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第42章  静かなる開戦


         時は少し遡り


「ふっ!!」


首に迫ってくる来た風色の短剣を半身(はんみ)になって躱し、伸びた小さな右手首に雷を纏った右の手刀を撃ち込むと、ゆいの短剣はその場に落ちた。


その短剣をすぐさま右足で踏み、ゆいの手に届かない場所に蹴り飛ばして安心した瞬間、ゆいの股が目の前にあり、足で首を締め付けられ、ゆいの全体重が首にのしかかって来た。


(折れっ)


首が折れると直感的に悟り、すぐさま後ろに倒れるが、ゆいは締め付ける足の力を緩めず、徐々に首も締まっていく。


「うぐっ!!」


そんなどうしようもない状況の中、慌ててゆいの背中を2回右手で叩くと、首に纏わり付いていた圧は消え、ゆいはそのまま私の胸の上の方に乗ると、汗がにじむ顔ににっこりと可愛らしい笑みを浮かべた。


「いぇーい、私の全勝!」


「あぁ、完敗だよ。まさか神器を囮に使うとはなぁ」


「へへっ、予想してなかったでしょ」


戦闘に関しては超一流なゆいの金髪を少し汗ばんだ手で撫で、少し重苦しい胸を上下に動かしていると、ゆいは私の上から不意に飛び退き、私に向かって手を差し伸べて来た。


「ありがとな」


「どういたしましてー」


その小さいながらもガッチリした腕に捕まり、腰に負担をかけながらゆっくりと起き上がると、ゆいはにっこりと嬉しそうに笑みを浮かべて神器を拾いに行ってしまった。


そんなゆいの小さな背中を、体に付いた砂を落としながら眺めていると、ゆいは神器に付いた砂を落とし、背中の鞘に短剣を収めた。


すると、私の方に笑顔を浮かべながら振り向いて来た。


「雷牙、帰ろ。私お腹空いちゃった」


「私もだ。今日の朝食はなんだろうな」


「お魚じゃ無いと良いなー」


「いやいや、魚もちゃんと食え。なんか本で読んだ限りじゃ頭が良くなるらしいぞ」


「そうなの?」


「あぁ!」


小さな首を傾げるゆいの頭を、砂を払った手で耳を触らない様に頭を撫でてやると、ゆいはくすぐったそうに顔を微笑ませた。


「えへへっ」


(・・・可愛いなぁ)


そんな可愛らしいゆいを眺めながら、一緒に家に帰ろうとしていると、ふと、自然に吹く風とは違う風が吹き、嫌な予感が体を強張らせた。


「ゆい・・・」


「なぁに?」


そんな可愛らしく惚けた声が聞こえた瞬間、後ろから茂みの間を誰かが通る音が聞こえた。


その音に反応する様にゆいもすぐさま短剣を背中から引き抜き、私も後ろを振り向いた瞬間、茂みの隙間から長い紫色の髪をした見知らぬ女が飛び出し、青い目をギラつかせながら、刀らしき武器を私の脳天に振り下ろして来た。


「ふっ!!」


が、ゆいよりも遅い。


その殺気のこもった一撃を左手で体を回しながら逸らし、その回転を利用したまま右肘で敵の右こめかみを抉ると、敵は横に頭から吹き飛んだ。


「ごっ!?」


そんな敵にさらに追い討ちをかける様に、ゆいは吹き飛ぶ女の頭を右手で掴み、左側のこめかみに右膝を骨が砕ける音と共に撃ち込んだ。


「おっ!!」


ゆいの一撃を受けた敵は地面に顔面から落ち、そのまま動かなくなってしまった。


そんな気絶しているのか死んでいるのか分からない不死を眺めていると、眼の端でゆいが心配する様な表情を浮かべながら、私の方に駆け寄って来るのが見えた。


「大丈夫?」


「おう、大丈夫だ」


「そう、なら良かった」


心底安心そうに微笑むゆいの姿を見て、笑みを顔に浮かべながらゆいの頭をまた撫でようとしていると、また茂みを何かが通る音が辺りから聞こえ、ゆいと背中合わせになって辺りを警戒する。


