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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第三章 錯綜する想いと交錯する運命
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第九十二話 五十五日目 エルフの里 天気晴れ

「本当にドラゴンが寄ってきませんね」


 私はエサイアスの背中から眼下の森を見下ろす。ドラゴンがうじゃうじゃ飛んでいるが、攻撃どころかまったく寄ってくる様子がない。さすが青嵐のドラゴンだ。


「あれかしら?」


 私の隣に座るイリスが前方の森のあたりを指さす。中央アポロニアの森は木が生い茂って地面も見えないほどなのだが、イリスが指しているところはちょっと木々が薄くなっているように見える。


「おそらくそうですね」


 イリスの後ろでエストが頷く。彼女は以前エルフの里に入ったことがあるそうなので分かるのかもしれない。


「降りるぞ。掴まれ」


 エサイアスの言葉に私たちは身をかがめてしがみつく。エサイアスはゆっくりとイリスが指さした方に降りていった。




 エルフの里の真ん中、ひときわ大きな建物の前にエサイアスが降り、私たちも背から降りた。エサイアスはすぐさま人間の姿に変わった。


「なんだお前たちは!?」


 建物の前にいた騎士や魔法使いたちが警戒しながら寄ってきた。エルフではない。ユニオールの連中だとすぐに分かった。


「ユニオールの兵ね? クラウディアはどこに?」


 イリスが騎士たちを見回しながら言う。しかし、騎士たちは警戒しながら私たちを遠巻きにするばかりで答えない。


「いいわ。どうせその中なのでしょう? 通らせてもらうわ」


 騎士たちの返事を待たずにイリスが足を踏み出そうとすると、建物の扉が開いた。中から出てきたのはクラウディアだ。


「またそなたらか。よっぽど縁があるようじゃの」


 クラウディアが冷めた目で微笑む。


「クラウディア。いったいエルフの女王に何の用があるというの? 返答次第では」イリスはそこで言葉を切り、持っていた伸縮棍を下に振って伸ばした。「戦いも辞さないわよ」


「クックックッ。辞すも辞さぬも我らは常に戦っているようなものじゃろう」

「……」

「用もなにも、話もまだ途中だったのじゃ。ほんに迷惑な」


 ちょっとおどけてクラウディアが笑う。対するイリスは今にも飛びかかりそうな雰囲気だ。私もエストもいつでも魔法を出せるように身構えた。

 そんなピリピリした雰囲気は気にも留めずクラウディアが話しかける。


「イリスレーアよ。最近の状況、なにかおかしいと感じぬか?」

「おかしい?」

「そうじゃ。エルフやらドラゴンやら人間以外の連中がやけに関わってくることに違和感を覚えぬか?」

「……それはあなたが焔のドラゴンを狙ったからではなくて?」

「焔に関してはそうじゃの」クラウディアが頷く。「だがの、その後は偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)が総出演じゃ。それに人間嫌いのエルフまで出てきよる」

「……どういうことなの?」

「それはそこの青嵐がよく知っておるであろ」


 エサイアスは何も言わずにジッとクラウディアを見ている。


「クックッ、言えぬであろうな」クラウディアが皮肉っぽい笑みを浮かべる。「大地のドラゴンが人間を滅ぼそうとしているとは言えぬわな」


 ! 大地のドラゴンが??


 私はエサイアスを見る。イリスもエストもエサイアスを見つめる。だが彼は何も言わない。


偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)はこの世界のバランスを司る者なのじゃ」クラウディアが話を続ける。「どうやら増えすぎた人間がお気に召さぬようじや」


 しばしの沈黙が訪れる。イリスもエストも考えがまとまらない様子だ。


「……エサイアス、本当なんですか?」


 私が問うとエサイアスは少し苦しそうに答える。


「そう考えているのは大地だけだ」

「エサイアスは反対なんですか? 彼女を止められないんですか?」

「……我には分からぬ」

「そんな……」

「だが輝は大地を止めようとしている」

「輝のドラゴンが……」


 大地のドラゴンは輝のドラゴンを助けにハーフルトまで来ていたはずだ。どういうことなのだろう?


