第44章 白き物には赤が似合う
「・・・よし 」
王宮の側の茂みの中から顔を出し、あの方から魔法を受け取った人間達が壊していく街並みを眺める。
俺の目的、それはこの認識阻害の黒いローブで身を隠し、王都にいる奴との接触を果たす事だ。
あの結界は発動した。
ならば、後は・・・
「ナイル 」
「んっ? 」
後ろから女の声がかかり、慌てて後ろを振り向くと、そこには俺と同じ認識阻害の黒いローブを身にまとった『ナシャ』がいた。
どうしてナシャがここに居るのかは分からなかったが、ローブの隙間から見える小さな女の手は何かを怯えるように震えていた。
「持ち場を離れてごめん・・・けど、最期に会いたくて 」
「っ・・・ 」
その言葉に含まれた闇を理解してしまい、どう声を掛ければ良いか迷っていると、ナシャは俺の右手をそっと乗せ、精一杯の力で俺の右手を握りしめてきた。
「ごめん、こんな事言われても困ると思うけど・・・今まで、本当にありがとう 」
「・・・」
その言葉に何も返せず、ただ右手に感じる圧を噛み締める。
しばらくして、ようやく言葉を返せた。
「こっちもな、お前は割と好きだったよ 」
「割とかぁ・・・そう 」
俺の言葉にナシャは何処か悲しそうに笑い、何故ここで笑うのか理解は出来なかったが、そうこうしているウチに空に紫色の光が放たれた。
顔が見えないナシャから視線を外して空を見上げると、空にはあの人が作った空想上の魔法陣が描かれており、そこから金色の鎧を着た中身のない兵士達が無数に降り注いで来た。
「これで・・・終わりだな 」
あの兵士達は空想上の存在であり、あの人の神器によって具現化されたものだ。
そんなものが数百を超える数降り注げばここに暮らしている不死が神器や魔法を使おうがかなりの数を殺す事が出来る。
「・・・っ 」
計画通りに物事が進んで行き、自分達の使命が近付いているのだと理解すると、冷や汗が額に滲んでいくが、皆、こんな思いをして死んだと知ると、己の恐怖は少しマシになってくれる。
「ふぅ・・・」
そんな状況の中、荒い心臓を落ち着かせるためにため息を吐いた瞬間、何かを消し飛ばす様な音が空に響いた。
「っ!? 」
それが何かと空を見上げた瞬間、心臓を鷲掴みにされた様な恐怖が胸に込み上げた。
空には無数の鎧の残骸が散らばっており、まだ残っている兵士は巨大な何かにぶつかる様にして壊れて行く。
また何かを消し飛ばす音が響いた。
次の瞬間、残った兵士は目で追えない速さの直線上の何かによって消しとばされ、残った具足と小手は空中に散らばった。
こんな攻撃が出来るのは・・・奴しかいない。
「っ・・・ナシャ!! 」
俺が声を荒げるより速くナシャは風の斬撃が飛んで来た方へ走っており、俺もそれに追いつく様に地面を蹴る。
懐かしいこの森と茂みの隙間から見えたあの泉に目が行くが、無理やり顔を前に向け、森の中を走り抜ける。
しばらく森の中を走り、木々の隙間から見える赤い広場を見て、覚悟を決めながら森を抜けると、そこには血溜まりや赤い肉片、赤く染まった骨が散乱した広場が広がっており、その真ん中には・・・長く白い髪を赤く染め、腰に2本の鞘を差した奴が立っていた。
「たすっ」
その足元には両足がない人間の誰かが倒れており、そいつを助けようと地面を蹴ろうとしたが、それよりも速く断頭台に乗った首を切り落とすかの如く、奴はそいつの首を『風切り』で刎ねた。
「っ !?」
こちらに転がってくる首から目をそらしながら奴の方を見てみると、そいつの赤い目は死んでいるかのように暗く、まるで命を奪うのを嫌だと言いたげな表情をしていた。
しかしこの血や肉片の量、殺したのは数十人所ではない。
そんな矛盾したような行動をとる奴に警戒していると、ゆっくりと、奴は口を開いた。
「降伏してくれ、殺したくない 」
飽き飽きとした様な懐かしい声を出す奴に言葉が詰まるが、体は警戒を解かず、目は奴をじっと奴を睨みつけていると、俺らの後ろの茂みががサリと動いた。
その気配と足音で、その2人がカアジャと凛雨だと気が付き安堵するが、その安堵は軋む空気によってかき消されていく。
