記憶の断片 4ページ
「わとっ!? 」
「大丈夫か!!? 」
「う、うん…平気 」
木の根に足が引っかかって転んでしまったけど、手から転んだため、頭は撃っていない。
けれど痛みが走る右手を見ると、手の平を根ですったのか、赤い血が剥けた皮の隙間から垂れ出ていた。
「うわぁ、深くやったな… 」
「大丈夫大丈夫、すぐに治るから 」
じんわりと頭に響く痛みを感じながらも、まだ手の平に繋がっている皮を指先でむしっていると、傷口から垂れている赤い血液からは白い煙が上がり始め、傷と共に痛みは消えていった。
「立てるか? 」
「うん、ありがとう 」
伸ばされたアキラの手を傷が塞がった右手で掴み、大きな手に引っ張られるように立ち上がると、アキラは何かを探すように辺りを見渡し始めた。
「少し休憩すっか。この体でも脱水はするからな 」
「うん 」
「んじゃちょっと失礼するぞ 」
雨が止んだ後の湿気が高い森の中を歩き続けるのは危険なため、アキラのその意見に賛成すると、アキラは私を軽々と抱えあげ、森の中を高速で走り始めた。
そんな湿気を吹き飛ばすような風を感じながら、しっかりと私の体を抑えてくれるアキラの腕に安心していると、アキラは徐々に走るスピードを緩め始め、私を小さな池の前で下ろしてくれた。
「ありがとう 」
「どういたしましてだ 」
アキラは私に優しい笑顔を向けてくれると、額にかいた汗を深い藍色の袖で拭いながら池に近付き、右手を池の中にそっと浸けた。
そしてしばらくすると、アキラはまた私に優しい笑顔を向けてくれた。
「おし、とりあえずこの池の病原体は浄化した。飲んでいいぞ 」
「ありがとう 」
神器の力で病原体を浄化したアキラにお礼を言い、池の綺麗な水を両手で掬ってゆっくりと喉を潤す。
「ぷはぁ…美味しい 」
「そりゃ良かった 」
アキラはそう言いながら水を左手で掬って飲み始め、2人で十分に水分を補給していると、ある不安が頭の中に生まれてしまった。
「…ねぇアキラ 」
「んっ、どうした? 」
「もし仲間がみんな死んでたら…どうするの? 」
ここ最近で仲間の死や自分の存在価値の無さを何度も実感していたからか、そんな暗い考えを口から漏らしてしまうと、何かが額に近付いてくるのがなんとなく分かった。
すると額を軽く指先で小突かれた。
「いたっ!? 」
「あのなぁ、そういうのは『和の国』に着いてから考えろ。考え無しはダメだが、お前の場合は考え過ぎて辛くなるだけだろ? 」
「うっ… 」
「だからまずは前に進むぞ。不幸は全部俺が背負ってやる 」
そんな自分が不幸になる事を気にもとめないアキラの言葉に、悲しみに近い何かを感じてしまうけど、やっぱりというか…その自棄を含んだ優しさに縋りよってしまう。
「…うん 」
「おし、じゃあ行くか 」
また手を伸ばしてくれたアキラの腕を掴み、ゆっくりと立ち上がってから、また蒸し暑い森の中を突き進む。
私は体力が無い方だけど、持っている神器の恩恵のおかげで体力のあるアキラに着いて行けるが、やっぱり人の足で森を進むのはとてもキツい事だと思っていた。
けれどアキラがこまめに休憩の時間を取ってくれるおかげでそこまでキツくはなく、どちらかと言えば一緒に旅をしている様で楽しかった。
夜になればアキラは落ち葉や木の枝で簡易テントを作ってくれ、木の実を食べてお腹を満たし、疲れた足をマッサージしながらゆっくりと睡眠を取った。
私が寝ている間、アキラは外を夜通し警戒しているという事に申し訳なさが胸を締め付けたけど、アキラは安心していいと優しい笑顔を向けてくれた。
その幸福が申し訳なさを超えたせいで、私は心底安心して眠りに付け、久しぶりに幸せを思えた睡眠時間をたっぷりと堪能できてしまった。
そして7度の朝日を見て、ようやく私達は『和の国』の国境に到着した。
「やっと着いたね 」
「そうだな… 」
私はやっと目的地に着いたことに安堵していたけど、そんな私とは対照的に、アキラは浮かない顔をしていた。
「どうかしたの? 」
「いや…なんでもねぇよ 」
何かを隠すように優しい笑顔を浮かべるアキラに少し違和感を感じてしまうけど、隠したものを暴こうとするほど考え無しな真似はしたくないから、静かに人気がない森を先導していくアキラに着いていく。
「ねぇアキラ、生き残りはどうやって探すの? 」
「…ハッキリ言っていいか? 」
「うん… 」
アキラの少し低くなった声に口に溜まった唾を飲み込み、帰ってくる言葉をただ静かに待っていると、言葉より先に帰ってきたのはアキラの苦笑いだった。
「なんも考えてねぇ… 」
「………はっ? 」
「いやしょうがねぇだろ!? 目立った行動をすれば『不死の国』の情報網に引っかかる心配もあるし、人間と戦闘になりゃどうしようもねぇから強引に話を聞くこともできねぇし………詰んでねぇかこれ? 」
考えていないと言った割には色々と考えているアキラの言葉に、私まで口元を歪めてしまう。
「うーん、確かにそうだね。人間にも不死にも見つかったらいけないってのは凄く難しそう… 」
「だよな。考え無しに国中を探し回るのも効率が悪ぃし、何より確証がないものを探すのは精神に来る 」
早く仲間を見つけたい気持ちの反面、アキラの考えには賛同できてしまう。
『和の国』は『不死の国』の2倍ほどの広さを誇っているし、何より誰にも見つかってはならないというのはとても大変だ。
顎に手を当て、答えが出ない考えに苦悩していると、アキラは不意に足を止めて私に振り返ってきた。
「そこで提案なんだが…まずは拠点を作らないか? 」
「拠点? 」
「あぁ、森の中にちっさな拠点をな。幸い俺らには『魔術式』の知恵があるし、人払いの魔術式を組み込んだ拠点を作りゃ人にも見つかりにくい 」
「確かに…それはいいね 」
確かに拠点があればそこを中心に行動できるし、何より住む場所があるというのは安心できてしまう。
「おし! んじゃやる事は決まったし、動くぞ! 」
「うん… 」
私に向けてくれる優しい笑顔に微笑み返し、2人で木々の種類が変わった森の中を歩き続けた。
仲間とまた会える…そんな微かな希望に縋るように…




