6月4週 金曜日 その2
村34 町44
ダ38 討伐1 フ8
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復39
治療65
採取81
草16 花5 実33
料理7
石工4
木工12
漁1
歌3
体55
女7
「売りに行かないのか?」
朝、アンネに起こされ、「ランニングに行くぞ」と言われたために、俺達はいつも通りに走りに行った。
そうして部屋に戻り、少しの間ボーっとしていると、そう聞かれた。
「……。ダンジョンに行ってからにする。精々稼いでってくれ」
俺がそう答えると、アンネは、「分かった」と短く答えて準備を始めた。
それからもいつも通だった。
準備を済ませ、部屋から出て、近くのパン屋へ。気に入っているいくつかの惣菜パンを購入し、アンネもまた最近メニューに増えたお気に入りの惣菜パンを購入。
いざダンジョンへ。
出現する魔物は、バンペスト、ファイヤーウルフ、ファイアーフロッグ、ヒートココナッツ、ファイヤーポーン。
バンペストの売値だけが銅貨50枚と飛び抜けて低い。
ファイヤーウルフは15階では銅貨70枚での牙が多かったが、17階では銅貨90枚の毛皮をよく落とす。たまに銀貨1枚と銅貨30枚の胸毛を落とす。
ファイアーフロッグも、銅貨60枚の足はあまり落とさなくなり、ほとんどが銀貨1枚の油。ごくたまにだが、銀貨1枚と銅貨80枚ほどで売れる舌も落とすらしい。是非お目にかかりたい。
ヒートココナッツは、銀貨1枚と銅貨20枚の実の方が、落とす確率が増えている気がする。
ファイヤーポーンは、足鎧なら銀貨1枚と銅貨15枚だが、たまに落とす腕鎧なら、銀貨1枚と銅貨50枚になる。
10階も後半になると、ドロップアイテムの額は非常に高くなるようだ。
耳を澄ませば、倒す度に金の音が聞こえてくる。
しかしだからといって簡単に稼げるわけではない。低い階の魔物よりも攻撃が強く多彩になっている上に、防御も上手く、武器防具への負担も大きくなる。
大きくなれば当然、壊れるのも早くなり、稼ぎは減るどころかマイナスになる可能性も出てくるだろう。
そうならないためには、魔物の動きをしっかり覚え、上手く立ち回らなければならない。
ヒートココナッツとファイヤーポーンの動きに関しては、まだまだ完璧に把握できていないが、それなりには覚えられたと思う。
そこまで攻撃を食らうことなく立ち回ることができた。
対するアンネはまだ多少てこずっているようだった。
ヒートココナッツのヤシの実飛ばしの攻撃は、大体ドッチボールの球くらいのスピードで飛んでくる。
ただ、振りかぶったりする動作はなし、例えるなら銃のような射出方法だ。そのため、剣や槍の距離だと、とてもじゃないが目で見てからでは避けられない。
だが、射出時以外に、予備動作がある。
照準を合わせたいのか、飛ばすヤシの実を当てたい対象の正面に持ってくるのだ。ヤシの実自体が幹の周囲を移動するのではなく、根っこのような足で歩いての回転で。
だから常にヤシの実が自分の正面にない状態で戦えば、攻撃のタイミングが掴める。
もちろん、ヤシの実が正面にきたからといって、毎度攻撃が来るわけではない。
普通に移動の時だってある。そんな時は無駄に回避してしまって、大きな隙を見せることになるが、避けるにはその方法が一番正しい。
ヒートココナッツの戦う上では、必須の立ち回りである。
攻撃のタイミングなどが、赤い線となって見える俺ですら、それをやっている。
赤い線が見えても、実際の攻撃を目視しながらじゃないと避けるのは難しいので、タイミングを測るのは大切なのだ。特にヒートココナッツのヤシの実の速度を考えれば余計に。
しかし、アンネはそれをしない。
正面も何も関係なく攻撃している。
「くっ!」
だから、何度もヤシの実を食らう。痛そうだ。
しかし、たまには躱している。今回も、一発目は当たったが、二発目は見事に躱した。
ヤシの実がアンネの頭の横を抜け、床に当たって破裂する。そして、アンネは無防備なヒートココナッツの幹に、強烈な一撃を叩きこんだ。
「よし、見えてきた! 見えてきたぞ」
俺には、何が見えているのか分からない。
分かりたくもなかった。
その戦闘が終わり少し休憩した後、今度は2匹の魔物が出てきた。
ヒートココナッツとファイアーフロッグだ。
「私がヒートココナッツに行く」
アンネはそう言って駆け出す。
俺はファイアーフロッグと相対した。
2匹なら、戦いの様子を見ないで済む。俺はそう思い、ホッと胸を撫で下ろす。
だが、ファイアーフロッグの舌はよく伸びるため、後ろに仲間がいる状態は危険だ。確実にそこまで届く。
別の敵と戦っている最中に、あの舌が当たれば失神くらいはするかもしれない。だから、ファイアーフロッグと戦う時は、仲間を後ろ以外の方に置いておく必要がある。
そのせいで、横目に、アンネとヒートココナッツの戦いが見えてしまう。才能のある俺は、それだけで状況をある程度把握できた。
「今だ!」
アンネがそう言って回避運動をとり、その瞬間にヒートココナッツがヤシの実を見当違いの場所に放つ、そんな状況を。
確実に命中する黄色ラインが出ていたのに、アッサリと躱したそのあり得ない状況を。
偶然ではない。アンネは、何かの予備動作を新たに見つけたのだ。俺にはそれが分かった。
