第45章 化け物
「・・・やっと死ねたね、大和ちゃん 」
頭と胸が潰れた大和ちゃんの死体を上から眺め、大和ちゃんがやっと死ねた事に悲しみに近い感情を感じていると、頬に涙が伝っていく。
こうなる事は覚悟してた。
けれどやっぱり、大和ちゃんを殺したのは悲しい。
「・・・後は 」
私が神器で作り出したこの空間を閉ざそうとした瞬間、空気が軋んだ。
「っ!? 」
この何度も感じたことのある空気を肌で受け、すぐさま視線を大和ちゃんの死体に向けると、そこには槍で潰れたぐちゃぐちゃの死体があったが、その死体の赤い肉はゆっくりと脈動するように動いていた。
「!? 」
何か嫌な予感がし、私の神器で武器をすぐさま作り出す。
(穢れ犯す邪槍)
紫色の槍を空中に作り出し、その巨大な槍を大和ちゃんの肉片を吹き飛ばす様に放ったが、その一撃は何事もないように大和ちゃんだった肉塊を質量で押し潰した。
(・・・なんだったの? )
さっきは間違いなく大和ちゃんの死体は動いていた。
そんな有り得ないものを目撃したように動揺していると、私が撃ち込んだ槍はグラりとバランスを崩し、そのまま地面に倒れ、騒音を辺りに響かせた。
「っ!!? 」
倒れた槍の真下に居たのは、上半身が赤い流体状にうねっている素っ裸の大和ちゃんが立っていた。
「なっ!? 」
何故生きていると声を驚きの出そうとしたが、それは唾と共に飲み込まれてしまった。
その赤い流体状の肉は大和ちゃんの潰れた両腕に纏って行き、その両手を治して行く。
けれど驚いたのはそれだけじゃない。
「・・・つ・・・角? 」
1番驚いたのは、大和ちゃんの額を下から貫通するように生えた、1本の灰紫色の角だった。
不死では有り得ない再生の仕方と額から生えた角。
大和ちゃんの神器についての情報は全部知っているため、あれが神器によるものでは無いとすぐさま理解出来た。
それが示す答えはただ1つ。
大和ちゃんは元々、人間ではない。
けれど元が人間にしては強過ぎた大和ちゃんの異様さにそれで説明が付き、それならばまた殺せば良いだけだと頭を切り替える。
「『世界を創成する者』神器 展開 」
神器を展開させると筆は白い光と変わり、私の顔を覆うと白銀の兜と化した。
これで私は想像した物をタイムラグ無しで生み出せる。
「ふぅぅぅ 」
神経を集中させ、大和ちゃんをもう一度殺すために頭を切り替えた瞬間、大和ちゃんの全身に赤い炎が纏った。
「火衣 」
大和ちゃんの炎の性質は知っているため、これでは魔法による攻撃の効果は薄くなると思い、背中に生えさせた『セリウスの翼』を白い翼へと変え、自分の機動力を上げる。
そして静寂が訪れ、しばらくの間大和ちゃんの肉が焼ける音だけを聞いていると、大和ちゃんが落ちていた2つの刀を蹴りあげ、それを空中で掴んで構えた。
「『風切り(かざき)』、『神斬』、神器 展開 」
「っ!? 」
そんな言葉が響いた瞬間、『風切り』の銀色の刃は空に溶ける様に消えると、大和ちゃんの全身の皮膚を突き破って刀が体から生え、神斬には赤いスジが浮かび上がって行く。
風切りは展開すると全身に刃を生み出し、それら全てが斬撃を放て、その斬撃を意のままに操ることが出来ると言ったものだ。
そして神斬。
それは展開すると、血を吸った神の力を自信に上乗せできると言った神殺しの一振。
その2つを同時に展開させたと言う事は・・・
「行くぞ・・・ 」
重々しい声と共に、空気が軋んだ。
地面を蹴る音と共に大和ちゃんは消えた瞬間、真下から切り上げられ、股から顔にかけて両断された。
(反応 )
出来なかった。
すぐさま右半身を服ごと再生させ、宙に居る大和ちゃんから身を守るために『不変の盾』を創成するが、それを躱すように斬撃が放たれ、白い斬撃が視界を赤く塗り潰した。
