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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第二章 戦争と偉大な五体のドラゴン
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第六十九話 ユニオール暦八百七十三年七月二十五日 ヴァーラ 天気曇り

「そのむさ苦しいヒゲは何とかなりませんか?」

「仕方なかろう。顔を見られては困るのだ」

「そうですか」


 ユリウスは肩をすくめた。付けヒゲなどしても彼を知る者が見ればクリストフェル・オールフェルドとすぐに分かってしまうだろう。無駄な努力だとは思うが、本人がそれで良いなら気にしても仕方ない。


「あれですね。確かに城壁も城も工事が入っているようですね」ユリウスが指さした先ではアンハレルトナーク城の工事が急ピッチで進んでいるように見えた。


「モンスターの襲撃、と発表されているようだが」

「もちろん真実ではないでしょう」ユリウスが自信満々に言う。「城の目の前にいきなり襲撃してくるモンスターはそういませんよ」

「だが、先ほど宿の主人はそう言っていたではないか」


 ユリウスとクリストフェルはヴァーラに着くと取りあえず宿を取った。そこで主人に、一昨日モンスターによる城の襲撃騒ぎがあったという話を聞いたのだ。


「まぁすべてが嘘とは言いませんが、アンハレルトナーク王は何かを隠しているのでしょう」

「これをやったのがユニ――」

「しーっ!」ユリウスはクリストフェルの言葉を遮った。「こんな町中でするお話ではありませんよ」

「そ、そうだな」


 ユリウスは広場から離れるように歩き始めた。クリストフェルも着いていく。大通りは人通りも多く、賑わいを見せている。


「さすが大国アンハレルトナークの首都ですね。ラ・ヴァッレはどうですか?」

「こら! その名を出してはいかん」クリストフェルは小声でユリウスに抗議する。「まぁ人通りは似たようなものだ。だがこことは違い海沿いなので匂いは違うな」


 ハーフルト連合王国の首都ラ・ヴァッレは東海岸に位置する。漁業も盛んで、潮の匂いがする首都なのだ。


「ああ、そう言えばそうですね。いつか自慢の魚料理を味わいたいものです」

「……両国に平和が訪れれば、だな」


 二人は大通りから一本脇に入った道の小さな食堂に入った。まだ昼には少し早い時間だからか、他に客はいない。適当に料理を注文してくつろぐ。


「アンハレルトナーク王にはご挨拶しなくて良いですか?」

「良いに決まっている」クリストフェルが首を振る。「帰ってシュタールとの戦争を防ぐよう言われたのに、どのツラ下げてまた来ましたと言うのだ」

「たしかに」ユリウスは笑う。「でもこれからすることが両国の平和にも間接的に繋がるのです。あながち違うことをしているとも言い切れないでしょう」


 ユリウスとクリストフェルは今ユニオールに向かっている。本来ならヴァーラには寄らずにまっすぐユニオールに行くはずだったのだが、ひと騒動あったと聞いて立ち寄ったのだ。


「それにしても貴公は何を知っているのだ? あれをやったのがなぜクラウディアだと言い切れるのだ」クリストフェルが声を小さくしてユリウスに尋ねる。

「古代魔法を知っていますか?」

「むろんだ」

「ならば話が早いです。古代魔法にはモンスターを召喚するものがあるのです。しかも今は滅亡してしまった大型のモンスターを」

「そうなのか。それは知らなかった」

「ええ、おそらく彼女は城でモンスターを召喚し、王か姫君の殺害を狙ったのでしょう」

「ふむ……。転移魔法を使えるらしいからな」

「ほう、それは初耳です」ユリウスが身を乗り出した。「本当なのですか?」

「ああ、トールヴァルドが言っていたよ」

「なるほど。転移まで使えるとは驚きです。ますます倒しておかなくてはなりませんな」


 そう言ってニヤリと笑うユリウスの横にいつの間にか少女が座っていた。


「き、君は!?」クリストフェルが驚いて目を丸くする。


 その声でユリウスも隣に少女が座っていることに気付いたようで、腰を浮かせて少女を見た。「いつの間に!?」


 少女はニコニコと微笑んでいる。深碧の髪をサイドでまとめ、瞳は吸い込まれそうに青い。七、八歳か? とクリストフェルは思った。


「お嬢ちゃん、どこから来たのかな? お父さんやお母さんは?」気を取り直したユリウスが少女に話しかける。

「フフフ、どこから来たとは深い質問ね。私たちはどこから来て、どこに帰るのかしら? 私には父も母もいないわ」


 答えを聞いたユリウスがキョトンとする。クリストフェルも少女が何を言っているのか理解できなかった。少女が笑顔のまま言葉を続ける。


「驚く必要はないわ。フランシス・ドラゴン・デ・テーロよ。よろしく、ユリウス・クライバー、クリストフェル・オールフェルド」


「な――!」ユリウスは驚きのあまり言葉を失った。


 クリストフェルはまだ分からないようで少女に尋ねる。「ドラゴン? 君はドラゴンの何かなのか?」

「バカを言っちゃいけませんよ」ユリウスがクリストフェルを制して、声を抑えて言い聞かせるように言う。「この少女は大地のドラゴンですよ。偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)の一体です!」

