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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第二章 戦争と偉大な五体のドラゴン
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第八十話 四十七日目 中央アポロニア山脈東部 天気晴れ

「山ばっかりですね。これじゃどこを探せばいいのか」


 空から見下ろすと一面の山だ。この辺りは中央アポロニア山脈の東側で、高低さまざまな山々が立ち並んでいる。あまりに山だらけでどこにアーシェがいるのか探しようがない。


「いや、かすかに匂いがある。ちょっと待て」


 そう言うエサイアスはドラゴンの姿だ。その姿だと鼻が利くんだろうか?


「こっちだ」と言ってエサイアスは降下していく。私も後に続く。


 深い木々で覆われた山の一つに横穴らしきものが見えた。上空からでは木に遮られてよく見えないし、地上からではたどり着けまい。エサイアスがいてくれて良かった。横穴の入り口に着くと、エサイアスは少年の姿に変化した。


「ここだ。間違いない」

「行きましょう」


 奥へ進んでいく。通路は結構広い。もっともこれくらい広くなければドラゴン姿のアーシェは通れないだろう。しばらく歩くと外の光が入らなくなったので灯りの魔法を唱えた。


「そこだな」


 先の方が広い空間になっているようだが、私の灯りの魔法では先の方まで光が届かない。エサイアスが広い空間に足を踏み入れた。私も後に続く。その瞬間、目の前が真っ赤に染まった。


「えっ!? なに!?」


 見れば私の前でエサイアスが手をかざして防御してくれているが、これは炎だ。それも凄い勢いだ。


「焔! 我だ!」


 エサイアスがそう言うと炎は止んだ。そして広い空間の奥でドラゴンが赤い光に包まれているのが見えた。アーシェだ!


「アーシェ!」


 思わず駆け出す私。アーシェは長い首を前に投げ出して横たわっている。軽自動車ほどの大きさはあるだろう頭の前まで私は駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「……レティ……か」アーシェがか細い声で返事をした。

「アーシェ……」


 手を触れたいけど触れれば魔力が吸収されてしまう。今のアーシェが魔力を吸収するのは良くないだろう。


「おい、焔の」エサイアスがアーシェに呼びかける。「ヴィスロウジロヴァー山に行くぞ」

「……不要と言ったはずだ」

「なぜですか、アーシェ?」私は尋ねる。

「……ここで休んでいればじきに治る」


 アーシェの言葉を聞いてエサイアスが咎める。


「嘘を吐け。この間会った時よりも悪くなっているではないか。なぜ頑なに動かぬのだ」


 アーシェは目を閉じて答えない。


 その時、広い空間の逆側、暗くて見えなかった方から声が聞こえてきた。


「我が教えてやろうか?」


 声に驚いて目を凝らすと人影が近付いてくる。声で薄々は気付いていたが、こんなところにまで現れるとは……。


「クラウディア!」


 クラウディアはゆっくりとこちらに近付いてくる。私はアーシェを守るために両手を広げた。


「クックックッ、案ずるでない。何もするつもりはない」そう言ってクラウディアは立ち止まった。「そっちは青嵐のドラゴンじゃな。ずいぶんと偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)に縁があるようじゃな? レティシア・ローゼンブラードよ」


 笑顔が逆に怖い。私はいつでも防御魔法陣が出せるように身構えた。エサイアスの方を見ると、たいして興味なさそうに眺めている。


「教えるとは何をですか?」

「アンシェリークの秘宝じゃ。そなたは秘宝が何たるかを知っておるか?」

「……いえ、知りません」

「知らずに探しておったのか」クラウディアは少し呆れて言葉を続ける。「まあ最早そなたには、いや我も手に入れるのは不可能ゆえ知らなくても問題はないがの」

「不可能?」


 首をかしげる私にクラウディアが話を続ける。


「そうじゃ。そこの焔のドラゴンが死んだ時の亡骸が天焔石に変わる。アンシェリークの秘宝とはその天焔石のことを言うのじゃ」

「天焔石?」

「そうじゃ。じゃが、天焔石は転生した焔のドラゴンが成竜になると消えてしまう。どんな仕組みかは知らんがの」

「消える……。では、もうその天焔石は手に入らないということですか?」

「そういうことじゃ」


 そんなものだったとは知らなかった。なぜクラウディアはそんなことを知っているのだろう? 石版はバラバラのはずだ。


「まぁ天焔石のことは良い。ところで、突然成竜になった焔のドラゴンに何か違和感を感じぬか?」

「それは……あなたのせいじゃないですか」


 クラウディアの魔法を止めようと魔方陣から魔力を吸収した結果のはずだ。


「クックックッ、勘が悪いの、そなたは」クラウディアは皮肉るように笑った。「おかしいとは思わぬのか? 焔のドラゴンが吸収し切れぬほどの魔力があの魔方陣に籠められていたと思うか? いや我にそれほどの魔力があると思うか?」

「――!」


 たしかにそうだ。魔方陣の暴走によるものだと勝手に思い込んでいたが、それにしてはたしかに魔力が多すぎた。


「何者かは知らんが、介入があったようじゃな」

「介入?」

「そうじゃ、あの魔法陣に余計に魔力を注ぎ込んだ者がいるのじゃ」

「そんな……、あの場所には私たちしかいませんでしたし、そんなことができるとは思えません」

「人ならぬ者ならそのようなこともできる奴はいるのじゃ」


 人ならぬ者……。いったい誰のことを言っているのだろう? それにいったい何のために?


「さっぱり分からぬといった顔じゃな。ではこう考えてはどうじゃ。その者は魔力を注ぎ込んで何をしたかったのかの?」

「……アーシェを成竜にしたかったってことですか?」

「そうじゃ。そしてそれはアンシェリークの秘宝をそなたに渡したくないからじゃ」

「私に……」


 狙いが見えない。私が秘宝を手に入れたら困る人がいたのだろうか?


 考えようとしても考えがまとまらずよく分からない。うーんと唸っていると、エサイアスが口を挟む。


「そこの人間、もうその辺で良いであろう」

「クックックッ、そうじゃの。青嵐のドラゴンはすべて分かっているようじゃな」クラウディアがエサイアスを見て微笑む。

「……」

「分かっておるなら忠告しておくぞ。人の世のことに口を出すな。人のことは人が決める。そなたの分身にも伝えよ」

「黙れ、人間が!」


 エサイアスが手をかざすと強烈な風が刃となってクラウディアを襲ったが、その瞬間クラウディアはいつもの黒い霧に変わって消えてしまった。


「エサイアス……」私が見ると、気まずそうにエサイアスは頭を掻いた。

「今はそれどころではないだろう。焔を連れて行くぞ」

「そうですね」


 私はアーシェを見つめて言う。


「アーシェ。行きたくないのは分かりましたが、私は何が何でも、絶対に連れて行きますよ。分かりますよね?」

「……そうだの」アーシェが諦めたように言う。「連れて行ってもらおう」

クラウディアが色々と話していったところで第二章はここまでです。


次話から第三章です。明日の昼頃更新です。

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