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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第三章 錯綜する想いと交錯する運命
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第九十八話 ユニオール暦八百七十三年八月十一日 フェーディーン北部 天気晴れ

「どうどう」


 クリスティーナは馬を止めた。このあたりはフェーディーンの首都フェヴローニヤの北東で、周囲はひたすら荒れ地だ。馬でなかったらこの辺りを進むのは大変だったろう。


「この調子なら日が暮れるまでにフェヴローニヤに着くかしら」


 オースルンドの首都ナサリオからフェーディーンの首都フェヴローニヤに向かっているわけだが、クリスティーナとしてはかなり珍しく馬での移動中だ。

 とはいっても別に深い意味はなくて、オースルンドの国境近くの小屋でたまたま馬を借りられたので乗っているだけなのだが、気分は悪くなかった。


「馬での移動は久しぶりだけど、たまには良いものですわね」


 普段の移動はすっかり飛行魔法に頼りきりだ。先日アンハレルトナークからラスムスまで帰るときは馬車だったわけだが、高速馬車にもかかわらず遅く感じて焦れたものだ。でも馬は明らかにそれよりも遅いのにまったくイライラしない。


「風を切って走るのが良いのかしらね」


 手綱をしごいて再び馬を駆けさせるクリスティーナ。岩場も苦にしない良い馬だ。


「ん? あれは?」


 しばらく走ったところで向こうの岩場に人影が見えたような気がした。わざと街道から外れたところを走っているので、人が通るような場所ではない。

 手綱を返して人影が見えたところまで戻る。目を凝らすと大きな岩のそばにやはり何か見える。慎重に近付いていく。


「そう言えば馬上で魔法を使ったことはありませんわね」


 身構えながら近付くと、岩にもたれかかるように青い髪の少年が座っている。項垂れているので表情は見えない。

 クリスティーナは馬を降りて、その少年に近付く。死んでるのかもと思ったが息はあるようだ。眠っているのか、気を失っているのか。


「少年、大丈夫ですの? このようなところで寝てはいけませんよ」


 クリスティーナが肩を揺すると青い髪の少年は目を開けて顔を上げた。


「死んでいるのかと思いましたわ。大丈夫ですか? 町まで送りましょうか?」

「ん……。ここは……どこだ?」

「まあ、寝惚けているのですね。ここはフェヴローニヤの北東ですわ。南に行けばシアーノという村がありますわ」

「……大地の奴め……」

「なんですの?」


 クリスティーナは青い髪の少年が呻くように呟いた言葉が聞き取れずに聞き返した。


「え? それはなんですの?」


 今まで気付かなかったが少年の胸に短剣のようなものが刺さっている。血は出ていないようだが、宝石を埋め込まれた柄だけ見えている。


「早く治療しないと。動けます?」

「いや……、後ろの岩にまで刺さっているのだ」

「まぁ、抜いても大丈夫かしら?」

「……我にはこの刀は抜けぬのだ」

「わたくしは魔法使いです。治癒の魔法もありますから、抜いて手当てをしますわよ」

「手当てはともかく、抜いてくれるか」


 血が吹き出すかもしれないのですぐさま治癒魔法を唱えられるように構えつつ、少年の胸に刺さっている短剣の柄を掴む。


「抜きますわよ」


 クリスティーナが短刀を一気に引き抜く。血は出ないまま、少年は横に倒れた。


「治癒魔法を掛けますわね」と言うクリスティーナを少年が制する。

「よい、我に魔法は効かぬ。ちょっと疲れただけゆえすぐに良くなる」

「魔法が効かない? あなたはどなたですの?」首をひねってクリスティーナが問う。

「我はエサイアス、エサイアス・ドラゴン・デ・ブレイザーだ。青嵐のドラゴンとも呼ばれておる」

「ええ!?」


 驚きのあまり固まるクリスティーナ。ジッと青い髪の少年を見つめる。とてもドラゴンには見えないが、そう言えば焔のドラゴンも同じような少年だった。雰囲気はずいぶんと違うけど。


「その宝剣はの」横になったままエサイアスが言う。「傷付けるためのものではなく封印するための剣だ。それでここに縛られていたのだ」

「まあ……」


 そんなものがあったのかと短剣を眺める。エサイアスの胸に突き刺さっていたはずなのに刃には血一つ付いていない。


「女よ、礼を申す。名は?」

「わたくしはクリスティーナ・ベステルノールランドですわ。たまたま馬で通りかかったので良かったですわ」

「不思議だな。封印された我は見えぬはずなのだが……。もしやそなたは我の仲間に会ったことがあるのか?」

偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)ですわね。アーシェ……、焔のドラゴンに会いましたわ。ちょうどひと月ほど前ですわね」

「そうか、それでか」


 エサイアスは納得したようだが、クリスティーナはよく分からない。


「どうしてあなたはこんなところに封印されていたんですの? 一体誰がこんなことを──」


 みなまで言う前にそれを遮るようにクリスティーナの後ろから声が響く。


「それをしたのは大地のドラゴンじゃ」


 振り返ったクリスティーナの目に入ったのは、笑顔で微笑みかけるクラウディアだ。


「クラウディア!?」

「久しいの、クリスティーナ姫よ」ニッと笑うクラウディア。「それに青嵐のドラゴンよ」

「なぜこんなところに……」


 クラウディアが近付いてくるのを警戒するクリスティーナ。


「カッカッ、そんなに警戒することはない、クリスティーナ姫。アンハレルトナーク城で邪魔されたことは水に流そう」

「……」

「それにしても、せっかく青嵐のドラゴンを捕える機だったのに、また邪魔をされるとはよくよく我らは相性が悪いようじゃの」


 そう言ってクラウディアはカッカッと笑う。


「……青嵐のドラゴンを捕えてどうするつもりですの?」

「そうか、そなたは知らぬのじゃな」

「何をですの?」

「説明は面倒なので後でそこのドラゴンなり、レティシア・ローゼンブラードなりに聞くと良い。じゃが、クリスティーナ姫。偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)は人間の敵じゃ。忘れてはならぬぞ」


 そう言うとクラウディアは黒い霧に包まれて消えてしまった。


「なんなんですの……」呆然とクラウディアがいたあたりを見つめるクリスティーナ。何が何だかさっぱりだ。


「……クリスティーナよ」

「えっ? はい、なんです?」


 クリスティーナが振り返ってエサイアスを見る。まだ横になったままだ。


「我を近くの町まで連れて行ってくれぬか? ここでは回復もままならん」

「あ、そうですわね。分かりましたわ」


 聞きたいことは山ほどあるがエサイアスはどう見ても弱りきっている。取り急ぎ馬に乗せて近くのシアーノ村まで連れて行くことにした。




 シアーノ村の宿屋に着くとエサイアスはベッドに倒れ込むようにして眠ってしまった。


「もう、なんなんですの……」


 おかげで予定が狂ってしまった。とはいっても、青嵐のドラゴンにクラウディアだ。放っておいて良い話ではない。


 仕方ないので今日はここで泊まって明日話を聞くしかありませんわね。

クリスティーナとエサイアスが会いました。

次話もクリスティーナです。


続きは明後日更新です。

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