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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第三章 錯綜する想いと交錯する運命
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第九十七話 五十六日目 トセリの町 天気晴れ

 夜が明け、朝日が宿の窓から射し込んでくる。


「うーん……」


 昨夜はかなり遅くまで怪我人の手当てなどを手伝っていたためまだ眠いし魔力も回復し切っていない。


「おはよう、レティ」


 イリスも火消しやらなんやらで遅くまで働いていたはずだ。私が宿でベッドに倒れ込んだときはまだ戻ってなかった。それなのにもう起きているとはすごい回復力だ。


「おはようございます。イリスは昨夜ずいぶんと遅かったんじゃないですか?」

「そうね。でもちゃんと寝たから大丈夫よ」


 宿の前の食事処で朝食をとっていると、別の宿に泊まっているユリウスがやってきた。


「おはようございます、レティシア殿、イリスレーア姫」

「おはよう」


 ユリウスも同じテーブルに着いて食事を始める。


「ユリウスも昨夜は遅かったんじゃないですか?」

「はい。さすがに疲れましたね」


 いつものにやけ顔も疲労のせいかちょっと弱々しい。


「でも火災はすべて収まったし、怪我人の手当ても済んだんでしょ。すぐに復興できるわね」

「そうですね」


 怪我人は多数いたものの死者はなく、建物の延焼もそれほど大きな規模ではない。ドラゴンの群れに襲われた被害としてはかなり小さく済んだと言えるだろう。


「やっぱりフランシスの仕業なんですかね?」


 ドラゴンの群れをけしかけられるようなのはフランシスくらいしか思い当たらない。


「おそらくね……」イリスが頷く。「でも狙いが見えないわね」

「レティシア殿たちをここに引き留めるため、というところですかね?」

「なんのために?」

「そこまでは分かりませんが」ユリウスが肩をすくめる。


 引き留める程度ならドラゴンまで引っ張り出す必要はない。何か目的がありそうだけど分からない。


「ドラゴンは中央アポロニアの森に生息してるんですよね?」

「その他にも何箇所か生息地はあるわね。アンハレルトナークにもあるわ。詳しいことは分かってないのよ」

「なるほど」


 通りの方が少しざわざわし始めた。朝だからかなと大して気にも留めなかったけど、しばらくすると騎士が一人店に入ってきた。


「お食事中失礼いたします。私はノーブルヌの騎士です。お三方に我が王がぜひお礼を申し上げたいと言っているのですがよろしいでしょうか?」

「はい?」


 扉を開けて初老の男性がマントを翻して入ってきた。ノーブルヌ王なのだろう。

 イリスとユリウスが立ち上がったので私も立ち上がる。


「ドラゴンの撃退、怪我人の手当て、火災の片付けなど、三方には大変世話になりました。国を代表してお礼を申し上げる」

「いえいえ」


 イリスもユリウスも口を開かないので私が代表して答えた。


「後ろのお二人がどなたかはお聞きしますまい。あなたはレティシア・ローゼンブラード殿だな?」

「はい、そうです」


 アンハレルトナークの姫とシュタールの騎士が絡むと複雑なことになるのだろう。王は二人の名は聞かずに私に言う。


「孫がいつも世話になっているな」と言ってノーブルヌ王が苦笑する。ノーブルヌ王の娘はラスムスに嫁いでいる。孫とはクリスティーナのことなのだとすぐに分かった。

「彼女には色々と助けてもらいました」

「ほう」

「もう無駄な争いはしなくても良いと思いますよ」

「そう願いたいものだな」


 微笑むノーブルヌ王を見ていたら、ふとラスムス王妃の顔が浮かんだ。レティシアの記憶だ。いつも優しい笑顔で周囲の気持ちを暖かくしてくれる王妃だ。どことなくノーブルヌ王に面差しが似ている。


