第47章 消えゆく炎 蠢く闇
「キシャアアアアア!!!!! 」
「ははっ、綺麗な顔が台無しだぞ桜… 」
右目に突き刺さった『神斬』を右手で引き抜き、それを地面に投げ捨てて『天沼矛』を左手に構え、化け物と化し、全身の傷を塞いだ桜から一旦距離を離す。
口から虫の足と血が混じったヨダレを出す桜を普通の人間が見れば化け物だと罵るだろうが、桜の過去を知ってる俺から見ればそれは哀れな1人の不死にしか見えない。
が、黒い狐の尾とトンボのような羽根を揺らす桜から伝わるのは一点の曇りもない殺意だ。
それも当然か、俺はこいつの目の前で仲間を殺したのだから。
「GajuAAAAAAAAAAA!!! 」
桜は人間の口から出たとは思えない声を辺りに響かせた次の瞬間、空気を揺らす様な羽音が耳を叩いた。
迫り来る桜の右足。
「っ!! 」
「きゃあ!? 」
隣にいる時雨の体を着た凜音の頭を下げて蹴りを躱すと、後ろにいる虫の羽を背中に生やした『輪宮』に桜の蹴りが迫るが、輪宮は容易く桜の蹴りを砕けた大剣で切り落とした。
しかし桜の足は瞬時に再生すると、そのまま輪宮の顔面に重い蹴りを入れた。
「ぶっ!! 」
鼻血を吹き出す輪宮は虫の羽を動かして足から着地したが、それに追撃するように桜は右腕に黒い狐の尾を纏わせ、槍と化した右腕の刃先を輪宮に向けた。
「グジュウゥゥ!!! 」
「躱せ!! 」
咄嗟にそう叫ぶと、輪宮は虫の羽を動かして上に飛んだが、桜の右腕から放たれた槍は輪宮の両足と辺りの木を吹き飛ばした。
「っ゛う゛!! 」
けれど輪宮は虫の羽を動かして桜に空中から接近し、それに合わせるようにローブを被ったままの『春』と『秋』は桜の背後へと瞬間移動すると、袖の隙間から出した刀を桜に振るい、桜の首と背中に3方向から刃が迫る。
「よせっ!!! 」
咄嗟にそう叫ぶが刃は止まらずに桜の体の中に滑り込んだ。
しかし切り落とされた両袈裟と首は瞬時に桜の体に引き戻され、右腕に絡まった黒い狐の尾が三本の剣となり、困惑の表情を浮かべた3人の顔面に迫る。
(天沼矛!! )
神器を地面に突き刺し、地面を隆起させて空中にいる輪宮と春と秋を突き飛ばすと、その黒い剣は神器で生み出したはずの岩を容易く貫通した。
岩で吹き飛ばした2人は桜から離れた地面に着地し、輪宮は両足から大量の血を吐き出しながら虫の羽で傷口が地面に付かないように飛んでいる。
「っう…なんなんだこいつは? 」
そう声を漏らした春の言葉に歯ぎしりをしてしまうが、情報交換をしなければここにいる全員が死んでしまう可能性があるため、冷静に俺が知る桜の情報を全員に伝える。
「…不死になった体に人為的に『神虫』と『天狐』の1部を混合させただけの紛い物だ……能力は自分の体を再生させる『時戻し』と体を虫に変える『変質』…殺害は不可能に近い 」
そう簡潔に説明すると、俺の意図を察してくれた全員は小さく頷いてくれたが、その隙に桜は横腹から蜘蛛の足を生み出しており、その黒い目は赤い複眼に変わっていた。
(是が非でも俺らを殺そうとするか…桜 )
殺意を具現化させたような桜の姿に哀れみを覚えてしまい、速く楽にさせてやりたいと強く思ってしまうが、その想いが伝わっていない様に桜は口周りから蜂の下顎の様なものを出し、両足を蝗の様な歪な足に、両腕を蟷螂の鎌に変化させた。
「フーッ…フーッ… 」
「来るぞ… 」
そう全員に忠告した瞬間に桜は歪な体を丸め、地面から跳ねるように俺の方へ突進して来たが、その勢いに合わせて右の突きを桜の腹に打ち込むと、桜の背骨をへし折れたが、桜は時を戻して体を再生させ、俺の腕に腹から生やした虫の足を絡めて来た。
「フーッ!!! 」
桜は俺の首を噛みちぎろうと蜂の口を俺に近付けてくるが、それを首に槍の柄を押し付けて全力で抵抗していると、後ろから時雨の声が聞こえた。
