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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第三章 錯綜する想いと交錯する運命
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第百七話 六十日目 ハーフルトからトセリの町へ 天気晴れ

「ユリウス殿が見えた」

「え!? なんですか!?」


 横でクリストフェルが呟いた言葉がよく聞き取れなかったが、聞き直している余裕はない。なにせ今までにないくらいに全力で飛行魔法をぶっ飛ばしているのだ。しかも重たいクリストフェルを乗せて。


「振り落とされないで下さいよ!」

「ああ! 大丈夫だ!」


 クリストフェルは私が女性(女子?)だからか遠慮して肩に手を置くだけに留めているけど、振り落としそうで怖い。気にせずしっかり掴まってほしいものである。


 しばらくそのまま全速力で飛び続けると、西の森の上空まで来たようだ。エストが駆る飛行魔法が後方から追い上げてきて私の横に並ぶ。


「レティ! そろそろ速度を落としても大丈夫よ!」


 イリスの声が聞こえ、私は速度を落とした。エストに掴まっているトールヴァルドが心配そうに私に声を掛ける。


「レティシア! 大丈夫か!?」

「大丈夫ですよ!」


 速度を落とすと余裕も出てきて、ラ・ヴァッレ城のことが気になってきた。私たちのことを逃がすために突撃に出てくれた騎士と魔法使いたちのことだ。あのシュタール軍の包囲に突撃していって無事で済むとは思えないけど、命だけは守って欲しいと切に思った。


「少し行くと、森の西端に出ます。そこで休みましょう」


 エストの声に従って、西へ飛行を続ける。休んでいる場合ではないのだが、結構魔力を使ったので正直休憩は有り難い。それにクリストフェルのこともある。


「ここです。シュタールの侵攻ルートからも外れているので、危険はないでしょう」


 森の中へ飛行魔法を降下させる。街道からは外れていることもあって人の気配はない。少し拓けたところに降りた。


「レティシア、魔力はどうだ?」トールヴァルドが駆け寄ってくる。

「まだ大丈夫ですよ」

「本当か?」


 私は木の根元に腰を下ろした。本当は少しクラクラしているけど、ちょっと休めば大丈夫だ。


「この後のことを話さないとね」イリスが私の前に座ると、トールヴァルド、クリストフェル、エストも寄ってきて地面に腰を下ろした。


「ここから普通に飛べば、夜にはノーブルヌに入れると思います」エストが私を見る。「それほど高速でなくても問題はないと思いますが、魔力は持ちそうですか?」

「はい、本当に大丈夫ですよ」

「この森の少し先に南へ出る街道が通ってるのよね?」イリスがクリストフェルに聞く。

「ああ、そうだな」

「じゃあ、クリストフェル王子はそこからオールフェルドに向かったほうが良いわ」

「え? いや、私は――」クリストフェルが腰を上げるが、イリスはそれを制して言葉を続ける。

「いいえ、絶対に行くべきよ。あなたはオールフェルドの王族。私たちよりも領民のために行動しなさい」


 イリスの真剣な目に言葉が出ないクリストフェル。父であるオールフェルド王から私たちを守って国境まで行くように命じられているが、本心では国元に駆けつけたい気持ちがあるのだろう。


「オールフェルド王の言葉は有り難いけど、私たちは大丈夫よ。王だって本当はあなたにオールフェルドへ向かって欲しいと思っているに違いないわ」

「……」

「このままシュタールに敗れればあなたは一生後悔することになるわよ。だから行って」

「……分かった。ありがとう、イリスレーア姫」


 クリストフェルはイリスに頭を下げた。




 休憩もそこそこに森を飛び立ち、街道沿いでクリストフェルを降ろして、また西に飛び続ける。今度は私の飛行魔法にはトールヴァルドが乗っている。


「シュタール軍は見えないな」

「ええ、見付かると厄介でしたが、ツイてましたね」

「そうだな。すでに進軍は済んでしまっているとも言えるがな……」


 シュタール軍はラ・ヴァッレ城だけでなく、他のハーフルトを構成する六国にも同時に兵を出している。詳しい状況はまったく分からないけど、すでに各地で戦闘が始まっていることだろうし、勝敗がついてしまったところもあるに違いない。


「クリストフェル、間に合うと良いですね」

「ああ、間に合うさ」


 日が落ち、空が暗くなってきた頃には、私たちは国境を抜けてノーブルヌのトセリの町に着いた。わずか四日振りなのだが、四日前と状況はかなり変わっている。主に私だが……。


「とりあえず今日は疲れたでしょう? 早めに休んで話は明日にしましょう」


 イリスがそう言ってくれたので、そのまま宿屋へ移動して、私はばったりとベッドに倒れ込むように眠ってしまった。




 宿の窓から朝日が射し込んできて、私は目を覚ました。隣のベッドを見やるとトールヴァルドはまだ眠っているようだ。飛んでいる時は私の心配ばかりしていたが、彼女こそラ・ヴァッレ城ではエストの看病をしていてほとんど眠っていなかったそうだ。


 私はそっとベッドから抜け出し、足音を立てないようにそっと歩いて、扉の方へ移動した。トールヴァルドは目を覚ます様子もない。良かった。心の中で私はトールヴァルドに別れを告げる。


 これまでありがとう、トールヴァルド。忘れませんよ。


 扉が音を立てないようにそっと閉めると、隣の部屋の扉を見る。イリスとエストが泊まっている部屋だ。まだ起き出しているような気配はない。イリスはとてつもなく敏感なので気付かれるかもと思ったけど大丈夫そうだ。私はそちらの扉にも心の内で頭を下げた。


 一階に降りるとまだ宿の人は動き出していないようだ。フロントには誰もいない。入り口の扉をそっと開けて外に出ると、大通りの方へ向かって歩き出す。


「ふう」


 ちょっと息を吐く。ここまでイリスやトールヴァルドに助けられてきたけど、これからは一人だ。いや、正確には一人とは言えないけど……。


 大通りに出るともうすでに町の営みが始まっている。忙しそうに町の人が動いている。私は町の外へ出るために通りを進んでいく。ここで飛行魔法に乗ってしまっても良いが、あまり人の目に付きたくない。


「えっ?」


 町の入り口の広場まで来た私は驚きのあまり思わず声が出た。


「ここまで来て水くさいじゃないの、レティ?」

「そうだぞ、手伝わせろよ」


 イリスとトールヴァルドが立っていた。


「二人とも……」

「だいたいラ・ヴァッレ城に戻ってきた時からおかしいと思ってたんだよ。クラウディアに何を吹き込まれたんだ?」


 トールヴァルドがジッと私の目を見る。クラウディアとラ・ヴァッレ城に戻るとすぐに北門での騒ぎが起きたのでろくに話をする時間もなかったのだ。もっとも、それは逆に助かったけど……。


「それは……」

「まぁ言いたくないなら言わなくても良いわ」イリスが私の手を取る。「でも無理にでも手伝わせてもらうわよ」

「そうだ、そうだ。今さら蚊帳の外はないぜ」


 二人が笑顔で言う。思わず喉の奥がジンと熱くなった。私は顔を上げて言う。


「……分かりました。いえ、ありがとうございます。では、行きましょう」

「行くってどこへ?」

「ヴェードルンドです。大地のドラゴン……フランシスが待っています」

ラ・ヴァッレ城を脱出しました。


続きは明後日です。


※間違いを修正しました。(2018/12/24 17:00)

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