「っ!! 」
顔を潰されたのだと悟り、すぐさま頭を再生させた瞬間、刀を振り上げる大和ちゃんの体が見え、振り上げられた柄で空中から殴り落とされた。
「っ゛う゛!! 」
景色を赤く染めながら地面に落下し、すぐさま体を再生させて頭上を見上げた瞬間、そこには白い斬撃の嵐が舞っていた。
(不変の鎧! )
すぐさま神器で身を守り、その嵐の中心にいる大和ちゃんの後ろに闇で生み出した『アイアン・メイデン』を作り、すぐさま紫色の槍を地面から大和ちゃんに向けて放出するが、大和ちゃんは『アイアン・メイデン』を蹴って加速し、その勢いのまま私の兜を右足に生えた刀で貫通させられ、地面に叩きつけられた。
「ぶふっ!! 」
血を口と鼻から吹き出してしまい、視界を赤く染めていると、頭から刃が引き抜かれ、その瞬間にすぐさま脳みそを再生させた瞬間、私の視界には大和ちゃんの足先が映っており、蹴りを鎧の上から食らってしまい、首が生々しい音を立てながらネジ切れた。
(何も・・・ )
出来ない。
すぐさま神器を手放さないように頭から体を再生させたが、無防備な腹に大和ちゃんの斬撃が放たれ、再生した両腕ごと体を両断された。
「っ゛う゛!! 」
(不敗の剣聖!! )
下半身を再生させ、地面を転がりながら想像で作りだした戦士を生み出すが、生み出された戦士は何も出来ずに大和ちゃんに殴り飛ばされ、空中に浮かんだ戦士は斬撃の嵐によって細切れにされた。
けれど一瞬そっちに意識が持っていかれたため、すぐさま地面に手を着く。
(終わりの大地!! )
地面を溶岩に変え、これならどんなに早かろうが意味は無いと安心しようとしたが、大和ちゃんは溶岩を地面のようにして蹴り、赤黒い飛沫を上げて私の顔面を蹴り飛ばした。
「っ!! 」
このまま溶岩の中に入れば『100の命』があっても足りないと焦り、すぐさま溶岩の大地を大海に変え、大雨を降り注がせる。
(激動の大海!! )
海の中に着水し、すぐさま想像で空気の層を生み出して私を蹴り飛ばした大和ちゃんの方を向いた瞬間、私の周りの海は赤い炎と変わり果てた。
「っ!? 」
これは恐らく大和ちゃんの魔法による攻撃だ。
けれど・・・
(範囲が広すぎる!! )
このままだと窒息してしまうため、すぐさま大海を密林に変え、少しでも時間を稼ぐために物陰に隠れようとした瞬間、腰に冷たい何かが入り込み、上半身が地面に落ちた。
「っ!? 」
血を吐きながら辺りを見上げた瞬間、辺りの木々は全てなぎ倒されており、その中心には大和ちゃんが立っていた。
その姿に恐怖を覚え、がむしゃらに世界を変えようとするが、それよりも早く頭を斬撃で潰され、世界を変えることが出来ない。
(再生を!! )
頭を潰されてはどうしようも無いため、頭をすぐさま再生させたが、再生させた瞬間に頭を手刀で刺し潰された。
腕が引き抜かれたと同時に頭を再生させ、今度は想像で盾を生み出すが、その盾に凄まじい程の斬撃の嵐が降り注ぎ、盾は砕かれ、顔面を斬撃によって潰された。
(不認のロー)
頭を再生させすぐさまその場から逃げようとするが、それを阻止するように腹を足で潰され、首を撥ねられた。
あと自分の命がいくつあるのか分からない程の殺されように頭がぼーっとして行き、再生しては殺されるを永遠と繰り返してしまう。
(後・・・何回だろ? )
心臓を斬撃で吹き飛ばされた。
頭を斜めに切り落とされた。
袈裟を切り落とされた。
頭突きで頭蓋骨を陥没されられた。
(あっ・・・死ぬ )
次の一撃で死ぬと何故か悟り、己の死を感じようと覚悟していると、何故か辺りの時間が止まり、頭の中で声が響いた。
(あいつを・・・俺は救いたいんだ。・・・変な話だろ? )