「アキラ!! 」
けれど俺をアキラと呼ぶ声にそいつは時雨では無いこと思い出した瞬間、桜は複眼の目から涙を流し、地面に歪な膝を着いた。
(ナイスだ! )
桜が凜音の魔法を受けた隙を突き、後頭部から眼球を潰すように砕けた大剣が桜の頭を貫通、腰に2本の刀が突き刺され、血を吐いた桜の首に槍を横から突き刺して体に力を入れ、重たい桜の体を右腕の力で持ち上げ地面に殴りつける。
「グポッ!!! 」
赤い泡を吐いた桜の体と狐の尾を『天沼矛』で生み出した岩で貫通させ、返しを生み出してからその岩の時を止める。
「ギッ…ジュッ…アッ… 」
頭を潰され、背骨を断たれ、首に槍が突き刺さっているにも関わらず桜は全身の虫の足を動かし、意地でも俺を殺そうとするが、個人的な気持ちを出してしまえばもう桜には眠ってもらいたい。
そんな願いを胸に右腕を無理やり引き抜いてから槍を蹴り上げ、桜の首を180度回転させると、桜の首からは生々しい悲鳴が上がり、辺りには赤い血液が広がっていく。
「グッ…ジュ… 」
体を岩で串刺しにしているため、いくら時を戻そうと傷口は塞がらず、このまま放置しておけば失血で死ぬだろう。
「はぁ… 」
桜を楽に殺してやれない悔しさを感じながらも槍の根元を岩で固定すると、どっと気が抜けてしまう。
「ふぅ…これで侵略は完了した。今日から不死の国は俺の物だ… 」
そう呟くとここにいる全員は小さく頷いたが、虫の羽で飛んでいる輪宮は顔を青くさせ、地面にボトリと背中から落ちてしまった。
「おい大丈夫か!? 」
「…すいません、少し血が足りなくて… 」
「おい凜音、お前時雨の魔法使えんだろ? 止血してやれ 」
「はーい 」
時雨の声で返事をする凜音の声に少し違和感を覚えるが、二度と元の体に戻れない凜音の事を考えると責めることも時雨を巻き込んだ事も責める事は出来ない。
そんなことを考えていると、凜音は右手を輪宮に伸ばし、時雨の魔法で生み出した植物で意図も簡単に輪宮の両足からの失血を止めた。
「ふぅ…ありがとう凜音 」
「いえいえー、貴重な戦力を失うのは痛いですからー 」
顔色を少し良くさせた輪宮の顔を見て少し安心するが、脳の奥をくすぐる微かな眠気のせいで自分にはあまり活動時間は残されていないのだと悟り、すぐに全員に命令する。
「最後は王都だ。真白を確保し、東西南北の仲間を中央に集め次第、不死殺しの結界を解除する。それが終わればようやく…この戦いは終わりだ 」
その終わりという言葉に俺も含めた全員は少し気を抜いたようにため息を吐いたが、まだ戦いは終わっていないと気を引き締めながら輪宮に近付き、輪宮の細い体を抱き抱える。
「えちょ!? 」
「暴れんな、お前は少し休んでろ 」
虫の羽をばたつかせる輪宮に強めにそう言うと、輪宮は何故か顔を両手で隠しながら大人しくなった。
何故血が足りない筈なのに顔を赤くさせたのだろうかと疑問に思いながらも全員で王都に向かって足を進めていると、ふと疑問がある事に気がついた。
「つうか凜音、お前東に行ったんじゃなかったのか? 」
「えっ? ちゃんと行ってセシルとかいう馬鹿げた不死は殺して来ましたよ? 」
「ならヨールはどうした? 」
「あぁ、ヨールなら間一髪のところで助けれましたよ。途中までは一緒に居たんですけど、一足先に王都に向かいました 」
「そうか… 」
独断行動はなるべく控えて欲しいのだが、まぁヨールの魔法は敵が毒系か異質な魔法では無い限り無敵だから大丈夫だろうと考え、南に向かって足を進める。
「長かったっすね 」
不意に春が言葉を漏らした。
確かに長かった。
俺が凜音のお陰で黄泉帰り、15年間掛けてじっくりと大和を追い詰め、ここまで来た。
