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100/144

6月3週 金曜日 その2

村34 町37

ダ33 討伐1 フ8

人1 犯1

魔100 中12 上1

剣100 剣中12 剣上1

回復39

治療40

採取77

草16 花5 実33

料理7

石工3

木工11

漁1

歌3

体55

女7

「荷物持ちでしょうか。なぜか右腕が動きませんので、無理ですね」アンネは、俺の買い物発言に対し、冷たく言い放つ。「どこぞの道理も分からぬ未熟者に折られましたので」

 完全に喧嘩を売ってきている。


「へー、アンネって大したことないんだねー、そんな人に折られるなんて。あと折れてないし、脱臼だし」

「なんだと?」

「ちなみに俺は昨日噛み付かれたけど……、あれ、もう治ってる。大したことなかったんだなあ、誰に噛まれたんだっけ?」


 俺が軽く笑うと、アンネの顔はちょっと赤くなった。

 俺に口喧嘩で勝てると思うなよ天才!


 ま、怪我が治ったのは課金アイテムのおかげだけど。

『カミキズナオールスコーシ 銀貨2枚』

 買った際の説明では、消毒も同時にやるらしかった。噛み傷は確かにそれも重要だ。


「……仕方ない」

 俺も使ったから、ってわけでもないが、俺は課金リストを開き、怪我関連のアイテムを探す。

『ケガナオールスゴーク 金貨3枚』

 そしてこれを発見した。


 他にもカンセツモドールなどもあったし、もっと安かったが、唇が赤紫に腫れているのも可哀相なので、一緒に治りそうなこちらにした。

 あの傷は、アンネが昨日扉を破るくらいに突き飛ばした店員に、叩かれてできたものらしい。女の子の顔を叩くとか、酷いことをするよ。俺を見習え。


 購入ボタンをして、アイテムボックスを開き、俺はケガナオールスゴオークを取り出す。

 茶系の半透明のガラス瓶に入った液体タイプ。

 書いてある説明文を読むと、飲み薬であり、一回使い切りらしい。


「はい、じゃあこれ飲んで」

 そう言って、俺はケガナオールスゴークを投げて渡す。


「――っ」

 アンネはそれを異常なまでに大仰に受け取る。そしてそれを見た後、俺のことをなんだコイツは、とでも言いたげな目で見た。

 ガラスを見る目は輝いているので、おそらくそれをぞんざいに扱ったことに対しての非難の目だろう。


 そう言えば、こっちの世界でガラスってあんまり見かけない。窓に使っているところも見かけない。

 唯一ヘデラル坑道町の教会には、ガラスがあったような……、なかったような……。

 あまり覚えていない。

 ガラスの話はたまに聞くので、ある所にはあると思う。しかしここまで形が整ったガラス細工は珍しいかもしれない。投げて渡すのは不自然だったか。まあ、気にするな。


「はい、早く飲んで」

「の、飲む? これを? え、どう……」

「あー開け方? はい貸して。はい開いた。どうぞ」

「う……こんな屈辱……」アンネはケガナオールスゴークを受け取ると、そんなことをブツブツ呟きながら、恐る恐る飲み口に唇を触れさせた。「ん――、あ、美味しい。んくんく」


「ふう……。え? あれ?」

「治った?」

「いや、あの」

「じゃあ良かった。ちなみに殴られたっぽいここも治ってるよ。良かったね」

 俺がそう言うと、アンネは薬指で唇を何度も触る。


 先ほどまでは触れただけでも痛かったろうに、もう強く押しても痛くなくなっているその事実に、アンネは目を丸くする。


「き、貴様、一体な――」

「じゃあ改めて買い物に行きますか」俺はアンネの言葉を遮るように言う。「荷物持ちって言ってたけど、買うのはあなたのだからね。そんな服じゃあ嫌でしょ? これから汗かく時期に入るし、替えもいるんじゃない?」

 そしてアンネの手からヒョイと瓶を取り上げて、アイテムボックスに入れた。


「あっ……、くっ。……ドラゴニュートは汗をかきませんが?」

「……。歯ブラシとかもいるじゃん。タオルとか。それから、ダンジョン入るんだし、武器防具もか」


「ダンジョン……、何階に入っておられるのでしょうか」

「15階」

「ふっ。私は26階まで入った事があります。普段は25階です。15階ですか、懐かしいですね」

 勝ち誇った顔のアンネ。……ムカツクな。


「へえー、何人で?」

「4人です」

「俺は15階1人で行ってるなー。まあ、昨日は銀貨14枚しか稼げなかったけどねー」

「――1人で銀貨14枚っ?」


「4人いれば、もっと高い階に行けるんじゃないかなあ、俺なら。それにちょっと前、16階でダンジョン最後のボスの、サファイアマンティスを倒したこともあったっけー。いやあ、あれは大変な戦いだったなあ」

「サ、サファイアマンティスだとっ? く――、くっ、わ、私だってロディアックを倒したことがある、ロディアックだぞ」


「ロディアック? 知らないなあ。サファイアマンティスより弱い奴の名前なんて覚える必要もないからさあ、そいつって強いの?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

 よし。悔しげな表情に変わったぞ。俺の勝ちだ!

