第四十八話 二十七日目 フェーディーン南部からフェヴローニヤ 天気晴れ
「うーん……」
窓から挿し込む朝日に照らされて私は目を覚ました。私はベッドに寝ていて、隣のベッドにトールヴァルドが寝ている。
「目を覚ましたな、レティ」
アーシェの声に私は体を起した。
「はい。……何日経ちました?」
ノーブルヌ沖では三日経っていたが今回はどうだろう?
「ひと晩だけだ」
「ほうほう」
それは思っていたより短い。だいぶこの世界に順応してきたんだろうか。
「その後どうなったんですかね?」
アーシェは私が気を失ってからのことを話してくれた。シュタールの追っ手は来なかったようで良かった。
「夜もひと嵐あったのでな」
「そうでしたか」
クリスティーナが戻ってないのは少々心配だけど、イリスたちと合流すれば大丈夫だろう。
「……うーん」
隣のベッドでトールヴァルドも目を覚ましたようだ。
「おはようございます、トールヴァルド」
「ああ、おはよう」まだトールヴァルドは寝ぼけているようだ。
「顔を洗って朝食にしましょう」
顔を洗ったトールヴァルドに無茶をするなとユリウスとの戦闘を叱られた後、私たちは食堂に向かった。
「おはようございます」
一人の女性が声を掛けてきた。誰だろう?
「おはよう、アマリア」
トールヴァルドが挨拶に応じた。知り合いかなと思いつつ私たちもアマリアと同じテーブルについた。
「ああ、フィクスの」
アマリアから話を聞いて合点がいった。ドンカークにいると言っていた、フィクスのお仲間さんだ。
「フィクスからは聞いてますよ」
「悪い話じゃないと良いんですけど」
そう言うとアマリアはふんわり笑った。優しそうな女性だ。
食事を進めながらこの辺りの状況などを聞いた。どうやらトールヴァルドは昨晩彼女から色々聞いたようだ。
「ところで、フィクスはあなたがアンシェリークの秘宝を追っていたと言ってましたけど」
「まあ、そんなことまで」アマリアは微笑むとちょっと考えて言葉を続けた。「そのお話はフィクスと会ってからにしましょう。喋りすぎてしまうと叱られますので」
それはそうだ。
そんな話をしていると管理人が食堂へ入ってきた。私たちのテーブルのところまで来て話しかけてきた。なにやら慌てている様子だ。
「お客様、大変なことになりました。フェヴローニヤのことです」
「どうした?」
管理人の話を聞いて私たちは愕然とした。オースルンド軍に攻められ東門が陥落する寸前に大きなドラゴンが東の空に現れ、東門ごとオースルンド軍を吹き飛ばしてしまったという。
「そんなことが……?」
「オースルンド軍はもちろん、我が軍にも甚大な被害が出ているとのことです」
「町にも被害が出ているのか?」
「詳しくはわかっていません。組合からの一報ですので」
管理人が下がっていっても私はまだ事態が飲み込めない。
「……イリスやフィクス、シルックは大丈夫でしょうか?」
私の呟きに返事はない。もちろん誰も分かるはずもない。
アーシェにドラゴンのことを聞きたいところだが、ここにはアマリアもいるのでグッと堪えた。
「とにかくフェヴローニヤに行きましょう」
「そうだな」トールヴァルドが頷く。「でも馬車がないんだ」
そうか、アーシェは飛行魔法に乗れないんだった。
「飛行魔法ではダメなんですか?」アマリアが聞いてくる。当然な問いだ。
「ちょっと事情があって、アーシェは飛行魔法に乗れないんです」
「なるほど」そう言うとアマリアは少し考えて話を続けた。「私の乗ってきた馬が一頭いますけど、それで何とかなりませんか?」
おお、それなら何とかなる。トールヴァルドがアーシェとともに馬に乗り、私がアマリアを飛行魔法に乗せれば移動できる。
トールヴァルドも同じように思ったようで、アマリアに頼む。
「それならフェヴローニヤに行けるよ。貸してもらっても良いか?」
「ええ、もちろんですよ」
