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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第四章 淵源の樹
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第百二十話 六十二日目? 淵源の樹 何層目? 天気不明

 幻が解けた淵源の樹の中を飛行魔法でずんずん登っていく。うっすらと壁が光っていて暗くはないものの、それなりに広いだけに上に登る穴を探すのもひと苦労だ。


「ここもただの空間ですね」


 何層登ったか最早数えていない。飛行魔法なので体が疲れるわけではないけど飽きてきた。


「どれくらい登ってきたんだろうな?」トールヴァルドも数えていないようだ。

「次で九十九層目よ」

「おお」


 次が九十九ということよりちゃんと数えていたイリスに驚いた。


「キリの良いところで百層目かもしれんの」


 クラウディアは私の飛行魔法には乗らずに単独で飛んでいる。どういう魔法なのだろうと不思議には思うけど今聞くことではない。


「じゃあ次の層で少し休みましょうか」

「そうしましょう」


 私がイリスの提案に即答するとトールヴァルドとクラウディアも頷いた。


「九十九層目と……」


 穴から飛び上がるとやはりそこはただの樹の中の空間だった。休憩するために着地する。


「いよいよだな」トールヴァルドが腕を回しながら言う。飛行魔法に乗ってるだけといっても結構疲れるはずだ。

「良く体をほぐしておきましょ」イリスも屈伸を始めた。元気だ。


 精霊の幻が解けたことはとうにフランシスも知っているだろう。となれば、万全の体勢で待ち受けているに違いない。ちょっと緊張してきた。


「じゃが、百層目ではなく千層目かもしれんぞ」

「嫌なこと言わないでください」


 たしかに百層目とは限らない。


「なんじゃ緊張しておるのか」クラウディアが床に座って私を見る。

「そりゃしますよ。不死のドラゴンと戦うなんて」

「クックックッ。それはそうじゃな」


 イリスが私たちの前で座った。


「クラウディア、勝算はあると言ったわよね。登る前に聞かせてもらえる?」

「ああ、じゃが話すと大地のドラゴンに聞かれるかもしれぬ。そこは警戒すべきじゃな」

「う……、そうね」クラウディアの目を見据えるイリス。「では一つだけ。本当に信じて良いのね?」

「うむ、任せよ。悪いようにはせぬ」


 余裕ある顔でそう言うクラウディアを見ていると本当に何とかなりそうな気がしてくる。


 ここに来る前、ルベルドーの山の上で二人の時にクラウディアから聞いたことを思い出す。彼女の話が本当ならたしかに勝ち目はあるだろう。


 リリアーナの秘宝が本当に役立ってくれると良いんだけど……。


 クラウディアが持っていたのはリリアーナが亡くなった時にその死体に残った光る玉だった。アンシェリークの秘宝ならぬ、リリアーナの秘宝だ。ただ、聞いていた話ではリリアーナはすでに成竜だ。死体に秘宝が残っていたと言われても簡単には信じられない。その時の会話はこんなだったはずだ。


「ホントに本物なんですか、それ?」

「間違いない。魔力を感じるであろう?」


 見せてもらった光る玉からはたしかに強烈な魔力を感じた。


「アンシェリークの秘宝と同じものなんですか?」

「同じではない。属性が違うからの。輝のドラゴンの属性は光じゃ。これが大地のドラゴンを封印する鍵になる」


 ぼんやりとその時の会話を思い出していると、いつの間にかトールヴァルドが私の顔を覗き込んでいることに気付いた。


「大丈夫か? レティシア。ボーッとしてどうした?」

「え、いえ、大丈夫ですよ」私は慌てて笑顔で返事する。「疲れはありません。魔力的にも問題ありませんよ」

「そうか。でもここまでずいぶん魔法を使っているだろう?」


 トールヴァルドの疑問は当然だ。でもあの時、クラウディアから魔力の使い方と古代魔法をいくつか教えてもらったので大丈夫だ。なんとなくそのことを言うのは憚られたので笑って誤魔化しておいた。


「そんなことよりも次の層にフランシスがいると仮定して、作戦を考えておいた方がよくないですか?」

「ああ、そうだな」トールヴァルドも座った。

「向こうの出方にもよるけどまずは私とトールヴァルドで当たるのがいいかもね」

「じゃあまた補助魔法を掛けますね」

「ええ、よろしく」


 そう言うとイリスはニッコリ微笑んだ。


「クラウディアがその切り札を使うには隙が必要なんでしょ?」

「そうじゃな」頷くクラウディア。「ある程度は弱らせてからの方が成功率も高いと思う」

「弱らせるまではいけるとは思えないけど」


 肩をすくめるイリスにトールヴァルドが頷く。


「そうだな。とにかく私とイリスレーアで攻め続けてフランシスの目をこちらに引きつけておくしかないな。どれだけ保つか分からんけどな」

「二人とも無理は禁物ですよ」

「ああ、分かってる」


 二人とも頷いたけど恐らく無理をするつもりだろう。私も同じだ。


「私はクラウディアを守りつつ攻撃魔法を撃つ感じですかね?」

「うむ」クラウディアがちょっと間をとってから話を続ける。「基本的にはそれで良いじゃろう。問題は奴がドラゴンの姿に戻った時じゃな」

「あ」


 すっかり人間の姿のフランシスしか頭になかった。恐らく最初は人間の姿だろうけど、ピンチに陥ればフランシスはドラゴンの姿に戻るに違いない。


「ドラゴンの姿にさせずに封印するのが最良じゃが、そうもいかぬじゃろう」

「でも、ドラゴンでも同じことよね」イリスがトールヴァルドに言う。

「そうだな。どのみち攻め続けるしかない」


 頼りになる二人だ。でもドラゴンに剣撃は通らない。魔法も効かないだろうけど……。


「そうじゃな。気を付けるのはブレスくらいであろう」

「魔法陣で防げますかね?」

「無理じゃな。奴がブレスを吐きそうになったら散開して避けた方が良い」


 とはいえこの樹の中では逃げるにも限界はある。


「というか、こんなところでブレスを吐かれたら樹が保たないんじゃない?」

「そうかもしれぬ」クラウディアが頷く。「それ以前に樹がドラゴンの重さに耐えられるかも分からんな」

「やはり人間の姿のときに決着させたいですね」


 驚くほど大きく高い樹だけど、中は層に分かれてスカスカといっても良い。ドラゴンの重さで崩れてもおかしくない。あ、でもドラゴンは大きさも自由なんだっけ。


「話はこれくらいね」イリスが立ち上がるとトールヴァルドも立った。

「ああ、後は戦うだけだ」


 私とクラウディアも立ち上がる。


「無理は禁物ですけど、最大限頑張りましょう」

「クックックッ、どっちなのじゃ」クラウディアが笑う。「そんなに気合いを入れる必要はない。ただのトカゲと思って戦うのが良いぞ」

「トカゲって……」


 クラウディアが浮かび上がり、私は飛行魔法を展開してイリスとトールヴァルドの二人に手を差し伸べる。


「さあ、イリス、トールヴァルド。行きましょう」

「ええ」

「おう」

いよいよ百層目です。


次話は月曜日の予定です。


※サブタイが本文に入ってしまっていたので修正しました。(2019/02/07 13:46)

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