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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第四章 淵源の樹
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第百二十三話 六十四日目 ヴェードルンド 天気晴れ

 巨大な炎に包まれたフランシスが長い首を振って呻く。もしかして効いてる? その向こう側で爆炎を放ったクリスティーナが気を失いそうになっている様子が目に入った。飛行魔法の魔法陣が消えかけている。


「クリスティーナ!」イリスが叫ぶ。

「イリス! 行ってあげてください!」

「ええ!」


 すごい勢いでイリスがクリスティーナの方に駆けていく。クリスティーナは飛行魔法が完全に消えて落下し始めている。

 間に合って!と思ったのも束の間、イリスは落下するクリスティーナを抱きかかえて着地した。


 良かった!


 その時、フランシスの足下に大きな魔法陣が展開された。今までに見たことのない黒い魔法陣だ。陣を形作る複雑な円や線、文字も全て黒い。


「あれが封印の魔法か!?」


 トールヴァルドが目を丸くする。


「グワオオオオアア!」


 フランシスが大きく呻き、背中の羽を動かして飛ぼうとする。しかし、足下の魔法陣に四本の足がくっついてしまったように離れない。よく見れば徐々に魔法陣に沈み込んでいく。フランシスがどんなに羽ばたいても足は抜けないようだ。


「見てください、トールヴァルド! フランシスが吸い込まれてますよ!」

「あれで封印するつもりなのか!」


 すると今度はフランシスの上に少し小さめな魔法陣が現れ、巨大な彼女の体を上から押し始めた。魔法陣の上にはクラウディアがいる。上から押し込むつもりか。


「私も行きますね!」


 押すには魔力が必要なはずだ。今の私はウィルフレドの秘宝から得た魔力が溢れんばかりだ。私は飛行魔法でクラウディアのもとに飛んだ。


「クラウディア! 私も押します」

「それは白銀のドラゴンの石か?」クラウディアが、まだ光を発している私の指輪に目を留める。

「ええ、ウィルフレドの秘宝ですよ」私は魔法陣に魔力を流し込む。下へ押す力が明らかに増した。「このまま押し込んでしまえば良いんですね?」

「ああ、そうじゃ。これで当分、奴は出てこれぬ」


 クラウディアの右手には光る玉がにぎられていて、これが恐らくリリアーナの秘宝なのだろう。

 私たちの魔力を注ぎ込んだ魔法陣によってぐんぐんフランシスを押し込んでいく。上からはよく見えないけどすでに足くらいは飲み込まれてるんじゃないと思う。


「グワオオオオアア!」


 フランシスは雄叫びをあげながら首を振りまくっている。


「このまま押し込むぞ!」


 と、クラウディアが言った瞬間、不意に魔法陣を押し戻そうとする力が消えて、私たちは魔法陣ごと急速に落下した。


「ええっ!?」


 魔法陣は地面間近で停止した。見れば、フランシスがドラゴンから人間の姿に変わっている。


「ええ? なんで人間に!?」

「こうするためよ」


 ニヤッと笑ってフランシスの右手が私の手首を、左手がクラウディアの手首を掴んだ。


「すごい封印魔法だわ。さすがの私も逃げられない。だからあなたたちも一緒に連れて行くわ!」

「ええっ!?」


 フランシスに掴まれた手を振りほどこうとしたがガッチリ握られていて外れない。フランシスの体はすでに腰のあたりまで黒い魔法陣に飲み込まれている。


「クラウディア!」


 クラウディアを見るとさして慌てている様子はない。どうするつもり!? クラウディアがこちらを見た。


「慌てるな、レティシア」

「でも!」

「目的を見失っていかんぞ。我らの目的は大地のドラゴンの封印じゃ。我ら二人の犠牲で済めば問題あるまい」

「ええっ?」

「もとより我らはこの世界の人間ではない。覚悟を決めよ」

「そんな……」


 そう言われればそうだけど……。


「三人で仲良く次元の狭間で過ごしましょう」フランシスが笑う。もう胸のあたりまで飲み込まれているフランシスの力は緩まない。腕は振りほどけそうにない。


 これはいよいよ覚悟を決めるしかないかな、と諦めかけた瞬間、フランシスに掴まれているのとは逆の腕を誰かが掴んだ。


「えっ!? エサイアス!」


 私たちの上に浮いたエサイアスが私の腕を掴んでいる。見れば隣ではウィルフレドがクラウディアの腕を掴んでいる。そして、リリアーナが私たちの間からフランシスに語り掛ける。