 あとロディアックって誰? 本当に知らない。


 まあ、なにはともあれ、俺達は買い物に行く。


「えーっと、歯ブラシ、タオル。水筒も購入完了。あとなんかいるものある?」

 買い物を始めてから30分ほど経った。

 商店は町に点々と存在していて、商店街のようにそこに行けば全て揃うなんてところはないが、小さな町なので、ハシゴしても時間はそうかからない。

 服と装備を残し必要なものは買い終えたので、他に何か買い忘れがないか、アンネに尋ねた。


「奴隷に物を買い与える必要などありません」

 しかし返答はツーンとしている。ことあるごとに煽った結果だ。

 しかし、つまりはそれだけ向こうが喧嘩を吹っかけてきているということでもある。俺は悪くない。


 ツーンとしているので、俺は小物の購入を切り上げ、服類を買いに行った。そういえば櫛とかもいるかな、と途中で思ったが、本人が言わないので良しとする。

 服屋とは、奴隷商の店主がオススメしていた古着屋。


 売り物の服は確かに古着で、店の中はどことなくカビ臭い。

 蚊とかは魔物扱いで、サイズが異常なのに、カビはカビなんだろうか。異世界は不思議だ。


「さて、どの服が良い?」俺は店内を物色しながら、アンネに聞いた。

「どれでも。奴隷に着せる服など、どんなものでも構わないでしょう」

 相変わらずツーンとしている。


「なるほど、俺が選んだ服を着たい、と。俺色に染めて欲しいってことか」

 なのでちょっと煽ってみる。


「――そ、そんなことは言っていない! 貴様はどうかしているっ?」

「じゃあ自分で選ぶんだな? はい、選んだ選んだ」

「く、くぅ」

 アンネは苦々しげに俺を見ると、店の棚から、服を出しては戻し、出しては戻しの作業に入った。


 しかしどうかしているって奴隷が主人に言うことじゃなくない?

 まあ、別に奴隷とか主人とかどうでもいいから良いけど。


 しばらく時間が経って、アンネは最終的に2着の服を両手に抱え、その2つから1つを選ぼうと吟味している状態になった。

 それを見て、そういえば何着買うかを伝えていなかったと気づく。


「3着か4着くらい買っとけば?」

「……じゃあ……、こっち。それと、これと、これと……、これも……」

 すると小さな声で、持っていた2着の内1着を戻し、3着追加するアンネ。その吟味していたやつは違うのか、女の買い物は分からん。

 俺はそれを受け取ってお会計。1着銅貨5枚程度と、とてもお安い。そんなんで良いのか、と思ったが、古着だからそんなもんか。


 服が全部古着ってのも可哀相だな。そう思ったので、アンネに聞いてみる。

「綺麗な服も欲しい? 新品の」

「――、ど、奴隷を着飾る、や、やっぱりそういう目的で……」

 しかしなんだか勘違いしているようなのでやめた。

 蔑みの目で見られている。ちょっと興奮するのでやめて欲しい。まだ若いのに、そんな道に進みたくない。


 俺は手渡された古着を腕にかけて持つ。

 店員は、奴隷の服を奴隷と一緒に買いに来ていることが分かっていたからか、俺が持ったことに驚いたようだ。俺としては特に何の気ない行動だったが、異世界的にはちょっと違うのかもしれない。

 アンネもそう思っているらしい。


「あ……え……、あ……」

 そのため店を出た俺の後ろを、そんな声を出しながら右往左往していた。

 おそらく、服を持つ、とかそんなことを言いたいのだろう。しかし、煽りあった結果、俺に素直に話しかけることができなくなっている。


 あと、奴隷が服を持つべき、という考えと、奴隷の仕事をしたくない、という考えが対立しているのか。

 自分の分は自分で持つべき、けれども、持てば奴隷と認めたことになりそう、そんな考えもあるかもしれない。

「その……、お……、あの……、え……」


 右に左に、俺の持つ古着に手を伸ばしては、引っ込め、また右に左に。

 それが面白かったので、俺は気づかない振りをして古着を持ったまま歩き、そのまま新品の服を売っている店に入った。


「好きに選んで良いですよ」

 そしてそう言う。


「……服にはあまり興味はない。ちゃらついたものはよく分からんからな。どうでも良い」

「あ、そう? じゃあ……、あ、でもそうだ、下着は買っておいたら? さっきの店で買うの忘れてた」


 アンネはまた半身になり、胸を隠すように俺から距離をとった。

 俺はそれを無視。

 すると、アンネは俺の方をチラチラ伺いながらも、下着の物色を始める。


 店員か店長かは知らないが、奴隷が買うことに少し嫌そうな顔をしていたので、銀貨を握らせてみた。

 すると、凄くニコニコ笑顔で接客を始めた。

 お金はやっぱり大事だと思う。


「下着じゃないけど、この服似合うよー、ほらー」

「え、え、あ、はあ」

「ほら、こっちも。こっちも」

「あ、え、あ、はい……はは……」


「ドラゴニュート用に、翼の出し口開ける? 別途で料金かかるけど」

「あ、はい……、あ、えっと……その、お金は……あの、はい……はは……」

 結局アンネは下着の他に、服を3着も購入した。

 なんとなく、アンネの性格が少し分かった気がする。


 店を出た後も、俺達の買い物は続いた。

 さっき買わなかった櫛を買い、髪紐を買い、長髪の人に不可欠な髪用の油を買い、持ちきれなくなったので風呂敷を買い、あとは普段履く靴や、ドラゴニュートなら絶対に欲しいらしい角を磨く用の石と布も買った。


「奴隷にこれだけお金をかけるだなんて……、そ、それに角磨きまで、や、やっぱりそういう目的で……」

 アンネは言う。

「じゃ、じゃあ今日……、くっ。か、体は自由にできても――、こ、心までは自由にできるとは思うな!」

 顔を真っ赤にしながら、町の往来で。


 コイツは、多分ポンコツだ。

「はいはいそうだねー。じゃあ次の店行くよー」

お読み頂きありがとうございます。

もう1話頑張ります。

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