今度の音は、全方位からした。


それが意味する事はただ一つ。


「囲まれてるぞ」


「うん」


それはゆいも分かっているらしく、ゆいが地面を足で擦った瞬間、辺りの茂みから短い赤髪と青髪と黒髪と金髪の不死達が私らに突っ込んで来た。


(()(でん) (せい)(そう))


ゆいから少し体を離して体に雷を纏うと同時に後ろから風が吹き、それがゆいの物であると確認してから目を閉じる。


暗闇の中で敵の雷を見るに、私の正面にいる敵が私の左の脇腹を蹴りで狙っているのが分かったため、向かってくる蹴りに合わせて左の膝と肘で挟み込み、敵の足を逆に砕く。


「っう!?」


生々しい音と共に敵の足の骨は砕け、敵はその場に膝を付くと、今度はその横から1人の男が私に向かって凄まじい速度で突進してくるのが雷を見て分かった。


(っ!?)


その一撃は躱さないと直感的に悟るが、後ろに感じる雷を見て躱すのを諦め、右手に大量の雷を纏わせて、目蓋を開く。


そうした瞬間、ガタイの良い黒髪の不死の首に風色の短剣が突き刺さった。


「ごっ!?」


突然の事に足が止まったそいつの首から短剣を左手で引き抜き、すぐさまその短剣を手ぶらなゆいに襲い掛かろうとしている後ろの金髪の敵に全力で投げ付けると、赤色に染まった短剣は敵の左の脇腹に突き刺さった。


「ぐっ!?」


それをゆいが掴むと、ゆいは全力でその短剣を敵の右肩に向かって切り上げ、敵の体を斜めに両断した。


「っう!?」


その隙を突いてか、竜の紋様が彫られた双剣を持った赤髪の敵がゆいに振り掛かろうとしていたが、身を引いてゆいの方に体を近付けると、ゆいは私の背中を蹴ってその反動で敵の顔面に膝を撃ち込み、私もゆいに蹴られた反動を利用して左足で地面を踏み込み、腰を入れた右手の一撃を首を両手で抑えている敵のこめかみに撃ち込む。


「ぐっ!?」


(爆ぜろ!)


その一撃を敵は咄嗟に両腕で塞いだが、私の神器の力を使い、右腕に貯めた雷を一気に爆ぜさせると、その雷は男の顔全体を包み込み、油臭い匂いと共に男の顔は白が見える黒焦げな顔に様変わりしていた。


そいつが絶命したのを見てすぐさま後ろを振り向くと、後ろには赤髪の不死の生首が転がっており、血を頭から被ったゆいが血に濡れた短剣を持っているのが見えた。


「ちょっ、大丈夫かゆい!?」


「うん、全部帰り血だから」


「あっ、そうか・・・さて」


その言葉に一安心し、ゆっくりと後ろを振り向いて、足を砕かれ、その場に顔を青くして座っている背中まで伸びる青髪の女に顔を向ける。


「お前らはなんの目的があって私らを襲った?」


小手の上から指を鳴らし、威圧する様に表情に力を入れると、女は一瞬肩を揺らしたが、すぐ様その顔に引きつった笑みを浮かべた。


そうした瞬間、女は舌を口から出し、自らの右拳を顎に撃ち込んで自分の舌を歯で切断した。


「がぼっ!!!」


「おいっ!?」


地面に落ちた肉厚な舌に顔を引きつらせながら慌てて敵の肩を掴むと、敵はゴクリと喉を唸らせて大量の血を飲み込み、苦しそうに咳き込み、私に向かって血を飛ばすと、すぐに喉を押さえて苦しみ始めた。


「ゔぅっ、がはっ!〜〜〜!!?」


そんな窒息している様な敵の姿を見て気分が悪くなってしまい、このまま苦しませて殺すのは気が引けるため、苦しむ敵の顔を両手で掴み、耐性を持っている私でも火傷する様な雷を敵の体を走らせると、敵は手足をビクビクと痙攣させた。


