6月3週 土曜日 その2
村34 町38
ダ34 討伐1 フ8
人1 犯1
魔100 中12 上1
剣100 剣中12 剣上1
回復39
治療41
採取77
草16 花5 実33
料理7
石工3
木工11
漁1
歌3
体55
女7
ゴリゴリ進んで……、進んで……。
『キジョウ・エト
ジョブ:異世界民
HP:81 MP:100
ATK:27+5 DEF:37+1
CO:--』
『アンネ・アールセドルーン
ジョブ:槍士
HP:31 MP:95
ATK:36 DEF:31+4
CO:--』
「あの、これまで6回9匹と戦いましたけど、何回攻撃食らいました?」
アンネにポーションを2つ手渡しながら、俺は言う。
「ま、まだ慣れていない敵なんだから仕方ないだろう! 私は今までファイヤーストーンとしか戦ったことがないんだぞ!」
アンネはポーションを飲み干すと、そう言って立ち上がる。
「ふんっ」
そして俺からプイっと顔をそらした。赤い髪の毛のせいで分かり辛いが、頬は赤くなっている。恥ずかしいんだと思う。
ダンジョンにパーティーとして入ったわけだが、しかし、お互いの動きが分からないため、連携は難しい。
それなら2匹の時は1匹ずつ受け持ち、1匹の時はどちらかが休む、という取り決めをして、俺達は戦いを始めた。
しかし、結果はこの通り。
お互いに2匹の魔物と3回戦い、アンネが1匹の魔物と2回戦った結果、俺が5回攻撃を食らう間に16回も攻撃を食らっている。
ちょっと食らいすぎじゃないだろうか。
まあ、おそらく食らっている理由は、良いところを見せようと張り切っているからだろう。
何かが上手くいった際は、どうだと言わんばかりの顔をしながら、決まって俺の方をチラチラ見ているし、反対に失敗した時もまた、顔を赤くしながら俺の方をチラチラ見ている。
余計なことを考えていれば、そりゃあダメージを受けることも多くなる。
『アンネ・アールセドルーン
ジョブ:槍士
HP:41 MP:88
ATK:36 DEF:31+4
CO:--』
ポーションを2回飲み、このHP。1回で平均4.3のダメージを受けるから、9回までなら食らえる。
しかし、今までの戦闘回数と攻撃を食らった回数から、1度の戦いあたりで受けるダメージを算出すると、あと3度しか戦えない、ということになる。1度の戦いで2回は絶対食らってるもんなあ。
そうなると、ポーションは残り14個あるが、2つ3つ使って1回戦える、という計算か。
ポーションは1つ銅貨30枚。2つ使えば銅貨60枚。3つ使えば銅貨90枚。
バンペスト以外の魔物なら、ドロップアイテムは銅貨60枚を越えるため、利益は出る。2匹と戦うなら、さらにだ。だが武器防具の損耗度を考えた実際の収益だと、反対に足が出る。戦わない方が得だな。
だが、戦わせない選択肢はない。
ファイヤーストーン以外の魔物は16階以降にも出てくるため、慣れてもらうしかないし、それと……。
「……つ、次こそは……」
本人はやる気なので、足手まといだから戦わないで、とも言えない。
15階は余裕で戦えて、17階18階辺りが本番かな、と思っていたが、ちょっとてこずるようだ。
それから、俺達は5度ほど戦った。
2匹が2度、1匹が3度。倒した魔物は合計16匹。
15階では、14チーム21匹の魔物を倒すのが普通であることを考えれば、あまり良い成果とは言えない。ポーションの消費も8本と中々多いし。
ちなみに、帰ることにした理由は、アンネの体力が切れたから。
小休止は結構とっていたが、見栄を張り痩せ我慢を続け、座ればと言っても頑なに座らず疲れていないアピールをする性格が災いしたのだろう、最後はフラフラだった。
「まあまあ。慣れれば楽に戦えるようになって、疲れなくもなりますよ」
「……、……、……、はあ、はあ、……、……」アンネは呼吸を止め、しかし我慢できず肩で息をし、また止めた。
そんな、息は上がってませんよアピールをしなくても。
「明日は休みだからゆっくり休んで」
「べ、別に疲れてなど……いない。……、はあ、……、はあ」
「そうかい」
俺達はダンジョンの中を歩く。幸い、白い出口が見えるまで、魔物とは遭遇しなかった。
アンネも、息が整ったようだ。
ようやく息が整ったか、とか、そんなようなことを言おうかな、と思ったが、俺は喉元で止める。絡まれる予感がしたからだ。
しかし、そんな空気感を察したのか、アンネは言う。
「……、どうせ貴様は、うだつが上がらずこの階でずっと戦っているんだろう? なら上手く戦えて当然だ」
「あー、まあ、そろそろ3週間くらいになるかな。同じ階でこんなに長く留まったのは初めてだよ」
「――さ、3週間? ……、くっ!」
出会ってから3日。
一体何回コイツの、くっ、を聞いただろうか。
どうやらアンネの実力は、そう高くないらしい。
25階を4人で戦う、と言っていたから、やはりそのくらいの実力なのだろう。
