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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第三章 錯綜する想いと交錯する運命
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第八十二話 ユニオール暦八百七十三年八月五日 シルヴェンノイネン 天気晴れ

 アドラースヘルムから馬車で少し西に行ったところにその森は広がっている。かなり深い森でほとんど人は立ち入らない。

 クリストフェル、ユリウス、フランシスの三人は朝からその森に入り、道なき道を進むと、日が高くなる頃にはその場所に着いた。


「ここなのか?」


 少しひらけた空き地のようになっているが、とてもドラゴンが収まるような広さではない。


「ええ、そうよ。隠されてるのよ」


 フランシスが手をかざして小さく何か呟くと、目の前の空間が揺れて見渡す限りの広い野原に変わった。


「どういう仕組みなのだ?」クリストフェルが目を丸くして驚く。自分たちのすぐ後ろには木が生い茂っていたはずなのに、今や野原の中に立っている。


「魔法みたいなものよ」


 そう言うとフランシスは歩き始める。広い野原の中央には一本の木が生えていて、そこまで歩くとフランシスは立ち止まった。


「ここが輝のドラゴンの棲むところよ」


 一本の木と広い野原。他には何もない。


「何もありませんね」ユリウスが注意深く周囲を見ながら言う。


 クリストフェルも木の周りを歩きながら何かないか確認する。


「うむ。ないな。周囲が踏まれたような跡も確認できない」

「そうですね」ユリウスが頷く。「少なくとも最近ドラゴンがいたような形跡はありませんね」


 クリストフェルはまた辺りを見回す。穏やかなそよ風が草を揺らす。


「良いところだな。ここは」

「ええ、そうね」

「フランシスが六月に来た時となにか違いはないか?」

「ないわ。やはり戻ってないみたいね」


 しばらくうろうろと観察していたユリウスも肩をすくめる。


「やはり何もありませんな」

「無駄足だったかしらね?」

「いえ、そんなことはありません」ユリウスが言う。「きっと輝のドラゴンはこのような穏やかな場所が好きなのだろうと分かりましたよ」

「この場所からだけではそこまでは分からぬと思うが」クリストフェルが突っ込む。

「いえ、人が、この場合はドラゴンですがおそらく同じでしょう。人が暮らす場所を選ぶのには何か理由があるものです。クリストフェル殿とて、自分の暮らす部屋は自分好みにしているでしょう?」

「まぁそうだな」

「ましてやこの世界のどこにでも棲める偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)です。ここに輝のドラゴンが暮らすことには何か意味か理由があるのでしょう」

「面白い考え方ね」


 フランシスが楽しそうに言う。


「それはそれとしてそろそろ出ましょう。あまり遅くなるとまた町に泊まらないとならなくなるわ」




 野原の端まで歩き、フランシスが再び何かを呟くと、広かった野原はまた小さな空き地に変わった。「さぁ行きましょう」


 帰りはまっすぐ進むだけなのでかなり早く森を抜けられた。


「さて、このまま南に進めばダービィです。よろしいですか?」ユリウスが馬車を係留していた縄を木から解きながら言う。

「ああ、急げば日が暮れる前に国境は越えられるだろう」クリストフェルが御者席に乗り込もうとすると、向こうの丘から騎馬が数騎やってくるのが目に入った。


「待たれよ!」


 五騎の騎馬がクリストフェルたちの前まで来て止まる。真ん中の一騎はシルヴェンノイネンの騎士だ。


「怪しげな者たちが森に入っていったと通報を受けた。そなたらの所属、身分を明かしてもらおう」騎士が騎上のまま言う。


 面倒なことになった……。


 クリストフェルが心の内で舌打ちすると、ユリウスが前に出た。


「私たちはシュタール帝国の者です。我が国と貴国は同盟関係にあります。身分の照会は公館を通してもらいましょうか?」


 そう言ってユリウスは胸からマントのブローチを取り出した。見られると面倒と言って外していたものだ。


「そのブローチはたしかにシュタール帝国ですね」騎士が馬を下りて敬礼する。「失礼しました。この後のご予定をお聞きしてもよろしいですか?」

「それも公館に問い合わせていただきましょう。大使イェレミースでなくばそれをお話しして良いか我らには判断できません」

「分かりました」


 ユリウスが大使の名を出すと納得せざるを得ないといった感じで騎士は再び馬上の人になり兵ともども去って行った。


「危ないところだったな」クリストフェルが息を吐く。

「そうですか? 万一の時は斬ってしまえば良いのですからそれほど危なくもなかったでしょう?」ユリウスがニッと笑う。

「同盟国なのだろう?」ちょっと呆れてクリストフェルが咎める。

「ハッハッハッ。こんな西端の国との同盟など形式的なものですよ」


 そう言うとユリウスは馬車に乗り込んだ。さらにフランシスの手を引き乗り込ませる。


「さあ行きましょう、クリストフェル殿」

「ああ、そうだな」


 クリストフェルは頷き、御者席に乗り込んだ。本当は馬車の扱いなど知らないのだが、この三人なら自分が御者をやるしかない。


「さぁ行くぞ。揺れても勘弁してくれ」

「なるべく穏やかにお願いします。か弱い女の子を乗せているのですから」


 か弱くはないだろうと心の中で突っ込みながら馬にひとムチ入れると馬車は南に向けて走り始めた。

輝のドラゴンはいませんでした。


次話は明日です

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