しばらく雷を流してから止めてやると、その痙攣は止まり、辺りから肉が焦げる様な臭いがし始めた。


「ふぅ」


血で赤く染まった敵の目を右指で閉じさせ、敵の骸をそっと地面に寝せて、雷を解いてから笑みを浮かべてゆいの方を振り向く。


「悪いなゆい、臭いだろ」


「平気だよ」


そんな私を気遣ってくれているゆいの肩に手を置いて立ち上がり、ゆい頭を撫でようとしたが、血を被っている頭を触るのは気が引けるため、風を解いたゆいの小さな肩を優しく叩いてやる。


「・・・帰って、湯浴みしような」


「うん」


ゆいにそう声を掛け、2人で私達の家に帰ろうと足を進めようとした瞬間、また誰かが茂みを通る音が聞こえた。


(またかっ!?)


脱力した体に力を入れながらその音が鳴る方に顔を向けた瞬間、そこから飛び出して来たのは・・・私達にとって顔馴染みのある不死、悠人だった。


「なんだ、悠人か」


「ゆい!?大丈夫!?」


悠人は私に目もくれずにゆいに駆け寄り、顔を青くさせながらあたふたと体を慌ただしく動かし始めた。


「えちょっ、こんなに血が!?止血!止血!!」


「大丈夫だよお兄ちゃん、これ、全部返り血だから」


「あっ・・・そうなんだ。って、なんで返り血浴びてるの!?というかこの人達誰!?」


そんな声を荒げる悠人の疑問にこっちも知りたいよとため息を吐き、取り敢えず慌てる悠人の両肩を掴み、落ち着かせる。


「落ち着け、こいつらは私達を襲って来たから殺したが、もうすぐ起きる頃だ。そしたら分からない事も分かるだろう」


「あっ、はい」


私の言葉が通じたのか、悠人は強張った肩から力を抜き、心配そうな表情でゆいに顔を向けた。


それを見て、こいつらは血は繋がって無くても兄妹なんだなと安心していると、ふと、嫌な予感がした。


(・・・なんだ?)


そのなんとも言えない違和感を感じた瞬間、辺りの地面が一斉に白い光を放ち始めた。


「っ!!」


「なに!?」


「雷牙さん!!」


そんな悠人の大声に合わせ、意識を地面から上に戻した瞬間、目の前には巨大な大剣が振り下ろされていた。


(しまっ)


反応に遅れ、その一撃は致命傷になると直感的に悟ったが、その一撃は巨大な大剣には不釣り合いな細い黒刀によって砕かれた。


「っう!?」


「悪い、助かった」


「気にしないで下さい」


私を助けてくれた悠人に礼を言い、後ろに飛んだ影を目で捉えると、それは背中まで伸びる黒髪をした細い6尺くらいの女だった。


その女が着ている藍色の紬を見て、こいつは和の国の出身なのかと考えていると、女は細い口笛を吹き、刀を片手で構える悠人に向けて、砕けて短くなった大剣を構えた。


「凄いね、私の一撃を防いだ上に武器を壊すなんて」


「褒めて貰えた事を素直に喜びたいんですけど、貴方は敵だ」


そんな悠人からは考えられない重々しい口調にゾッと鳥肌が立ったが、その悠人の手は微かに震えている事に気が付いた。


(・・・?)


こいつは桜より弱い。


強い人達をずっと見て来たからそれは分かるが、悠人は何故こんな奴に怯えているのかと辺りを警戒しながら疑問に思っていると、悠人はチラリと私達の方に顔を向けた。


「雷牙さん、ゆいを連れてすぐに王都に走って下さい」


「はっ?なに言って」


「いいから速く!!!」


そんな悠人からは考えられないほどの大声に一瞬びっくりするが、こちらに一瞬向いた悠人の焦り怯えている様な表情を見て何か考えがあるのだろうと思い、困惑しているゆいの左腕を掴んで南に向かって走る。


「へぇ、君、()()()()()。でも逃がさないよ。『ヘダイムの(かく)』神器 展開」


そんな嫌な言葉が後ろから聞こえた瞬間、目の前には背中に白い虫の羽が生えた女が空気の揺れや予備動作もなく現れた。


(はっ!?)


