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第49章 最悪の目覚め



「っ!? 」


 不意に意識が暗闇から浮かび上がり、すぐさま体を起こして辺りを見渡すと、そこは久しぶりに見た自室で、私は自分のベットに横になっていた様だ。


「…どういう事だ? 」


 慌てて現状を確認しようとかけられたシーツを剥ぎ取ると、私の服は留袖から薄く白い紬に変わっていた。

 恐らく、燃えた服を誰かが着替えさせてくれたのだろうと理解出来たが、1番問題なのは桜が神器の力に呑まれた後の記憶が無いと言うことだ。


(あれから…どうなったんだ? )


 桜の安否も分からず、現状を確認しようと急いで部屋の扉から出ようとすると、私が開けるより速く扉は開き、扉の向こうに立っていたのは、久しぶりにメイドの服を着た『皐月』の姿だった。


「お目覚めになられましたね、大和様 」


「…いつ帰って来たんだ? 」


「緊急通信を頂きましたので、半日ほど前に 」


「そうか…桜は………生きているのか? 」


「えぇ、桜様なら他の部屋で寝ております 」


 その言葉を聞いて心底安心してしまい、尻もちを着きそうになるが、疑問に思うところが多々あり、それ所ではないと自分に言い聞かせる。


「…あれから何が起こった? 」


 私の一言で皐月は桃色の目を細め、そんな皐月からは迷いが感じられたが、その迷いは細いため息と共に消えていった。


「取り敢えず座ってください。大和様もまだ完全に回復した訳ではありませんから 」


「…あぁ 」


 皐月の言う通りに床に座り込むと、皐月も正座で床に座り、桃色の目で私をじっと見てきた。


「…まず第1にお話します 」


「…頼む 」


「『不死の国』を侵略した不死達のリーダー、『アキラ』は悠人様の手によって殺害され、襲撃者達は殺害、及び捕縛しております。現在も襲撃を受けたという情報は無く、ひとまず驚異は去ったと考えられます 」


「…? そうか 」


 何故そこで悠人の名が出てきたのか一瞬理解できなかったが、取り敢えずはこの国から驚異は去ったのだとは理解でき、安心してしまう。


「ですが、その侵略の範囲は『不死の国』全土に及び、『西の集落』『王都』『迷いの森』『毒の林』の機能がほぼ完全に停止しました 」


「なっ!? 」


 驚異が去った事に一安心する暇もなく告げれた話に驚いてしまうが、その話を聞けてこれから何をすれば良いかが明確に理解出来た。


「…取り敢えず、住居と街の復旧作業が1番だな 」


「えぇ、そうですね 」


 少し微笑みながら頷く皐月からは安心の感情が伝わって来たが、2番目にしなければならない事をするために、確認しなければならない事が1つある。


「なぁ…皐月 」


「…なんでしょう? 」


「………誰が…死んだ? 」


「……… 」


 私の言葉に皐月は何も言わずに目を閉じると、ポケットの中から折り畳まれた小さな紙を取り出し、それを私の前にそっと置いた。


「そちらに怪我人、及び死者の個人名を記しております。どうかゆっくりでいいので、お目をお通し下さい 」


 皐月は表情を消してそう言うと、床から立ち上がり、私に背を向けて扉から出ていこうとするが、その後ろ姿に声をかけて呼び止める。


「皐月… 」


「はい、なんでしょう? 」


「辛かったな。そして…ありがとう 」


「いえ、これも仕事の一環ですから 」


 皐月は私に振り返る事はなく、そのまま扉を開けて部屋から出ていってしまう。


 扉が閉じる寸前に見えた皐月の後ろ姿からは、怒りが感じられた。

 それは恐らく、この国を守れなかった私への怒りだろう。

 けれど今は自分への罵倒よりも先に、この紙の内容を確認しなければならない。


「…ふぅ 」


 息を吐く。


 折り畳まれた紙を指先で開こうとするが、その紙はとても重い。

 が、埒が明かないと自分に言い聞かせ、勢いに身を任せて紙を開くと、大量の名前と怪我の具合、そして『死亡』という文字が頭の中に洪水のように流れ込んできた。


「っう! 」


 その現実(地獄)から逃れようと咄嗟に目を背けてしまうが、現実(これ)を見なければどうやって国を回し、機能が停止した『迷いの森』と『毒の林』に誰を回せば良いかが分からない。

