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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第二章 戦争と偉大な五体のドラゴン
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第五十一話 ユニオール暦八百七十三年七月十四日 ユニオール城 天気曇り

 重臣たちとの会議を終えて執務室に戻ろうとしたセラフィーナは、クラウディア付きの側仕えに呼び止められた。


「セラフィーナ様、姫様、いえ、女王陛下がお呼びですよ」

「分かりました」


 あの忌まわしい事件の後、クラウディアは女王に即位した。それにともないセラフィーナは宮廷魔道士団長とともに議奏(ぎそう)という役職にも任命された。女王と大臣たちの間に入り、女王の意向を下命したり、逆に宰相や議会の決定を奏上する役目だ。要するに女王と話をするならセラフィーナを通さなければならないというわけだ。面倒な仕組みではあるが、こうしなければクラウディアの仕事が爆発的に増えてしまうので仕方ない。


 ほんの十日の出来事とは思えないくらいの変わりようです。


 クラウディアは女王に即位するとこれまでの制度を大幅に改めた。前王が進めていた軍備拡大を取り止め、民に対しては大規模な減税や福祉・教育の充実を政の中心に据えた。


 当然な帰結として、クラウディア女王は民衆から圧倒的、いや熱烈な支持を得ている。王女時代から人気はあったがその比ではない。


 本当はもうちょっと休んでいただきたいのですけど。


 クラウディアの右腕の傷はまだ癒えていない。ベッドからは出られるようになったが、車椅子か人の支えが無くては歩けない。

 だがユニオールは今、旧ヴェードルンドの内政も担っている。小さなユニオールだけでも大変なのにヴェードルンドまで治めるのは実に大変なことだ。クラウディアが裁可しなければならないことも多い。


 私たち側近がもっとしっかりしなくてはなりませんね。


 セラフィーナは気合いを入れ直して女王の居室へ急いだ。




「セラフィーナ様が参りました」


 側仕えの案内で女王の居室に案内されたセラフィーナは執務をしているクラウディアのもとに進んだ。


「セラフィーナ、忙しいところ済まぬな」


 クラウディアの顔色は相変わらず悪い。医師いわく輸血をした方が良いとのことなのだが、クラウディアは断っている。


 魔法使いですものね。輸血は難しいですね。


 同じ魔法使いであるセラフィーナには輸血を嫌がる気持ちが分かる。魔法使いの血が薄まったり、変わったりすると魔法の適性が変わってしまうこともある。


「いえいえ、陛下こそもっとお休みいただかなくては。何か御用ですか?」

「うむ。面倒ではあるが使いを頼む。アンハレルトナークじゃ」

「ああ、御礼ですね?」

「返礼品は宰相と話し合って決めるが良い」

「かしこまりました」

「使いではあるが重要な仕事じゃ。この親書をアンハレルトナーク王に渡して欲しい」


 セラフィーナはクラウディアから親書を受け取った。


「では支度が整い次第、アンハレルトナークに行って参ります」

「うむ。気を付けてな」


 クラウディアがにっこり微笑んだ。父である前王が無くなった後は、怪我もあいまってとても辛そうに見えたが、かなり落ち着いてきた。


 この笑顔のためにも頑張らねば。




 王国宰相のアンブリスと打ち合わせて、返礼の品を決めていく。アンハレルトナークからは前王崩御のお見舞い、それにクラウディア即位のお祝いをもらっている。


「これで問題ないであろう」


 返礼品のリストを眺めつつ、満足そうにアンブリスが言う。品の質や量にも失礼があってはならないため、リスト出しは夜中まで掛かってしまった。


「ありがとうございます、宰相。助かりました」

「なんのなんの」アンブリスは肩を回しながら言う。さぞ肩も凝ったのだろう。「アンハレルトナークとの友好はユニオールの最優先課題だ。大切な役割だぞ、セラフィーナ」

「はい。分かっています」


 ユニオールとアンハレルトナークの関係は前王の時代にかなり険悪になっていた。しかし、クラウディアは「争う意味はない」という考えだ。


「旧ヴェードルンドをどうするかの話し合いもこれで進むであろう」とアンブリスも喜んでいる。


「そなたなら問題ないと思うが、くれぐれも非礼のないように頼むぞ」

「はい。お任せください」


 セラフィーナの家はユニオールで代々続く貴族だ。儀礼や作法にはなんの不安もない。


「ところで、女王陛下は良くなっていらっしゃるのか?」

「徐々にですね……。やはり執務をされながらでは回復も遅くなってしまうのでしょう」

「そうか……。だが、新しい政もすんなりと軌道に乗りそうではある。落ち着けばもう少しゆっくりしていただけるであろう」

「はい。私はなるべく早く戻りますので、それまでの間はアンブリス様には議奏も兼ねていただかなくてはなりませんが、よろしくお願いいたします」

「うむ。女王陛下になるべくご負担を掛けぬようにするので心配するな」

「はい。ありがとうございます」




 翌日は準備に費やし、アンハレルトナークの首都ヴァーラに発つのはその翌日、七月十六日となった。

 出発の朝、セラフィーナはクラウディアに挨拶するために彼女の居室を訪れた。クラウディアは執務室ではなく、寝室のベッドに身を起こしてセラフィーナを迎えた。


「朝早くから失礼いたします。セラフィーナ、アンハレルトナークに向け出発いたします」

「うむ。道中気を付けてな」


 隣国ではあるが、アンハレルトナークは広い。ヴァーラの城までは馬車で四日ほども掛かる。


「はい、ありがとうございます」

「ところで……」


 クラウディアはセラフィーナを手招きして呼び、耳元に顔を近付けた。側仕えに聞かせたくないのだろう。そして小声で言う。


「セラフィーナ、余裕があったらで構わぬ。イリスレーア姫の状況を探って参れ」

「イリスレーア姫ですか?」セラフィーナは首をかしげた。「ヴァーラに戻られているのですか?」

「そういう情報があるのだ。その真偽を確認したい」


 クラウディアは独自の諜報部隊を持っているらしいと噂では聞いているが、本当にあるのかもしれないと思った。


「かしこまりました。必ずや」

「いや、無理はするでない」クラウディアは優しい目でセラフィーナに言う。「我はそなたを失いたくないからな」

「ありがとうございます」


 そう言われてしまうとなんとしてもやりとげなくてはと思うセラフィーナだった。

クラウディアがユニオール王に即位して、セラフィーナも出世しました。


続きは明日です。

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