「降伏する気は・・・ないか 」
そんなやれやれと言いたげな声が聞こえた瞬間、辺りの空気は大きく軋み、奴は・・・大和は『風切りを横に大きく構えた。
「なら・・・死ね 」
その言葉と共に殺気が体を叩き、その殺気が具現化するように横一文字の一線が大和から放たれた。
「っ!? 」
それに遅れて反応し、辛うじて上へ飛んで斬撃を避けたが、右目の端には所々赤く染った白髪が見え、それを視線で捉えようと右を向いた瞬間、ナシャの顔面は地面に叩きつけられた。
耳があまり良くない俺でも分かる骨が砕けた音と、地面を這う様にして拡がった血飛沫。
そんなのは圧倒的な力で上から殴りつけられないと出来ない芸当だ。
「お前ら・・・ 」
拡がった血飛沫の上で大和は口を開いた。
「いや、ナイル、凛雨、カアジャ・・・ナシャ 」
「っ!? 」
突如として己の名前を言われ思考が止まるが、そんな事をお構い無しに大和は言葉を続ける。
「お前らがなんのためにここまで来て、なんのためにこの国を襲ったか・・・少しわかる気がするよ 」
大和は俯いたまま言葉を続けた。
「だが、私には守るものがある。それを邪魔するなら・・・」
空気が・・・軋んだ。
「死ね 」
その殺意と共に右手に『時雨太刀』を生み出した瞬間、その右腕は二の腕から風音と共に吹き飛び、俺の後ろにいたカアジャの頭を吹き飛ばした。
「うぐっ!? 」
「カア 」
一瞬で死んだカアジャの名を凛雨は叫ぼうとするが、それよりも速く大和は凛雨に刀を振るおうと構えるが、その隙に俺の第2の神器、『白雨太刀』を左手に生み出し、それを展開させて大和の右こめかみに向けて突きを放つ。
しかし大和はそれを読んでいた様に身を軽く引き、空ぶった刃先を左手で掴むと、太刀の根元に逆手に持ち替えた刀をぶつけ、テコで物を動かすようにして俺の神器をへし折った。
「っ!? 」
しかしそれだけでは終わらず、そのへし折るために力を込めた右手の勢いを加速させ、丸い盾で頭を守るように構えた凛雨を盾ごと殴り付け、凄まじい音が辺りに響いた。
神器による攻撃ではないから盾は砕けなかったが、あまりに勢いが凄まじかったのか、凛雨の体は高速で地面に叩きつけられ、頭には構えていた盾がめり込んでいた。
「っ!? 」
一瞬で3人死んだ事に恐怖が体を包み込み、咄嗟に後ろに飛ぼうとした瞬間、地面を蹴ろうとした右足に折られた剣先が根元まで突き刺さり、その痛みに悶えた瞬間、大和の左手から首を捕まれ、両足を瞬時に切り落とされた。
「か゛あ゛ぁ!!! 」
「・・・拷問なんてしたくない。さっさと明確な目的を答えろ 」
俺に足はない。
もう二度と再生しない。
左腕も。
だから・・・
だから・・・・・・
笑みを浮かべた。
「うるせぇよ 」
俺の魔法、『悲雨』で生み出した特別な水を体内で大量に生み出し、体の皮膚が破裂する寸前まで体を膨らませる。
「でめ゛え゛も゛、じね゛」
体を破裂させる瞬間、全身が破裂する様な痛みが走った。
けれど次には何も感じない。
どうやら体が吹き飛んだようだ。
先に・・・行ってます。
・・・後は・・・おねが・・・い・・・
意識が途絶えた。
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「・・・てぇな 」
突如として自爆したナイルから飛び出た水を、顔は刀で、胸は左手で守ったが、何発かは体に食らってしまい、白い留袖に赤い穴が空いた。
ナイルの魔法、『悲雨』は、その魔法で生み出した水が傷口に入ると、その者を悲しみに打ちのめされる様に弱体化させるといったものだが、私にはあまり効かない。
「はぁ・・・」
気になる事が多すぎてため息が口から漏れてしまう。
まずナイル達だけが攻めた来たのなら理由は分かる。
しかし私が殺した奴らはほとんど人間だ。
顔は確認してないが、この蒸発しない血溜まりを見れば嫌でも分かってしまう。
けれど違和感が頭の裏側をくすぐり続ける。
「・・・とりあえず 」
地面に転がっているナイル達の死体を斬撃で細切れにし、再生するのに数時間はかかる様にしてから王都に向けて走る。
その途中に何度も思考を回す。