これで大和はもう苦しまなくていいし、桜も闇を抱える心配もない。
そして俺は…不死だけの世界を作る。
そんな思いにふけこんでいると、肌をチロりと黒い何かが舐め、それに反応するように足が止まってしまった。
「アキラ様? 」
「どうかしましたか? 」
「………? 」
何故自分でも足を止めてしまったのか分からないが、額に汗が滲み、動悸がし、呼吸が荒くなる。
「アキラ様!? 」
そんな恐怖を煽るような辺りの空気に何処か懐かしさを感じていると、辺りの青々とした森の木々が一気に枯れ落ちた。
「「っ!! 」」
「攻撃!? 」
声を荒らげる春と秋と輪宮は辺りを警戒するが、俺が…俺だけが…気が付いていた。
南の方から…何かが近付いて来ている事に。
「いっ!! 」
抱き抱えた輪宮を地面に落としてしまい、尻を摩る輪宮は俺の方に何が何だか分からない様な目を向けて来たが、そんな事よりも不味い何かがこちらに近づいてくる。
例えるならそう…絶対に近付いては行けない太陽の様な……
「凜音、お前は国の外に逃げろ 」
「えっ? 何を言って」
「速くしろ!!! 」
咄嗟に声を荒らげると、凜音は困惑しながらも凜音だけが持っている避難用の転移魔具をローブの隙間から取り出し、紫色のゲートを生み出した。
戸惑いながらも凜音はゲートの中に足を運ぼうとした瞬間、それを遮るように空気が揺らぎ、顔が見えない黒い人型の影が凜音の背後に現れた。
「えっ? 」
「っ!! 」
言葉を置き去りにし、反射的に左手で時雨の体を押すと、凜音が居た場所に刀が通り過ぎ、俺の左腕を黒い刀が切断した。
「っ゛う゛!! 」
「きゃっ!! 」
地面に倒れた凜音が小さな悲鳴を上げると同時に俺の左腕が地面に落ちたが、黒い人型の影は何も動じていない様に刀を振るい、剣圧で刀に付いた血を落とした。
左腕に痛みはあった。
けれどそれを多い潰すような懐かしさが胸を覆い、記憶が揺さぶられる。
この黒い影の正体…それは………
「…イザナミ? 」
左腕の痛みを忘れるほどの懐かしさを口に出すと、その黒い影は蠢き、人型の影を大きく歪ませた。
けれど人型を歪に保っているからかそいつはあの時のイザナミの様だった。
(っ! 飲まれるな!! )
俺も不死の体に神の死体を人為的に融合させた紛い物なため、自分の存在が弱くなれば俺も桜の様に神の力に飲まれてしまう。
そうならない様に気を引き締め直し、神器を左腕に生み出す。
(天雨柱 )
切断された左腕を覆うように曇り空色の柱を生み出し、歪に歪んだ謎の影を睨んでいると、謎の影は黒い刀を構え、人も物も平等に怨むような殺意を辺りに広げた。
それが攻撃の合図だと悟り、地面に向けて柱を叩き落とすと、辺りの地面はヒビを広げた。
足場を悪くさせ、影の行動を封じて柱の質量に任せた突きを影に打ち込むが、柱に触れた影は空気に溶けるようにその場から消え、瞬間移動するように虫の羽で宙を飛ぶ輪宮の背後に回り込んだ。
「輪宮!! 」
「っ!? 」
影は完全に輪宮の背後にいるため助けに行けず、声だけで避けてくれと叫ぶと、輪宮は両手に『サムサイルの牙』という白い大剣を生み出し、振り返りながら大剣を振るったが、その大剣が黒い刀に触れると砂の塊が砕けるように大剣の刃は簡単に折れた。
「っう!! 神器 展開!! 」
輪宮は砕けた大剣を両手で強く握ると、背中に更に虫の羽を生やし、その大剣を影の顔面に突き立てると、影の顔面になんの抵抗もなく刃は突き刺さった。
けれど影は何事も無かったように右手の刀を動かし、輪宮の両腕を下から容易く切断した。
「っ!! 」
両腕が切り落とされた輪宮を助けるべく、地面を咄嗟に蹴ると、輪宮は逃げるように虫の羽を動かして後ろに飛び、すぐさま影に向かって柱を突くが、影にはやはり手応えは無く、影は右手に持った刀を変則的に動く輪宮に向かって投げた。