「――!?」


 しかしそう言われてもどう見てもただの少女だ。クリストフェルには信じがたい。


「信じられぬのも無理はないわ、クリストフェル・オールフェルド。あなたは先日アンハレルトナーク王に会い、オールフェルドに帰国する途中でユリウス・クライバーに誘われた」少女は目を細め、声を少し落として続ける。「クラウディア・エルマ・ユニオールを暗殺する手伝いをするようにと」

「――!」

「どうして知っているかって? 私はたいていのことを知っているわ」


 少女が微笑む。クリストフェルは呆然として少女を見つめるだけだ。


「クリストフェル殿、大地のドラゴンは知恵を司るのです。知らないことはないのです」ユリウスが言う。

「そんなことはないわ。まだまだ知らないことはたくさんある。でもあなたたちよりは少し知っているつもりよ」


 ユリウスが居住まいを正して少女に問う。


「大地のドラゴンよ、なぜ私たちの前に?」

「その名は物騒だからフランシスで良いわよ。あなたたちに話があるの」

「なんでしょう?」

「クラウディア・エルマ・ユニオールの暗殺はおやめなさい」

「――!」ユリウスが息を呑んで聞き返す。「理由をお聞きしても良いですか?」

「理由は説明できないわ」

「……もしや、私たちが弱いと?」

「いえ」フランシスはかぶりを振った。「そういう意味ではないのよ。今クラウディアが死んでしまうと、世界のバランスを直せないの」

「……世界のバランス?」

「ええ。いずれしっかり説明すると約束するわ。だから今はやめておいて」


 ユリウスとクリストフェルは顔を見合わせた。大地のドラゴンがそう言うのであれば仕方ないと二人とも頷くしかなかった。


「分かりました。あなたがそう言うのであれば否応ありません。今回は諦めましょう」ユリウスがちょっと残念そうに言う。「それを言うために私たちの前に現れたのですか?」

「そう。あと、あななたちに頼みがあるのよ」フランシスはニコッと笑う。「輝のドラゴンを知っているわよね?」

「ええ、偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)の一体ですね」

「行方不明なの」


 焔、白銀、青嵐、大地、輝。偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)はそれぞれがバラバラに暮らしている。どこで暮らしているのかは人間には分かっていない。


「行方不明ですか……。輝のドラゴンが普段どこに棲んでいるのかは教えていただけますか?」

「あなたたちがシルヴェンノイネン連合王国と呼ぶ地域の西の森にいるのよ。あのあたりを調べてみたけど見付からないの」

「ちょっと出掛けるようなことはないのですか?」

「私とは違うからね」フランシスが笑う。「常に出歩いているのは私だけで、普通は一つの場所にいるわ」

「では、偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)は転生すると聞いています。それではないのですか?」

「転生ではないわ。彼女はまだ転生して十年ほどしか経ってないのよ」

「なるほど」


 シルヴェンノイネン連合王国はアポロニア大陸の西に位置する国だ。ハーフルトと同様にいくつかの国が集まって連合王国となっているが、国同士の中が悪く、常に揉めていることで有名だ。


「それでは私たちへの頼みというのは輝のドラゴンを探せということですか?」クリストフェルがフランシスに聞く。

「そうなんだけど、その前に一つあるの」

「なんでしょう?」二人がフランシスを見る。

「輝のドラゴンがいなくなったことで、青嵐のドラゴンが怒ってるのよ」

「怒る?」

「ええ、人間に連れ去られたのだと思ってるみたいね」


 なるほどとユリウスは頷いた。フェヴローニヤ近郊で暴れたのはそういう理由があったのかと合点がいった。


「そうでしたか。おかしいと思っていたのです。偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)が人間を襲うなんて」

「ええ」フランシスが頷く。「かなりイライラしているわ。また戦争が始まるとさらに大きな被害が出るかもしれないわ」

「ふむ。それで私たちが手伝うこととはなんでしょう?」

「今、青嵐のドラゴンは、あなたたちがヴェードルンドと呼んでいたところにいるの」

「ほう」

「一緒に行って、なだめるのを手伝って欲しいの」

「なだめる……、私たちが力になりますでしょうか?」ユリウスが首をひねる。

「ええ、もちろんよ」フランシスがニッコリ笑う。「あなたたちなら十分力になるわ」

大地のドラゴンの登場です。


続きは明日です。

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