そんな優しい声。
(ふふっ、先に逝ってるよ。だからさ・・・)
放たれた突きを想像で生み出した盾で防ぎ、世界を悪夢のようにぐちゃぐちゃに崩壊させ歪ませる。
「っ!? 」
(一緒に死のうよ )
自分でもよく分からないほど世界を崩壊させ、空に溶岩、地面に密林、それらを分けるように建った大海の柱と台風の柱。
そんな重力もめちゃくちゃな世界に私ごと大和ちゃんを巻き込み、そのめちゃくちゃな世界を旅する。
海に溺れ、風に揉まれて手足の骨が折れ、その折れた手足が溶岩に当たり焼け切れ、密林に叩き落とされ木々に串刺しにされた。
けれど大和ちゃんは溶岩を蹴ってダメージを最小限に抑え、台風の中は自分で斬撃を放って勢いを緩和し、叩き落とされた密林に斬撃を放ち、木々を消し飛ばして足から地面に着地した。
(ふふっ、めちゃくちゃだよ・・・ )
そんなめちゃくちゃな強さを誇る大和ちゃんに笑みが零れてしまい、木々に串刺しにされたままぼーっとしていると、処刑人の足音がこちらに近付いて来た。
「ふふっ、やっぱり強いね。・・・やまがはっ!! 」
言葉を投げかけるより早く四肢を切断され、腹に大和ちゃんの右足から生えた刃を貫通させられた。
「御託はいい。さっさと死ね 」
容赦がない大和ちゃんにまた笑みが漏れてしまうが、タダで死ぬ訳にはいかない。
だから。
だから・・・
(千の呪い )
己を呪い、大和ちゃんが私を殺せばその呪いを発動する様に操作した瞬間、首に冷たい感触が入り込んだ。
景色が回る。
回る。
回る。
転がる。
ゴロゴロ。
視界が赤く染まる。
(先に逝ってるけど・・・ )
意識が・・・
(君はこっちに・・・来ないでね )
落ちた。
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「はぁ、はぁ! 」
一体どのくらい走った?
王都はまだか!?
そんな事を思いながら永遠と続く森を走り続けていると、前にいるゆいが少しスピードを落とし、心配そうな顔を私に向けて来た。
「雷牙、大丈夫? 」
「あぁはぁ、大丈夫はぁ、だ! 」
呼吸を荒くしながら平然と走り続けるゆいと共に森を走っていると、私が薄く張っている雷の結界に反応があった。
「っ!? 」
咄嗟にゆいの頭を左手で掴み、無理やりゆいの頭を下げさせると、ゆいの首があった場所に黒い見覚えがある刀が通り過ぎ、私の左手を小手ごと切断した。
「っ゛う゛ぅぅ!!! 」
「らい!・・・なんで!! 」
ゆいの言葉を無視して失血死しない様にすぐさま手首を右手で抑え、辺りに雷を張り巡らせると、私の後ろに3人誰かがいる事に気が付いた。
「ゆい! 走れ!! 」
「っ!! 」
私の大声にゆいは顔を青くしながら地面を蹴ったが、私の後ろにいた3人の内2人は瞬間的に移動した様に私達の前に現れた。
黒いローブを被る2人の男に咄嗟に足を止めたゆいと共に警戒していると、地面に転がっている黒い刀を見つけてしまった。
その刀の持ち主は・・・
「あれれー、あれを避けたんだ。凄いね 」
聞き覚えのある女の声に反応する様に咄嗟に後ろを振り向いた瞬間、虫のような羽が生えた女の左手に目がいってしまった。
その左手には黒い髪が握られており、そこには上顎から下がない悠人の頭がぶら下がっていた。
「・・・ゆう 」
変わり果てた悠人の姿に悠人の名を口から漏れてしまいそうになり、すぐさま口を閉じるが、それでは遅く、ゆいは後ろを振り向いてしまった。
「あっ、お兄・・・ちゃん・・・ 」
「うん、手強かったけどこの通り。最期まで君達の事を気にしてたよ 」
「あ・・・あっ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!! 」