「ぷっ!? 」
輪宮はそんな腑抜けた声を漏らすと虫が叩かれた様に地面に落ち、地面に落ちた輪宮の顔の真ん中には黒い刀が貫通していた。
「っう!! 」
仲間の死を間近で見たせいで頭の中に血流が巡るが、こうなる覚悟は済ませたはずだと自分に言い聞かせ手ぶらな影に向かって横1文字に柱を振るうが、影は空気に解けるようにその場から消え、俺の背後に影は回り込んだ。
肌をゾワリと舐める殺意に冷や汗が滲み、振り向きざまに柱を横に振るうが影はまたもその場から消え、影は死んだ輪宮の近くに移動すると、輪宮の頭から黒い刀を右手で引き抜いた。
「『夏風』! 」
「『冬風』! 」
「「神器 展開!! 」」
その影に向かって怒号を飛ばすように春と秋は神器を展開させたが、影はまたその場から消え、影は瞬間移動したように春の背後に立っていた。
けれど春は魔法で瞬間移動して影から距離を離したが、影は迫るようにまたも瞬間移動し、背中を向ける春の袈裟を切り落とそうと刀を振りかぶった。
「しゃがめ!! 」
その秋の声に反応するように春は身を屈め、肩で地面を滑りながら振り向きざまに影の足を、瞬間移動して影と間合いを詰めた秋は影の頭に刀を振るったが、影になんの抵抗もなく刃は吸い込まれ、手応えはなかった。
2人は攻撃を空振ったため体制を崩し、すぐに2人は瞬間移動をしようとしたが、それよりも速く離れている俺にも伝わるほどの殺意が全身を叩いた。
次の瞬間、揺らぐ影が2人の隙間を通り過ぎた。
すると2人の体は両腕を落としながら胴が体から転げ落ちた。
「っ!! 」
また仲間が死んだ事実に頭に血が登り、天雨柱を振り上げて影に振り下ろすが、柱は影を押し潰し地面にヒビを広げた。
けれど影は何事も無かったように俺の隣に現れ、顔に迫る黒い刀を咄嗟にしゃがんで避け、体を回しながら大ぶりの柱の一撃を影に打ち込むが、またも影の体を柱はすり抜けた。
(どうなって!? )
攻撃が通らない影に驚きながらも迫る黒い刀の突きを後ろに飛んで避ける。
このままでは埒が明かない。
ならば、俺が取れる行動は1つしかない。
「凜音! お前だけでも逃げろ! ここは俺が引き受ける!! 」
そう声を荒らげるが後ろにいる凜音から返事はない。
それに疑問を思いながらもチラリと後ろを振り向くと、そこには両手で口周りを抑え、その手の隙間から大量の黒い血液を吐き出していた。
「ごぽっ…なに…が… 」
「りん」
そんな凜音に近寄ろうとするが、凜音は地面に倒れ、自分が吐き出した血液の中に溺れていく。
それに続くように鳩尾の少し左に鈍い痛みが走ると、膝を地面に着いてしまい、口から大量の黒い血液が漏れだしてしまう。
「がはっ! 」
(っ!? まさか… )
黒い血液の中に蠢く白い米粒台のウジを見て、その影が何かをしたのだと直感的に悟っていると、影は俺にゆっくりと足を進め、見えない顔で俺の顔をじっと見つめてくる。
こいつは何者か…
そんな考えが頭の中を駆け巡るが、俺が言うのは場違いな言葉が心の中に生まれ、血を吸い込まないように鼻から息を吸って肺を広げ、怒りで狭くなった目で影を睨みつける。
「よくも…俺の仲間を殺してくれたな! 」
(神器 展開!! )
天雨柱を展開し、曇り空色の柱を赤色に染め上げ、力を増した腕力で柱を振り回し、影を上から押しつぶす様に地面に叩きつけると、地面は先程とは比にもならないほどの範囲を崩壊させ、地面に転がる仲間の死体を宙に巻いあげたが、影は何事も無かったように崩壊した地面に現れ、刀を横に構えた。
「っ!? 」
咄嗟に神器でその攻撃を受けようと柱を振り回すが、その柱が刀に触れた瞬間にスッパリと斬られた。