その構えられた砕けた大剣が、私の首を狙って来るのは雷を見て分かったが、その圧倒的な速さを前に躱すと言う行動を取る事が出来ない。


「っう!!」


それが当たると悟った瞬間、足を後ろから蹴られ、転ぶ様にして背中から地面に落ちると、まさに目の前を砕けた大剣が通り過ぎた。


「いっ!?」


ゆいに助けられたと何度も食らった蹴りの感覚で分かったが、振り下ろされる次の一撃は防げないと悟った瞬間、私を庇う様にして目の前に悠人が現れ、その大剣の一撃を黒刀で豆腐を切る様にして切断した。


「っ!?」


その光景に気を取られた一瞬、悠人は左足の蹴りを女の腹に容赦なく撃ち込み、腹に一撃を受けて怯んだ女の顔面に後ろ蹴りを打ち込み、女を森の中へ勢いよく吹き飛ばした。


「ごっ!!」


何故悠人が急に強くなったのか困惑していると、悠人はこちらに振り向き、それと同時にその理由も明らかになった。


悠人の黒刀には紫色のヒビの様な紋様が浮かんでおり、その紋様は悠人を侵食する様に腕から首を通り、両頬までにその紋様は浮かんでいた。


その様子を見て、悠人は神器を展開させたのだと悟るが、そんな悠人から発せられた言葉は、とても冷たい物だった。


「・・・逃げて下さい、足手纏いだから」


その二言で、悠人が何を言いたいか理解した。


恐らく悠人は神器の力を展開させた。


そう、これは神器の戦いなのだ。


だからこそ、()()()()()()()()()ゆいと、使()()()()()()()()能力の私は文字通り足手纏いだ。


歯軋りをしながらそう理解し、後ろにいるゆいの腕を掴んでからその場に立ち上がり、自分の無力さを感じながらゆいの腕を引いてその場から逃げるべく、王都に向かって走る。


「雷牙!?」


「走れ!!」


まだ困惑しているゆいの脚が止まらない様に腕を引き、森の中を走るが、後ろから嫌な雷を感じた。


「っ!?」


そんな嫌な予感に耐えきれず、一瞬だけ後ろを振り向くと、私の視界に映った光景には・・・悠人の左腕が宙を舞っているのが見えた。


「っう!?」


その光景に一瞬焦るが、これをゆいに見せては不味いと直感が囁き、すぐ様左へ曲がって木の影に隠れながら森を走り続けるが、我慢の限界が来たのか、ゆいは全力で地面を踏み、走る私に留め具を掛けてきた。


「雷牙!なんで逃げるの!?」


「ゆいなら分かるだろ!あいつには、3人でやっても勝てない!!」


私も足を止め、ゆいにそう怒鳴り付けると、ゆいは涙を風色の瞳に涙を溜め、不安そうに、涙を瞳から溢しながらある言葉を呟いた。


「でも、()()()()()()()()()


「っ!?」


確かにゆいの言う通りだ。


もし、あれが不死殺しならば悠人は死ぬ事になる。


けれど・・・もしあれが本当に不死殺しなのならば、今戻る事は自殺行為だ。


だからこそこの場の最善策は・・・悠人を見捨てる事だ。


「っう・・・ゆい、あの神器には嫌な感じはしなかったし、絶対に不死殺しじゃねぇ。だから急いで王都に向かうぞ」


「そう・・・なの?」


(・・・すまない、悠人)


