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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
序章 転生したら懲役二千五百年でした
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第十三話 四日目 スティーナの沖 天気晴れ

 トールヴァルドたちがタラップを渡って海賊船に駆け戻っていく。縛られたレッジアスカールックの人たちはそのままだ。


「フィクスは彼らの縄を解いて、船を東に移動させて!」


 そう言うとイリスはリュックをゴソゴソと探り始めた。何やら細長い筒のような物を取り出した。それを握ってシュッと下に振ると、棒は一メートルほどの長さに伸びた。


「伸縮棍よ。色々と魔法を仕込んであるわ」


 そうこうしてる内にも西から船が近づいてくる。全部で六隻。うち一隻は他の船よりも大きい。


「イリスレーア姫!」縄を解かれたイクセル王子、もとい元王子が駆け寄ってきた。「姫たちは急いで逃げてください!」

「イクセル王子。大丈夫よ、追手は撃退してくるから」

「そんなことをしたらあなたにも、いや、アンハレルトナーク王国にも迷惑をかけることになってしまいます!」

「ああ、私の身元がバレると良くないわね」と言うとイリスはまたリュックをゴソゴソと探り、ウィッグとメガネを取り出した。「これで大丈夫でしょ」


 側で大きな水柱が立ち、船が大きく揺れた。すでにトールヴァルドの海賊船は西に向かって大砲を撃ちながら進み始めている。


「うわっ!」

「イクセル王子」イリスが大きくよろけたイクセルを支える。逆じゃない?

「あ、ありがとう、姫」

「王子、船のことはフィクスに任せるわ」イリスは甲板を走り回っているフィクスを指さした。「彼の指示に従って戦線から離れていてね」

「姫!」

「レティ、お願い」


 私は防御魔法と飛行魔法を展開した。そして、イリスが私に掴まったことを確認して空に飛び上がった。




 空からだと海戦の様子がよく分かる。海賊船一隻に対して相手は六隻。すでに大砲の撃ち合いが始まっていて、海賊船の周りにはいくつも水柱が立っている。


「当たらないものですね」

「動いてる船に大砲を当てるのは難しいわ。それに」


 イリスが指さした。一発の砲弾が海賊船に当たる間際、船を守るように魔方陣が展開されて砲撃を防いだ。


「どちらの船も魔法使いを乗せてるでしょうから、遠距離攻撃ではなかなか決着は付かないわ」

「魔法を撃ち込んでも防がれるわけですね。では、どうやって決着を?」

「最後は白兵戦ね」


 船を付けて直接戦うことになるのか。ということは六隻もいる相手の方が有利だ。


「つまり、相手の船を海賊船に近づけさせず、相手の大将を倒せば良いのですね」

「フフ、そういうことね。そんな簡単ではないけど」


 試しに近くの一隻に近付いてみると迎撃がすさまじい。大砲の弾に加えて魔法の矢も飛んでくる。たしかに船には魔法使いがいるようだ。こちらも防御魔法で防げるものの、あまり集中砲火を受けると心許ない。

 離れ際にこちらからも魔法の矢を降らせてみたが、船を覆うようにいくつもの防御魔方陣が展開されて全て防がれた。


「これでは迂闊に近付けませんね」


 トールヴァルドの海賊船はジグザグに南西の方へ舵を切りつつ応戦している。レッジアスカールック側は五隻が前に出て大砲を撃ちながら海賊船を取り囲もうとしている。第一王子の船はようやく東側に進み始めていて、これなら巻き込まれることもなさそうだ。


「レティ、後ろの一隻が向こうの司令船のようね。あれを叩きたいのよ」

 ひときわ大きい船が五隻の後方を進んでいる。目を凝らすと、甲板には砲台が並び、魔法使いらしき複数の人影も見える。近付けば集中砲火確実だ。


「どうやって叩きましょう」

「司令船の真上に付けてくれる?」


 真上と言われてイリスが何をしようとしているかなんとなく分かった。


「もしかして飛び降りて突入するつもりですか?」

「それしかないわ」

「危険すぎますよ!」


 と言ってもイリスは表情を変えない。決意は固いようだ。

 私はレティシアの記憶から補助魔法を探して目一杯イリスに掛けた。


「ありがとう。さすがね」

「できれば先に魔法使いたちを倒してもらえれば私も突入しますので」

「分かったわ」


 敵だらけのところに突入なんて本当は嫌だけどイリスを見殺しにはできない。


「では行ってくるわね」


 司令船の真上まで移動すると、イリスは近所にお使いに行くかのような気楽な感じで飛行魔法陣から飛び降りた。

 同時に私は援護のために司令船に攻撃魔法を撃ち込む。「光の矢の攻撃魔法(べロスフォトス)!」光の矢が落ちていくイリスを追い抜いて司令船に展開された防御魔方陣に跳ね返された。

 でもそれは想定通りだ。防御魔方陣を超えて攻撃魔法を撃つことはできない。つまり、私の攻撃魔法を防御しながら、降下するイリスに攻撃魔法を撃つことはできないわけだ。


「よし!」


 甲板にイリスが無事降り立ったのを見届けて、私も降下を始める。

 イリスは伸縮棍を振り回して、敵の兵や魔法使いを次々と倒していく。イリスが棍を振るたびにカラフルな光が浮かび上がる。魔法を籠めてあると言っていたから魔法の光なのだろう。

 甲板後部の船橋から続々と剣を構えた兵士たちが出てくるが、ほとんど一撃でイリスに倒されていく。私が甲板に降り立った時にはすでに甲板上にいた敵はほとんど倒れていた。鬼神のごとき強さだ。


「レティ、私は司令室を制圧してくる。他の船が寄ってこないように頼める?」イリスは息も切れていない。

「分かりました」


 司令船が襲われていることを察知したのであろう、他の戦闘船が向きを変えてこちらに近づいてこようとしていた。

 私はそれらの戦闘船に向けて攻撃魔法を撃ち込んでいく。光の矢や爆発魔法を次々と撃っていると魔力がガンガン減っていくのを感じる。


 あら、こんな使い方は無茶かな?


 敵の船は私の攻撃魔法を魔方陣で防いではいるが近付いてこれないようだ。とりあえずイリスが司令室とやらを制圧するまでは撃ち続けるしかない。

 魔力が減ってきた影響なのか、ちょっと立ち眩みのような感覚に襲われ始めたとき、船橋からイリスが一人の男を引きずるようにして出てきた。


「レティ! 終わったわ」


 イリスは引きずってきた男を立たせると、何やら渡して促した。


「さあ、戦闘船を引かせなさい」

「あ、ああ……、分かった」


 男は石のようなものを受け取ると、それに向かって話し始めた。通信機のようなものなのだろうか?


「……第五船団司令のヌコロンブだ。司令船は制圧された。直ちにカンペリエに帰投せよ」


 力ない司令の声に五隻の戦闘船が進路を変えて戦線から去っていく。素直でよかった。


「レティ、ありがとう」と微笑みかけるイリスの顔に安心しながら、私の意識は消失した。

イリスの敵ではありませんでした。


続きは明日の昼頃です。

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