(っ…やはりか!! )
こいつの神器は神器を何でも斬ることが出来る能力なのだと確信し、それならばその刀だけに気を付けて居ればいいと斬られた柱を影に向かって突くが、影はまたしても瞬間移動し、俺の隣に刀を振るい始めていた。
が、ある程度出現位置は予想していたため、右足で影の右足を蹴ると影の中に右足は吸い込まれたが、観察した限りではこいつは攻撃を受けてる最中は動けない。
その隙にすぐさま左腕の柱で刀を抑え、右腕の手刀を影の首に打ち込むが、手刀は影をすり抜けた。
しかし、影が実在するのであればどこかに肉体の部分はある。
そうでなければ柱の攻撃を避けたりはしないはずだ。
「ふっ! 」
思考を回しながら体を動かし、肉体がありそうな部位を足と右腕で攻撃していると、ふいに右腕と右足に感覚が消え、反射的に後ろに飛んでしまった。
すると右足の踏ん張りが効かずに地面に膝を着いてしまい、すぐさま痛みを感じる右足と右手に視線を送ると、俺の右足と右腕は黒いシワが集まるように腐っており、そのふやけた白色の肌にはあの時のイザナミの様に白色ウジが蔓延っていた。
その見た事がある懐かしい光景に言葉を失っていると、黒い刀が顔面に迫っている事に遅れて気が付いた。
「っ!!? 」
すぐさま身を屈め、左足と柱の力で後ろに飛ぶと、黒い刀は空を空ぶった。
「ふぅ…ふぅ… 」
奴は単調な攻撃しかしてこないが、触れるものを腐らせる力と実態がない歪な体を前に為す術もない。
いや、ある事にはあるのだが、これをすれば俺は動けなくなる。
けれど、俺はアイツらの無念と思いを背負ってここに来た。
だからこそ、だからこそ! ここでこいつを殺す!!
「すぅぅ… 」
殺気が混じった空気の中で息を吸い、覚悟を決めて言葉を綴る。
「『伊邪那岐』、神器 展開 」
己の魂と融合させた神の名を呼び、人為的に埋め込んだ神の細胞を展開させると、神の細胞に成り代わった右腕と右足は再生し、得体の知れない何かが体を覆っていく。
(っ! 飲まれる…な!! )
神の細胞に飲まれないように何度も死んで逝った奴らの事を思い出しながら意識を強固に保っていると、俺の事を眺めている影は刀を横に構え、初めて言葉を発した。
「 神成り 『伊邪那美』 」
そんな聞き覚えのない男の声が遠くの方で聞こえたが、その聞き馴染みの言葉に反応するように影は揺らぎ、影は人型に凝縮されると、白い肌を黒い留袖の様な服の隙間からチラつかせる中性的で男か女か分からない人型の何かが生まれ、そいつは黒と紫色の2つの目のうちの紫色の目だけから、透明な涙を流していた。
(やっと…会えたな )
心の中で聞き覚えのない声が聞こえると、俺の右目からも涙が溢れてきたが、再生した右手で涙を拭い、胸の中に生まれた感動と後悔と懺悔を無視し、神器の意思に赴くままに頭を使うと、目の前に1本の赤い刀が現れた。
「天之尾羽張 」
それを再生した両手で持つと、赤い炎が刃を更に赤く染め上げ、その刃先を敵に向ける。
これが俺が出せる最後の技だと直感的に理解し、己の全てを賭けて刀を振り上げる。
すると敵も刀を下に構え、ちょうど振りかぶる俺と対になる構えを取った。
静寂。
しかし、最後の瞬間はふいに訪れた。
まるで…あの時のように…
「天血空 」
口から勝手に出た言葉に合わせて刀を振り下ろした瞬間、世界を覆い尽くす様な赫炎が吹き荒れ、辺りの木々達が消し飛んだ。
けれどその炎の中に敵はおり、その敵は炎の中でも冷静に刀を振り上げた。
「虚空 」
次の瞬間、赫炎を塗り潰す様な暗闇が迫り、咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが、その暗闇に飲み込まれてしまい、咄嗟に目を閉じてしまった。
・・・?
