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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第二章 戦争と偉大な五体のドラゴン
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第五十六話 ユニオール暦八百七十三年七月十七日 アンハレルトナーク城 天気晴れ

 城の奥、謁見の部屋に通されたクリストフェルは席にもつかずアンハレルトナーク王を待っていた。


「国王陛下が参られました」


 扉が開きアンハレルトナーク王ディートヘルムが入ってきた。がっちりした体躯で目には力がある。同じ王でも父とはまったく違うとクリストフェルは思った。


「初めてお目にかかります、アンハレルトナーク王。オールフェルド国王子、クリストフェル・オールフェルドです」クリストフェルは膝をついて礼を執った。


「うむ。我がアンハレルトナーク王ディートヘルムだ。遠路ようこそアンハレルトナークへ」


 ディートヘルム王の勧めに従ってクリストフェルも席につく。


「イリスレーアの紹介状を持っていたと聞いたが、面識があるのか?」

「はい、何度かお会いしました」クリストフェルは頷き、本題に入る。「そのイリスレーア姫にも関わることです」

「うむ、聞こうか」

「ディートヘルム王もよくご存知と思いますが、ユニオールのクラウディア王女、いえ、女王の話です」

「うむ」

「彼女は危険です。古代魔法を操り、焔のドラゴンを狙っています」

「ふむ」

「ヴェールドンドを滅ぼしたのも彼女だという強い確信があります。女王になった彼女が次に狙うのは間違いなくアンハレルトナークです」

「……」

「彼女は今、トールヴァルドに斬られた右腕の治療中で動けません」


 ディートヘルム王は何も言わずクリストフェルを見つめている。


「危険なユニオールを、クラウディアを滅ぼす機は今しかありません。アンハレルトナークが動けば必ずや我らもお手伝いいたします」

「貴公の父上は何と言っておるのだ?」

「父は」クリストフェルはちょっと俯いた。「北のことはアンハレルトナークに任せておけと」

「さもあらん」


 ディートヘルム王はクリストフェルの目を見て言葉を続ける。


「クリストフェル殿。貴公のことはよく聞いている。ハーフルトの未来を担う有望な若者だと」

「いえ、そんなことは……」

「イリスレーアの縁談を決める時に貴公も候補に上がっていたのだ。だが、最終的にはレッジアスカールックのイクセル王子に決めた。なぜか分かるか?」

「……分かりかねます」クリストフェルは首を振った。

「貴公の能力や人柄によるものではない。ハーフルトとシュタールの関係だ。対立する両国のどちらかにアンハレルトナークが付けば、この世界のバランスが崩れてしまう」

「……」

「ゆえにハーフルト、シュタールのどちらでもなく、レッジアスカールックにイリスレーアをやることで危ういかの国を助け、バランスを保とうと考えたのだ」

「……ご深慮恐れ入ります」

「大国の定めだ。我らは迂闊に動くことはできぬ。それを貴公の父上もよく分かっておられる」

「しかしクラウディアは──」


 クリストフェルの言葉を遮ってディートヘルム王が言う。


「もちろん彼女が危険なことはよく分かっている。放置するつもりはない」

「でしたら──」

「だが彼女は即位するとすぐに税制を改め、軍拡を止め、周辺国と友好関係を築こうとしている。民にも圧倒的な人気がある」

「それは──」

「それが一時しのぎ、いや、時間稼ぎであることも分かっている。だが今我らがユニオールを攻め落としてもユニオールの民からはもちろん、他国からも支持は得られまい」


 クリストフェルは唸った。たしかにその通りだ。今のクラウディアは民からの信望厚い女王だ。攻める理由を作ることさえ難しいだろう。


「ハーフルトの艦隊が彼女に攻撃を受けたことも知っている。だがしかしそれを誰が信じるであろう。証人は少数、しかも彼女がやった証拠もない」

「……その通りです」

「そして焔のドラゴンについてはおおっぴらにするべきことではない。古代魔法についても同様だ」

「……」


 クリストフェルは俯いた。返す言葉もない。


「たしかに貴公が言うとおり今攻めれば勝てるであろう。だが今攻めずユニオールが完全に準備を整えたとしても我らは勝つだけの準備をしている。ゆえに北のことは案ずることはない」

「……分かりました」

「逆にクリストフェル殿にお願いしたき儀がある」


 王からお願いと言われクリストフェルは背筋を伸ばした。


「……なんでしょうか?」

「ハーフルトとシュタールの戦争をなんとしても回避してもらいたい」

「はっ……」

「両国が戦争に突入すれば大きな影響がある。先日のオースルンドとフェーディーンの戦争などとは規模が違う」

「まことに」

「連合王国の中にいる貴公ならなんとかできるはずだ。世界のためにもぜひとも頼みたい」

「……かしこまりました」




 クリストフェルが退席していくのを見送るとディートヘルム王はソファーに体を沈めた。


「クリストフェル殿が城から出られました」

「そうか」

「ガックリと肩を落としてらっしゃいましたよ」

「若者は打たれて大きくなるのだ」

「老人のようなことを」エストが笑う。「たしかにクリストフェル殿は若すぎますね」

「うむ」


 真面目で正義感に溢れた若者だ。だが思慮が足りない。


「ハーフルトがユニオールを攻めるようアンハレルトナークを唆した、となれば国際社会がどう反応するかを想像できぬのだろう」

「あるいはそれ以上にクラウディア女王を危険視しているか、だと思います」

「ふむ……」


 クラウディアについてはアンハレルトナークも全力で情報を収集している。昨夜はイリスレーアからも詳しく話を聞いた。


「たしかに危険だ。だが目的が見えぬ」


 彼女がなぜ焔のドラゴンを求めているのかが分からない。世界征服などという荒唐無稽な目的を持つようなタイプでもないと見ている。


「返礼の使者から何か雰囲気を感じ取れるかもしれません」

「ああ、もう入国したのか?」

「はい、先ほど国境を越えて入国されました。二十日にはヴァーラに到着予定です」

「使者は誰か分かっているのか?」

「はい。セラフィーナ・ノールストーム殿です。ユニオールの魔道士団長で、議奏という役にも就いています。まだお若い女性です」

「ふむ、魔道士団長か。議奏とはどんな役職だ?」アンハレルトナークには無い役職だ。

「女王とその他の者の間を取り持つのだそうです。クラウディア女王に何かを言う際には彼女を通さなければならないと」

「ふむ。ずいぶんと重い役職だな。側近中の側近というわけか。どうやらユニオールは本当にしばらく戦うつもりはないようだな」


 返礼の使者にしてはかなりの要職だ。アンハレルトナークを重視している姿勢を見せるためでもあるだろうが、側近中の側近を送ってくるのは何か意味があるのかもしれない。


「使者の態度や親書の内容、返礼品の中身などから状況を伺う必要がありますね」

「うむ。目を光らせておけ」


 ディートヘルム王は口に出さなかったが、クラウディアはイリスレーアにとって危険なのでいずれは何とかしたいと思っている。どうやらクラウディアに目の敵にされているらしい。


 そう遠くない将来にその不安は我が取り去るからな。


 そう心に誓うディートヘルム王もやはり一人の父親だ。

空回り気味のクリストフェルでした。


続きは明日です。

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