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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第三章 錯綜する想いと交錯する運命
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第八十七話 ユニオール暦八百七十三年八月七日 ユニオール城 天気曇り

「揃うたの」


 クラウディアは自分の前に並ぶ騎士五名、魔法使い五名に目を細めた。みな自分に忠誠を誓う者ばかりだ。十名とは別にセラフィーナも並んでいるが、彼女はクラウディアの留守を預かるため今回の作戦には同行しない。


「セラフィーナから聞いていると思うが、ここにいる十名は我とともにこれより中央アポロニアの森へ向かう。道中はかなり危険なもあるだろうが、そなたらの働きに期待している」

「はっ!」


 十人の声が揃う。


「陛下、エルフの女王は大変気難しいと聞いております。なにとぞお気を付けを」セラフィーナが心配そうに言う。

「案ずるな、セラフィーナ。エルフの女王とはいえこの世界の理のもと生きておるはず。我の言葉は必ず通じる」

「はっ、お早いお帰りをお待ちしております」


 まだ明け切らぬ朝、高速馬車二台に分乗してクラウディアたち一行はユニオール城を出発した。旧ヴェードルンドに入って南下し、中央アポロニア山脈を越えて森に入るルートだ。そのために飛行魔法が使える魔法使いを五人も連れてきている。


 クラウディアの乗る馬車には騎士団長のローベルトと、魔道士団ナンバー2のマルガレータが同乗している。ともにクラウディアが即位してから任命された精鋭だ。


「夕方には山脈の麓には到着して明日の朝は山越えか。空模様が少々心配だな」ローベルトが馬車の窓の外を見ながら言う。

「あら、ローベルト。別に雨が降っても飛行魔法には影響ないですよ」マルガレータが言う。

「そうなのか。飛行魔法に乗ることなどなかったので良く知らんのだ」

「フフフ、お任せください。雷が鳴っても問題ありません」


 クラウディアは二人の話を聞いているのかいないのか、目を閉じて何ごとかを考えているようだ。

 二人が考えごとの邪魔をしてはいけないと思って口をつぐむと、目を開いてクラウディアが二人に話かける。


「二人には話しておかないとならぬことがあるのじゃ」

「はっ、何でしょう」ローベルトもマルガレータも背筋を伸ばす。

「うむ。セラフィーナからは、アンシェリークの秘宝についてエルフの女王に話を聞きに行く、と聞いておるな?」

「はい」

「それは嘘じゃ」


 二人が目を丸くして絶句する。


「アンシェリークの秘宝は当面誰も手にできぬ状況じゃ。聞いても意味はない」

「そ、そうなのですか?」ローベルトが恐る恐る聞く。「ではエルフの女王に会いに行かれるのはなぜなのでしょう?」

「エルフの女王は古代魔法を操る」

「こ、古代魔法をですか?」マルガレータが目をさらに丸くする。

「そうじゃ。マルガレータも古代魔法については聞いたことがあるじゃろう?」

「はい、大変危険な魔法だと聞いております」

「うむ。エルフの女王エーリカは古代魔法を操り、時に人間に教えることがある」

「そうなのですか?」

「実際、アンハレルトナークには古代魔法を使う魔法使いがおるという」クラウディアは悲しそうに首を振った。「これは大変危険なことじゃ」

「おっしゃる通りです」


 クラウディアはひとつ頷いて話を続ける。


「そして我が心配しているのはレティシア・ローゼンブラードが古代魔法を得ようとしていることなのじゃ。あの者が古代魔法を習得すると我が国の脅威になりかねぬ」

「なるほど……。しかしお言葉ながら、それであればレティシア・ローゼンブラードにアンシェリークの秘宝を渡さないという当初の目的とさほど変わらないのではないですか?」


 ローベルトの問いにクラウディアが微笑む。


「そうじゃな。レティシア・ローゼンブラードに力を渡さぬという意味では同じじゃ、だがの……」

「なんでしょう?」

「その先が違う。エーリカが言うことを聞かなければエルフの里ごと滅ぼすつもりじゃ」

「――えっ!?」

「クラウディア様! それは――!」


 驚き絶句する二人。クラウディアは微笑んだまま話を続ける。


「そのためにそなたらを連れてきたのじゃ。古代魔法をこれ以上ばらまかれると困るのでな」

「しかしクラウディア様――」と言うマルガレータを制してクラウディアが話を続ける。

「マルガレータの心配は分かる。エーリカに勝てるのか、というのじゃろう?」

「は、はい、エーリカはあらゆる魔法を使いこなすと言われています」

「その辺は考えていることもある。案ずるな」


 そう言うとクラウディアは再び目を閉じた。ローベルトとマルガレータは顔を見合わせ、いざという時はやるしかないと頷きあった。




 夕方には山脈の麓に到着すると、三つのテントを立てて今夜は野営となった。予定通りだ。クラウディアは三つの中でひときわ豪華なテントに入り、自分のためにお茶を淹れる準備を始めた。今回は側仕えなどは同行させていないので、極力自分でやるつもりだ。


 クックックッ、思い出すわ。


 クラウディアはダービィに留学して二年ほど学んだのちに魔法学校を抜け出し、一年あまり一人で行動していた。その時にはこのようにお茶を淹れるどころか、身の回りのことはなにもかも自分一人でやっていた。


 たまにはこういうのも良いの。


 自分で淹れたお茶を飲みながらクラウディアは思う。なんでも側の者がやってくれる今の立場は楽なようで、そうでもない面もある。例えばこのお茶にしても濃さや熱さなどの好みはその時の気分によって異なる。いちいちそのたびに指示してその通りに淹れさせるのは面倒だ。自分で淹れたほうが早い。

 だが城で自分が茶を淹れていたら側仕えが飛んできてしまう。


 王など自由なようで不自由なものじゃ。


 椅子に腰掛けまま目を閉じる。慌てふためいたローベルトとマルガレータの顔が浮かんできて、思わず一人でニヤッとしてしまう。あのように言っておけば必死に働くであろう。


 エーリカは我の要求を呑むしかない。あとはどうまとめるかだな……。


 そんなことを考えていたらクラウディアはいつの間にかウトウトと眠ってしまった。

クラウディアがエルフの里に向けて出発しました。


明日は更新できませんので、続きは明後日です。

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