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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
序章 転生したら懲役二千五百年でした
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第二話 ニ日目 アーベントロートの牢獄 天気不明

 目が覚めても白い牢獄の中だった。軽い絶望を感じるが、それよりもシャワーが浴びたい。なかなか寝付けずに寝返りを繰り返していたので髪もボサボサだ。


 あの老人看守に見られるんじゃないだろうかという疑念はあるけど、昨日はシャワーを浴びずに寝てしまったので浴びたくて堪らない。


 シルエットくらいなら見られても仕方ないと諦めて私はヒラヒラしたネグリジェのような服を脱ぎ捨てて、シャワーを浴びる。ご丁寧なことに、棚にはボディーソープとシャンプーやコンディショナー的なものもある。この辺のものは変わらないようだ。


 体を洗いながらじっくり見てみると、肌がやたらに綺麗だ。老人看守は私が十年収監されていると言っていた。その前に国を滅ぼしたということなら、普通に考えると二十代、あるいは三十代でもおかしくない。でもこの肌は十代、それも前半の肌だ。


 十九歳だった私よりも肌が綺麗だわ……。


 髪も丁寧に洗って、備え付けられていた新品としか思えないタオルで良く拭いた。ドライヤーはないようだが、それほど長い髪ではないので大丈夫だろう。


「さてと」


 ネグリジェ的な服を着直して、ベッドに腰掛けた私は改めて考える。昨日なかなか寝れずにウダウダ考えていたことをまとめてみよう。


 いろいろと考えて分かったのが、私が何か疑問を持ったことに答えてくれる頭の中の声だが、これはレティシア・ローゼンブラードの「記憶」だ。

 何かを思い出そうとすると記憶の中にある答えが頭に浮かんでくるのだ。だから、レティシア・ローゼンブラードが知らないことは浮かんでこない。それに浮かんできた答えが正しいとも限らないわけだ。


「あまり世の中に興味がなかったようね」


 記憶を探ってみると、あまりこの世界についての情報がない。

 でもこれは分かるような気がする。私だって隣の国のことはもちろん、自分の暮らしている街のことだって大して知っているとは言い難い。


 そして私がレシティアになっているということは、つまり、これがいわゆる「転生」なのではないかと思う。


 私の趣味は読書だ。もっぱら読むのは歴史小説と推理小説ばかり。書店で並んでいるライトノベルに手を伸ばしたことはない。でも、タイトルに書かれている「転生」の文字は良く目にしていた。きっとこういうことを言うのではないだろうか。


「こんなことならライトノベルも読んでおけば良かったかな」


 別に嫌いで読まなかったわけではなくて、私の嗜好が歴史や推理に偏っていただけだ。


「そう言えば、剣と魔法の世界モノさえ読んだことがないわ」


 だから魔法とか言われてもピンとこない。小さい頃は魔法少女モノのテレビアニメを見たような気もするのだけど、あまり思い出せない。


 レティシアの記憶を探ると、どうやら彼女は相当な数の魔法を使えるようだ。攻撃系、防御系、回復系、移動系など種類も豊富だ。ただ、あまり物事を整理して考えるタイプではなかったようで、体系付けられた記憶にはなっていなかった。今度きちっと分類してみよう。


「もっとも、ここにいる限りは魔法は使えないわけだけどね」


 さっきから独り言が出てしまうけど、気にしても仕方ない。


 壁の方からカシャと音がして、目をやるとカプセルだ。昨日飲んだものと同じに見える。これ一粒でどれくらい栄養が摂れるのか分からないけど栄養は大事だ。飲んでおこう。


 ドーン! ドカーン!


 今日も壁の外から爆発音が聞こえる。昨日の老人看守の言葉によれば私、いやレティシア狙いらしい。


「難攻不落なんて言ってたけど大丈夫なのかな?」絶え間なく聞こえてくる爆発音を聞いていると不安になる。


 レティシアもアーベントロートのことは詳しく知らなかったようで、世界中の悪人が収容される牢獄としか記憶にはない。どのくらいの強さなのか、シュタール帝国やハーフルト連合王国より強いのかさっぱり分からない。

 ちなみにレティシアの記憶では、シュタール帝国は軍事国家、ハーフルト連合王国はよく分からない国という、非常に大雑把な認識だった。


「こんなところにあとどれくらいいれば良いのかな」


 老人看守の話では収監されてまだ十年らしいから、刑期はあと二千四百九十年残っている。とは言っても、レティシアの記憶によるとこの世界の人の寿命はせいぜい百年くらいのようなので、そんなには生きられないわけだけれど。


 その時、壁の向こうからこれまでにないほどものすごく大きな爆発音がしたかと思うと、部屋がグラッと揺れた。体感で震度四くらいの揺れだ。


「きゃあ!」思わず悲鳴が出た。


 揺れはなかなか収まらない。その後も爆発音が立て続けに鳴っている。部屋の壁や天井から薄っすらと発せられていた光が揺れとともに弱くなったり戻ったりと不安定になった。窓もないのに光が消えたら真っ暗になること確実で、それだけは勘弁してほしい。


「看守さーん! 大丈夫なんですかー!」


 私は昨日老人看守が覗き込んでいた辺りの壁をドンドン叩いた。返事はない。壁に耳を当てても何も聞こえない。


「きゃあああ!」


 爆発音とともに床が四十五度くらい傾いたかと思うと、壁の光がほとんど消えてしまって薄暗くなった。


 メキメキ!という音を立てて、傾いて低くなった方の壁にヒビが入り、壁の一部が崩れ落ちていく。外の光が入ってきて、おぉ外だと一瞬思ったけどそんな悠長な場合ではない。


 このままだと外に投げ出されるかも!?


 壁が崩れてさらに大きくなった穴からベッドが滑り落ちていく。私は必死で落ちないように耐えているが、なにせこの部屋には出っ張りがない。つまり掴まるところもないのだ。


「うわわわわわ!」


 傾きがさらに酷くなり、私はだんだん踏ん張りが効かなくなってきて、低い方の壁、つまり穴が開いているほうまでずり落ちてしまった。すぐ横の穴から下が見える。


「なんと!?」


 どうやらこの部屋はかなり上層にあったようで、穴から見える地面はずいぶんと遠い。崩れ落ちた瓦礫が土煙を立てていてよく見えないけど、五十メートルはありそうな高さだ。


 傾いてもはや床になりかけている壁で必死に踏ん張っているけど、ミシミシと不吉な音を鳴らしているこの壁が抜ければ落下してしまう。


「……!」


 本当にピンチの時には声など出ないと聞いたことがあるが、まさに今がそれだ。

 また近くで爆発音が響き、ついに部屋が真っ暗になったかと思うと、足元の壁が崩れて私は外に投げ出された。

二話にしてもうピンチです。


続きは明日です。

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