第七十四話 四十四日目 フェーディーンとオースルンドの国境付近 天気曇り
「見てください、トールヴァルド」
私は南側の地上、大勢の兵士たちが陣を張っているところを指さした。
「ありゃフェーディーン軍だな。エールヴァールの旗も見えるな」
飛行魔法で上空から見るとかなりな軍勢であることが分かる。トールヴァルドのように旗までは見えないけど、フェーディーンと援軍のエールヴァールなのだろう。
「さっき見たオースルンド軍と比べてどうですかね?」
オースルンドを南下する大軍を見たのはほんの数時間前だ。
「どうだろうな?」トールヴァルドが首をかしげる。「どっちも数万はいるだろうな。だが戦争は最後は騎士と魔法使いの数で決まる。どっちが優勢なのかは分からん」
オースルンドを南下中に軍勢が見えたので、それ以降はかなりの高度で飛んできた。念のため隠蔽魔法は掛けてるけど、見付かっても追いつかれる頃には相当遠ざかれると思う。
「この様子だと夕方には開戦ですかね?」
「うん。あるいは両軍陣を張って明朝からってところかもしれんな」
まぁ私たちには戦争は関係ない。このまま南下していけば今夜中にはフェヴローニヤに立ち寄って、明日にはシーグバーンに着けるだろう。
「魔力は大丈夫そうか?」
「ええ、全然問題ありません」
「この調子なら明日にはシーグバーンだな」
「やっぱりベアトリスが恋しいですか?」
「そりゃそうだ」トールヴァルドが笑う。
さらに飛び続けるとフェーディーン軍が見える位置が左手になって遠ざかっていく。とくに偵察などが飛んでくる様子もないし、巻き込まれずに通り過ぎることができそうだ。
「おい、レティシア。あれ見えるか?」
トールヴァルドが右上の方を指さしている。その方向を見ると逆光になってよく見えないが何か飛んでいるようだ。緑色の光が見える。非常に嫌な予感がする。
「来るぞ!」
「逃げましょう!」
私は猛スピードでそれと逆方向に飛ぶように念じた。飛行魔法がそれに応えてスピードを上げる。
「ドラゴンだ!」
やっぱり……と思いながらも私は飛行魔法に魔力を注ぐ。だが、そのドラゴンは凄い勢いで近付いてきたかと思うと私たちの前を行く手を塞いだ。
「うわっ!」急ブレーキを掛けなんとか止まった。目の前にはドラゴンが浮かんでいる。もっと大きいかと思ったら十メートルくらいの大きさだ。体全体から緑色の光を放っている。
「……なんか用ですかね?」
私は恐る恐る目の前のドラゴンに語りかけた。ドラゴンはそれには答えず何かモゴモゴと小さく呟いた。すると体から眩しい光を発し始めた。
「まさかブレス!?」私は咄嗟に防御魔法陣を目の前に展開したが、どうやらブレスではなさそうだ。眩しい光がだんだんと収まっていくと、そこに現れたのは人の形だ。
「おい」
青い髪の少年だ。目が吊り上がっている。翼もないのに浮いてるんですけど……。
「なんでしょう?」
「なぜ逃げた?」少年がさらに私たちを睨む。
「いえ、追ってきたので……」
「追われたから逃げたのか」
「……はい」
「そうか」
我ながら適当な言い訳だが納得してくれたならいい。
「お前がレティシアとかいう人間だな」
「え? そうですけど……」
「我はエサイアス・ドラゴン・デ・ブレイザー。青嵐のドラゴンと呼ばれている」
「青嵐のドラゴン……」
やっぱりそうだった。嫌な予感ほど良く当たるものだ。
「お前に話がある。ちょっと顔を貸せ」
そう言うと青嵐のドラゴンは急降下していった。
「どうします?」私はトールヴァルドの顔を見る。
「行くしかないだろ」トールヴァルドが諦めの表情で答える。「やっぱり予定通りには行かないな」
「私のせいじゃないですよ」
私は青嵐のドラゴンの後を追って飛行魔法を降下させた。下は荒野が広がっている。大きな岩がゴロゴロしている。人の気配はなさそうだ。降り立つと青嵐のドラゴンが私に言う。
「遅い」
「お待たせしました」
あなたが速すぎるんですと言いかけたがやめた。
「お前が焔と旅をしていたレティシアだな?」
「そうです。こちらは私の友達のトールヴァルドです」
「そうか」
フンと鼻を鳴らして私たちを見る青嵐のドラゴン。生意気な少年の風貌と相まってなんか感じ悪いな。
「私に何かご用ですか?」
「焔を助けたいか?」
「はい?」
「焔を助けたいかと聞いたのだ」
「そりゃ助けたいに決まってます!」
私は思わず青嵐のドラゴンに詰め寄り、手が触れそうになって慌てて引っ込めた。
「フン、そうか。ならば助ける方法を教えてやってもいい」
「どうすればいいんですか?」
「だがその前にあっちをなんとかせんといかんな」
青嵐のドラゴンが北の方を見る。戦争のことだとすぐに分かった。
「ひと暴れしてくるから待っておれ」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
「なんだ?」
「暴れなくても戦争は止められますよ」
「止める?」
「はい。あなたが上空で旋回しててくれれば私が説得しますから」
「フン、面倒な。殺してしまった方が早いではないか」
「そんなことありませんよ。それじゃあなたが悪者になるだけですよ」
「悪者?」
「そうです。たしかに戦争のたびに殺し続ければこの地域での戦争はなくなるかもしれません。でもそれは恐怖によるものですよね」
「そうだ」
「そうじゃなくて、ここは偉大な五体のドラゴンの一体、青嵐のドラゴンが棲む場所だから争いはしないようにしなきゃダメですよ」
「……フン。そんなことで人間が争いを止めるとは思えん」
「説得してダメならやっちゃって下さい。とにかく大きなドラゴンになって上空を旋回しててくださいね」
レティが青嵐のドラゴンに出会いました。
続きは明日の昼頃です。