「フランシス、少し頭を冷やしてらっしゃい。そうね、二千五百年くらい」


 そう言ってリリアーナがフランシスのおでこ辺りをポンと押すと、私の腕を掴んでいたフランシスの手がパッと離れた。クラウディアの腕も離れている。


「リリアーナ……」


 目を見開きながらフランシスが黒い魔法陣に飲まれていく。私がエサイアスに、クラウディアがウィルフレドに手を引かれて少し高く浮かぶと、フランシスを飲み込んだ魔法陣は消えた。




 なんとも意外な結末だ。いや、意外ではないか。上手くいきすぎたって感じだ。地面に降りた私は座り込んでしまった。気が抜けて考えがまとまらない。


「礼を言っておくぞ、ドラゴンたち」


 クラウディアがリリアーナたちに言う。私もお礼を言わなければと思って立ち上がると、リリアーナが私とクラウディアを見て笑いかける。


「礼を言うのはこちらよ。それに」リリアーナが私を見る。「あなたたちを連れてきたのは私たちだもの。お詫びもしなきゃいけないわね」


 トールヴァルドとイリスも私たちのところに駆けてきた。イリスはクリスティーナを背負っている。


「お詫びなんて……」


 私はなんと言って良いか分からず、言葉が途切れた。その時、


「おーい!」


 と声が響いた。見れば南の方から馬が二頭駆けてくる。


「大丈夫か?」


 馬が近付いてくる。片方の馬にはフィクスが乗っている。もう片方にはシルック、それに人間姿のアーシェだ。


「アーシェ!? もう大丈夫なんですか!?」

「ああ、移動するくらいなら問題ない」アーシェがシルックに手を引かれて馬から降りる。足下は少しおぼつかないが、私の前に立った。「大地を封印したようだな」

「ええ。アーシェの秘宝はとても役に立ちましたよ」私はイリスの背中のクリスティーナを見て言う。「クリスティーナが頑張ってくれました」


 実際、アンシェリークの秘宝を持ったクリスティーナがいなかったらこうも上手くいかなかったに違いない。


「図らずも三つも秘宝が集まるとは思わなかったの」クラウディアが笑う。「おかげで考えていたより楽に終わったわ」


 クラウディアの持っていたリリアーナの秘宝はともかく、アンシェリークの秘宝、それにユリウスからもらった指輪に嵌められていたウィルフレドの秘宝まで揃ったのだ。運やタイミングも良かったのだろうと思う。


「その方との旅は想定外ばかりだったが、そのおかげで最高の結果を得たな」


 アーシェがそう言って笑う。周りのみんなも笑っている。上手くいったのだという実感がようやく湧いてきた。リリアーナが微笑みながら私の側にきた。


「レティシア」そう言ってリリアーナが私の手を取った瞬間、周りが真っ白になった。


「えっ?」見回しても周りは真っ白。不思議空間だ。

「ちょっと二人で話をしたいんで時間を止めたわ」


 はい? そんなことまでできるの?


「最初に謝っておくわね。勝手にこの世界に連れてきてゴメンね」

「いえ……、それはもういいです。でもなんで私だったんですか? 私は普通の人間なのに」

「普通?」リリアーナが笑う。「そうね。普通ではあるわ。あなたの性格はレティシアとそっくりなのよ」

「そっくり?」

「ええ。少し冷めていて、合理的で、それでいて熱い部分もあって。あなた以外にレティシアと適合できる人間はいなかったわ」

「そうなんですか」


 性格を分析されると何か気恥ずかしくなる。


「そう言えば、私が入ったことでレティシアはどうなったんですか? まさか……」

「死んではいないわ。でも彼女はすべてを諦めて閉じ籠もってしまっていたの。だからあのままだったら、シュタールとハーフルトの攻撃でアーベントロートの牢ともども死んでいたと思うわ。だからあなたが気にすることはないわ」


 そう言われても乗っ取ったようであまり気分の良いものではない。


「そうかもね。あなたが元の世界に帰ればレティシアは目を覚ますかもしれないわ。どうする? 元の世界に帰る?」


 そのことならもう決断は済んでいる。


「帰りません」私はリリアーナの目を見て即答した。「次はクラウディアの世界征服を止めるつもりですので」

「そう」リリアーナがにっこり笑った。

「そのあとで、人間が他の種族とうまく共存できるように動いてみるつもりです」

「そんなことできるの?」

「できますよ。イリスがいれば」


 というか、こっちの話は完全にアンハレルトナーク頼りになりそうだけど……。


「この世界でも世界全体のことを考える場を作るべきなんですよ。イリスと協力すればできるはずです」

「そうなるといいわね」

「はい、頑張りますよ」

なんとか封印しました。


続きは来週火曜日です。

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