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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
序章 転生したら懲役二千五百年でした
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第九話 三日目 ノーブルヌの首都 天気晴れ

「しつこい連中ね」


 町の中を右へ左へと逃げる私たち。行く先々で現れる黒ずくめの男たちをイリスが一撃で倒しているが、倒しても倒しても湧いてくる。


「キリがないわね」


 町から出てしまえば良いのかもしれないが、夜は門が閉まっているのでそれは難しい。こうして町中を逃げ回っていても、いずれは包囲されてしまうかもしれない。

 走り回ってるだけでも私は疲れてきたくらいだ。戦ってるイリスもいつまでも元気とは限らない。


「いっそ、城に逃げ込んでしまおうか?」フィクスがふと呟いた。

「え? そんな無茶な」私はフィクスの提案に驚いて顔を見つめる。

「いえ、それも良いかもしれないわね」イリスが立ち上がった。「なにも城内に入ろうってことじゃなくて、敷地に入ってしまえば、さすがにあの連中も追ってこないでしょ」

「衛兵とかに見付かるとさらに面倒なことになるのでは……」

「だが、このままではいずれ捕まる。行くしかない」

「そうね。私はレティを抱えて飛び越えられるけど、フィクスは大丈夫?」

「ああ、これくらいの高さなら問題ない」


 城を囲う塀を見上げると、五メートルほどの高さはありそうだ。イリスは私を軽々と抱えてジャンプすると、楽々塀を超えて城の庭に降り立った。フィクスもすぐに降りてきた。


「人のいなそうな建物を探すわよ。衛兵に見つからないように気を付けてね」イリスが私を降ろして歩き出す。


 夜中ではあるが月明かりのおかげで周りはそれなりに見える。庭はよく整備されていて植木やオーナメント的な装飾も多く配置されている。これなら隠れながら移動できそうだ。


「体を低くね」イリスに続いて体を屈めて移動する。少し歩いていくと小屋のような建物が見えた。


「庭の手入れ道具などをしまっておく小屋かしらね。ちょっと見てみるわ」


 鍵は掛かっていないようだ。イリスがそっと扉を開けて中を覗き込む。「誰もいないわ。とりあえずここに入るわよ」


 小屋の中は箒や大きなハサミ、手押し車のようなものなど、庭の手入れ道具と思われる物が置かれている。屋根に天窓があって、月明かりで中はそれなりに明るい。


「ふう。さすがにちょっと疲れたわ。弱くても数がいると厄介ね」イリスがリュックを下ろしてひと息ついた。何十人も倒して逃げ回ったのだ。疲れても全くおかしくはない。


 私も何かの箱のようなものに腰掛ける。いろんなところに行くのはちょっと楽しいかもと思ったのは間違いだったかもしれない。こうも追いかけ回されると心身ともに疲れ果てそうだ。


「さて、どうするべきかな。ひとまずは大丈夫かもしれないが、ここに留まるわけにもいかない」フィクスが考え込む。


 手はある。というか、これしかない。


 クリスが小屋の中を見回っているところで、私はフィクスに小声で言う。「飛んで逃げるしかありませんよね? 危険ではありますけど、ここで城の衛兵やアーベントロートの者たちに捕まるよりマシかと」


 私が気配を消す魔法を解いて、飛行魔法で逃げれば良いだけだ。気配は察知されてしまうけど、今はそれ以外に手が無いと思う。


「それはあまり良い手とは言えないな」フィクスが首を振る。「今のところ追手はアーベントロートだけのようだけど、君の気配が漏れるとシュタールやハーフルトにも尻尾を掴まれる可能性が高い。最後の手としてはありだけどもうちょっと考えてみるべきだろう」


 うーんと考え込んでみるけど、他に名案は浮かばない。そのとき、「シッ!」とイリスが私たちの顔を見ながら静かにするよう制した。「誰か来たわ」


 動きを止めて耳を澄ましても私には何も聞こえない。フィクスには聞こえてるのだろうか?

