6月4週 月曜日
村34 町40
ダ34 討伐1 フ8
人1 犯1
魔100 中12 上1
剣100 剣中12 剣上1
回復39
治療49
採取81
草16 花5 実33
料理7
石工4
木工12
漁1
歌3
体55
女7
異世界には、家電もなければ、水道やガスもない。
スイッチ1つ、つまみを捻る、それだけでできるはずのことに、多大な労力を割かなければならない。
そのため、生活するためにしなければならないことは、非常に多い。
それをして尚且つ、金で稼ぐ仕事をしろ、というのは、些か酷なことだ。
だからこそ、それを解消するために、奴隷がいる。
宿屋やアパートなどにいる奴隷に、洗濯物を渡しておけば、洗濯をしてくれる。
水汲みも言いつけておくだけで構わない。
宿屋ならば、掃除もしておいてくれる。
だからこそ、俺のような家事を一切したことのない者でも、普通に暮らしていけるのだ。
全くありがたい。
ビバ、奴隷。
そう思い、俺はアパートの管理人が雇っている奴隷の女の子に、洗濯物を洗っておいてくれ、と頼もうとした。
明日から雨季に入り、1ヶ月近く雨が続くそうなので、今ある服のほとんどと、タオルやベットのシーツもまとめて洗濯するつもりだった。
が、流石にそれだけたくさんの洗濯物を、年端もいかぬ少女に頼むのも腰が引けたので、年端のいく少女、アンネに頼んでみる。
「アンネ、洗濯物なんだけど……」
「私はやらんぞ。それは奴隷の仕事だ」
しかしにべもなく断られた。あなた奴隷じゃない?
今日はランニングにもついてきたので、少しは言う事を聞いてくれるようになったかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
俺がかつてそうだったように、仲間に飢えている雰囲気を感じ取ったのだが、違うのか?
そんなに仲間に飢えていなかったのか……? 友達とかいなさそうなのに。
「友達とかいなさそうなのに」
「おい、失礼な思考が漏れているぞ」
「あ。すまん」
「謝るな! さらに失礼だ。……確かに友だと思っていた者に裏切られているがな」
「ふうん、まあ、よくあることだね」
「……その口ぶりはムカツクな。だが、ということは貴様もあるらしいな、まあ、奴隷を買う冒険者なんてのは大概そうだと聞くが。しかしだからこそ、別に貴様を仲間と思っているわけでもない。ただ、手は出さないということを理解しただけだ」
「やっと信じてくれたか」
「だが、それだけだ。一緒にダンジョンに入り、協力もする、私から裏切りはしない。ランニングは効果があると思った、だからする。しかし、それも全て私のためだ。私は私のために行動する。貴様のためではない」
アンネは言い切った。奴隷には全く納得していないようだ。
奴隷の主人として、それは良い事ではないんだろうが、俺はそれを、本当に凄いことだと思った。
異世界では、いや、おそらく地球でもそうだっただろうが、一度奴隷のなれば、そこから浮かび上がることはほとんどの場合叶わない。
奴隷になれば、基本的に一生奴隷だ。
恩賞で解放されることもあるようだが、それはずっと先の話で、むしろ年老いて働けなくなったから、という意味合いでの解放の方が多い。
だからもし、俺がアンネの立場になったら、媚を売ると思う。
食わせてくれて、それなりの生活を保障してくれて、ダンジョンでは囮に使われる可能性があるとしても、奴隷の中では上々の結果なのだ。媚を売れば、それが安泰になる。
さらに、このままダンジョンの階を上がって行けば、仲間が必要になる。俺くらいの才能があれば、仲間でも上位の強さを持てる。
同じく奴隷を買うにしても、奴隷の中でトップになれるし、そうじゃないとしても、囮に他の仲間を選ばせるくらいには。
だから俺なら媚を売る。
売って、地位を固める。それが最善だ。普通の人間ならば、誰しもがそうするに決まっている。
しかしアンネはしない。
なぜか。そんなもの決まっている、天才だからだ。
何かが見えているのだ。ここからでも一発逆転できるような方法が、用意された舞台を叩き壊すような脚本が、アンネには見えている。
まあ、それを俺があえて見させている、という点もあるのだが。
しかし、それに気づき、実際に実効可能だと思うことを、素直に凄いと思う。見えているものが、やっぱり違うのだ。
「……」
気がつくと、アンネは俺を見ていた。
「そ、そっか。じゃあ、ダンジョン行くか」
「ああ」
なんだかちょっと気恥ずかしくなり、俺は慌ててそう言って、俺達は装備をそれぞれ身につけていく。
「っとそうだ、これを忘れてた」
俺は課金し、ATKとDEFを上昇させるスプレー缶を購入した。
よく振ってから、自分とアンネにそれぞれスプレーする。
『アタックツヨクナールスコーシ 銀貨1枚』
『ディフェンスツヨクナールスコーシ 銀貨1枚』
「それはなんだ?」
勝手にスプレーを始めたので、てっきり、そ、それはなんだ! と慌てた感じで言ってくるかと思ったが、アンネは冷静に聞いてきた。
「ATKとDEF+5の効果を3日間付与する、って効果」
「以前も思ったが、ATKとDEFとはなんだ?」