ゆいを適当な言葉で言いくるめ、掴んでいる細い腕を引いて森の中を走り続ける。


自身の無力さを紛らわすために、自分の舌を噛みしめながら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


        謎の光が現れた直後


「おっとと」


「大丈夫か?久隅」


重たそうな紙袋を抱える久隅に両肩を後ろから掴み、ふらつく体を安定させてあげると、久隅は後ろに居る私に顔を向け、笑顔を浮かべて来た。


「ありがとう、陽毬」


「気にしないで良いよ」


お礼を言ってくる久隅に微笑み返し、両手にくい込んだ紙袋を少しずらしてから買い込んだ食料品を一階にある調理室に運んでいると、王宮の曲がり角でメイド服を着た誰かが縮こまっているのが見えた。


「んっ?」


その見覚えがある短い白髪を見て、慌ててその人物に駆け寄り、そっと小さな肩に手を当てると、その人物は肩を跳ねさせ、涙を溜めた金色の鏡の様な瞳をゆっくりと私に向けた。


その顔を見て、思い出した。


この子は最近王宮に入った、ジールと言う女の子だ。


そんな涙目なジールの頬にそっと手を当て、取り敢えず安心させようと顔に笑みを浮かべる。


「えっと、大丈夫?」


「かみ・・・なり」


「えっ?」


雷と言う言葉を聞き、慌てて窓の外に顔を向けるが、外は超が付くほど天気は良く、空を見上げても黒雲など1つも無い。


「えーっと、気のせいじゃない?」


外の景色を見て、それはジールの気のせいではないかと疑うが、ジールはふるふると首を横に振り、瞳にさらに涙を溜めた。


そんなジールを見て、どうやって慰めれば良いかと悩んでいると、後ろから紙袋が擦れる音と共に私の隣に久隅がやって来た。


すると久隅はジールと視線を合わせる様にスカートを右手で押さえ、その場にしゃがみ込んだ。


「ねぇ、今から料理長に頼んでパンケーキ焼いてもらうからさ、ジールも来る?」


そんな子供を餌で釣る様な言葉にジールは涙を瞳に溜めたままゆっくりと頷くと、久隅は手をそっとジールに伸ばした。


そうするとジールは肩を跳ねさせたが、差し出された手に小さな手がゆっくりと触れ、久隅に引っ張られる様にジールはゆっくりと立ち上がった。


そんな様子を見て、久隅は子供の扱いに慣れているなと思いながら、ジールの小さな歩幅に合わせて厨房に向けて歩いていると、ふと、窓から差している日が隠れた。


一瞬暗くなった廊下を見て、それが何を意味するかを遅れて気付いた瞬間、廊下に並んだ4つの窓ガラスが同時に割れ、黒いローブを着た何か達が廊下に転がり、2人が私の前に、もう2人は久隅の方に立ちはだかった。


「久隅」


「うん」


肌に感じる敵意と刑事時代の直感でこいつらが敵だと悟り、紙袋を地面に落としてポケットの中から『時跨(ときまた)ぎ』を取り出して、それを最長の長さに設定して武器を構える。


敵だと悟ったのは私だけでは無く、久隅も『神鉄(しんてつ)魔銃(まじゅう)』をポケットの中から取り出し、それを最長の長さに設定して構えた。


「えっ・・・えっ?」


「ジール、私達から離れたらダメだよ」


私達の間で困惑しているジールにそう言い聞かせ、ジリジリと間合いを詰めてくる敵に警戒していると、前にいる敵は風の刃を私に飛ばして来た。


しかし私には飛び道具は効かないため、敵との間合いを逆に一気に詰める。


「なっ!?」


魔法を発動し、風の刃を私の周りを回らせ、手ぶらな敵の鳩尾に杖の先を突き刺す。


「おっ!!」


苦痛な声を漏らし、怯んだ敵のこめかみに私の周りを回らせていた風の刃を滑り込ませて1人殺すと、すぐさまその後ろに居たもう1人の敵は大量の電気を体に纏い、私にタックルをして来た。


あの電気に触れるのは不味いと思い、後ろに引こうとするが、縮こまっているジールが後ろにいる事に気が付き、後ろに引けないと一瞬焦るが、私の視界には笑みを浮かべながら神器の銃口をこちらに向ける久隅が映った。