 いや…これは言い訳だ。

 ただ私が…現実(これ)を見たくないだけだ。


「すぅ…はぁ 」


 息を吐く。


 そしてもう一度現実(地獄)を見ると、紙には何処の誰がどのような怪我を負ったのかが事細かに記されていた。


 あまりこんな考えはしたくなかったが、不死殺しの結界を張られたせいで、失った部分が再生せず、四肢の一部を失った者がまぁまぁ居る事が分かってしまった。

 その者達への手当はのちのち考えるとして、今目を通さなければ行けないのは、死亡人数だ。


 『王都』の死者数は、ある神器を利用した避難所のお陰でかなり少なく、死者数は2桁に抑えられているが、それでもやはり、救えなかったという気持ちが胸を蝕んでいく。

 そして目にどうしても入ってしまう『西の集落』の死者数。

 その数は3桁。

 割合でいえば『西の集落』の5分の3死んでいるが、幸い、治らない傷を負った者は少ないらしい。


(………幸い? )


 自分が考えてしまった『幸い』という考えに吐き気がし、その吐き気と怒りを紛らわすために頬を爪先で裂くが、ただ痛いだけで吐き気は全く治まらない。


(何が幸いだ! 仲間が死んでるんだぞ!? )


 自分が考えてしまった事に怒りが収まらないが、冷静になれと自分に言い聞かせながらため息を吐き、頬の傷が治る音を聞きながら2枚目の紙に目を通す。


「っ!? 」


 そこには…見覚えがある名前が記されていた。


 死亡者

 『ゆい』『雷牙』『雅』『セシル』『時雨』『リサ』『燐回』

 負傷者

 『琴乃』:右腕の欠損『陽毬』:両腕の欠損

 『美琴』:右足の欠損『クレア』:下半身、及び両腕の欠損。右目の失明『日陰』:右足の欠損


 それを見ると、さっきまで出てこなかった涙が…両の目から止めどなく溢れてきた。

 知り合いが体を欠損し、そして深く知っている人物が死ぬのはこうも悲しい事なのかと改めて思ってしまうが、ここで止まってはいけない。

 泣いて楽になってはいけない。

 だから紬の袖で涙を拭い取って鼻水をすすり、今自分がやるべき事に頭を回す。


「ふぅー 」


 紙を折りたたんでそれを胸にしまい込み、心を整えて前を向く。


 床から立ち上がり、廊下に向かって足を進める。

 けれど何故だろう。

 前を向いたはずなのに、胸の内に刃を突き立てられる様に痛い。


「…? 」


 その痛みに疑問を感じながら、次にどのような機関が麻痺しているかを確かめるために自分の部屋を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「っ!? 」


 不意に意識が暗闇から浮かび上がり、すぐさま体を起こして辺りを見渡すと、そこは王宮の医療室で、私はベットの上で横になっていた様だ。


「私…は? 」


 何処かぼやける頭を回し、自分の意識が失う直前を思い出そうとするが、全くと言っていいほど何も思い出せない。


 ぼやける頭を働かせながら、ぼんやりと日が差す窓を眺めていると、ふと自分の喉が乾いている事に気が付き、さっき辺りを見渡した時に水が入ったペットボトルがあったなと、ベットの横にある物置に顔を向ける。

