6月4週 水曜日
村34 町42
ダ36 討伐1 フ8
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復39
治療58
採取81
草16 花5 実33
料理7
石工4
木工12
漁1
歌3
体55
女7
奴隷に強制できる命令は、行動の禁止のみ。
ゆえに、主人は奴隷に、様々な禁止命令を予め出し、不都合なことをさせないようにしておく。
その命令には抜け道も多く、必ずしもそれを貫徹させられるわけではないが。
とはいえ、しておくことは重要で、俺もアンネに対して、自殺や、盗み暴行などの犯罪行為を禁止している。
しかし……、その命令に加えて、ダンジョンに入ることを禁止したい気分だ。
「全く、たかだか15階16階だというのに、毎週休もうとするとはな。ありえん。特に貴様は先週多額の金を使っているのだ、それを少しでも取り戻さねば。行くぞ、ダンジョンに行くぞ! 早く行くぞ!」
俺はアンネの熱意に負け、今日もまたダンジョンに入った。
16階は6割の確率で魔物が2匹出てくる。
15階の5割よりも1割多い。
1回1回の戦闘には、20分か、それ以上かかるため、体感的にそれを感じることはないが、しかし後から数えてみれば、魔物が2匹出てきた割合は確かに多かった。
だが、多い方が俺は嬉しい。
俺達は連携をしないため、魔物が1匹だとどちらかが戦い、どちらかが休憩する。
休憩する方は、もしもピンチになった場合参戦するため、その戦いを見ておく必要がある。真剣にではなく、ぼんやり見ていれば良いが、あまり目を離してはいけない。
誰かが戦っているのを眺めるだけだなんて、1人で冒険していたら味わえなかった奇跡のような休憩時間だ。
楽な時間のはず。
けれども、俺にとっては、その時間が何よりも苦痛だった。
そんな時間、いらない。俺はそう思うようになった。それは、初めから分かっていたことだが。
16階を進んでいると、別の冒険者と出会った。
その人とは、使っている防具屋が同じで、何度かメンテナンス時に話したことがある。冒険者は「16階に来てたのか」と少し愕いてから続けて言う。
「こっちから先の通路は全部行っちまったぞ、多分もう魔物はいねえ。上の階に行く階段はあったから、上に行くんなら行けばいいけどな」
「あ、そうなんですか? どっちにありました?」
「行くのか? 上がってきたばっかだろ? スゲーな。次の部屋を左だ、その次は真直ぐ行って、あとは自分で探せ」
「ありがとうございます」
俺はアイテムボックスから銅貨を取り出し、相手に見せる。首を振られたので、再びしまって、頭だけを下げた。
「次の階に行くのか? まだあれに慣れていないし、武器防具の……ATKとDEFだったか? あれは大丈夫なのか?」
あれとは、ヒートココナッツのことだろう。
「あんまり強くなかったから、大丈夫じゃない? ATKとDEFも、+5のスプレーをしてるから、適性階も19階くらいだし。俺の武器だけ少し弱いけど、アンネの武器は20階でも使える」
「そんなにか。……確かに、硬鉄の槍は以前使ったことがあるのだが、それよりも鋭く硬い気がする。同じ武器防具でも性能が違うとはよく聞くが、これがそういうことか。ランクだったか?」
「そうそう。ランク3だから。ランクはATKとDEFだけ上がると思ってたんだけど、そういうのも少し変わるみたいだね。重さも少し違うのかな、いやでも流石にそれが違ったら分かるか」
「おそらく重いだろう。持つ際は基本的に装備する時だから分からんが、打った感触は違う」
「へえー。やっぱり凄い」
「……。それで、上がるんだな?」
「上がろう上がろう、アンネもメキメキ強くなってるしな」
俺達は17階に上がった。
新しく出てきた魔物は、ファイヤーポーン。
『ファイヤーポーン
ジョブ:火兵
HP:100 MP:100
ATK:34 DEF:34
CO:--』
フルメイルとでもいうのか、生身が一切外に晒されてない鎧を着て、剣を持った魔物。
おそらく鎧の中身は無いとか、そんな魔物だろう。そいつが1匹だけ出てきた。どちらかが戦い、どちらかが休み。
「おお、なんだこれ系か。手本を見せてやろう」アンネは戦ったことがあるらしく、一歩前ヘ出た。
「いや、いい。俺が戦う」
「私が戦う」
「俺が戦う」
「私が戦う」
「俺が戦うって!」
「――っ」
「……」
「……分かった」
「……」
俺はファイヤーポーンと対峙する。
心のモヤモヤのせいで、攻撃を食らってしまった。17階にもなると攻撃はほとんど2連続攻撃のようで、その2撃目も。
さらに、力任せに攻撃したせいか、剣が軋みをあげた。
「ふう」俺は息を吐き、一旦目を瞑った。
心を落ち着け、再度挑む。そうして、多少苦戦したが、ファイヤーポーンを倒すことに成功した。
武器は折れていない。
あとで、武器屋に寄って研ぐなどのメンテナンスをしてもらわなければならないだろうが、とりあえず良かった。
「散々な戦いだったな、私を差し置いて戦った割には」
「初めての敵だったから仕方ないだろ?」
ドロップアイテムを拾っていると、アンネが後ろからそう話しかけてきた。
口調は、からかうというか挑発気味のものだったが、振り返って目を見ると、そんな意図はなさそうに思えた。
その目には別の感情が込められていた。それがなんなのかは、俺には、分からない。
「なあ、貴様は一体どういう人間だ?」
「どういうって?」
「夢や目標はあるのか?」
「あるよ。庭付き一戸建て、っていうでっかい夢が」
「でっかいのか、それは。どうしてそれが夢なんだ?」
「一回貧乏を極めた時に牛小屋で寝たんだけど、その時思った」
「はははは、なるほど」
アンネは笑う。笑うと本当に可愛い。ただ、そう思えたのは初めの数日だけだった気がする。
「他にはないのか?」
「他に?」
「他に」
「んー、楽して生きることかな。才能がそれなりにあるから、努力している人を見下して、ちょっとの努力で色々手に入れて楽に暮らしたい。そんなでっかい夢があるよ」
俺は素敵な笑顔で言った。
真面目そうなアンネは、それを聞いて怒るかな、と思ったが、意外と怒らなかった。
「なるほど」アンネはそう言っただけだった。
……興味がないんなら聞くなよ! と思った。
「貴様という人間が、少し分かった」
「……?」
興味がないわけでもなかったのか? 女心は分からない。
それから俺達は戦った。
魔物が1匹しか出てこなかったのは最初の時だけで、あとはずっと2匹だった。本当に良かった。
これからもずっとそうであれば良い。
もちろん、そんなわけはないが。
だから、できるだけ早くしてくれ、俺はそう祈った。
お読み頂きありがとうございます。
読み続けて下さる皆様のおかげで、ここまで話も進みました。これからも、読み続けて頂ければ幸いです。
2人が仲良くなるまでは、もう少々お待ち下さい。