(なるほど)


久隅の意図を理解し、すぐさま魔法を発動させると、久隅は散弾を私に向けて発砲し、その弾を私の後ろに受け流してやると、その弾丸は敵の頭を吹き飛ばした。


「やろっ!」


久隅の前にいる敵がそんな声を漏らし、懐から風色の団扇の様な物を取り出したが、それは久隅のライフル弾によって指ごと弾き飛ばされ、その痛みで怯んだ敵の顔面に向かって青い炎を纏わせた私の神器を投げ付ける。


「がっ!!」


すると私の神器は見えない顔の何処かに突き刺さり、その青い炎を想像で大きくさせると、あっという間に敵の体を青い炎が包み込み、その場には所々黒く焦げた骨とススだけが地面に落ちた。


「さてっ」


地面に焼き刺さった私の神器を引き抜き、地面に広がる炎を消してから残った1人に杖先を向ける。


「貴方の目的は?」


「ははっ・・・言うと思います?」


「そうですか・・・なら」


それならと思い、地面を全力で蹴り、一気に敵との間合いを詰める。


「っ!!」


「死ね」


咄嗟に後ろに飛ぼうとした敵の右側頭部を杖で砕き、敵が地面を跳ね、壁に痛々しくぶつかったのを確認してからため息を吐いていると、後ろから鉄の棒で軽く頭を小突かれた。


「いたっ!!」


「はぁ、もう少し敵の動きを見なよ、自爆の魔法とか持ってたらどうするの?」


「うっ」


確かに敵がそんな魔法を持っていたら目も当てられない状況になっていただろうと反省し、熱くなった頭を落ち着かせるためにため息をその場で吐いていると、後ろから指をしゃぶる様な音が聞こえている事に気が付いた。


「んっ?」


そんな奇妙な音に反応する様に後ろを振り返ってみると、そこには紙袋の中にある割れた生卵をジールが一心不乱に指ですくって舐めているのが見えた。


「ジール?」


私の声にジールは我に帰った様に肩を跳ねさせ、何かを恐れる様に鏡の様な瞳を涙で滲ませ始めた。


「ごめん・・・なさい」


「なっ、なんで謝るの?」


ジールの過去など知らないため、ジールをどうあやし、どう声を掛ければ良いか正直焦っていると、久隅はそんなジールをギュッと抱きしめ、優しく肩を叩き始めた。


「大丈夫だよ」


「ごめん・・・なさい」


久隅から抱きしめられたジールは最終的には涙を瞳から溢し始めたが、久隅に強く抱きつくジールの姿を見て、そこまで心配は要らないなと安心していると、急に耳の中を叩く様な騒音が王宮内に鳴り響いた。


「「っ!?」」


「ひっ!?」


この聞き覚えの無い音に武器を構えて辺りを警戒していると、今度は聞き覚えのある声が王宮内に響き始めた。


「緊急事態だ!何者かに王都が襲撃を受けてる!非戦闘員は戦闘員と合流して避難所へ!!戦闘員は非戦闘員と住人を守るために動け!!良いか!全員死ぬなよ!!!」


そんな聞いた事がない焦る大和様の声に理解するのには時間は掛かったが、要するに大和様が言いたい事は、今さっきの様に王都が襲撃にあっているということ。


そうとなればどう動くかは大和様が言った通りだ。


「久隅!私は王宮の非戦闘員を集めてくる!ジールをお願い!!」


「分かった!立てる?」


「・・・んっ」


立ち上がる久隅とジールの顔を見て強く頷き、武器を構えて廊下を走り、恐らく逃げ遅れが出るであろう4階のメイド達の寝床に行くために階段を4段飛ばしで駆け上がる。


しばらく走ると4階に着き、すぐさま曲がり角を曲がり王宮内を全力で走り続け、この曲がり角を曲がればメイド達の部屋が並んでいる場所に着くというところで、曲がり角に人影が見えた。


