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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第三章 錯綜する想いと交錯する運命
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第八十三話 ユニオール暦八百七十三年八月五日 ラスムス首都ミュンテフェーリング 天気晴れ

 いい朝だわ。


 イリスレーアは目覚めるとパッとベッドから飛び起きて窓の外を見た。今日も良い天気だ。


 ミュンテフェーリングに来てから五日目。昨日までさまざまな行事や式典に出席してきたが、今日ようやくラスムスを出国できる。


 クリスティーナに感謝してるのは本当だけど、この手の堅苦しいことが苦手なのも事実だ。また旅に出られるのは正直嬉しい。


「イリスレーア様、エスト様が戻られました」護衛の騎士が扉をノックして報告してきた。

「通して」


 扉を開けてエストが部屋に入ってきた。アンハレルトナークまで行って帰ってきたのだ。さすがに疲れが見える。


「お疲れ様、エスト。大変だったでしょう?」

「いえ、平気ですよ」


 エストに席を勧め、イリスレーアも座った。


「お父様はなんと?」

「はい。まずハーフルトの件については諜報を増員して調査するので、姫様が決してハーフルトに行かないよう念押しするように言われました」

「念押しね」イリスレーアが苦笑する。

「私が念押ししても必要があれば姫様は行ってしまうでしょうと申し上げると、陛下はそうだろうなと言って遠い目をしていました」


 そう言ってエストも笑う。念押しが無駄なことはよく分かっているようだ


「ハーフルトがドラゴンを捕らえたというのが本当なら、おそらく大地か輝だろうとのことです」

「そうでしょうね」

「そもそも偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)をどう戦争に使うつもりなのか分からないので、迂闊に動くのは危険です」

「それも理解してるわ」


 偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)は人間に関わらない。これまではそう言われてきた。だが、アーシェは自分たちと一緒に旅をし、白銀のドラゴンはレティたちに協力し、青嵐のドラゴンは人間を攻撃した。もはや彼らが人間に絶対関わらないとは言えないとイリスレーアは考えている。


「ドラゴンにも彼らなりの考えがあり、時として人間に関わってくる。捉えられたのが大地か輝かは分からないけど、どう動くは分からないからね」

「その通りです」

「とりあえず私はスティーナに行ってレティたちを待つわ」

「それなのですが……」


 エストが言いづらそうに切り出した。


「エールヴァールから国元に入った情報によると、シーグバーンに戻ったのはトールヴァルド様だけだったとのことです」

「え?」

「正確にはトールヴァルド様とアマリアという女性の二人だったそうです。アマリア殿はトールヴァルド様のお知り合いのようです」


 アンハレルトナーク城でのレティたちの話にその名があったような気がする。たしかフィクスの元同僚だったはずだ。


「それでレティはどこに?」

「トールヴァルド様とはフェヴローニヤで別れたのではないかとのことです。その先は掴めていません」


 レティのことだから予定通りにはいかないだろうと思っていたけど、トールヴァルドと別れて行動するとは思ってなかった。何があったのだろうか?


「トールヴァルド様の方は、シーグバーンの港からベアトリスで海に出られたそうです。フィクス様、シルック様もご一緒です」

「そう。フィクスたちは合流できたのね」


 ということはレティは単独行動の可能性が高いわけだ。そこまでするのであれば恐らくアーシェ絡みだろう。だが今アーシェは中央アポロニア山脈東部にいるとラスムス王は言っていた。