普通、人間に魔法を渡す魔法にはメリットはあまり無い。
なぜなら人間が持てる力は1つだと決まっているから。
あいつもそうだった様に。
しかしあいつはこの手で殺した。
だからこそ、今不死の国を攻めてきているのは15年前に革命を起こそうとした奴らの残りカスだ。
そう考えればあまり問題ないなと思い、地面を強く蹴って森から飛び上がり、豆粒大に見える黒いローブを被り、両手から街に炎を放つ奴に向けて斬撃を撃ち込む。
すると風切り音と共にそいつの頭は破裂する様に消し飛び、浮遊感を感じながら地面に着地して全力で地面を蹴って街中へ突っ込む。
「「「っ!? 」」」
私の接近に気が付いたのか、街を壊す3人は一斉に私に振り向いたが、その瞬間に刀を振るい、3人の頭を一斉に吹き飛ばす。
血が頭にシャワーのように掛かるがそれを気にせず荒い道を進み、ボロボロになった街中を歯ぎしりしながら流し目で見ていると、ふと、違和感に気が付いた。
(・・・誰も・・・いない? )
私は避難命令を出して僅か数分。
それなのに、逃げ遅れた者が1人も居ない。
いや、別にそれはいい事なのだが、逃げ遅れた者も死体も血の跡も無いのが逆に不安を煽ってしまう。
何かがおかしい。
そんな考えが頭を過り、すぐさま私が指定している避難所に地面を蹴ろうとした瞬間、世界は白に包まれた。
「っ!? 」
辺りを咄嗟に見渡すが、そこには瓦礫と貸した家もでこぼこな道も無く、ただ何処までも白い空間が広がっているだけだった。
(誘い込まれた!? )
その見たことが無い光景に自分が罠にかかったのだと瞬時に理解した瞬間、後ろから女の声が掛かった。
「変わらないね 」
「っ!? 」
その聞き覚えのある声に合わせ、体を回しながら後ろに横一文字の斬撃を放つがそこに居た黒いローブを被った奴の腹を透ける様に通過した。
しかも飛んでいった斬撃は何かにぶつかる音は無く、風切り音だけが遠のいて行く。
そんな異様な光景とローブを被った奴に警戒していると、奴はおもむろにローブを白く細い手で脱いだ。
「ふぅ、ローブって意外に暑いよね 」
顕になった長い赤い髪、特徴的な虹色な瞳、そして見る者を全て魅了するであろう妖艶な笑顔。
それら全ては、ただ1人の人物を連想させた。
「何故・・・生きている! 杏南!! 」
「ふふっ、さぁ何故でしょう 」
有り得ない。
有り得るはずがない。
なぜなら、こいつは・・・15年前に私が殺したはずだ。
なら何故生きている!?
けれどそんな焦りは一瞬だった。
こいつが敵なら殺すだけだ。
そう決断しながら目を細めると、杏奈は細い右手をそっと私に伸ばし、私が首につけているロザリオにそっと手を触れた。
「まだ・・・そんな下らないものを付けてるんだね 」
「時間稼ぎはいい 」
「ふふっ、相変わらず真面目だね 」
今の杏奈は魔法で生み出された霊体だ。
けれどその範囲は本人が見ている所まで。
杏奈の情報を頭の奥から引っ張り出し、息を大きく吸いながら全方位に向かって、体を回しながら『風切り』の斬撃を放つ。
すると1本の一閃が解けるように消え、そこに本体が居ると瞬時に理解し、地面を蹴って体を回し、全力の左の突きをその見えない杏奈に放つと、凄まじい轟音が白い世界に放たれた。
「壊れぬ盾 」
「チィ! 」
透明な布を取り払った様に現れた銀色の円卓状の盾を蹴り、咄嗟に杏奈から間合いを取って地面を滑りながら前を向くと、空中に浮かんでいる杏奈の後ろから紫色の刃をしたレイピアが無数に浮かんでいた。
「防げぬ猛毒の雨 」
そんな言葉と共に数百はあるレイピアは降り注ぎ、それらを斬撃で全て弾くが、レイピアは折れても砕けても私に迫り、後ろに飛んだ瞬間にレイピアは加速し、私の肌に破片がくい込んだ。
次の瞬間、強烈な吐き気が体を襲ったが、それに耐えて浮かんでいる杏奈を見上げる。
杏奈の魔法、『言魂』は言葉通りの道具を生み出すと言ったゲームで言うのならチートな力を持っている。
しかし以前に殺した時の事を思い出し、全身の筋肉で突き刺さったレイピアを砕いて体を軽くし、血を軽く吐きながら地面を蹴る。
「深淵の泥 」