アンネは天才だが、別におかしな話ではない。天才と言えども、幼少期から達人のような強さを誇るわけではないし、全く練習せずに達人になれるわけでもない。
いかなる天才小学生も天才中学生も、高校生や大学生に勝てないのと一緒。
別の競技を行えば、熟練者に劣るのと一緒。
あくまで、天才以外が踏み入ることのできない領域へ至るための許可証と、別次元の成長速度を持つだけだ。まだ成長していないなら、15階で苦戦もする。
国元から離れて武者修行中だって言ってたな。なら、きっとこれからなんだろう。
これから、成長していく。誰も彼も置き去りに。
しかし、これから、か。
大概の天才は、やっぱり高校生か大学生くらいの間くらいで、1つ頭を抜け、天才に相応しい実力を持つようになる。
年齢で言えば、16から22。
アンネの年齢は幾つだったっけ? 見た感じ若いが……。
そう思ってアンネを見ると、アンネも俺を見ていた。
「……」
目が合ってもそらさない。ジッと俺の顔を、目を見ている。
「なんか、ついてる?」
「――、い、いや。なんでもない」
はなくそでもついてるんだろうかと不安になってそう聞くと、アンネは目が合っていたことに今気付いたのか、すぐさまパッと逸らした。
一瞬、気まずい雰囲気が流れた。
「アンネって、今幾つ?」
「年齢か?」
「そうそう」
「17だ」
17か。ならまだ人並の実力でも全然おかしくないな。
俺より1つお姉さんか、もしくは誕生日が早い同級生なだけだし。
あれ? でもドラゴニュートってヒューマンの5倍長く生きるんだっけ?
若い時間が長いのか? 成長速度が5分の1なのか? 5分の1だったら……、4歳なってない? 3歳?
俺はアンネを見てみた。
「……なんだ?」
とても3歳には見えない。
「……」
アンネは俺の視線の先を、手で隠し、先ほどとは違う目で睨んでくる。
「17歳っていうのは、ヒューマン的に言うと、幾つ?」
「ヒューマン的にと言っても、それでも17歳だろう。ヒューマンの数え方という意味なら……、100近くか? 90くらいか?」
……100っ?
100っ?
100?
「あ、なるほど」
そう言って俺は理解した。成長速度が5分の1の方なのか。
だから、ドラゴニュートで17歳なら、17×5で、85年以上生きている、ということになる。
「ええー、不思議ー」
長寿な種族なんて地球にはいなかったから、理解はできても感覚が追いつかない。
もう1度アンネを見てみる。普通に100歳とか言ってたよな、時間感覚は一体どうなっているんだろう。
「……」
「どうした?」
「え、あ、いや、なんでも」
「きさ――、エト、さ……、貴様は、幾つなんだ? ヒューマンの年齢はどうも分からん」
「俺? 俺は16歳」
「じゅ、16っ? 嘘をつくな!」
「わざわざそんな嘘はつかないだろ。16歳16歳。ドラゴニュート的に言えば3歳か」
「やめろ! ドラゴニュート的にとか言うな! 3歳って、変な風に見えてしまうだろ!」
ここでバブーとか言ったらウケるのかな?
……多分、ドン引きされるからやめとこ。
「……。バブー」
「……えぇ」
やっぱりドン引きされたか……。つい……、やってみたくなったんだ。
それから、会話はなく、そのままダンジョンから出た。
16歳発言に対して、嘘だろと言ったことが、もっと子供に見えたのか、もっとおっさんに見えたのか、どっちなんだと聞きたかったが聞けずじまい。
俺達はアパートに戻った。
そして、防具を外し、体を拭いて、服を着て。
それから武器防具を綺麗にして、油を塗る。油を塗るのは長持ちさせるため。冒険者なら誰しもがやる当たり前のことをやった。
「下手だな。貸せ」
しかしその最中、俺の分はアンネに取られた。
アンネは自分の分をもう終えていたようで、俺の分も全て代わりに行ってくれた。
「これじゃあ武器が可哀相だからな」
正座を崩して、床にお尻をぺたんとつけるような座り方で作業するアンネは、確かに俺がやるよりも随分上手く、丁寧だった。
「よし」アンネのその一言と共に、ゴトン、と最後の防具が床に置かれる。
「ありがとう」
「……、別に、奴隷の仕事でもある。礼はいらん」
「ご飯、今日もおかわりして良いよ」
「……」
それから俺達は昨日と同じ店に行った。
アンネはおかわりした。
だが、それがまた悪かったのかもしれない。
陽が沈み眠る時間になって、俺がトイレから戻ってきた際、間仕切りの向こうにいたはずのアンネは、可愛らしい服装に着替えてベットの脇に立っていた。
控えめに足元の方に。
俺が帰ってきたことに気づくと、体をビクつかせ、俺のことを憎憎しげに睨みながらも、しかしそこからは動かずに指先はモジモジと。
「か、体は自由にできても、心は自由にさせない。それが私のきょ、矜持だ!」
「そうか、頑張れ。おやすみ」
「……え?」
お読み頂きありがとうございます。
読んで下さる方々のご期待に応えられるよう、精進して参ります。