これはあれだ、男の、ほら男の」

「男の?」

「そう男の、持病みたいな、あるじゃん」

「全然分からん」


「男のだよ、ほら、男の」

「全然分からん」

「察しが悪いなこの野郎! モロに言ってやろうか!」

「ああ、遠まわしにせず言えることなら言ってくれ。悪いが全然何を言いたいのか分からんぞ」

「ええー」


「言え。それか、その手をどけろ。布団の下に何を隠しているんだ」

「ナニを隠してるとか、もう分かってんじゃん! 変態! やめて!」

「はあ?」


 この問答は、十数分続いた。

 俺のモノが収まらなければ、変態なことに、いや大変なことになるところだった。


 2人旅は苦しいものになる、それは別に構わないのだが、そういう苦しさはいらない。

 しかし、俺達の旅はまだ始まったばかりだ。いや、まだ始まってないのか。今から先が思いやられる。

お読み頂きありがとうございます。

ブックマーク、評価もありがとうございます。励みにして頑張ります。


これからしばらくは、また移動が続きます。

移動は、7月中には終わる予定ですが、おそらくは後半になると思います。主人公は少しずつ強くなったり、弱くなったりしますが、精一杯面白い話になるよう頑張りますので、お暇ができた時にでもお読み頂ければと思います。

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