 右手を伸ばしてペットボトルを取ろうとした瞬間、違和感に気が付いた。


「…えっ? 」


 伸ばしたはずの自分の手首から先が…無かった。

 まるでそこから先が初めから無かった様に。


「えっ?…いや…なん…っ!! 」


 あまりの現実離れした光景に目を疑い、無くなった手の平を触ろうとしたが、左手にも…手首から先が無かった。


「…私の…手…何処に… 」


 頭にノイズが走った。


 それは断片的な映像だった。


 返り血を浴びたリサ。

 殺してくれとせがむその姿に、頷いたのを覚えている。

 壊された両手。

 窓から落ちる浮遊感。

 助けてくれた…大和様。

 そして壊れた…リサの笑顔。

 けれどやはり無い。

 私の両手が…無くなった映像が…


「ヒュー…ヒュー… 」


 上手く息が吸えない。

 何故だろう。

 腕を肩から無くした事もあった。

 なのにどうして…どうして再生していない…


「はっ…はっ… 」


 息が上手くまとまらない。

 まるでむせび泣いている様に肩が震える。

 胸が釘を打たれる様に痛い。

 返して。

 返して。

 私の手を…物を掴める手を…人を守れる手を…

 けれど現実(それ)は示す。

 私の失った手を。

 もう二度と物を握れない腕を。


「返…して… 」


 目から溢れる涙を指先で拭おうとした。

 けれど何も触れない。

 それがまた胸に釘を打ち付け、更に涙が溢れ出る。


 胸を苦しめる喪失を…際立たせながら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「っ!? 」


 不意に意識が暗闇から浮かび上がり、すぐさま体を起こして辺りを見渡そうとするが、体を起こせない。

 それが何故か分からず、しばらく困惑していると、床を軋ませる音が、ゆっくりとこっちに近付いてくる。


(敵!? )


 自分が何故ここに寝ているかも把握出来てないため、すぐさまそいつに刃を向けようと体を起こそうとするが、体のバランスが取れずに起き上がれない。


(何が)


「おうクレア、起きたか 」


 その安心出来る声に慌てて警戒を解いて顔をそちらに顔を向けると、そこには右手で杖を付きながらこちらにゆっくりと歩いてくる美琴さんの姿があったが、その無い足を庇うようなふらつく足取りが心配でたまらない。

 しかもその左手には湯気が出ている器が持たれており、あまりにも1人で歩くにはアンバランスだった。


「ちょっ、美琴さ」


 慌てて右手を美琴さんに伸ばそうとするが、伸ばした右腕は肘から下がなく、その腕を見ると頭に情報が流れ込む様に自分が寝てしまう前の光景が思い浮かんできた。


(そっか…右腕も左腕も下半身も…この右目も、か )


 自分の欠損部位を理解し、寝起きでまとまらない頭を無理やり回転させて下半身と両腕を光で作り出して体を起こす。


「よっこいせっと 」


「おまっ、まだ寝てろって 」


「大丈夫です。それより…聞きたいことがあるんですけど 」


「…はぁ。まぁ、ゆっくり話してやるからまだ寝てろ 」


 そう言われるけど美琴さんと寝て話すのはもう卒業したため、あぐらをかいて美琴さんをじっと見ていると、美琴さんはため息を吐きながらお尻を床に落としたが、いつも踏ん張りを効かせる足が無いからか、勢いがついたお尻が床に触れた瞬間、床からとんでもない音が聞こえてしまった。