その言葉と共に空を覆うほどの赤黒い泥が生まれ、それが重力に任されて降り注ぐが、直線状の斬撃を泥の中に飛ばし、その泥の中に穴を開けてそこを通り過ぎるが、空には杏奈の姿はない。
(また透明になっ!? )
背中に炎で炙られたような激痛が走り、空中で身をひねりながら泥が広がった地面に着地する。
「不可避の爆発 」
そんな言葉が聞こえた瞬間、全身を刺された様な痛みが走り、その痛みの元である足元を見ると、赤紫色のヒビが足に広がっていた。
(っ!? 呪いか! )
なんの呪いかは分からないが、私は純血な人間ではないため、ある程度の呪いなら耐えられる。
しかしこの呪いはそんな生易しいものでは無いだろう。
「ふー 」
だからこそ大きく息を吸い、地面にたまる熱いようで冷たい泥を辺りに散らしながら地面を蹴る。
「冥海の渦 」
その言葉と共に私の目の前に死が見える黒い水が現れたが、私の魔法は己が死に近付くほど力が増すため、全力で刀を振るい、水の向こうにいる杏奈目掛けて直線状の斬撃を放つと、その水は砕け散る様に飛び散り、杏奈の腰を吹き飛ばした。
しかしその目から生気は消えておらず、すぐに口を動かそうとしていた。
「不死身の」
(餓鼠! )
自分の左手に力を込め、今私が触れている空気を燃やして杏奈の顔を貫くように炎を走らせると、炎は杏奈の顔を焼き飛ばし、首と下半身がない死体だけが空中に取り残された。
それに一安心し、体から力を抜こうとした瞬間、下から風が巻き上がり、体をねじきられるそうなほど空中を振り回される。
「ぬぁ 」
「終わらぬ嵐 」
そんな荒々しい竜巻の中にいる中で体を無理やり捻り、その捻りを利用して地面に向けて全力で刀を振るうと、巨大な斬撃が竜巻をかき消した。
しかし次の瞬間には爆音と共に顔を熱い炎でなぶられた。
「っう!? 」
「不可避の爆発 」
しかし私の魔法のお陰で右目が死んだだけで助かり、左目だけで殺したハズの杏奈を探すが空中には誰も居らず、仕方なく赤黒いヘドロの中へ落ち、激痛に耐えながら狭くなった視界で辺りを見渡す。
そうしていると、上からクスクスと嘲笑うような笑い声が聞こえて来た。
空を見上げると白い空間に杏奈が浮かんでおり、その顔は妖艶に笑っていた。
「100の命。私を後99回殺さないと私は死なないよ 」
そうタネをご丁寧に教えてくれる杏奈に睨みを返し、息を吸って地面から飛び上がり、杏奈の元へ接近する。
「臨界の雹雨 」
そんな言葉と共に紫色の結晶が私に降り注いで来たが、それらを全て斬撃で砕き、杏奈の顔を吹き飛ばそうと斬撃を放つが、それは突如現れた金色の盾に寄って防がれた。
次の瞬間ぞわりと肌が逆立ち、咄嗟に空中で身を捻ると私の斬撃を反射する様に飛んで来たが、身を捻ったためそれを躱せ、間合いの中に入れた杏奈を盾ごと刀で切り上げる。
すると杏奈の体は袈裟をなぞるように切断され、上半身は飛んで行ったが、残った下半身から肉が唸り、何故か服ごと杏奈の体は元通りになった。
しかしさっきの説明を聞いていたため驚かず、杏奈の再生した頭を左手で掴み、その頭を燃やし潰す。
「っう!! 」
左腕が炙られ、苦痛が頭の中を駆け巡るが、それに耐えて杏奈を殺し続けようとしていると、ふと、杏奈の左手に白い筆が握られている事に気が付いた。
次の瞬間、その筆先から巨大な弾丸が生み出され、それが光速で放たれた。
「ふっ!! 」
しかし運良く反応できたため、タイミングよく刀の柄を振り下ろして弾いたが、その瞬間に辺りに影が出来ていることに気が付いた。
「戦神の一振り 」
言葉が聞こえた瞬間、空から巨大な戦鎚が降り注ぎ、それは左腕で防いだため致命傷にはならないが、その勢いのまま叩き落とされた。
「っ゛う!! 」
落下する中、地面から何かが蠢く音が聞こえた。
それが何かを確認するために強い圧の中で無理やり顔を地面に向けると、杏奈が言葉を唱えていないのに骨の槍が無数に地面に生えていた。
「っ!? 」
それが何故かは分からないが、すぐさま身をひねってその槍の側面を掴み、落下の勢いを殺して槍の合間を縫って泥の中に落ちると、再び激痛が頭の中に走り回った。
「っ゛!! 」
