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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第一章 アンシェリークを追う者たち
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第四十一話 ユニオール暦八百七十三年七月十一日 ハーフルト連合王国首都ラ・ヴァッレ 天気曇り

 アポロニア大陸の南西、ハーフルト連合王国は近隣七カ国の連合国家だ。ラ・ヴァッレ王が宗主として立っているが、重要な議題については七カ国の当主が集い、円卓会議で決定されるのが常となっている。

 連合を構成する国は宗主国のラ・ヴァッレの他、ヴィルケス、クラウスヴェイク、メーレンベルフ、バーラク、ベックストレーム、そしてクリストフェルの父が王を務めるオールフェルドだ。


 急遽開催された今回の円卓会議はすでに五時間に及び、出席している各元首たちにも疲れが見える。クリストフェルが護衛として従っている父オールフェルド王も腰をさすったり天井を見上げたりして辛そうだ。


 護衛として立ってるのも楽じゃないな。


 父たち七人の元首は卓を囲んで座っているが、それぞれの護衛はその椅子の後ろで立っていなければならない。クリストフェルの足も棒になりつつある。


「いい加減に多数決にすべきだ。このままでは動きようがない」

「開戦についての決は全員一致が原則のはず。意見が割れている現状は維持こそ決である」


 もうずっとこの話の繰り返しだ。クリストフェルはとっくにウンザリしているが、元首たちは飽きないのだろうかと不思議になる。


 割れているのはシュタールとの開戦の是非だ。クラウスヴェイク、メーレンベルフ、バーラクが賛成し、ヴィルケス、ベックストレーム、そしてオールフェルドは慎重派だ。

 宗主のラ・ヴァッレは賛否を明らかにしていないが賛成なのは明らかだ。多数決なら四対三で開戦となるが、戦争を始めるには七カ国全ての賛意が必要だ。


 シュタールと戦争なんかしてる場合ではない。


 これがクリストフェルの考えだ。リーゼクーム海峡から国に戻り、秘密裏にアンハレルトナークに旅立とうと準備している最中にユニオール王急死の報が届いた。

 その報はもちろんラ・ヴァッレ王をはじめとする各国の当主も耳にしたはずだが、この円卓会議では取り上げられることもない。


 よっぽどユニオールの動向の方が重要なはずだが。


 そう思っているクリストフェルではあるが無理もないとも思っている。焔のドラゴンがレティシア・ローゼンブラードのもとにいるとか、クラウディアが焔のドラゴンを狙っているとか、その辺までは父にさえ報告していないのだ。


 開戦派に焔のドラゴンの情報を流すわけにはいかない。


 焔のドラゴンを手に入れようと思ったら、レティシアにイリスレーア、トールヴァルドと戦うことになる。この三人の強さは尋常ではない。ハーフルトの騎士団、魔道士団総力でも手こずるだろう。

 そのうえアンハレルトナークまで敵に回ればどんな影響が出るか分からない。


「本日は散会とする。続きの日時は追ってお伝えする」


 話がまとまらぬまま、ラ・ヴァッレ王の宣言により円卓会議はひとまず終了した。




「父上、お疲れ様でした」


 オールフェルド王とクリストフェルは、ハーフルトの首都サラテにある屋敷に帰ってきた。普段は国元で暮らしているのだが、城に用がある時はサラテの屋敷に滞在する。


「同じ話の繰り返しで気が滅入るわ」


 オールフェルド王はソファーに沈み込みながら息を吐いて、息子にも座るよう促した。


「クリストフェルも疲れたであろう?」

「私は鍛えておりますので」


 クリストフェルは微笑んだが疲労の色は隠せない。父の前の席に座るとさっそく話し始めた。言いたいことがたくさんある。


「父上、このままでは開戦派に押し切られそうではありませんか?」

「一国でも反対しておればそれはない」と言うオールフェルド王は少し自信なさげにクリストフェルには見えた。「ルベルドーも反対しておる。シュタールと戦って良いことなど一つもない」

「その通りです」


 屋敷の使用人が運んできたお茶に口をつけ、クリストフェルは続ける。


「ご報告しました通り、焔のドラゴンは見付かっておりませんし、もし見付けたとしても我々の思い通りになる存在ではありません」

「分かっておる」

「であれば、シュタールと戦っても決定的な勝利を得ることは困難、いや不可能です」

「クリストフェルよ」オールフェルド王もお茶を飲んで言う。「それもその通りだ。だが、ことは面子の問題なのだ」


 そもそもハーフルトとシュタールは仲が悪い。それに加えて先日のアーベントロート戦だ。両国で協力してアーベントロートを攻める形にはなったが、戦利は全てシュタールにさらわれる形になってしまった。


「シュタールにしてやられたことを、面子を潰されたと考える者もいるのだ」


 ともに攻め落としたアーベントロートをシュタールに奪われたのは、簡単に言えばハーフルトが抜けていたのだ。にもかかわらず、面子だ何だと恨むのは滑稽でしかない。


「レティシア・ローゼンブラードの行方も分からないようですね」

「うむ。バーンハルドで見かけたという話はあったようだな」


 レティシアを探しているのは主に開戦派のメーレンベルフ国の連中だ。レティシアを捕えてアンシェリークの秘宝について聞き出すとともに、シュタールとの戦争に協力させる腹積もりらしいが、実際にレティシアと会ったクリストフェルからすればそんなことは絶対に不可能だと言い切れる。


「そんなことよりも父上。ユニオール王が亡くなったことの方が重要ではありませんか? 跡継ぎによっては北の安寧が失われかねません」

「アンハレルトナークがおるではないか。北のことは、かの国に任せておけばよい」

「しかし──」

「ユニオール王には息子がいなかったな。娘が継ぐとなれば、アンハレルトナークも御しやすかろう」


 クラウディアをよく知らぬ父がそう思うのも無理はない。だがクラウディアのことを父に話すとなると、レティシアや焔のドラゴンのことも話さなくてはならない。クリストフェルはちょっと考え込んだ。


 その時、扉がノックされて騎士が入ってきた。オールフェルドの騎士だ。


「ご報告します。オースルンド国がフェーディーン国に宣戦を布告しました。なお同時に、レッジアスカールックがオースルンドを支援すると発表しました」

「なに?」


 クリストフェルは思わず立ち上がったが王は冷静だった。


「父上」

「うむ。魔鉱石の利権争いだな。レッジアスカールックまで参戦するとなると厄介だな」


 そう言ってオールフェルド王は頭を振った。


 トールヴァルドたちがどこへ向かうかまでは聞けなかったが、リーゼクーム海峡を抜けてとりあえずはエールヴァールに寄ったことだろう。その先、さらに西へ行くのか北に行くのかは分からない。だが、クリストフェルはなんとなく彼女たちは北へ行くような気がしてならなかった。そして巻き込まれるに違いない。


 レティシア・ローゼンブラードはきっとそういう星の下にいるのだろう。


 理由はないがクリストフェルはそう思った。そしてそれが世界にとって悪い方向にならないよう祈るしかなかった。

隠し事の多いクリストフェルでした。


次回はクリスティーナと再会したレティの話の続きです。

明日の昼頃更新です。

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