辺りの空気を轟かすような雄叫びが響いた。
けれど今は不味い。
「ゆ」
ゆいに冷静になれと言葉を発っそうとした瞬間、ゆいはすでに地面を蹴っており、悠人の頭を掴む女に突っ込んだが、虫の様な羽がバサりと動き、目にも止まらぬ速さでゆいの袈裟を切り落とした。
「ゆ」
ゆいの名を叫ぼうとするが、それよりも早く首に刃が迫る。
それを咄嗟にしゃがんで避け、宙を舞うゆいの上半身に歯ぎしりしながら目をやり、地面を右手で殴り付けて砂埃と雷撃でこの場にいる全員の視界を潰す。
「っ!? 」
「ぬがっ!? 」
「ぬっ!? 」
その隙に私の2つ目の魔法を使い、気配を消してゆいの内蔵がこぼれた上半身を持って森の中をがむしゃらに走る。
取り敢えず死体は回収した。
これで私が逃げ切れればゆいは助かる。
その一心で奴らに見つからないように、けれど助けを求めるように、がむしゃらに森の中を走り回った。
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「はぁ!はぁ!! 」
「ゴヒュー、ヒュー 」
苦しそうに息をするリサを見る度に眼力が熱くなり、言葉が止まってしまうが、リサが強過ぎるためか殺す事は叶わず、両手をリサの魔法によって破壊された。
けれどリサに殺すと約束したため、地面に転がる『時跨ぎ』を口で掴み、まだ動く体でリサに突っ込む。
迫り来る左の突きを屈んでよけ、顔面に飛んでくる右足の蹴りを上へ飛びながら時を飛ばして躱し、天井を蹴ってリサの頭を打ち砕こうとするが、リサはそれを華麗に回転して躱し、その回転の勢いを乗せた右肘を私の右脇腹に打ち込まれた。
「がはっ!! 」
臓物と筋肉が抉れる痛みに続くように口から血反吐を吐いてしまい、『時跨ぎ』を落としてしまい、その勢いのまま窓ガラスに吹き飛ばされ、強い浮遊感を全身で感じてしまう。
ここは4階だ。
神器を持っていない私が落ちれば、確実に死ぬ高さ。
(みんな・・・避難できたかな? )
けれど死ぬ事にはもう慣れているため、そんな事を思いながら落下していると、急に景色は上に上がり、リサが居た4階へと辺りの景色は変わり果てた。
「えっ? 」
「大丈夫・・・か・・・? 」
そんな苦しそうな声を聞き、眼力を熱くしながら私を抱き抱えている人物へと顔をやると、そこには紫色のスジが顔に浮かび、鬼の様なツノを額に生やした大和様の姿が見えた。
けれど大和様から漂う肉が焼ける臭いは強く、自らを焼いている大和様は私よりも重傷だ。
「やま」
「喋るな・・・お前はもう・・・休んでろ・・・ 」
そっと地面に落とされ、腹の痛みで上手く呼吸が出来ないが、顔だけは大和様とリサの方へ向けると、リサは涙を流しながら笑みを浮かべた。
「なるほど・・・操られてヒュー・・・いるのか 」
何故かそう理解した大和様の言葉にリサは小さく頷くと、リサは地面を蹴り、大和様に突っ込んだ。
けれど大和様が体を捻った瞬間、全身に突き刺さっている刀から白い斬撃が飛び荒れ、それがリサの腹と四肢を吹き飛ばし、更にはリサの首を吹き飛ばした。
こちらに飛んでくるリサの頭を目で追っていると、そのリサの目からは生気は消えていない事に気が付いた。
「や」
頭突きを大和様に打ち込むつもりだも悟り、大和様の名前を叫ぼうとしたが、大和様はそれに当然気が付いていた様に右腕に生えた刀でリサの頭を下から真っ二つに切り上げた。
ビチャリとリサの割れた頭が落ちた。
あのリサを一瞬で殺した大和様の姿に呼吸することさえ忘れていると、リサの穴だらけの体から小さな紫髪の子供がどこからが飛び出した。
「・・・お前が・・・リサをヒュー、操っていたのか 」