けれどその痛みを無視して空を眺めると、そこには白い筆を細い左手で握った杏奈が、その顔に似つかわしくない真っ直ぐな笑みを私に向けていた。
「世界を創成する者。この筆で描いた物は空想上の物であろうが実現するっていう能力だよ 」
「何故・・・わざわざ説明する? 」
「ふふっ、それはね 」
次の瞬間、全身から赤黒いトゲがせり上がり、それらは突如として私の全身の皮膚を突き破った。
「がぁっ!! 」
「こーんな呪いも作れちゃうよってこと 」
(なんっ・・・これ・・・)
全身から飛び出た赤い針に困惑しながらも頭を冷静に回すと、答えは簡単に出た。
呪いとは人の死に関係する物だ。
だからこそ杏奈の性格も合わせると、数多もの人間に呪いを仕掛け、私に殺される事で私を呪ったのだろう。
だが・・・まだ死ねない。
「ふぅぅぅ・・・ 」
「相変わらず・・・化け物だね 」
全身から飛び出た赤黒い針を神器で砕きながら痛みに耐えていると、上にいる杏奈は何故か懐かしむように言葉を漏らした。
「・・・いいのか? 攻撃しなくて・・・」
「攻撃? ・・・ふふっ。今はしなくていいんだ・・・」
「あっ? 」
そんな意味深な言葉に苛立ち上を見上げた瞬間、杏奈の背中から赤黒く醜い翼が突き破った。
その翼には6人分の口以外を黒く塗りつぶされた顔が生えており、その顔達と杏奈の顔は私をじっと見つめてた。
「だって、時間を稼いでただけだもん 」
「っ!? 」
その嫌な予感から逃げるように地面を蹴った瞬間、声が響いた。
「「不可避の爆発 」」
咄嗟に上に飛び、その爆発を躱そうとしたが足が爆風の熱量に焼かれてしまった。
「っ!? 」
けれどその痛みを気にする余裕もなく、私の前から紫色の肌をした巨大な魚のような化け物が現れ、その化け物のぎっしりと牙が生えた口の中に放り込まれた。
(っ!! 私を喰らえ!! )
すぐさま私のもう一本の神器、『神斬』を抜き、牙に押し潰されるより早くその抜いた赤い線が入った銀色の刃を腹に突き刺し、その痛みに耐えながら大きく息を吸いながら左手で刀を軋ませる程の力で刃先を掴んで自分の左手を鞘変わりにする。
(風の居合 烈風!! )
自分の左手の平を切り裂きながら刀を滑らせ、全力で刀を横一文字に振るうと、巨大な一直線の斬撃が放たれ、魚のような化け物を体内から吹き飛ばした。
けれどやっと見えた外の景色には様々な時代の剣達の刃先が私に向いており、その全てには紫色の雷の様なものが纏っていた。
「「「「「「「霹雷の嵐 」」」」」」」
いっせいに放たれた刃に反応し、体を回しながら刃を弾こうとするが、全ては防げず、右肩に西洋の剣が突き刺さった。
「づう!! 」
そのせいで右腕の動きが鈍ってしまい、今度は首にレイピアが刺さり、意識が遠のいた瞬間に足に、腹に、股に剣が突き刺さっていくが、脳だけは守ろうと、両腕に万力の力を込めて頭を守る。
しかしそのまま落下してしまい、突き刺さった刃が地面に押し上げられ、体の中を冷たい物が滑り、激痛が全身に走る。
「がぁ!! 」
しかも辺りのヘドロが体内に入り、体が内側から蝕まれていく感触を明確に感じる。
そんな体内を侵されていく激痛の中で空を見上げると、そこには巨大な銀色の槍が7本中に浮いていた。
「「「「「「「神殺しの神槍 」」」」」」」
その言葉と共にいっせいに槍が放たれ、それを躱そうとするが、身体中に刺さった剣達のせいで地面を転がることも出来ない。
(クッ )
咄嗟に串刺しの右手で胸を、左手で顔面を守るが、次の瞬間に両足にその槍に押し潰される様にひしゃげ、右腕ごと胸を貫かれ、今度は頭を左腕ごと押し潰された。
けれど頭を潰された事に、意外な感情が芽生えてしまった。
(・・・あぁ、懐かしいな )
そんな事をぼんやりと思ってしまう。
「ふぅ、やっと・・・死ねたね、大和ちゃん 」
死んだ?
誰が?
私が?
私は・・・まだ死ねない。
何故かって?
まだ・・・幸せになってないからだ。
あいつの願いを叶えてないからだ。
だからまだ・・・死ぬ訳には・・・負ける訳には・・・
いか・・・な・・・
自分の心の中で、何かが引きちぎれた。