「攻撃力と防御力。攻撃力が高いとHPに大きなダメージを与えられる、防御力が高いと反対にダメージを減らせる」
「HPとは?」
「なくなったら死ぬやつ。人も魔物も。どっちも大体100で、攻撃側のATKと防御側のDEFが同じなら、1回の攻撃で5減る」
なので俺も普通に返したところ、普通の会話になっていた。
「計算上、武器防具の損耗とか、ポーション使用量とかを減らせて得だから、毎回使ってるんだけど」
「それはどこで手に入れるんだ?」
「課金課金」
「また課金か。色々あるのだな。たくさんあるのか? 無くならないのか?」
「うーん、正直分からん。でも多分大丈夫だと思う」
「そうか」
アンネと普通の会話をしたのは、もしかすると初めてかもしれないと思った。
仲間の一歩を踏み出せたというのは、俺だけが思ったことではなく、確かな話のようだった。
それから、俺達はダンジョンに入った。
戦いは相変わらず連携せずの2対2や1対1。
魔物を倒すスピードは俺の方が早いが、攻撃を食らう回数はアンネの方が多い。
なので、アンネはまた、悔しがったり変な見栄を張るかな、と思ったのだが、そんなことはなく、むしろ俺にどうすれば良いかを聞いてきた。
「ファイアーフロッグが槍使いとしては一番厄介だ。貴様は攻撃をどう予測している?」
「えっと、基本的にこのくらいの距離になると舌の攻撃が来るんだけど、そん時の予備動作として……」
アンネは俺の言葉に真剣に頷き、目を瞑ってイメージトレーニングを行う。
まぶたの裏にいるファイアーフロッグ相手に、アンネは槍を振り、舌を躱し、反撃の一撃を加えた。
「こんな感じか、どうだった? って、分からんか、素振りじゃあ」
「……え、ああ、いや、分かる分かる。良かったと……思うよ、本当に」
「……」
「……、なに?」
「なんでもない。次にファイアーフロッグが出てくれば私が相手をする」
「ああ」
たまに、アンネは俺から目をそらさないことがある。
見つめている、と表現しても良いが、しかしその目は熱に浮かされたものではない。かといって軽蔑するような目でもない。
あれは一体どういう感情があって見ているんだろうか。
あまり、見られたくない目をしている。
態度がどんどん軟化していったことと、何か関係があるのか?
とはいえ、俺はそれについて質問する気も起きず、そのまま戦った。
「まだ攻撃を受けることも多いけど、結構様になってたんじゃない?」
「25階で戦っていたのだ、15階の魔物の行動など慣れれば簡単に読める」
「そう言われればそうか」
「どうする? 階を上げていくのか? 貴様も、経験は浅いようだが、その実力や才能で言えばもっと高い階で戦うべきだろう?」
才能で言えば、か。
まあ、確かにそうなんだが。
「せっかく武器も防具も良いのにしたからな、行ってみますか。テトン町もそろそろ出るしね」
「そうなのか? 折角対応したのに無駄になったな」
「一ヶ月しか滞在しない予定だったから、もうすぐ期限なんだよ。多分今週末……かな? どこに行くかも決めとかないと」
「……今週? そろそろじゃないじゃないか、本当にすぐじゃないか」
「いや、そろそろって」
「そろそろとは大体、あーヒューマンの月日の数え方で1ヶ月2ヶ月だろう?」
「……え?」
「は? ああ、そうか、ヒューマンの感覚は違うのか。すまん」
「……はあ、いいえ全然。……なんだったんだ?」
噛み合わない会話もあったが、俺達は明日、15階のボスに挑むことにし、今日の冒険を終えた。
稼ぎは銀貨18枚丁度。手数料を含めれば丁度じゃなくなるが、大した稼ぎになった。
「お小遣いとかいる?」
「お小遣い? ふん、いらん」
「そう、じゃあおかわりとかして良いよ」
「……別に、それもいらん。昼も食べたからな。あまり美味くはなかったが」
「ああ、あそこねえ。あんまり腕の良いパン屋じゃないらしいね」
「じゃあなぜあそこで買ってるんだ……、貴様は本当に分からない奴だ」
部屋に戻ると、扉の前に、乾いた洗濯物が山積みになっていた。
俺はそれらを持って入るために、全てまとめて持ち上げた。しかしそのつもりが、いくつか取りこぼし、それらは床に落ちる。あとで取りに戻ろうと思い部屋の中に入ると、トイレに行ってから部屋にやってきたアンネが、それを拾い部屋の中へ持って入ってくれた。
礼を言うと、「いらん」と言われた。
部屋での過ごし方は、大体決まっている。
俺達は特に会話することなく過ごし、食事に行き、小降りの雨に軽く振られながら部屋に戻り、そしてまた特に会話することなく過ごして眠った。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告、ありがとうございます。凄く励みになります。これからも頑張ります。
少しよく分からない部分があるかと思います。解決にはもうしばらくかかります。つまらないかもしれませんが、お付き合いいただけると幸いです。
また、新しい小説を投稿致しました。『虚数コード』というタイトルです。ローファンタジーで異世界は出てきませんが、良かったらお読み下さい。
ありがとうございました。