「こっ、来ないで!! 」
大和様は1歩燃える体を前に進めると、銀色の目を潤ませる子供は悲鳴に近い声を上げたが、大和様は地面を砕きながら容赦なく子供に接近すると、右拳で子供の顔面を殴り付けた。
するとその頭だけが廊下の奥の壁に打ち付けられ、残った体は背中向きに倒れた。
そんな容赦なく子供を殺した大和様に恐怖に近い物を感じていると、大和様は不意に振り返り、紫色のスジが浮かんだ顔を優しい笑顔に変えた。
「よく・・・時間を稼いでヒュー、くれたな 」
「いえ、私は・・・ 」
優しい言葉を投げかけてくれる大和様に言葉を返そうとした瞬間に強烈な眠気が体を襲い、言葉が詰まってしまう。
「避難所に運んでやる・・・お前は寝てろ 」
「すいま・・・せん・・・ 」
強烈な倦怠感を感じる体で大和様に言葉を返すと、瞼が降り、視界は黒く塗りつぶされ黒い海へと意識が落ちていった。
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(なんなんだこいつは!? )
俺が不死の国の東側に位置する『毒の林』へ足を運んで20分近く経つ。
けれどセシルと呼ばれる白髪の男は息ひとつ乱さず、俺に無機質に攻撃をぶつけてくる。
右のジャブを身体中に張った俺の魔法の結界で受け、その勢いをその拳に返して内側からセシルの拳を破裂させるが、セシルは怯むことなく左足を大きく上げ、首に蹴りを放ち、轟音が辺りに響き渡った。
そんな結界が無ければ幾度となく死んでいたであろう攻撃を結界で受け続けて左足を破裂させるが、セシルは筋肉が露出した足を俺の首に引っ掛け、右膝を顔面に打ち込んで来た。
けれどそれも結界で防ぎ、両足を破壊されたセシルに氷柱の雨を降り注がせるが、セシルの両足と右腕は瞬時に再生し、氷柱の先端を掴むとそれを剣代わりにして全ての攻撃を防ぎ、その氷の先端を俺へと投げて来た。
「ふっ 」
学習しないセシルに笑みを返し、目の前で止まった氷の氷柱をセシルに高速で返すと、それはセシルの左肩を貫いたが、次の瞬間に地面にヒビが入り、そこから現れた岩の柱が俺を上空へと押し上げた。
「ぬがっ!? 」
すぐさま氷を地面から創成し、その氷の坂を両足で滑りながら地面へと落下するが、地面を埋め尽くすほどの水の槍が創成されている事に気が付いた。
放たれた無数の水の槍は俺の体に無数に当たったが、それは俺の魔法で防ぐと、水は弾けるように飛び散った。
けれどその水は俺の体を包み込むように蠢くと、今度は地面が無数に光を放ち、雷の槍をセシルは俺へと投げて来た。
「っ!? 」
雷の槍は俺へ当たる寸前に弾け、その雷が水へと流れたが、それらも全て反射し、水を辺りに弾けさせる。
地面に着地したが、一息つく暇もない魔法による攻撃をセシルは放ってくる。
炎に風を纏わせた槍が放たれ、辺りが爆炎に包まれる。
目が痛くなるような光量に目が眩んでいると、前の炎が乱れ、無数の火傷を負ったセシルが炎の中から現れて俺の顔を右手で掴んだが、こいつはどうやら学習しないようだ。
「無駄なんだよ! 」
セシルの右手を力を反射して破壊し、地面から氷の棘を生やすと、それはセシルの体を簡単に貫き、セシルの体を固定した。
その隙に氷の槍を生み出し、魔法であの驚異的な再生をしているのなら頭を潰せばいいとセシルの頭へと氷の槍を放った瞬間、背後から地面を穿つ様な轟音が鳴り響いた。
「なに」
後ろを振り向くと、遠くの方で雷の槍が地面に突き刺さっており、いつの間にそんな攻撃をしていたんだと思った瞬間、前から氷を砕くような轟音が鳴り響いた。
「・・・はっ? 」
前へ咄嗟に顔を向けると、そこには銀色の剣を右手に持つセシルの姿があった。
「何故!? 」
有り得ない!