 アーシェのところに行くつもりなら、ここに来てもおかしくないはず、とイリスレーアは思う。


「ねえ、エスト。レティがアーシェのもとに行くのであればここに寄るわよね?」

「姫様がここにいらっしゃることはご存知ですし、焔のドラゴンがいる場所はここから比較的近いと考えられますので、姫様の力を借りに来てもおかしくないですね」

「そうよね」


 うぬぼれではなく、レティなら合理的にそう考えるはずだ。だがレティはここには来ていない。ということは別の目的か……。


「トールヴァルド様にお会いすればすべて分かるのではありませんか?」

「それはそうだけど」


 トールヴァルドのベアトリスがスティーナに着くのはどんなに早くても八月十日前後だろう。五日も六日もただ待つのは性に合わない。


「ねえ、エスト」

「分かっています」エストはイリスレーアがこのあと言うだろうことが分かっているようだ。「私が飛行魔法で姫様をバルテルスまでお連れします」




 ラスムス王夫妻とクリスティーナも交えた朝食を済ますと、これでラスムスですべきことは全て完了だ。

 城の出口までクリスティーナが送ってくれた。


「じゃあ、クリスティーナ。私はこれで」

「ええ、スティーナに向かわれるのですよね? 道中お気を付けて」

「ありがとう。元気でね」


 首都ヴァーラを出ると馬車の列は二手に分かれた。一方は東へ向かってアンハレルトナークへ戻る車列で、イリスレーアの護衛として同行していた騎士や魔法使い、お礼の品など荷物を運んだ人足たちだ。彼らは来た道を帰ることになる。

 もう一方はイリスレーアとエストだけが乗った馬車が一台。しばらく移動したら馬車を降りてエストの飛行魔法で移動する予定になっている。


「一度スティーナまで飛んでから、バルテルスへ向かうルートになります」

「スティーナからバルテルスまで一気に飛べるの?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 エストは涼しい顔だ。


「ねぇ、エスト」

「なんでしょう? 姫様」

「ちゃんと聞いたことなかったけど、その魔法はどこで知ったの?」


 エストが古代魔法を使えることは前から知っている。アンハレルトナークの王族はみな知っていることではあるが、大っぴらにはしないようにお父様からは言われている。だから、なぜ使えるのかとかどうやって学んだとか、詳しく聞いたことがなかった。


内密魔法(セクレタ)」とエストが小さく唱えると、エストとイリスレーアの周りが薄い透明な壁のようなもので覆われた。「魔力の壁です。これで外に話が漏れることはありません」

「慎重なのね」

「ええ、古代魔法に関することは最高機密ですよ」


 イリスレーアは頷くと話を促す。


「それで、それは私に話してもいいことなの?」

「はい、陛下には姫様から聞かれたら教えても良いと言われています。私が古代魔法を知ったのは五年ほど前のことです」

「ほうほう」

「とある任務でバーンハルドに行った時に、ちょっと理由があって南東部の深い森に入ったのです」


 バーンハルド大陸の南東部は、人がほとんど立ち入らない深い森だ。よっぽどのことがあって森に入ることになったのだろうが、本筋には関係なさそうなので話を広げず続きを促す。


「うん。それで?」

「森の奥に入り、数日進んだところに大きな滝がありました。で、その裏側に洞窟の入り口のようなものを見付けたので入ってみたのです。奥にはドラゴンの幼生がいました」

「! ドラゴンの幼生? ということは、輝のドラゴンの幼生ね?」

「そうです。彼女は私に古代魔法を学ぶよう言いました。そのためにエルフの女王を訪ねよと」

「――色々聞きたいことはあるけど、とにかくそれでエーリカに会ったのね?」

「はい。エルフの女王エーリカに会い、古代魔法を教わったのです」


 何から聞こうかイリスレーアが考えている間にエストが話を続ける。


「あまりお答えできることはないと思います。どうして輝のドラゴンの幼生が私に古代魔法を学べと言ったのかは分かりません。ただ、大切なものを守りなさい、と幼生は言いました」

「大切なもの……」

「はい。ですから私は古代魔法をアンハレルトナークのために使うことにしたのです」

「なるほど。そんなことがあったのね」イリスレーアは頷いて言葉を続ける。「じゃあ、輝のドラゴンのことも助けないといけないわね」

「そうですね。気掛かりですね」


 そう言ってエストはニッコリとイリスレーアに微笑む。


「でもハーフルトに突撃はダメですよ」

イリスもようやくラスムスを出発しました。


明日は都合で更新できませんで、次話は明後日です。

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