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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
序章 転生したら懲役二千五百年でした
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第六話 三日目 トセリの町 天気曇り

 途中の農家で馬を調達したおかげでトセリの町には二時間ほどの移動で済んだ。フィクスの背中にしがみついていただけだけどお尻が痛くなった。

 トセリは小さな田舎町だ。ノーブルヌ国のほぼ東端にあるため、ルベルドーに向かう旅人や商人がそれなりに立ち寄るらしい。そのためひと通りの店や宿屋は揃っているそうで、旅を始める準備には適した町だ。


「おかしくないですか?」私は濃紺に染めたばかりの髪をフィクスに見せながら尋ねた。本当は黒くしたかったのだけど、この世界で黒髪は銀髪以上に少ないそうで逆に目立つらしい。

「本当はもっと明るい色の方が良いと思うけど、似合ってるよ」とフィクスが微笑む。なんか気恥ずかしい。


 服や靴も購入して、ようやく見られる格好になった。フィクスはその他にも携帯食料や野営の道具なども買っていたようだ。旅慣れているというのは本当らしい。


 食事処で食事をとってひと息吐いた。と言っても別にノンビリしているわけではなくて、ノーブルヌの首都行きの馬車の時間を待っているのだ。


「夜には首都に着けそうだ。上手いタイミングの馬車があって良かったよ」

「ノーブルヌってどんな国なんですか?」昨日から居るけれど、この町の他は田園風景しか見ていない。

「見ての通りの農業国だよ。小麦や大麦、トウモロコシなんかが主要な生産物だ。首都の南には割と大きな港町があるけど、寄る必要はないと思う」


 ちなみにレティシアの記憶では、ノーブルヌは国の位置しか分からなかった。おそらく立ち寄ったことがないのか興味がなかったのだろう。


「首都はここより栄えているのですか?」

「町の規模はここより大きいけど、あまり変わらないな。城があるくらいかな」

「……兵隊もいますかね?」

「兵隊はいるだろうけど心配はないさ。設定もちゃんと覚えたよね?」


 私は頷いた。フィクスと私は兄妹で、はるか西にあるドンカーク国の親戚を訪ねる途中、という設定だ。ベルナディス大公国は遥か北西だが、とりあえずはドンカークを目指す。

 呼び名がレティシアではマズいので、フィクスには「レティ」と呼んでもらうことにした。


「バッチリです。任せてください」私は胸を叩いた。

「バッチリ? 意味はよく分からないけど大丈夫ならいいよ。レティは時々不思議な言葉を使うね」


 おっと、バッチリという言葉はこの世界には無いようだ。会話は自動的に翻訳されているようだけど、この世界に無い言葉はそのままの音で聞こえるようだ。気を付けて喋らないといけない。

 ちなみに、この世界の文字や数字も私のいた世界では見かけたことのない、ミミズがのたくったような形なのだけどすんなり読むことができた。これはレティシアの記憶によるものだろう。今さら勉強は嫌なので読めて助かった。


「さあ、そろそろ馬車が出る頃合いだ。行こう、レティ」

「そうですね」




 馬車は私のいた世界のものと変わらない造りで、とは言っても馬車に乗ること自体初めてだけど、乗り心地も悪くない。馬車を曳く二頭の馬の足取りも軽快だ。


「空いていて良かったね」


 左右に四人ずつ、計八人は座れる馬車だけど、私たちの他に乗っているのは大きなリュックを抱えた少女だけだ。途中で乗ってくる人もいるのかもしれない。

 左右に麦畑を見ながら馬車は進んでいく。本当はもうちょっとフィクスと話しておきたいこともあるが、他の乗客の前では話しづらい。代わり映えのしない景色が流れて行くのを眺めていると眠くなってきた。


「お嬢ちゃんはどちらまで行くのかな?」フィクスがリュックの少女ににこやかに話掛けた。コミュ力の高さなのか、単に少女が好きなのか……。


「私? サンブゾンの村まで行くところよ」少女は私よりも幼く見える。小学校高学年といった見た目だ。この世界に小学校はないみたいだけど。

「サンブゾン? 首都の西の村だね。ずいぶんと遠くまで行くんだね」

「うん、ちょっと用事があるのよ」

「へー」


 などと二人が話しているのを横で聞きながら、私はいつしかウトウトと眠ってしまった。




 何かが爆発したような大きな音に私は飛び起きた。一瞬、夢と現実の区別が付かなかったが、どうやら現実だ。その証拠に私の体はバラバラになった馬車から投げ出されて宙に浮いている。


