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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
序章 転生したら懲役二千五百年でした
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第十二話 四日目 港町スティーナ 天気晴れ

 様子を見に出たイリスがすぐにフィクスを伴って戻ってきた。


「港からすぐの沖で海戦が始まったらしい」とフィクス。「ちょっと見に行ってくるがレティはどうする?」

「私も行きます」


 海戦と言われてもイメージが湧かない。この音だ。大砲でも撃ち合ってるのだろうか?


 大通りを少し行くと港はすぐそこだった。埠頭まで人が鈴なりになって海の方を見ている。


「あれか」


 フィクスが指さした方を見ると、沖の方で一隻の船が別の船に追われているようだ。結構遠いが、どちらの船も世界史の教科書で見たような大型の帆船のように見える。追っている方の船からは大砲が発射され、追われている船の周りに水柱を立てている。


「港に入ろうとしているのでしょうか?」

「それは無理だ」フィクスはかぶりを振った。「止まれば沈められるだろう」


 沖の方に目を凝らしていたイリスが小さな声で私に言う。「レティ、追っている方、あれはトールヴァルドのようね」

「やっぱりそうですか」


 遠くてよく見えないがそんな気はしていた。とすると追われている船は襲われているということか。追われている方は反撃していないようだ。

 息を呑んで状況を見つめていると、周りの野次馬たちの上げる声が海賊寄りなことに気付いた。


「いいぞ! トールヴァルド!」

「レッジアスカールックの船なんか沈めちまえ!」


 海賊を応援してる……。


 私は思わず側にいたお婆さんに聞いてみた。


「お婆さん、トールヴァルドを応援してるのはなぜですか?」

「ん? おかしなこと言うね。トールヴァルドはノーブルヌの誇りだよ!」

「誇り、ですか?」

「そうさ。あの狂信者どもの侵略から国を守ってくれたのはトールヴァルドだよ。ノーブルヌの民はみなトールヴァルドの味方さ!」


 なるほど。たしかにレッジアスカールックとノーブルヌの争いの記憶がレティシアにはある。そしてなんと、その争いではレティシアがトールヴァルドに手を貸した記憶も蘇ってきた。ノーブルヌを攻めるレッジアスカールックの軍勢をトールヴァルドとともに退けたのだ。さっき何か思い出せそうで出てこなかった記憶はこれか。


 これって、私はレッジアスカールックに行っちゃダメなやつだ……。


 頭を抱えていると沖の戦況が動いたようで、周りから歓声が上がった。追われている方の船が白旗を掲げて停止したようだ。


「あの……、フィクス、イリス。ちょっと話があるんですけど……」


 レッジアスカールックに行くのはマズいかもしれない旨を話さなければならない。二人に呼びかけるとフィクスは振り向いてくれたが、イリスはじっと沖の二隻の船を見つめたままだ。


「イリス? どうしましたか?」返事のないイリスの顔を覗きこんだ。

「レティ」イリスは俯いて小声で呟いた。「ちょっとお願いがあるの」




 イリスは私たちを倉庫のような建物の側に引っ張ってきた。周りの人たちはみな沖の方を見ながら歓声を上げたり踊ったりしている。


「なんでしょう?」

「レティ、隠蔽魔法と飛行魔法で私をあの船まで連れて行って欲しいの」

「えっ? あそこに? ……本気ですか?」思わずイリスの顔を凝視すると本気の目だ。

「うん、訳は後で話すわ。とにかく急ぐの」

「しかしここで気配を漏らすのは……」とフィクスが難色を示したけど、私をその言葉を遮った。

「分かりました。イリスにはここまでたくさん助けてもらっています。そのイリスからの頼みなら否応ありません」

「ありがとう、レティ」


 フィクスは肩をすくめているがイリスを助けることについては文句ないようだ。私は素早く気配を消す魔法を解き、隠蔽魔法を展開する。「……隠蔽魔法展開(アポクリプシー)


「二人とも私にしっかり掴まってくださいね」


 二人が私に掴まったことを確認して飛行魔法を念じると、足元に魔法陣が展開されて三人の体が宙に浮かんだ。沖の方へ移動するように考えると、魔法陣が凄まじい速さで私たちを運んでくれる。

 近くまで来てみると、追っていたのは明らかに海賊船で、大砲が何門も装備されている。追われていたのは大きな船ではあるけれど武装はなかった。海賊船からタラップ板が渡され、海賊たちが乗り移っているようだ。


「どちらの船に?」

「捕らえられた船の方にトールヴァルドたちは乗り移ったようね。そちらにお願いするわ」

「分かりました!」


 私たちが捕らえられた船の甲板に降り立つと隠蔽魔法が自然と切れ、一斉に周りの者たちの目が集まった。


「なんだ!」

「いつの間に!?」


 いかにも海賊な服を着た男たちが集まってくる。しかもみな剣を抜いている。周りに目をやれば、捕らえられた船の乗組員なのだろう、縄で巻かれた男たちがそこらに転がされている。


「待ちな!」


 女性の声に私たちを取り囲もうとしていた海賊たちが足を止め、一斉に振り返った。その先には海賊帽を目深にかぶった赤髪の女性が腰に手を当てて立っている。レティシアの記憶が教えてくれる、彼女がトールヴァルドだ。綺麗な顔立ちだけど、意志の強そうな鋭い目をしている。