なぜなら俺の氷を砕いたと言う事は、あれは神器による攻撃だ。
なぜこの神器が封じられた空間で神器が使えるのかと思考を回した瞬間、あの不可解な雷の槍が頭の中に浮かんだ。
「まさかお前! 」
「あぁ、神器を封じる魔道具は破壊させてもらった。探すのには手間取ったがな 」
まさかこいつは最初からあれを探すのを悟られないために俺へ攻撃を仕掛け続けていたのかと恐怖していると、セシルは銀色の剣を横に振り、氷の棘を薙ぎ払った。
「さて・・・ 」
その重々しい声に体が跳ねるが、俺は魔法による結界で無敵なのには変わりない。
そしてもう1つ、俺には2つ切り札がある。
「お前は死ね 」
「はっ! 死ぬのはお前だ!! 」
すぐさま俺の2つ目の魔法を使い、透明な傀儡を生み出す。
「姫華! 杏奈! ゼイル! 」
北と西と王都を攻めた奴らの名を叫び、死んだそいつらの魂を傀儡に憑依させ、セシルを襲わせる。
「『不変の鎧』、『不変の剣』 」
透明な杏奈は姫華とゼイルに紫色の鎧と剣を受け渡すと、ゼイルは目にも止まらぬ速さでセシルに突っ込んだ。
しかしゼイルの紫色の剣がセシルに届く寸前、巨大な風切り音と共にその透明な顔は宙を舞い、強烈な突風が肌を叩いた。
「はっ? 」
何が起こったか分からずに何度か瞬きをして状況を確認する。
宙を舞う首。
こちらに吹き飛んだ体と折れた剣。
そして剣を構えたセシル。
その状況が物語っていることは1つ、目にも止まらぬ速さで突っ込んだゼイルの首を、セシルは容易く両断したのだと。
「っ! 杏奈!姫華!! 」
すぐさま杏奈と姫華の魂を操り、姫華をセシルに接近させ、杏奈を援護に回す。
「『天界の糸』 」
杏奈の言葉に合わせセシルの周りに透明な糸が現れ、その糸がセシルの体に巻き付いて身動きを封じた。
そんなセシルに向かって傀儡の姫華は地面の土を跳ねさせながら接近し、拳を振り上げるが、セシルは何か納得するように頷き、持っている剣を手から離した。
次の瞬間にセシルは落ちる剣を蹴り上げ、蹴られた剣は傀儡の姫華の頭を貫通したが、姫華はその程度では止まらない。
姫華は頭に剣を貫通させたまま、拳を振り下ろそうとするが、その拳がセシルの顔面に当たる瞬間、セシルを縛っていた糸は軋むような音を放ち、糸はブチりと音を立てながら引きちぎれた。
セシルは振り下ろされる拳を右手に新たに生み出した剣で簡単に逸らすと、その剣を大剣と斧が両端に付いた武器に組み変えた。
次の瞬間、セシルは手の平で滑らすようにその武器を動かし、鎧ごと姫華の体をブロック状に切断し、バラバラになって落ちる姫華の体一つ一つを串刺しにするように岩の棘が地面から突き出し、姫華の透明な体を串刺しにした。
あまりに体の損傷が激しいのか、姫華の魔法でも体が再生せずに赤い肉同士は引っ付こうと蠢くが、岩の棘が邪魔で体は再生しない。
あの姫華を瞬殺したセシルに恐怖を覚え、後ずさってしまうが、俺には無敵の魔法と杏奈がまだ残っている。
「杏奈!! 」
「『防げぬ猛毒の雨』 」
その言葉と共に紫色のレイピアが現れ、それらがセシルを全方位から襲うが、セシルは何食わぬ顔でため息を吐き、ある言葉を唱えた。
「『不変の鎧』 」
そうセシルが呟くと、セシルの体を銀色の鎧が包み込み、防げない筈のレイピア達を次々と弾いていく。
「っ!? 」
その姿を見て、思い出した。
こいつの魔法は、他者の魔法をコピー出来る魔法だと言うことを。
「エンチャント φωτιά 」
自分が選択を失敗した事に脳裏が熱くなるが、俺にはまだ杏奈と無敵の盾があると思っているとそんな言葉が耳を叩き、慌ててセシルの方へ顔を向けると、そこには巨大な斧と大剣の混合武器に赤炎を纏わせたセシルが立っていた。
その武器をセシルは振り回し、炎が空気を燃やす轟音を立てながらセシルはその武器を杏奈に向かって投げ付けた。
「っ!! 」
咄嗟に傀儡を操り、杏奈の身を伏せさせたが、杏奈の頭上を通過した混合武器は雷の音と共にセシルの方へ戻って行き、前へ飛び出したセシルがそれを掴むと、斧を大きく振り上げ、身を伏せた杏奈の体を頭から真っ二つに切り裂いた。
「もうネタ切れか? 」
「っう!! 」