「あわわわわ!」


 慌てて手をバタバタと振ってみたけどそんなことで飛べるわけがない。すぐに落下し始めたその瞬間、


「大丈夫!」との声とともに、落下しようとする私を後ろから抱きかかえてくれ、ふんわりと着地できた。フィクスだろうと思って振り返ると、私を空中でキャッチしてくれたのは、前の席に座っていた小さな少女だった。


「あ、ありがとうございます」

「大丈夫? 怪我はないようだけど」少女が心配そうに私を覗き込む。

「怪我はないか?」すぐにフィクスも駆け寄ってくる。その手には短剣のようなものが握られている。

「大丈夫ですけど……何ごとですか?」


 すでに馬車は木くずと化し、挽いていた馬もどこかへ走り去ってしまったようだ。よく見れば御者も逃げてしまったようだ。


「突然、攻撃魔法を撃ち込まれたようだ。レティは何か気付かなかったか?」

「寝てましたので……」


 その時、ザッと音がしたかと思うと木陰から黒いマントを着た男たちが現れた。五人いて、それぞれ手に剣を持っている。

 フィクスが私たちを守るように前に出て剣を構える。


「何だお前たちは? 野盗か?」


 返事はない。黒ずくめたちが剣を構えてジリジリと距離を縮めてくる。私が気配を消す魔法を解こうとした瞬間、隣の少女がスクっと立ち上がった。


「返事を聞く必要はないわ!」


 そう言うと少女は黒ずくめたちの正面に瞬間移動した。いや、そう見えただけで、実際はすごい速さで移動したのが見えなかっただけだ。


「たああああ!」


 少女は目の前の黒ずくめの男を一撃で殴り飛ばすと、呆気に取られている隣の男に回し蹴りを喰らわせてふっ飛ばした。


「な、なに!?」残った黒ずくめたちに動揺が走る。少女は剣を構え直した男の懐に一瞬で入ると胸に掌底を浴びせた。「うげぇ!」という断末魔とともにひっくり返る男。


「こいつ!」と剣を振りかぶった男が少女に襲いかかる。少女が振り下ろされた剣を余裕でかわして背中にキツい蹴りを入れると、男は崩れ落ちた。


 あっという間に四人が倒されると、最後の一人は何も言わずに一目散に森の中に逃げ込んで行ってしまった。


 一分にも満たない瞬間的な出来事だ。私よりも小さな少女は何ごともなかったかのように服の埃を払っている。


「ふう、助かったよ」フィクスが短剣を鞘に収めながら少女に声をかけた。「君はずいぶんと強いんだね」

「どうってことないわよ」少女が笑顔で私の方に近づいてくる。「お姉さんは大丈夫?」

「う、うん。ありがとうございます」


 私はようやく立ち上がった。少女はクリっとした目に蒼い瞳。私よりも二十センチは背が低い。どう見ても小学生だ。


「強いんですね。拳法かなにかですか?」少女が使っていた技は少林寺拳法のように見えた。昔テレビで見たことがある。

「拳法?」少女は首をひねった。「これはプロヴァル流体術という、プロヴァル地方ではメジャーな格闘術よ」


 体術の方はレティシアの記憶になかったが、プロヴァル地方はアポロニア大陸の北方にあると分かった。


「北の方の出身なんですね。そう言えば、お名前を聞いていませんでしたね。私はレティ。あなたは?」

「私はイリスよ。よろしく、レティ」


 笑顔で握手する私たちにフィクスが声をかける。「さて、挨拶はその辺にして急いで移動しよう。さっき逃げた奴が仲間を連れて戻ってこないとも限らない」

「移動って、どこへです?」

「森を抜けると小さな村があるはずた。急げばそう時間は掛からない」

「そうね。別の馬車を拾えるかもしれないし。とりあえず行きましょ」イリスも頷き、リュックを背負った。

道連れが増えました。

小さいけど強いイリスです。


続きは明日のお昼くらいです。

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