「イルマ様のことを思い出しました」

「フフ、そうか」ノーブルヌ王が微笑む。


 なんとなく場が暖かくなった。


 その後少し話をして、食事処に入ってきた騎士から耳打ちをされてノーブルヌ王は戻っていった。被災したところを回るそうだ。


「良い王様ね」

「はい」


 イリスの言葉に私は頷く。


「さて、これからどうしますか。フランシスとエサイアスはこの町にいません」

「そうですね。ハーフルトに向かいますか?」

「でも、このタイミングだと行き違いになる可能性もあるわ。エストが向かったのだから、何かあればすぐにこちらに来られると思うのよね」

「ああ、たしかにそうですね」


 エストの飛行魔法は高速だ。もうとっくにラ・ヴァッレに着いているだろうし、何かあればイリスのところにすぐに来るだろう。


「では今日も待ちつつ働きますか。まだまだ人出は足りないでしょうから」ユリウスが立ち上がる。

「そうね。ぼけっと待ってても仕方ないしね」

「そうしましょう。私は怪我人を見回ってきます」




 ちょっと怪我人を見て回ろうと思ったら、あっという間に夕方になっていた。家を焼かれた人々が中央の広場に集まっていて、そこにもまだ怪我人が結構いたのだ。


「ふう。一通り見れましたかね」私は汗を拭う。


 簡単な怪我や軽い火傷は治癒魔法で治るけど、骨折などの重い怪我は魔法だけでは完治しない。そういう重い怪我人を病院に運んだりしていたらあっという間に時間が経ってしまった。


「お疲れ様、レティ」


 イリスが中央広場に来た。ずいぶん働いたようで服も汚れている。


「お疲れ様、イリス。服が汚れてますよ」

「ああ、結構力仕事がたくさんあったからね」


 こともなげにイリスが言う。この少女の見た目で大人に混じって力仕事をこなすわけだから、周りの人はさぞ驚いただろう。


「お疲れ様でした、レティシア殿、イリスレーア姫」


 ユリウスもやってきた。イリスと同じように服は汚れているし、よっぽど疲れたのか元気がない。


「ずいぶん疲れたみたいですね」

「ええ。それよりもお二人に話があるのです。宿の部屋にお伺いしてもよろしいですか?」

「いいですけど、食事は後でいいんですか?」

「はい、重要な話なのです」




「さきほどシュタールの手の者から連絡が入りました」


 宿の部屋に入るなりユリウスが切り出した。顔は極めて真剣だ。


「冷静に聞いてください。ハーフルトの首都ラ・ヴァッレが広域魔法により消滅したそうです」

「……はい?」

「本日の昼過ぎのことだったようです。巨大な火柱に包まれてラ・ヴァッレは完全に焦土と化したとの報告です」


 詳しく説明されても訳が分からない。


「そんなことが……」

「トールヴァルドたちはどうなったのかしら」イリスが心配そうに眉をひそめる。

「遠方からの観測のようで、町の者たちがどうなったかまではまだ分からないそうです」


 胸がザワザワする。トールヴァルドたちが心配だし、そんな酷いことが許されていいのだろうか。


「じゃあすぐにでもラ・ヴァッレに行かないと!」

「ちょっと待ってください、レティシア殿」ユリウスが私を制する。「まだ続きがあるのです。ラ・ヴァッレ消滅を知ったシュタール帝国がハーフルトに宣戦布告しました」

「……え?」

「ラ・ヴァッレはハーフルトの要です。もしハーフルトの王たちが町の消滅と運命を共にしていたら、シュタールの相手ではないでしょう」

「そんなことを冷静に言われても!」

「いえ、それゆえに今ラ・ヴァッレに向かうのは危険です。レティシア殿は私以外のシュタールから追われているのです」


 頭が沸騰したかのように熱くなってきた。ラ・ヴァッレを消滅させたのが誰かは知らないがそいつに腹が立つし、そんなときに攻め込んだシュタールにも腹が立つ。


「あなたはどうするの? ユリウス」イリスがユリウスに尋ねる。

「……私はいったん国元に戻ります。レティシア殿、くれぐれもご冷静に」


 そう言うとユリウスは出て行った。たぶん私のことを思って言ったのだろうけど納得はできない。


「……イリスはどうしますか?」

「……」

「ユリウスと同じことを言いますか?」

「言わないわ」イリスが私の目を見る。「行きましょう、ハーフルトに。トールヴァルドたちがラ・ヴァッレにいたとは限らないし、確かめにいかないとね」

「はい!」

レティたちもハーフルトへ向かいます。


続きは明後日です。

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