痛みはない。
けれど、体の感覚はある。
そっと目を開くと、そこには暗闇が広がっており、その暗闇は果てがないと感じられる程だった。
「何処だ…ここは… 」
そんな見たこともないのに見覚えがある暗闇の中で佇んでしまう。
(俺はどうなった? まさか… )
「死んだのか? 」
目の前に広がる暗闇の中でそう言葉を漏らしてしまうと、その言葉を拒絶するように心は痛み、歯ぎしりをしてしまう。
(いや、冷静なれ。1度死んだ時はこんな感覚ではなかった )
大和から殺されたあの時、死は意外にも安らかだということを知った。
けれどこの暗闇は冷たく、ここに俺が居ることを拒んでいる様だった。
だからこそここ死の世界ではなく、どこかへ飛ばされたのだと冷静に頭を回し、取り敢えず暗闇の中を歩こうとした瞬間、声が聞こえた。
「待ってましたよ、伊邪那岐さん。いや、アキラさん 」
「っ!? 」
俺をアキラと呼ぶ聞き覚えのない声に反応し、辺りを見渡すが、辺りには誰もいない。
「誰だ!! 」
「そう怒鳴らないで下さい…耳に響きますから 」
聞き覚えのない男の声はそうボヤくように呟くと、暗闇の中に響く様なため息を吐いた。
「今貴方はここは何処だと思ってるでしょうね 」
「っ!? 」
俺の心を読んだような声に反応してしまい、もう一度辺りを見渡すが、辺りにはやはり誰もいない。
「それには答えましょう。ここは貴方が…いえ、その体が来たがっていた場所、黄泉國です 」
(つう事はまさか!? )
「いえ、貴方は死んでないです。黄泉の闇によってここに招かれただけの客人の様な者ですね 」
男はまたも俺の心を読んだように言葉を続けるが、こっちとしてはそれを冷静に聞けるほどの余裕はない。
「なら出口は何処だ! 」
「出口ならありますよ。ほら…貴方の後ろに 」
その後ろと言う言葉だけは背後から聞こえると、殺意が全身を舐めまわし、振り向きざまに手刀で背後に振るうが何にも当たらなかった。
(なんっ!? )
「僕の声に反応した。それが貴方の」
「っ!! 」
また背後から声が聞こえ、今度は左の斬られた柱で背後を攻撃するが、またもその柱は空気を空ぶった。
(何が起こ)
「命取り 」
背中を誰かから触られた。
次の瞬間、何も感じなくなった。
・・・?
何も感じない。
体は何処だ?
この死の安らぎは…
俺は…何か成し遂げられたか?
なぁ、お前達…
俺は…俺は…オレ…わ……
意識が…消えた。
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「………暇だな 」
「んー? 」
私の後ろで私の髪を触る蒼空にそう声をかけるが、蒼空は私の髪を触る事に夢中なのか適当な返事しか返してこない。
(まぁ、この時間があるって事は平和な事なんだろうな )
苦痛の悩みもなく、ただ退屈と思えるこの時間のありがたみを私はよく知っている。
だからこそこの平和な時間が無くなるとしても、今感じれる幸せを噛み締めようと、髪を触られるくすぐったさを感じながら天気が良い今日の青空を眺め続ける。
(暖かいな )
抱きしめられるような陽だまりの温かさを感じていると、眠気が私を夢の中に誘おうとするが、それを遮るように茂みを書き分ける音が私の耳を叩いた。
「っ!? 」
緩んだ気をすぐさま引き締め、音が鳴った方に顔を向けると、そこから泥と血で汚した服を身にまとい、両腕と両足、顔の左半分を黄茶色に染めたクレアが茂みから倒れるように飛び出して来た。
「っ!! どうしたクレア!? 」
縁側から裸足で飛び出し、熱い砂の地面を足裏で感じながらクレアに近付くと、クレアは荒い息をしながら私に左の日色の目を向けて来た。
その黄茶色の肌はクレアが神器を展開させた跡だと見たことがある私なら簡単に気がついたが、分からないのはクレアがなぜ神器を展開させたのかだ。
「大丈夫かクレア!? 何があった!? 」
「っう…ゲホッ!! ヒュー…敵襲、です 」
「っ!! 数と範囲は!? 」