俺の傀儡を壊したセシルの言葉に畏怖してしまうが、震える息を吐き、俺のもう1つの奥の手、3つ目の魔法を発動させる。
「これはなるべく・・・使いたくなかったが 」
「さっさとしろ 」
「っ! 」
その言葉に恐怖は苛立ちへと変わり、自分の体を化け物へと変えて行く。
身体中に赤い毛が生える。
口は狼の如く。
手はクマのように鋭く、足は馬のようにしなやかに。
目は蛇のように鋭く。
体が・・・血肉を求める。
「グルルルルル!!! 」
「気持ちわりぃな 」
そんな言葉が遠くの方で聞こえると手足が勝手に動き、セシルへと突進するが、セシルは何食わぬ顔で炎が纏った武器を振り回し、俺の突進に合わせて斧を振り下ろしたが、その斧は振り下ろされる倍以上のスピードで跳ね返され、混合武器はセシルの後ろへと吹き飛んだ。
「ガルァ!!! 」
上顎を大きく開き、その口でセシルの頭を潰そうとしたが、セシルは両手を顔周りに構え、両腕で俺の口を受け止めた。
しかしその両腕からは骨が軋む音が聞こえ、このまま頭を潰すのは時間の問題だと勝利を確信した瞬間、セシルの声が聞こえた。
「έδαφος Κολόνα 」
そんな意味不明な言葉が聞こえると足元が大きく揺れ、せり上がる地面と共に空高く押し上げれられた。
「っう!! 」
けれど口に込める力は緩めずにセシルの頭を潰そうとするが、ある言葉と共に口の中に巨大な熱気が生まれた。
「『無名刀』、貴様に名を与えよう 」
その熱さに耐えきれずに口をセシルから離した瞬間、せり上がる地面と共に空高く上がるセシルの周りには白い稲妻が音を跳ねさせていた。
「宇宙を焼いた一振、『全宇宙を焼く雷霆! 」
何処か聞き覚えのある単語に焦り、すぐさま獣の腕で顔を覆った瞬間、轟音が当たりに響き渡った。
・・・?
轟音で耳をやられたのか、何も聞こえない。
浮遊感を体を感じ、恐る恐る両手を顔の前から退けると、そこには涙を逆さに流し遠くを見つめるセシルの姿があり、そんなセシルは俺よりも速く地面へ落下して行く。
何が何だか分からず、重力の赴くままに地面へ落下していると、下からグチャりと何かが潰れる音が響き渡り、俺は地面へ尻から着地した。
魔法により衝撃は反射され俺にダメージは無いが、俺よりも無防備に落ちたセシルは落下の衝撃で体は半分潰れており、顔面からは赤い目が飛び出ていた。
「何が・・・起こったんだ? 」
何故こいつは急に攻撃をやめたのか、何故こいつは無防備に落下して死んだのか。
そんな疑問を纏まらない頭で悶々と考えていると、黒いローブを着た小さな女が俺の前に立っていることに気が付いた。
「味方・・・か? 」
何処からか現れたそいつは俺に小さく頷くと、目を逸らす様に後ろを振り返り、死んだセシルに向かって歩みを進めると、ローブの中から光沢のある青い短剣を取り出し、それでセシルの首を容易く撥ねた。
転がる首。
地面に染み込む大量の血。
死んだセシルの姿に笑みが漏れてしまい、地べたから立ち上がってセシルの死体に近付き、セシルの潰れた体を右足で踏みつける。
「はっ、ざまぁねぇな!! 」
散々俺を馬鹿にしたセシルに言葉を吐き捨て、何度も何度も硬い体を踏みつけていると、前にいる女が俺の後ろをじっと見ている事に気が付いた。
「あ? 」
俺の後ろに何かあるのかと思いながら後ろを振り返ると、そこには・・・青空と平原が映っていた。
「はっ? 」
そこにあるはずの毒の煙も。
そこにあったはずの地面も。
ただ何かがそこだけを消し飛ばしたように、何も残っていなかった。
そんな広範囲を消し飛ばしたような一撃には心当たりしかない。
セシルが最期に放った一撃。
もしこいつが助けてくれず、あれが俺に直撃していたら・・・もしかしたら、俺は死んでいたかもしれない。
そう思うと唾を飲んでしまい、自分が死んでいたかもという事を荒い心臓で感じていると、小さな足音が遠のいて行くのが聞こえた。
「あっ? 」
前を向くと、女は俺から通さがる様に歩いていくのが見え、それを慌てて追いかける。
「おい待て! どこに行くんだ!! 」
そう声を荒らげるが、女は何も聞こえていないのか、はたまた俺を無視しているのか分からないが、赤い霧が晴れた森の中を進んでいく女に俺も慌てて付いて行った。




