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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第四章 淵源の樹
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第百十八話 六十二日目? 淵源の樹 第七層 天気不明

 なんでこんな話になっちゃったんだっけ?


 私は階段を登りながら精霊との会話を振り返ってみたけど、どうにもよく分からない。会話の流れというのは恐ろしいものだ。


「あっ」


 階段を登っていくと突然視界が切り替わって、目の前にクラウディアとイリス、トールヴァルドが現れた。ほぼ同時に四人とも現れたらしく、一様にビックリしている。今度は本物のようだ。


「やっと四人ですね」

「ああ、無事で良かった」トールヴァルドの顔には疲れが見える。「おかしな試練ばかりだったな」


 私からするとかなり軽い試練だったけど、この世界の人にはそうでもないのかもしれない。


「疲れてませんか? 大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫」

「大丈夫よ」


 七層目はまた草原だ。あまり風景のバリエーションが無いのかもしれない。


「ここは何かしらね?」イリスが周りを見渡す。

「なんじゃ、下で精霊に言われんかったのか?」クラウディアが私たちを見ながら言う。「戦争と平和について議論せよと言っておったぞ」


 クックッと笑うクラウディア。


「たしかにそんなことを言っていたわね」イリスが頷く。「ちょっとニュアンスは違うけど」

「どんな話だったのじゃ?」

「人間が増えすぎて困ってるからなんとかならないかと聞かれたので、今起きている戦争が落ち着けば大国同士は安定に向けて動き出すはずだから、その時に他種族の保護についても話し合わせる、と言ったわ」

「クックックッ。なるほどの。アンハレルトナークらしい物言いじゃ」クラウディアが笑う。「たしかにアンハレルトナークの提案なら一定の効果はある。だがそう長くは保たぬじゃろ。また戦争が始まれば同じことの繰り返しじゃ」

「……そうね」

「いったんは停戦して平和が訪れても、それだけでは憎しみの連鎖は断てぬ。数十年、いや数年でまた元通りじゃ。つまり強力な一国による支配以外にこの世界を平和に導く手段はない」

「それをユニオールがやると言うの?」

「そうじゃ」

「無理よ」イリスが断言する。「これは自惚れでもなんでもなくて、あなたが思っている以上にアンハレルトナークは強力なのよ。ハーフルトのようにただ大きいだけの国とは違うわ」

「それは分かっておる」


 クラウディアが肩をすくめる。


「手の内は明かせんがの。じゃが、それでも十年でこの世界を統一できる」

「そんなことは……不可能だわ」

「クックッ、平行線じゃな」そう言ってクラウディアが私とトールヴァルドを見る。「そなたらはどうじゃ? 国に縛られていないそなたらはどう思う?」


 問いにトールヴァルドが答える。


「私は国同士のことはよく分からん。だが争いごとを無くすことはできないだろう」

「ふむ」

「人間同士でもそうなんだ。ましてや他の種族と分かり合うのはさらに難しい」

「そうじゃな」

「どうすればいいかと精霊に問われたとき、返事に窮したよ」トールヴァルドが苦笑する。「正直、他の種のことなんて考えたこともなかったからな」


 それは誰でもそうだろう。ほとんどの人は自分が生きていくのに精一杯のはずだ。


「それは仕方ありませんよ。私だってそうです」

「クックックッ、そなたら二人はこの世界屈指の自由人だからの」

「でも平和に越したことはないと思ってますよ」


「平和か」クラウディアが私の目を見据える。「下で精霊が言っておったわ。レティシアは戦争を止めてみせるとな。どうするつもりじゃ?」

「話をして……それでも止まらなければ力づくですかね」

「力づく?」目を丸くしたクラウディアが笑い出す。「クックックッ、それでは我と変わらぬではないか。それを国がやるのを戦争と呼ぶのじゃ」

「……そうですね」


 たしかに結局は同じことかもしれない。でも話をすることで防げる戦争もあると思う。


「それは甘すぎる」

「そうですか?」

「レティシアよ、戦争はどちらの国も自らの正義を信じて始めるのじゃ。そこに善悪はない」

「それは分かっています」下の層で同じことを精霊に言ったばかりだ。

「戦争は手段でしかない。勝った方の正義が承認され、負けた方は悪だったことになる。つまり白黒つける他の手段がなければ戦争は無くならぬ。そしてそんな手段は他にはないのじゃ」


 私の世界では国連とかあったけど、この世界にはそんなものはない。もっとも国連がどんな組織なのかはよく知らないけど……。


「そなたが生まれ育ったところは平和で教育も行き届いておったのだろうな」

「……そうですね」

「じゃがこの世界はそうではない。平和でもなければ、教育も偏っておる」

「……」


 クラウディアは私たちを見回しながら話を続ける。


「この世界は常にどこかしらで争いが続いておる。じゃがすべての国を巻き込むような大戦を経験しておらん」

「そうね」頷くイリス。「それがなんだと言うの?」

「ゆえに戦争がいかに酷い行為なのかを本当に理解できていないのじゃ」

「そんなことはないわ。酷い行為と思うからこそ大戦に至る前に留まるんでしょ?」

「隣国同士の小競り合いで多少の損害が出れば引く。ダラダラとそんなことを繰り返して、結局苦しむのは民や他の種族じゃ。この世界の支配者どもは根本的に戦争の恐ろしさを理解していない」

「……あなただって王でしょう」

「クックックッ、そうじゃな」クラウディアが笑う。「一度大きな、悲惨な大戦を経験すれば皆分かるであろう」


 私の世界では第一次世界大戦と第二次世界大戦があった。そしてそれらの大戦以降、世界は急速に平和に向けて動き始めた。必要とまでは思えないけど、戦争の悲惨さを知ることは平和へのステップなのかもしれない。

 戦争の悲惨さを知らないからこそ、フェーディーンとエールヴァールのように戦争をゲームにしている国さえあるのだろう。


「どうじゃ、レティシア。納得できる話であろ?」私を見てクラウディアが言う。

「納得……というか、理解はしました」

「その悲惨さを我が教えてやろというのじゃ。長い目で見ればこの世界にとって悪いことではないと思わぬか?」

「……本当にそんなことを考えてたんですか?」

「クックックッ」


 不敵に笑うクラウディアを見ると、どうも後付けの詭弁のようにも取れる。でも間違っているとも断じがたい。


 そんなことを思っていると私たちの前に精霊が浮かび上がった。


「話は済んだか?」


 私たちを見下ろす精霊に私は言う。


「済んでません」

「だが最早説得は無理であろう」

「……」

「その人間一人説得できずに戦争を止められるとは思えぬ」


 そう言うと精霊は両手を横に広げた。


「ゆえにそなたたちは、これ以上この樹を登ることまかりならぬ」

「無理にでも登るつもりじゃが?」クラウディアがニヤッと笑う。

「それは不可能だ」


 すると左右にスーッと精霊が増えた。分身? 十人以上はいる。中央の精霊が私たちを見下ろしながら言う。


「我らに勝てるつもりなら試してみるが良い」

第七層は次話に続きます。


次の更新は日曜日予定です。

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