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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第一章 アンシェリークを追う者たち
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第三十八話 ユニオール暦八百七十三年七月八日 港町シーグバーン 天気晴れ

「戦争中とは思えないね」

「そうね」


 フィクスの言葉に頷いたイリスレーアは改めてシーグバーンの町並みを見回した。埠頭から北に延びるこの道は目抜き通りらしく人出も多い。でもとくに悲壮感が漂ってるようなこともなく、港町らしい活気がある。


「戦線は北側だろうからこの町には影響がないのかもね」


 フィクスの言う通り、エールヴァールが戦争しているのは北に隣接しているフェーディーンだ。


「ええ、首都まで行ってみないと状況は分からないかもしれないわ」


 エールヴァールの首都モレナールはここから北へ馬車で半日ほど行ったところだ。


「そうだな。戦争中に乗り合い馬車があればいいけど」


 しばらく二人で歩くと町の広場に出た。ここが町の中心なのだろう。市が立っていたようだが終わったばかりらしい。


「朝市でもたっていたのかしら?」

「そのようだね。みな店仕舞いの最中のようだ」


 屋台も出ていたみたいだが、すでに片付けが済んでしまっていて何の店だったのか分からない。


「屋台の話をしたらアーシェが来たがりそうだな」

「そうね」と言ってイリスレーアはちょっと笑った。


 ベアトリスに乗ってからのアーシェはとにかく食べてばかりで、大荒れのリーゼクーム海峡でも船の揺れも気にせず食べ続けていた。

 あまりによく食べるので、「もしかしてよく食べるとそれだけ傷の治りが早いの?」と聞いたら、「いや、余は食べるのが好きなのだ」と答えた。


「アマドルも最近はアーシェに料理を出すのが楽しくなってきたって言ってたな」


 アマドルはベアトリスの専属料理人だ。最初はあまりによく食べるアーシェに呆れ気味だったが、最近はアーシェを唸らせようと頑張っているらしい。


「アーシェは味や料理法への指摘が鋭いって、アマドルが感心してたわね」

「ああ、長く生きてるから色んな料理を食べてきたんだろう」


 大人のドラゴンになったら何も食べないと言っていたが、もしかするとちょいちょい人間の姿になって、人里に食事に行っているのかもしれない。偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)といってもそれくらいの楽しみはあっても良いと思う。


「僕たちもとりあえず飯屋にでも入ろう。情報が欲しい」


 二人は広場の脇にあった、いかにも町の食堂的な店に入った。まだ昼食には早い時間だが結構客入りは良い。注文を取りに来た気の良さそうな女店員にフィクスが話し掛ける。


「僕たちは船でこの町に来たばかりなんだけど、何か面白いところとかある?」

「ああ、船乗りさんかい」女店員は陽気に答えた。「ここは港くらいしかないね。首都まで行けば盛り場もあるけどね」

「そういやフェーディーンと戦争中なんだよな。この辺はあまり戦争を感じさせないね?」

「ああ、このあたりには全く関係ないしね」


 それぞれ適当に注文して、フィクスが言葉を続ける。


「首都までは乗り合いの馬車とか出てるのかな?」

「ああ、出てるよ。町の北に乗り場があるんだ。首都に行くつもりかい?」

「ダメかな? 怖い兵士でいっぱいとか?」

「いやそんなことはないよ」女店員はちょっと笑った。「戦争してるのは王様周辺の連中だけで、私たち国民には何の関係もないよ」


 関係ないことはないと思うんだけど、女店員は笑って行ってしまった。


「大丈夫そうね……、というかよく分からないわね」

「うん。関係ないって言ってもなぁ」


 フィクスが首をひねる。


「とりあえず私たちでモレナールの状況を見てきた方が良いかもしれないわ」

「そうだな」フィクスが頷く。「何かおかしな雰囲気を感じるな」




 昼食後いったんベアトリスに戻ってトールヴァルドとレティシアに事情を説明してから、町の北から乗り合い馬車に乗り込んだ。乗客も結構いる。商人や旅人らしき風体の者もいる。


 モレナールに着くとそろそろ夕方になりかけていた。シーグバーン行きの最終馬車が出るまでは四時間ほどしかない。分かれて情報収集した方が良さそうだ。


「手分けして情報を集めましょ。私は西側を回ってみるわ」

「そうだな。じゃあ僕は東側を見てくる。最終便が出るまでにはここに戻ってこよう」


 東側に行くフィクスを見送るとイリスレーアは西側に伸びた通りを歩き始めた。


 エールヴァールの首都モレナールは周囲を壁で囲まれた城壁都市だ。馬車で入るときに検問があるかと思ったのだが、とくに誰何もされずにそのまま入れた。本当に戦争中なのだろうか?


 町の中も戦争中には見えないわね。


 人通りも普通にある。歩いている人たちも普通の格好だ。長く戦争をしている国とは思えない。


 あの辺が良いかしら。


 しばらく歩くと、イリスレーアは通りの脇に公園のようなところを見付けて入っていった。それほど大きな公園ではないが遊具などもあって子供たちが遊んだりしている。


「ふう」


 イリスレーアはベンチに座りひと息ついた。すると隣に一人の女性が座った。黒いローブコートを着ていて顔はよく見えない。ほっそりとした女性だ。


「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」ローブコートの女性が前を見たまま小さな声で呟いた。

「誰が付けてくるのかと思ったらあなただったのね」イリスレーアも前を見たままだ。「何かあった?」


 女性はサッと目だけを左右にやって近くに人がいないことを確認して、手で口元を覆ってから呟いた。


「ユニオール王が死にました」

「!」


 顔にこそ出さなかったがイリスレーアは驚きのあまり言葉を失った。


「四日ほど前のことです。詳しくは分かっていませんが、死んだことは確実です」

「……そう。まさかクラウディア王女が?」

「そこまでは分かりません。また、死を秘すつもりなのか、公表するつもりなのかは今のところ分かっていません」

「……」


 少し沈黙が訪れた。遊ぶ子供の声が遠くに聞こえる。イリスレーアが口を開いた。


「それで父は帰国しろと?」

「いえ。国王陛下は、国のことは案ずるな、と」

「……」

「それよりも焔から目を離すな、ともおっしゃられました」

「……それだけ?」

「はい」


 ということは、父はユニオールと戦争になると考えているのだろう。


 私が慌てて帰国するとすれば、家族に何か起きるか、戦争になった時だけだ。ゆえに、戦争になっても案ずる必要はないと、わざわざこんなところまで側近中の側近の魔道士を送ってきてまで伝えたのだと思う。


 クリストフェルに紹介状を渡しても渡さくなくても同じだったかもね。


 リーゼクーム海峡の小島でクリストフェルと会ったのはわずか五日前だ。いくらなんでもそんな早くアンハレルトナークには着かない。


「分かったわ。ありがとう、エスト」

「それとこれは私からの個人的なお土産です。お納めください」


 そう言うと女性は立ち上がり、通りの方へ消えていった。女性が座っていたベンチには一冊の本が残されていた。

北の方もざわざわしてきました。


続きは明日です。

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