「………クレア 」


「…はい? 」


「何も聞いてないよな? 」


「…はい 」


 顔を赤くさせる美琴さんの顔を見て、取り敢えず口に何も出さないでいると、今の失態を無かったかの様なため息を吐き、少し零れた汁物を腰に巻き付けた布で拭き始めた。


「まぁ話す事は沢山あるんだが、まず最初に言うと、この国全土は外にいる不死達に襲われたらしい 」


「全土…ですか 」


「…あんまり驚かないんだな 」


「えぇ、15年前の続きとか言ってた奴が居たので、まぁ納得したなって感じです…で、被害はどのくらいですか? 」


 その言葉に美琴さんは少し顔を曇らせたけど、1回ため息を吐くと、覚悟を決めた様に口を動かし始めた。


「正確には分かんねぇが…少なくとも100人以上が死んだ 」


「…えっ? 」


 帰って来た答えに言葉がつまり、ただ現実を受け止められずに呆然としてしまうけど、ある事を考えた瞬間、頭に1人の名前が思い浮かんだ。


「心花さんは!? 」


「安心しろ、心花なら今配給の手伝いをしてるよ。これ作ったのも心花と蒼空だし 」


「あっ…良かった 」


 取り敢えず身近な人達が死ななかった事に安堵してしまい、深呼吸をして心を落ち着かせてから、少し気になる事を美琴さんに聞いてみる。


「でも凄いですね。それだけの『不死殺し』を『不死の国』の情報網に気付かれずに集めてたなんて 」


「いや、それがこの国全土に『不死殺し』の結界をはられてたみたいなんだ。だから普通の神器によって殺されても死ぬし、私達の様に…体の一部を失った者も多い 」


 悲しそうに無くなった右足を眺める美琴さんの姿に、自分まで悲しくなってしまったが、美琴さんはすぐに顔を上げると、私に笑顔を向けて来た。


「まぁ安心しろ。その結界をはっていたであろう神器は機能を停止したらしいし、ここは『紬』が守ってくれている 」


「…それなら安心ですね 」


「あぁ 」


 僕を気遣ってか、偽りの笑みを浮かべた美琴さんに少し胸が痛んでしまうが、その痛みを落ち着かせるためにもう一度ため息を吐いてもう1つ気になる事を聞いてみる。


「それで…日陰さんはどうなりました? 」


「あぁ、『王都』から来た使用人に事情を話したらガチガチに拘束されて連れてかれたよ。その後は知らんがまぁ、色々と調べられるだろうし…最悪処刑されるかもな 」


「…ですね 」


 日陰さんが何を思って僕達に殺意を向けたかなど、明確には分からないが、あの人とはまぁまぁ付き合いが長いから、個人的な願いを言えば生きていて欲しい。

 いや、もし血反吐を吐くほど苦しみ、その上で悩み抜いて出した決断ならば…どうか楽になって欲しい。


 そんな正反対な思いを考えていると、湯気が出る匙を口元に近付けられている事に気が付いた。


「ほら、美味いぞ 」


「…失礼します 」


 前髪が匙に触れないようにしながら匙に掬われた汁物を飲み込むと、優しい味がするとても美味しい豚汁だった。


「…美味いか? 」


「へぇ、ほっても 」


「そうかそうか 」


 僕の言葉に嬉しそうに美琴さんは笑顔を浮かべると、僕の口から匙を引き抜き、その匙で汁物を掬って豚汁を食べ始めた。


 美味しそうに豚汁を食べる美琴さんの姿を見て、少し懐かしさを感じていると、美琴さんは何かを気になる事がある様に、僕の体をマジマジと見つめて来た。


「どうしました? 」


「…いやな、お前は『守り人』を続けるつもりなのかな?って 」


「えぇ、当然続けますよ。貴方の願いを…叶えたいですから 」


「………そうか 」


 ただそう言っただけなのに、美琴さんは悲しそうな笑みを浮かべてため息を吐いたけど、その顔を隠すように豚汁を啜り、汁を飲み干した。


「ふぅ、ごっそうさん…それで、他に気になる事はないか? 」


「…『不死の国』の現状とか、どんな風にこの侵略が終わったのかとか、色々気になる事はありますけど…今はお互いゆっくりしましょう 」


「…それもそうだな。気遣いあんがとよ 」


 美琴さんは優しく微笑んでくれると、僕の頭を大きな手で撫でてくれ、それに嬉しさと恥ずかしさを感じていると、急に後ろから大声が聞こえて来た。


「誰か! 赤髪の獣人を見た人は居ませんか!!? 」


 何処か聞いた事のある声に反応して後ろを振り向くと、そこには今まで気が付かなかったが女性達が沢山寝ており、まだ寝ている人達なんてお構い無しに声を荒らげるのは、右目に眼帯を付けた、右腕がない琴乃さんだった。


 何年かぶりに見る琴乃さんに懐かしさだけを感じていると、僕達に気が付いた琴乃さんは人が寝ている隙間を大急ぎで駆け抜け、息を荒くしなから僕達の前にやって来た。


「赤髪の獣人…いや、雅を見ませんでしたか? 」


 顔を青くさせる琴乃さんの問いは僕にとって全く知らない事だった。

 というか何故、守り人になったはずの琴乃さんがここに居る?


