6月4週 木曜日
村34 町43
ダ37 討伐1 フ8
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復39
治療62
採取81
草16 花5 実33
料理7
石工4
木工12
漁1
歌3
体55
女7
パーティーを組めば、俺の視界には、赤い線青い線以外の線も見えるようになる。
黄色と、緑色の線だ。
黄色の線は、敵から味方への攻撃や、訪れる危険に対して。
緑色の線は、味方から敵への攻撃可能な、隙に対して。
赤い線青い線同様に、それらの線は濃淡などによって様々な意味を持つ。
黄色線は、その攻撃が命中するのか。防御できるのかできないのか。有効打か有効打ではないのか、その威力は、タイミングは。
緑線は、その攻撃が命中するのか。防御されるのかされないのか。有効打か有効打ではないのか、その威力は、タイミングは。
線が確定すれば、本人がどうこうすることは最早不可能となる。
黄色い線が直撃と示した攻撃は、必ず直撃し、緑線が出なければ、それは必ず回避される。
そのため線は、その攻撃を俺が庇う必要があるのか、攻撃が躱された場合フォローに回る必要があるのか、などを判断する要素でしかない。
慣れないと見分けは難しいが、ケビンさん達とパーティーを組んでいた際に、それを必死になって使いこなせるよう努力したため、それが今も活きている。
それも、あの時の4人分とは違って、1人分なのでスッキリして随分見やすい。
だから、こうやって後ろからアンネの戦いを見ていると、本当によく見える。
線だけじゃなくて、戦いの流れも、そして、天才の凄まじさも。
今日も何度となく戦って、白いゲートまで帰る最中、1匹の魔物が出てきた。ファイヤーポーンだ。
順番的にアンネが戦う番だったので、アンネが戦っている。
そんなアンネに向けて、ファイヤーポーンの剣から、黄色の線が走った。
袈裟に斬るような攻撃は、明らかに命中、いや直撃を示す線だった。
あれがケビンさん達に向けられていたら、俺は「危ない!」と叫ぶだろう。おそらく叫んでも当たってしまうと思うが、そんな攻撃だ。
だが、アンネはそんな黄色い線をアッサリと躱した。
そしてアンネは反対に攻撃を仕掛ける。
槍を引き、突きを放つようだが、その突きのコースに緑の線は出ていない。ならば躱されるか簡単に防御される、はずなのに。
アンネが槍を出すのと同じ速度で、緑の線が引かれていった。それも直撃の線が。
「アアッ」
ファイヤーポーンは腹を突かれたことで、後ろに一歩よろけた。
すかさずアンネはそこへ追撃を仕掛けた。
槍での連続攻撃の最大回数は、3回。攻撃モーションを完璧に守っていても、4度目の攻撃はダメージにカウントされない。
だからアンネも追撃は2回に抑えたが、その2回共が、緑の線が一切引かれていないところからの攻撃だった。それも内1回は、直撃してもなお、緑の線が引かれなかった。
ああ……、嫌だ。
俺は思った。
アンネの戦いを後ろから見るのは、本当に嫌だ。
絶対に辿りつけない場所を、まざまざと見せつけられている気になる。
なぜあの攻撃が命中するのか、どうしてアンネがああやって攻撃しているのか、何が見えているのか、それを理解できれば、俺もきっと天才達の領域に足を踏み入れられるだろう。
しかしそれは無理だ。
理解しようとして、理解しようとして、理解しようとして考え続ければ、俺はまたあの挫折を味わう。
プロになろうと本気で思うほど好きだった野球を、続けられなくなったあの時のように。
心が張り裂けそうだ。
どうして俺にはあんな才能がないんだろう。
どうして俺にはあれが分かる才能があるんだろう。
努力することを諦めて、楽に生きようと思って、そしてそれが叶う異世界に来たはずなのに、どうしてこんなに苦しまなきゃいけないのか。
仲間が、それも奴隷が強いってことは、俺にとって利しかないはずなのに、俺はそんな事実が、苦しすぎて受け止められない。
凡人に生まれられたら良かった、いっそ天才に生まれられたら良かった。
天才と組めば楽できるんじゃないかとか、別にそんなことを考えて、俺はアンネを買ったわけじゃない。
こんな気持ちになるかもしれない、それが分かっていて、それでも、と覚悟を決めて買ったんだ。天才が自分から死を望むなんてことが、心の底から許せなくて、だったら自分の手でなんとかしてやる、と。
だが、実際に何度も一緒に戦ってみて、やっぱり駄目だった。
天才とは、1秒だって一緒にいたくない。いられない。
その眩さに俺の目は、昔も今も、耐えられなかった。
まあ、仕方ない。
俺は天才でも物語の主人公でもないんだから、一度決めたことを貫き通すなんてことはできない。前言撤回だ。
仕方ない。仕方ない。
そう思って、俺はいつの間にか伏せていた顔を上げた。
戦闘は既に終わっており、アンネはドロップアイテムの鎧の一部を持って、俺の前に立って俺を見ていた。
「……。仲間と言っておいて、まさか目を離されているとはな。窮地に陥ったらどうするつもりだったんだ」
言葉は非難の言葉だったが、アンネの目は違う感情で俺を見ていた。
「おい、男が、それもダンジョンで泣くな」
「……泣いてないだろ」
「涙が出ていないだけだ」
「……」
「……行くか」アンネは言って、歩き出す。
俺も、その後ろを歩いた。
そうして、白いゲートが見えてきた頃、俺はアンネに向かって言う。
「せっかく買って、仲間って言ったけど、やっぱり俺は1人が良いや。……アンネを売ろうと思う」
「……そうか」アンネは立ち止まらないまま、返事をした。「まあ、そんな気はしていた」
「この町か、別の町か、どっちが良い?」
「この町で良い。いつ行く?」
「……明日」
「分かった」
「……ごめんな」
背中に向けて発したその言葉に、今度はなんの返答もなかった。
俺達はダンジョンを出て、騎士団詰所に向かった。
稼ぎは、今までで一番最高だった。
俺は、アンネ用にと作った巾着に銀貨2枚を追加する。部屋に戻って、それは玄関近くに無造作に置いた。
それから、体を拭き、飯を食べた後、再び部屋に戻った。陽は既に沈みかけている。
「アイテムボックスの中身を整理したら、俺は寝るよ」
俺はそう言って、アイテムボックスから金貨を16枚取り出し、布をかけて部屋の中に置いた。アンネも見ていることを確認して。
そして横になる。
いつもより早い時間だが、俺はベットに入って目を瞑った。
ザーザーと雨が降っている。
思った通り、眠れはしない。
しかしそれでも、俺は一度もベットから起き上がらず、ずっと目を瞑り続けた。
何も見たくないとでも言うようにまぶたで目を塞いで、何も聞きたくないとでも言うように雨音で耳を塞いで。
お読み頂きありがとうございます。
また、ブックマーク、評価もありがとうございます。
この話は、投稿したつもりになっていて、投稿を忘れておりました。間が空いてしまったことをお詫びします。
今日中にあと1話か2話投稿します。よろしくお願いします。
なお、前書き部分の数字の、魔の中と剣の中を、それぞれ増やすのを忘れていました。増やしました。過去に戻って増やしておきます。すみません。
ありがとうございました。