ああやって避けられるなら、正面を躱しながら戦う必要はないし、無駄に躱すこともない。ともすれば一方的に倒すこともできる。
だが、俺には分からない。
その予備動作がどこにあるのか、全く分からない。見つけようとすら思わなかった、見つかる気が一切しなかったから。
「――おい! 何をしている! 前だ!」
「――!」
そう言われ、俺は慌てて、前にいるファイアーフロッグに意識を戻した。アンネの戦いに気をとられ、全く見ていなかった。
舌は、既に俺の目の前に迫っていた。
赤い線は、既に、回避も防御も不能な、直撃を示している。
「くそ――」
俺は小さく悪態をついて、来る衝撃と痛みに備えるよう体を強張らせた。
だが――。
「ゲローッ」
ファイアーフロッグは、痛い、とでも言っているような鳴き声をあげた。ファイアーフロッグがそんな声を出すのは、決まって弱点の舌を攻撃された時だ。
俺への攻撃は来なかった。
「ふう、危なかったな」
アンネは言う。
食らっていた方が、多分痛くなかったな。俺はふと思った。
アンネの言葉に返答をせず、俺はファイアーフロッグに攻撃を仕掛けた。しかし、なぜかアンネもまた、同じくファイアーフロッグに対し、攻撃を仕掛けた。
ヒートココナッツはまだ生きている。しかしそちらに背を向けて。
それが何を意味するか、一瞬分からなかった。
しかし、ヒートココナッツが、背を向けているアンネに攻撃の照準を定めても、アンネはファイアーフロッグに攻撃を仕掛け続ける。
もしかすると、背を向けていても、ヤシの実を避けられるのだろうか。俺はそう思った。
黄色い線は既に見えており、確定の命中を示しているが、その攻撃が本当に当たるかどうか、俺にはもう分からない。
だが、俺は天才に見えているものは見えないが、天才が考えていることなら分かる。
その時にアンネが考えていることも分かった。
アンネは、攻撃を避ける気がない。
貴様が防げ。
そう考えていた。
俺は駆けた。
黄色い線がアンネに向かうのを阻むように、俺は盾を突き出す。
その瞬間、ヤシの実が射出される。
目で追いきれないほどのスピード。ヤシの実は一瞬にして俺の盾に激突し、そして弾かれた。二発目も同様。
アンネは避けようともしていなかったから、俺が防がなければ、2発とも間違いなく当たっていただろう。
「アンネ! 何を――」
俺はアンネを見て、理由を問いただそうとした。
だがアンネは、少し笑っていた。
だからか俺は、それ以上追及せずに、ファイアーフロッグへ攻撃を仕掛けた。
丁度、アンネが怯ませたタイミングだったために、俺の剣は防御されることもなく、何度もそのヌメっとした体を斬りつけた。
何度も攻撃したからか、ファイアーフロッグは俺の方を向き、攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを、蹴り一発で黙らせる。その後の追撃は腕に防がれたが、一瞬動きを止めたファイアーフロッグの背中に、アンネが多彩な攻撃を放った。
そうこうしている内に、ヒートココナッツが攻撃準備を始める。俺は少し移動して、アンネと射線が被らない位置に立った。
ヒートココナッツの狙いは俺。
赤い線が引かれる。
今度も盾で弾こう、そう思い、俺は盾を構えた。
しかしヒートココナッツから赤い線が引かれる直前に、別の赤い線が引かれていたことに、俺は遅れて気づいた。ファイアーフロッグの舌攻撃。
2つは交差するように、俺へ向かって来るようだった。
既に盾を構えたこの状態から、あれらの速い攻撃を回避することは難しい。しかし、両方の攻撃を盾で防ぐこともできそうにない。
どうすればいい。
俺は一瞬躊躇する。
だが、アンネがヒートココナッツへ走り出したのを見て、防御する相手を俺はファイアーフロッグに決めた。
舌の大砲を、俺は盾で弾き、続けて行われる2発目の舌もしっかり守る。かなり重い攻撃のため、若干よろけた俺。
ヒートココナッツから飛んでくるとしたら、今このタイミング。避けることも受けることも不可能。
しかし、攻撃は来ない。
「せやああ!」
「ヤンッ」
ヒートココナッツは、痛い、とでも言っているかのような鳴き声を上げ、アンネの槍攻撃に大きく怯んでいた。
俺は再びファイアーフロッグに攻撃を仕掛ける。
ファイアーフロッグが背中をアンネに見せるよう立ち回ると、アンネはすかさずファイアーフロッグを後ろから突く。
そのアンネへ向けて、ヒートココナッツが攻撃しようとしたため、「アンネ!」と呼び、数歩近づいた俺の後ろへ回らせ、盾でヤシの実を防ぎ、ファイアーフロッグから俺への攻撃はアンネが防ぐ。
連携。
これが、冒険者の正しい戦い方だろう。
俺達は仲間になって初めて、連携して戦った。仲間として戦う、最後の日に。
その戦いが終わった後も、俺達は互いに何も言わず、連携して戦った。
1匹であっても、2人で、力をあわせて。
ああ。本当に凄い。アンネは、天才だ。
お読み頂きありがとうございます。
ブックマーク、それから誤字報告ありがとうございます。これからも頑張りますので、読んでいただけると幸いです。
その3も、今日中に投稿しようと思っております。頑張りますが、おそらく遅い時間になります。
気が向いた時にでもお読み頂ければ幸いです。
ありがとうございました。