「…知ってるぞ 」


 そんな事を疑問に思っていると、美琴さんが何処か暗い声でそう呟いた。


「ほっ、本当か!? 」


「あぁ…着いてきてくれ 」


 美琴さんは暗い雰囲気をかもし出しながら床から立とうとし、慌てて光で義足を作ると、美琴さんは弱い笑みを私に向けて来た。


「ありがとな 」


 美琴さんは義足を使って立ち上がり、僕の頭に大きな手を置くと、縁側に向かって足を進め、裸足のまま明るい外に出ていった。

 琴乃さんもそれに着いていく様に、裸足のまま外に出て行き、僕も何となくそれに着いて行く。


「美琴さんも…足が 」


「あぁ、ちょっとな…琴乃も大丈夫か? 」


「大丈夫…ですね。これでは刀も満足に振れませんが 」


「そうか…そうだよな 」


 段々と闇を深くしていく声に疑問を感じてしまうが、そんな疑問を置いていく様に美琴さんは足を進め、この避難所から離れていく。


 美琴さんが何処に向かっているのかは分からないが、いかにも言葉を交わしたくない雰囲気を出す美琴さんに何も聞けず、ただ整備された道をゆっくりと歩いていく美琴さんに、光の義足を想像で動かしながら着いていく事しか出来ない。


 しばらく道を歩いていると、美琴さんがしっかりと建てられた大きな屋敷に向かっているのだと気が付いたが、何故こんな屋敷に雅さんが居るのかと疑問に思ってしまう。

 避難場所のスペースがなかったのだろうか?

 いや、わざわざ避難させるならあそこからこんな離れた場所に避難させるか?

 

 そんな事を永遠と考えていると、美琴さんはその屋敷の門の前に立っている、神器らしき槍を持った根暗そうな灰色の髪をした不死に声をかけた。


「…中に入らせてくれ。こいつの知人が居る 」


「…ご自由にどうぞ 」


 確か紬さんの奥さんだった様な気がする人は、とても深い青色をした目を僕達に向けると、美琴さんはその人の隣を進んで行き、困惑する琴乃さんと共に屋敷の中に足を進める。


「あの…雅も何処か失ったんですか? 」


「いや…綺麗なままだ 」


「そう…ですか 」


 左手で胸を撫で下ろす琴乃さんに対して、美琴さんの顔がどんどん暗くなっていくのは何故だろうと思っていると、美琴さんは急に足を止め、襖に手をかけた。

 けれど美琴さんは襖をすぐに開ける訳ではなく、何度か深呼吸して、覚悟を決めた様にようやく襖を横にずらすと、襖の向こうから灰の匂いが風に乗って吹き出して来た。


 襖の向こうには一人一人が布団に等間隔で寝せられており、様々な不死が眠っていたが、なんと言うか…その不死達から命の気配がしない。

 まるで…死体の様な。


 そんな事を考えていると、美琴さんはその人達の人が1人通れそうな狭い隙間を歩いて行き、それに琴乃さんと共に静かに着いて行くと、人の頭が並ぶ中で赤い狐の耳をしている不死が見えて来た。


「ほら、会ってやれ 」


「雅!! 」


 その一言と共に琴乃さんは美琴さんの隣を駆け抜けて静かに寝ている雅さんの隣に行くと、雅さんの右手を安心した様に左手で掴んだけど、突然何かに驚いた様に尻もちを付いた。