「数は正確には不明…です。 範囲は見た限りで西の集落全土です。被害に合ってる人達が居ましたので、何人か殺しました 」
その一言でこの血は返り血かと少し安心してしまうが、クレアが神器を展開するほど追い詰めた相手が西の集落を襲っているとなると、それはかなり大規模な侵攻と言うことになる。
けれど、疑問に思う事が1つある。
「紬は!? あいつはどこにいる!! 」
「分かりま…せん。でも、あの人が襲撃を受けているのに何もしていないという事…は 」
「殺られた可能性が高いってことか 」
不死の国で3番目に強い紬が殺られたとなると、敵は相当な戦力を持っているのだと考え、すぐさま後ろを振り向く。
「蒼空! お前は王都に逃げろ!! 」
「美琴は!? 」
「私はここに残る! 」
納得が行かなそうにする蒼空を強い眼差しで睨むが、そうこうしている時間も無いため、クレアに右手を伸ばす。
「立てるか? 立てるなら行くぞ 」
「…はい 」
腐った腕を伸ばされ、あの時の馬鹿なガキを思い出してしまうが、揺さぶられる記憶を無視してその腕をそっと掴んでクレアを起こし、悪魔と天使の様な羽を動かすクレアと一緒に集落へ向かおうとした瞬間、木々の隙間を通るような音が辺りに響き渡った。
「っ!! 」
木々の隙間から現れたのは3人の顔が見えない服を着た不死が現れたが、そいつらにクレアは闇を纏わせた光の剣を飛ばし、それは2人の頭を吹き飛ばしたが、残った1人は空気に溶ける様に消え、その気配は背後に回り込んだ。
けれど遅く、振り向きざまに右肘を振り回すと、その肘は不死の顎を捉え脳を揺らしたが、念の為に膝から力を抜いた不死の胸ぐらを掴んで意識がない不死の顔面に頭突きをし、頭の骨を砕いてから腰を回し、その捻りを利用して不死を持ち上げて地面に叩き付け、体を痙攣させる不死の頭を右足で踏み潰す。
「…ふぅ 」
「相変わらず…凄い戦い方をしますね 」
「お前もな 」
腐った顔に笑みを浮かべるクレアに微笑み返し、意識を切り替えながら集落の方に顔を向ける。
「さぁ、行くぞ 」
「はい 」
クレアにそう声をかけ、2人で集落に向かって足を進めようとした瞬間、辺りの空気が変わった。
暖かい日は冷たい冷気の様に冷たくなり、熱いはずの砂の地面は夜の砂漠の様に冷たくなった。
その得体のしれない空気に鳥肌が立ち、すぐさま辺りを警戒しようとした瞬間、透明で青い矢が森の中から蒼空に向かって飛んで行った。
「そ」
蒼空の名前を咄嗟に叫ぼうとするが、それよりも速く矢は蒼空の眉間に到達しようとしたが、それを助けるように光速で動くクレアが横から蒼空を抱き抱え、その矢を躱した。
それに一安心しながらも気を抜かずに辺りを見渡すと、矢が通って来た道の青い葉は原型を留めたまま凍っており、地面も矢が通り過ぎた私達の家の中も凍っていた。
その光景は見た事がある。
例えばそう、15年前に。
「おや、躱しましたか。楽に殺してあげるつもりだったんですけどね 」
その聞き覚えのある声は氷を踏む音と共にこちらに近付てくる。
その隙にそいつとあの攻撃をしたのは誰かと特定しようと頭を回していたが、蒼空を地面に投げ捨てたクレアは腐った顔を険しくさせ、その音の方に顔を向けた。
瞬間、木々の隙間から小さな不死が姿を現し、巨大な袖余りを揺らすその姿は…日陰のものだった。
「なぜ貴方がここに居るんですか!! 」
「ふふっ、それはですね。戦争を終わらせに来たんです 」
そんな意味がわからない言葉を発した日陰は赤灰色の目をこちらに向けると、その小さな顔に笑みを浮かばせた。
すると日陰の後ろに、銀色の巨大な鎌と弓、大剣と鎧を現れた。
「『魂を運ぶ鎌』 『魂を喰らう弓』 『魂を断つ大剣』 『魂を犯す鎧』、神器 展開 」
神器を生み出した日陰はそう言葉を綴ると、その銀色の武器全てに黒い線が浮かび上がり、その鎧は日陰の体にまとわり付き、弓は日陰の小さな左手に弓は構えられた。
「さぁ、始めましょうか。終戦のための戦いを 」
日陰はどこか寂しそうで優しい笑みをその小さな顔に浮かべた。