アーシェを後ろに乗せてトールヴァルドが馬を駆る。私はアマリアを乗せて飛行魔法でその横を進んでいく。
「さすがトールヴァルド、様になりますね」
「そうか?」
「その服じゃなければですけど」
「仕方ないだろ!」
どうやらクリスティーナの服らしい。そもそもトールヴァルドは普段スカートを履かないそうで、本人的にも違和感がすごいそうだ。
「見えてきたぞ」
体感で一、二時間ほど街道を進んだところで行く手に町が見えてきた。立派な城壁が徐々に大きく見えてくる。
「ドラゴンは……いませんね」
町の東の空を見てもドラゴンらしき影は見当たらない。
「私はこのまま南門から町に入る。レティシアは東側をグルッと見てきてくれるか?」
「分かりました」
空から見る東門があったと思われる場所は酷い有様だった。門や城壁は跡形もなく岩や瓦礫の山だ。
「酷い……」
隣のアマリアから思わず声が漏れる。私も酷いと思う。
門の外も酷い状態だ。そこかしこの地面が大きくえぐれている。町の人々だろうか、倒れている人を町中に搬送している。
「こんなことができるのは偉大な五体のドラゴンだけだと思います」
「でもどうしてこんな酷いことを……」
アーシェは人間のやることに関わらないと言っていたはずだ。それはアーシェだけで、他の偉大な五体のドラゴンには好戦的なのもいるのだろうか?
「南門広場に行きましょう」
「そうか」私たちが見てきた状況を話すとトールヴァルドは一つ頷いた。「ドラゴンのブレスだな。それもよっぽど強力なやつだったんだろう」
南門前の広場は人でごった返していた。多くの怪我人が座ったり横たわったりしている。
町の人が手当てをしているが、怪我人が多すぎるようでほったらかしの怪我人も多く見える。怪我人の中にオースルンド兵もいるが、もはや戦いどころではないのだろう。
「トールヴァルド、アーシェと一緒にイリスたちを探してくれませんか。私は怪我人の手当てを手伝います」
「そうか、分かった」
「私も手当てを手伝いましょう」とアマリア。
私は怪我の重そうな人からひと言断って治癒魔法をかけていく。また魔力が尽きかねないけどそんなことを言ってる場合ではない。見ればアマリアも治癒魔法を使っている。魔法使いだったのか。
「私もお願いします」
「すみません、お願いします」
私が治癒魔法を掛けるのを見て、怪我人たちがワラワラ集まってきた。
「分かりました。もっと集まってください」
私は治癒魔法の魔法陣をもっと大きくイメージして範囲魔法にしてみた。レティシアは治癒魔法を広い範囲に掛けたことはないみたいだけど、攻撃魔法を範囲にできるのだ。治癒魔法でできないことはないはずだ。
「治癒魔法」
集まった怪我人たちに柔らかい光が降り注いで傷を治していく。これは効率良いかも。
私は次々と怪我人たちを集めて範囲治癒魔法を掛けていく。途中で魔力が心配になったのでアマリアにも手伝ってもらった。
「この辺りの怪我人は癒せましたね」アマリアが汗を拭う。
「はい、手伝ってもらって助かりました」
「いえいえ。私には治癒魔法を範囲化するなんてできませんから。魔力だけでも手伝えて良かったです」
「その魔力がもう尽きそうです」
本当なら町中にもっと怪我人はいるだろう。でもここまでが私の精一杯だ。
広場の段差に腰掛けて休んでいるとトールヴァルドとアーシェが戻ってきた。
「ダメだ、見当たらない」
二人とも必死で探したようで汗をかいている。アーシェも汗をかくのだと初めて知った。
「とにかくどこもかしこも怪我人だらけだ」そう言ったトールヴァルドが周りを見回した。「魔力をあまり使いすぎるなよ、レティシア」
「すみません、もう遅いです」
「まあ、そうだろうな」トールヴァルドは苦笑した。「ちょっとここで休んでろ。アーシェもここにいてくれ」
トールヴァルドは再びイリスたちを探しに飛んでいった。
レティたちもフェヴローニヤの町に着きました。
続きは明日です。