 イリスが小屋の扉の方に静かに移動した。扉が開いたら一撃入れるつもりなのだろう。


 ガタッと扉が開くと、体を低くしたイリスが拳を出しながら、現れた人影の前にスッと動いた。人影に拳が炸裂する!と思った刹那、イリスは拳を止めた。


「クリス?」


 月明かりに照らされたその人影はクリスティーナ・ベステルノールランドだった。よく会うな。


「あら、またあなた方でしたの」クリスティーナは私たちを見ながら言った。「やはり縁がありますわね」

「ちょっとおかしな連中に追われてるのよ」イリスが拳を納めながら下がった。

「町が騒がしいと思ったら、あなた方でしたのね。こんなところに隠れても意味ないのではなくて?」


 それはそうなのだが、動きようがないのだ。私が魔法を使えば、騒ぎはさらに大きくなるだろう。


「仕方ありませんわね」クリスティーナは肩をすくめた。「今日のところは逃がして差し上げますので、こちらへ付いてらしてください」

「逃げられるのか?」フィクスが立ち上がる。

「ええ、すぐそこに地下水道に繋がる水路がありますわ。そこから海の方に出られますわ」


 クリスティーナによればノーブルヌの南には港町スティーナがあるそうだ。そっちへ逃げろと言うことのようだ。


「こっちですわ」


 先導するクリスティーナに少し離れて身を屈めながら私たちは付いていく。


「クリステ……、クリスはここで何をしてるのですか?」

「わたくしの母がノーブルヌ王家の出なのです。近くに寄った際にはお爺様、ノーブルヌ王にご挨拶してますのよ」


 お嬢様ぽい見た目とは思ったがどうやら本物のお嬢様のようだ。なんでレティシアを追いかけているのかますます分からなくなる。


「シッ!」と言ってクリスティーナが立ち止まる。後ろの私たちは植木の陰に隠れた。クリスティーナは城の方を見ている。誰か通る気配を感じたのだろう。


「お嬢様、そちらで何をしておいでですか」男性の声だ。衛兵だろうか?

「散歩ですわ。ゾロゾロと見廻りですか? 何かございましたか?」

「城に賊が侵入したのではないかと通報があったのです。危険ですのでお嬢様もお戻り下さい」

「まあ」クリスティーナが口に手を当てて大げさに驚いてみせる。「賊の侵入などあってはならないことですわ。衛兵は何をしているのです」

「い、いえ、通報があったので念のため確認しているだけでして……。万一があっては困りますので」衛兵と思しき男性はしどろもどろだ。たしかに城に賊の侵入を許したら責任問題だ。

「わたくしは先程から庭を散歩していますが、そのような人影はありませんでしたわ。ここは大丈夫ですから余所をお探しあそばせ」

「はっ、ありがとうございます」


 衛兵らしき男性は去ったようだ。クリスティーナが何ごともなかったように再び歩きだし、私たちも後に続く。


「ここですわ」クリスティーナは小さな扉の付いた物置のような建物の前で立ち止まった。「ここから地下の水路に降りられます。余所から来た者には分からないでしょう」


 扉を開けて中に入るとすぐ下の床に鉄板のようなもので作られた蓋があった。フィクスがそれを開くと地下への階段が見えた。


「わたくしはここまでですわ。またお会いしましょう」

「助かったわ。ありがとう、クリス」イリスが頭を下げた。

「あなたがいれば心配ないと思いますけど、水路には魔物も出ると思いますので気を付けてくださいませ」

「ええ。ご忠告感謝するわ」


 あら? 食事処でクリスティーナはイリスに初めましてと言ってたのに、イリスが強いことを知っているのだろうか? と首を傾げているとフィクスが先を促す。


「では行こうか。僕が先に行くので君は後に続いて。イリスは後ろを頼む」

「分かったわ」


 私とフィクスもクリスティーナに礼を言って、地下水路への階段を降りた。

まだ逃げています。


続きは明日です。

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