「えっ…なんっ…冷た」


「…死んでるよ。昨日にはもう…な 」


 美琴さんの暗い言葉を聞いて、やっと美琴さんが暗かった理由を理解できた。


「なんで!? 不死は死なないんじゃ」


「不死殺しだ… 」


「っ!! 」


 現実を突き付けた美琴さんに琴乃さんは左目から零すと、まだ信じられないような表情で雅さんの寝顔を呆然と眺め始めた。


「…クレア、行くぞ 」


「はい 」


 2人きりにさせて上げたいと考えているであろう美琴さんの声に頷き、美琴さんが道を帰り始め、その後に続いて死体達の頭元を通り続け、この部屋の外に出てから襖を閉めると、美琴さんは何も言わずに廊下を進んで外に出て行った。


 美琴さんは昔っから変に優しいから、きっと今から泣くんだろう。

 だからそれに着いていかずに、美琴さんが出て行くのを待ち、しばらくしてから屋敷の中から出ると、屋敷の中から己の弱さを嘆くような、己の選択を後悔するような、この世の全てを憎むような咆哮が聞こえて来た。


 そんか煩い咆哮を聞いていると、普通の不死ならそれを聞いてどうするのだろうかと考えてしまった。


 きっと可哀想と思ったり、気の利いた一言を言ってあげたり、抱きしめたりするのかもしれない。

 けれど僕は…死んだのが僕の知人じゃなくて良かった。

 そう思ってしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 夢を見た。

 家族を2度も失い、泣き喚く事もできずに己を無理やり鼓舞して生きている不死の夢を。


 夢を見た。

 大切なものを全て失い、絶望の淵で復讐を誓う不死の夢を。


 夢を見た。

 体の大半を失ったにも関わらず、己の痛みよりも他人の痛みを理解してしまう不死の夢を。


 夢を見た。

 化膿した心の傷を孕み、その傷を埋めてくれる者を失った哀れな不死の夢を。


 夢を見た。

 愛に裏切られ、受け取った愛を失い、愛を守るために全てを犠牲にし、己の価値を見いだせずに今も苦しんでいる、哀れで愚かで間違っている…不死の夢を。


 夢を見た。

 夢を見た。

 夢を見た。

 夢を…

 夢を……

 夢を………


「んあっ!? 」


 目が開き、ひとまず寝返りをうってみると、開いた目の向こうには暗闇だけが広がっていた。


「いつも通り…だなー。いや逆に変わってたら怖いか 」


 もうすっかり慣れてしまった独り言を呟き、ベットから体を起こしてベットの上にブラックコーヒーで満たしたジョッキを創り出す。


「んっ…んっ…ぷはぁー!! 」


 目を覚ますためにそれを一気飲みし、口周りに付いたコーヒーを拭って創り出したジョッキを後ろに投げ捨てると、思ったより大きな音が出てしまい、肩が跳ねてしまった。


「………まぁいいや 」


 そのうち破片は消えるだろうと投げやりに考え、ベットの隣に炎をおこして自分が寝ているベットを燃やし、明るさを確保してから体を伸ばす。


「んー………あぁ。さて、そろそろ行かないとなー 」


 この快適な空間からはあまり離れたくないが、自分が何故不死になったかを今一度思い出し、もう一度ため息を吐いて体を起こす。


 少し油を染み込ませた木の棒を右手に創り出し、ベットの火を貰って僅かな風が吹く方へと足を進めていると、急に何かに頭が当たり、後ろに尻もちを着いてしまう。


「あだっ!!? 」


 咄嗟に顔面を抑え、冷たい岩の地面で悶えていると、痛みは肉を焼くような音と共に和らいでいく。


「あー、ほんとこの体便利だなー 」


 そんな事を呟きながら右手に狐の面を生み出し、それを顔に嵌めてため息を吐く。

 そして壁に向かって走り、面の力を使って自分を透過させ、力強くジャンプして力を解除すると、あの岩の上に着地した。


「ふぅ…あっぶねー 」


 もう少しタイミングがズレていたら僕の足は今頃足に埋まっていただろうとヒヤヒヤしていると、ふと空気の乱れを感じ、岩の微かな隙間から何かが迫ってくる様な雰囲気が流れ出して来た。