 トールヴァルドは私と目が合うと、少し驚いたように目を丸くした。


「レティシアじゃないか!」トールヴァルドは帽子を跳ね上げてすごい勢いで駆け寄ってくると私をギューっと抱きしめた。


「久しぶりじゃないか! やっとあの牢獄から出られたか!」

「え、ええ。お久しぶりです、トールヴァルド」私はなんとか声を絞り出した。

「ん? なんか雰囲気変わったな、レティシア」トールヴァルドは私の両肩を掴んで顔をマジマジと見る。「ま、十年も放り込まれてりゃ無理もないか」


 カッカッカッとケレン味なく笑うトールヴァルド。レティシアの記憶どおり、豪快な女性だ。


「ん? そこにいるのはイリスレーアじゃないか。アンハレルトナークの拳姫がなぜこんなところに?」トールヴァルドが私の後ろに立つイリスを見ながら不思議そうに尋ねる。


 ああ、イリスはやっぱり只者ではなかったのね……。


 会ったことはないようだがレティシアの記憶にもその名はある。イリスレーア・アンハレルトナーク。アポロニア大陸の北方、アンハレルトナーク王国の姫で、その並外れた強さから拳姫と呼ばれている。


「お久しぶりね、トールヴァルド」イリスは真面目な顔でトールヴァルドに向き合う。「この船に乗っているはずの少年のことなんだけど」

「ああ」トールヴァルドは得心がいったように頷くと、側にいた部下に命じる。「連れてきな!」


 すぐに海賊たちが縄でぐるぐる巻きにされた一人の少年を連れてきた。ずいぶんと若い。私の世界で言う中学生くらいな見た目で、綺麗な金髪だ。トールヴァルドのところまで連れてこられた少年は顔を上げると私たちの方に視線をやり、目を丸くした。


「イリスレーア姫!」

「おっと」イリスに駆け寄ろうとする少年をトールヴァルドが剣で制する。「勝手に動くんじゃないよ」


 海賊が少年をその場に座らせた。どういう知り合いなのだろう?


「せっかくの婚約者との再会がこんな形で残念だな」トールヴァルドはそう言うとカッカッカッと笑った。


「婚約者? 知っていましたか?」私は小声でフィクスに問いかけた。

「レッジアスカールックの王子とアンハレルトナークの王女の婚約が成立したというニュースはずいぶん前に耳にしたことがあるな」

「はぁ、ではあの少年が王子なのですね」


 ということは、イリスがここに来たのは、海賊に捕まってしまった王子であり婚約者の少年を助けようということだろうか。普通は逆なような気もするがイリスの強さを考えれば納得だ。


「トールヴァルド」イリスが片膝を付いた。「私に免じてイクセル王子を解放してほしい」


 あの王子はイクセルという名らしい。もちろんレティシアの記憶にはない。


「それはダメだよ」トールヴァルドはニッと笑った。「でも心配するな、イリスレーア。私らはこいつを人質に、レッジアスカールックから金をふんだくれりゃ良いんだ。金さえもらえれば傷一つなく解放するつもりさ」


 その言葉を聞いた王子が「人質か……」と呟いて、自嘲気味にフッと小さく笑った。


「ん? なんだい?」その言葉を聞き咎めたトールヴァルドが王子に目をやる。

「海賊よ、私には人質の価値はない」

「なに? どういうことだい」

「私は国を追われ、バーンハルドに助けを求めに行くところだったのだ」

「なんだって?」


 王子の言葉によれば、法王の後継ぎが争いが激化して、とうとう第一王子のイクセル王子側と第二王子のクラルヴ側で武力衝突が起きた。そしてイクセル王子側が敗れて、船で逃れたらしい。


「なんてこった。法王室のマークのある船にしちゃあ護衛船もいないし、乗り込んでみりゃ神官ばかりだったのはそういうわけかい」


 トールヴァルドは呆気にとられている。


「そうだ。母の実家であるバーンハルドに逃れようとしていたところを、お前たち海賊に見つかってしまったのだ。私に人質の価値などない」

「ふーむ」


 第二王子側が後継ぎ争いに勝ったのであれば、イクセル王子解放のために金を払うことはないだろう。それどころか、殺してくれて構わないと返事をしかねない。


「うーん。どうしたもんかな……。イリスレーア、聞いたとおりに後継ぎ争いに敗れたんじゃもう婚約もご破算だろう」トールヴァルドが微妙な顔でイリスを見る。

「そうだろうな。だが、縁があったことは間違いない。人質の価値がないのであれば解放してやってくれないか?」

「そうはいかないよ」トールヴァルドは腕を組んだ。「大砲一つ撃つのにも金が掛かってるんだ。はいそうですかと解放したら大損なだけだ」


 でも金は取れないだろう。可能性があるとすれば、母の実家とやらのバーンハルドだろうが、そもそも助けを求めようとしていたわけで、金まで払ってくれるだろうか?


 その時、海賊船の方から声が響いた。


「トールヴァルド様! 西からレッジアスカールックの艦隊です!」

「なんだって?」トールヴァルドが振り返った。私たちも西の方に目をやると、海岸線に数隻の船が見える。こちらに向かっているようだ。


「レティシア、イリスレーア!」トールヴァルドが私たちを見る。「あれを撃退するのに力を貸しな。そうすりゃ元王子は解放してやる!」

「えっ?」

「分かった」と言ってイリスは立ち上がり私の方を見た。「レティ、済まないがもう少し力を貸してくれないか?」

「え、ああ、分かりました」


 ここまで来たらもう否応ない。やるしかない!

イリスの本名が分かりました。

海賊トールヴァルドと出会いました。


続きは明日、海戦です。

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