それが敵かメイドか分からないため、すぐさま足でブレーキをかけて神器を構えるが、その人影が着ている血が掛かったメイド服と髪を後ろで纏めた赤髪を見て、それがリサだと分かると、一気に肩から力が抜けてしまう。


「なんだ、リサがもう来てたんだね。というか、返り血?大丈夫?」


「・・・」


私の言葉にリサは何故か無言を返し、その返された無言に疑問を感じていると、リサは急に地面を蹴り、私と一気に間合いを詰めて来た。


「っ!?」


その一瞬の事で反応が出来ず、私の顔面に向かってくる右の拳を神器で受けようとしたが、リサは腰を捻り、右の拳を引きながら左の拳を突き出し、私の神器を持っている右手に拳をぶつけた。


すると私の右手の骨が体外へ逆立つ様に飛び出し、激痛が頭を襲う。


「ぐっ!!」


痛みに気を取られた瞬間、リサは右足を大きく上に上げ、踵を私の顔面に振り下ろして来た。


「っ!?」


それを左手で神器を横に構えて防ぐと、その踵は地面を抉り、その状態のままリサは体を回転させ、右足で後ろ蹴りを私の腹に撃ち込もうとして来たが、それを後ろに飛びながら神器で防ぐ。


しかし勢いは完全に殺せず、そのまま後ろに大きく吹き飛ばされた。


「づっ!!」


地面を跳ね、空中で体制を立て直して足から地面に着地し、杖と足で勢いを殺して前を向くと、そこには廊下の遥か彼方に立っているリサが見えた。


何故リサが私に攻撃してくるのか分からないが、こちらに歩いてくるリサを見て、すぐさま自分の状況を確認する。


右手は激痛と指の中に骨が無いため使う事は出来ず、リサの魔法により、なんらかの攻撃を重要部位に受けた時点で私は死ぬ。


そんな圧倒的に不利な状況を見て、神器の力を使うべきかと思考を速めていると、ふと、前にいるリサの頬に涙が伝っている事に気が付いた。


「傷付けたくない・・・殺して」


「っ!!」


その言葉を聞いてリサは何者かに()()()()()()のだと悟ってしまった。


それが分かると怒りが体を熱くするが、それとは逆に冷たい頭は冷静に体を動かし、神器を前に構える。


「『時跨ぎ』、神器、展開!」


神器の力を展開し、大粒の涙を瞳から大量に零すリサを殺すべく、いや、止めるべく、大きく地面を蹴り、リサとの間合いを詰めて自分の時を飛ばし、リサの背後に回って振り向き様にリサのこめかみを杖で抉ろうとするが、リサは左足を地面に打ち込んだ。


すると地面はヒビを広げ、私の足場を不安定になった直後、リサは振り向きながら右拳を横に振ったが、それは武器を後ろに振りながら自分の時を戻し、振り向いたリサの背後に回って神器をリサの左脇腹に打ち込むが、リサはそれだけではビクともしなかった。


「っ!」


この場に居れば反撃が来ると思い、二度時を戻して大きくリサの間合いから出ると、リサはゆっくりと私に振り向き、涙ぐんだ声でこう訴えて来た。


「お願い、大和様を呼んできて!そうじゃないと、みんな!殺してしまう!!」


その訴えを聞き、歯軋りをしながらこの場から逃げようとしたが、リサは急に自らの右手で自分の喉を掴み、その喉を軽々と潰した。


「ごっ!!」


「っう!!!」


口から血を漏らすリサを見て、恐らく操っている本人はリサには喉は要らないと判断したのだと悟ったが、その行動は私の逆燐に触れた。


「リサ、大和様は恐らく王都の方に行ったからすぐには来れない。・・・だから」


全身に自らを焦がすほどの青い炎を纏い、青い炎を灯した神器をリサに向ける。


「私が・・・殺してあげる」


その言葉に苦痛で涙を零すリサは小さく微笑み、こちらに向かって地面を蹴ったが、こちらもそれに合わせて地面を蹴り、リサとの間合いを瞬時に詰めた。





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