「…おっかねーなー 」


 慌てて縦穴を登り、顔を前に上げてみると、明るい光が狭い通路の先に差している事に気が付いた。


 久しぶりの日光を見て、何か言葉が出るのかと思っていたが、意外にも言葉は出ずに、フラフラとした足取りで洞窟の外に向かって足を進める。

 そして洞窟の外に出ると、目の奥の筋肉がズキズキと痛みを訴えてくるが、瞼を強く閉じてゆっくりと目を開けると、そこには紅葉した木々達がズラリと並んでいた。


「…あれから3ヶ月だもんなー。そりゃあ四季も変わるか 」


 『不死の国』が襲撃にあって早3ヶ月。

 俺…じゃなくて僕はただそれを傍観していただけに過ぎないが、色々と思うところがある。


「うーん、取り敢えず悠人さんだろ? んで桜さん、後はー…行ってから決めっか 」


 独り言を呟きながらしめ縄から足を遠ざけ、ゆっくりと森のざわめきを感じながらあの場所に足を進めていると、ふと落ちた葉っぱを踏む音が木の影から聞こえた。


「んっ、人かな? 」


 そんな事を呟きながら木々の影から顔を覗かせると、そこにはわー大変、猪の家族が居ましたとさ。

 フゴフゴと鼻息を出す猪を見ていると顔から血の気が引いていくのを感じるが、ホッと無音のため息を吐き、猪達に背を向けて全力で森の中を駆ける。


「ビビった! マジでビビった!! 」


 森の中を走り、猪が僕に気が付いていない事を祈りながら茂みの中に体を突っ込ませて茂みを抜けると、そこにはすっかり寂れてしまった『獣人族の里』が見えた。


「あーなっつ 」


 僕の止まっていた時は、いい意味でも悪い意味でもここが原因に動き始めたため、少し懐かしさと疎ましさを感じながらあの場所に足を進める。


 しばらく焼け朽ちた家の隙間を通っていると、あの場所が見えてしまい、ギュッと胸が締め付けられてしまうが、大きく息を吸って吐き、あの場所に、あの人が待つ神社に向かって走る。


 石で作られた鳥居に着くと、正直言ってあまり入りたくないと思ってしまうが、ここを使()()()()貰う以上何か言わないとアレだし、というか久しぶりにあの人達とお話がしたい。

 そんな事を思いながら手水舎で手を清めずに鳥居をくぐると、意外にも辺りの空気に変化は無く、神気の乱れも感じない。


 それに若干の寂しさを感じながら短い階段を登ると、そこにはすっかり寂れてしまったあの人の本殿が見えた。


「うひゃー、すっかり寂れましたね 」


 そう呟くと、本殿の中から視線を感じ始め、それに安心しながら言葉を続ける。


「あー…えっと…色々と言いたい事がありますけど、あのー…そのー… 」


 何か言葉を伝えたいが上手く言葉が出てこない。

 そんな状態でまごついていると、本殿の奥から感じた事のない冷たい空気を感じ取った。


「あるえー、もしかして僕の事、忘れてたりします?いやー、それは寂し………あっ、すみません!! この面つけてたら当然分かりませんよね!? いやつうか顔変わってっから面外しても分かりませんよね!? やっべどうしよう 」


 人間の頃の顔ならこの人は見覚えがあるだろうが、僕は今不死なため、顔も体付きを変わっている。

 だからどうすればこの人は気が付くんだろうと思ってしまうが、なんとなく面を外して、寂れてしまった本殿の中に目を向ける。


「お久しぶりです! そしてえーっとぉー…ただいまです!! 」


 自分ができる最高の笑顔を本殿の中に向けると、何処から冷たく暗い風が吹いた。

 けれど僕は、その風にとても懐かしさを感じ、両目から静かに涙が零してしまった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 心理描写が鬼気迫るものがありますね。 心の葛藤と深い悲しみが読者に良く伝わる素晴らしい文章だと感じました! てかてか、戦略なら良いのですけど、これだけ長い文章にするなら、1話3000文字位…
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