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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第一章 アンシェリークを追う者たち
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第二十話 十三日目 港町バルテルス 天気晴れ

 船がちょっと揺れて、すぐに収まった。私たちの上、つまり甲板の方から慌ただしい雰囲気がする。どうやらバルテルスに到着したようだ。


「着いたみたいですね」

「ええ。もうちょっとの我慢ね」


 バルテルスの水先案内人が乗船するので待機しててくれと言われたので食堂にいるわけだけど、着いたのなら早く上陸したいものである。


「こんな長い期間船に乗ったのは初めてです」

「五日だものね。あまり揺れなくて良かったわ」

「私はほとんど寝てましたけどね……」


 幸いなことに船酔いに悩まされることはなかった。本来の私は乗り物に弱いんだけど、この世界の船は魔法で船の制御をしているらしくほとんど揺れないのだそうだ。もっともそれでもフィクスは時折辛そうにしてたけど。


「バルテルスはどんなところなんですか?」レティシアは来たことがないようなのでイリスに尋ねてみた。

「私も来るのは初めてなのよね」イリスはそう言ってフィクスの方を見た。

「僕は一度だけ来たことがあるけど、すぐに首都へ移動してしまったんで、バルテルスのことはあまり覚えてないんだ」


 フィクスの話によれば、バルテルスの町は島の東端で、バーンハルドやアポロニア大陸南東の国々との貿易で栄えている港町だそうだ。

 ちなみにバルヴィーンの首都ミルテは島のほぼ中央にあって馬車で四日ほどかかるらしい。


「着いたぞ。お前たちはどうする?」トールヴァルドが食堂に入ってきながら私たちに問い掛ける。

「上陸したいです。ダメですか?」

「いや、大丈夫だ。明日の昼には出港予定なんでそれまでに戻ってくれ」

「分かりました」私たちはいっせいに腰を上げた。「トールヴァルドは上陸しないんですか?」

「私は補給の指揮とか色々やることがあるからな。ああ、それと」トールヴァルドが思い出したように付け加える。「大丈夫だと思うが、町の外でモンスターが暴れてるらしいので町の外には出ないようにな」

「ええ、分かったわ」イリスが答えた。


 モンスターが暴れてるって……。ホントに大丈夫なんだろうか? 一抹の不安を感じながら私は船を降りた。




 港町バルテルスはずいぶんと活気のある町だ。通りは多くの人が行き来し、大きな荷車の往来も目立つ。バーンハルドにも劣らない、いやそれ以上の賑わいだ。

 商店が並ぶ通りを進んでいく。魚介類から果物、野菜といった食料品だけでなく衣類や装飾品、生活用品などを扱う店も多い。


「あとでゆっくり見て回りたいです」長旅になってきたので、もうちょっと服が欲しくなってきた。

「ええ、付き合うわよ。まず宿を決めちゃいましょ」


 しばらく歩くと大きな噴水のある広場に出た。町の中心になっているようだ。

 広場を見下ろすように石造りのホテルが建っていたのでそこを今晩の宿にすることにした。ここでもイリスと私が同室で、フィクスは隣の部屋を取れた。


「昼食をとったら町を見に行きましょ」


 ホテルのそばのレストランで食事をとって、私とイリスは広場の北に伸びる大通りに向かった。フィクスは情報を収集したいということで別行動だ。

 バルテルスの町は広場を中心に東西南北に大通りが伸びていて、東の道が港に通じている。服飾関係の店は北の道に多いとレストランで聞いた。


「これから暑くなるからもうちょっと薄着も買っておいた方がいいわよ」というイリスのアドバイスに従ってお店で服を見ていく。ちなみにお金はフィクスから貰ってある。


 いくつものお店で服を選んでいるとなんだか楽しくなってきた。元の世界の私はあまりファッションに興味がなかったけど、レティシアのように可愛くてスタイルもいいと服選びも楽しいんだなと分かった。


「イリスは買わないんですか?」

「私はある程度持ってるからいいわ」

「なんか私だけ楽しんでるみたいですけど大丈夫ですか?」

「フフフ、いいのよ。こんな機会もそうないでしょ」


 イリスが微笑ましそうに言った。見た目は私の方が大人だけど、中身はイリスの方が遙かに大人だ。


 何軒もお店を回ってしこたま服を買った私たちは喫茶店でひと息ついた。この世界にもコーヒーがあることに内心驚きつつアイスコーヒーを頼んだ。イリスは紅茶だ。


「たくさん買ってしまいました」

「フフ、レティは何を着ても似合うから良いわね」

「そうですか? ありがとうございます」


 厳密には私ではないわけだけど、褒められると悪い気はしない。

 二人でお茶をしながらファッションの話に花が咲く。アンハレルトナークはアポロニア大陸の北側に位置していて夏でも涼しいらしく、この辺りとはファッションもずいぶんと異なるらしい。


「袖がない服を着ることは滅多にないわね。私も旅に出てから初めて着たのよ」

「でも夏が涼しいのは良いですね。暑いのは苦手なんですよね。イリスは大丈夫ですか?」

「あまり得意ではないけど北の冬の寒さよりはいいかもね。丸々と着込まないと外に出られないくらいに寒いから」


 私のいた世界で言うとロシアみたいなイメージなんだろうか?


「いつかイリスの国にも行ってみたいです」

「ええ。冬より夏をオススメするわ」


 そんな他愛もない話をしていると突然、私の隣に女の子が座った。ビックリしてよく見ると目がクリッとした可愛らしい少女だ。肌が透けるように白い。イリスよりちょっと年上くらいか。

 女の子は呆気に取られている私とイリスを見つめながら、話し始めた。


「突然すみません。私はシルックと言います」少女は無表情でそう自己紹介するとちょっと声を潜めて続けた。「レティシア・ローゼンブラード様とイリスレーア・アンハレルトナーク様ですよね?」


 えっ!? 気配を消す魔法は掛けているのに……。なんで分かったんだろう? というかこの子は誰?


 混乱して返事ができない私と違ってイリスは冷静だった。


「ええ、そうよ。あなたはフェアリーね?」

「はい。魔法で人間の姿になっています」


 フェアリーって何? 妖精? 人間に化けているの?


「そのフェアリーさんが私たちに何の御用?」

「はい。お二人にお願いがあるのです。お聞きいただけますか?」

「……お願いね。どうする? レティ?」

「えっ?」


 話を振られて狼狽える私。シルックの顔をもう一度見ると、相変わらず表情は変わらないけど眼差しは真剣だ。聞いてしまえば巻き込まれるかもしれないが聞かずにはいられない眼力がある。


「はい、応えられるか分かりませんが聞きましょう」

「ありがとうございます。実は助けていただきたいのです。私はエンシェントワイバーンの王、ヴルザルから遣わされました」


 ああ、やっぱりあの船から見たエンシェントワイバーンの群れ関係なのか。何らかの形で巻き込まれる予感はしていたけど、本当にそうなるとはね。


 私はイリスとちょっと顔を見合わせて、シルックに話の続きを促した。

相談内容は次話です。


続きは明日の昼頃です。

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