「ならば私たちも輝のドラゴンに協力すべきですよね? イリス?」

「……そうね」イリスが頷いて、再びクラウディアを振り返る。「その話はよく分からないんだけど、あなたは何をするつもりなの、クラウディア?」


 クラウディアが答える。


「我は偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)を倒す力を手に入れる。ドラゴンどもを消し、そしてこの世界も統一するつもりじゃ」


 あまりに壮大な返答にイリスは返事ができないようだ。今度は私がクラウディアに問う。


「そのためにアーシェを狙ったんですか?」

「アーシェ? ああアンシェリークのことか。そうじゃ。思惑が外れてしまったがの」

「秘宝の他にも偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)を倒すような力があるんですか?」

「ほう、そなたはなかなか聡いの、レティシア・ローゼンブラード」クラウディアがニヤっと笑う。「それはここでは言えぬ」


 エサイアスが目の前にいるから言えないんだろう。それはそれとしても今、私はどうすれば良いんだろうか?


 誰も動かぬ中、クラウディアの後ろの扉からエルフの女性が現れた。金髪でスラッとしたスタイルだ。彼女がエーリカなのだろう。


「青嵐のドラゴンよ、そして人間たちよ。立ち話もなんだ。中に入られると良い」




 おかしな展開になってきた。エーリカの先導で建物の中の部屋に通された。テーブルを囲むのは私とイリス、エスト、エサイアス、そしてクラウディアにエーリカだ。こんなメンバーで話をするなんて考えもしなかった。


「エルフの女王よ。まだ話が途中であったのじゃ」クラウディアが口火を切ると、続きを聞かずにエーリカが返す。

「滅ぼされたくなかったらヒルデガルドを渡せと言うのであろう?」

「察しが良いの」


 ヒルデガルド? 初めて聞く単語だ。レティシアの記憶にもない。


「知らぬか、レティシア・ローゼンブラード」クラウディアはなぜか楽しげだ。「ヒルデガルドはエルフに伝えられている秘宝じゃ」

「待って、それは──」イリスが口を挟もうとすると、遮ってクラウディアが話す。

「そう、あらゆる魔法が記されているという魔導書じゃ」


 そんなものがあったのか。


「それを手にして偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)と戦い、世界も征服するつもりなの?」

「まぁそうじゃの」

「馬鹿げてるわ」


 イリスの言葉にもクラウディアは笑みを絶やさない。


「そなたもそう思うか? レティシア・ローゼンブラードよ」クラウディアが私に話を振ってきた。

「え? うーん……。情報が少なすぎて私には判断できません」

「クックッ、我は全て話したつもりじゃ」

「うーん、例えば、大地のドラゴンの件は話をしてもなんともなりませんか?」


 私の質問にクラウディアが一瞬驚いたように見えた。


「話か。人間を滅ぼさないように話すかえ?」

「はい。話せば分かってもらえそうなものですけど……」

「クックックッ、そなたがそういう人間だとは思わなかったわ。昔はもっと好戦的であったろうに」


 昔と言われても私は昔のレティシアを知らないし。


「それに世界を征服してどうするんですか?」


 さらなる私の問いにクラウディアは今度は目を丸くした。


「それは驚いたの。そのような問いをされるとは思うてもいなかったわ。そなたは牢屋暮らしが長すぎたようじゃの」さらに楽しげにクラウディアが言う。「そなたこそ我と同等の力を持ちながらなぜ世界を狙わないのじゃ?」

「なぜって……、別に世界なんて必要ありませんから」


 クラウディアは私の答えにちょっと肩をすくめると今度はイリスに聞く。


「イリスレーアはどうじゃ? 分かるであろう?」

「そうね。分かるわ」イリスが頷く。「力のある者が世界を治めるのは当然と思う。でもね、クラウディア。それは私たちの論理だわ」


 ああ、国を治める王族の論理なのだろうと私は理解した。元の世界ではもちろん、この世界の私は別に王族でも貴族でもない。


「ああ、欲のないことよの」納得したようなしていないような顔のクラウディア。「で、そなたはどうする? イリスレーアよ」


 イリスはいったん私の顔を見てちょっと微笑むとクラウディアに言う。


「私はレティが大地のドラゴンを止めるというのなら一緒に行くわ。それからあなたと戦うことになるでしょうね」

「クックッ。止めるか。ならば早う輝のドラゴンに会うことじゃな」


 輝のドラゴンは大地にドラゴンに反対しているとエサイアスが言っていた。ともに大地のドラゴンを止めるってことだろうか。


「じゃが、一つ覚えていた方が良い」クラウディアが付け足す。「偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)は直接手を下さぬ。人間なりエルフなりを動かすだけだ。大地のドラゴンは我を使って人間を滅ぼすつもりのようだが、輝のドラゴンがどうするつもりなのかを確かめたほうか良いぞ」

話し合いは続きます。


続きは明後日です。

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