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第5章 試練



「なんだあいつ? 」


 見た事がない不死が急に入って来たかと思えば、急に出て行った状況に困惑していると、閉じられた扉が開き、笑みを顔に貼り付けた忍が入って来た。


「ご主人様、服を脱いでいるとああいう事が起きるので気をつけて下さい 」


「いや待て、どういう意味だ? 」


「だから、服を脱いで油断していると、急に男性が入ってくる事がこれからあると思うので、気をつけて下さいと言う意味です 」


 忍の言葉を理解しようと少し考えていると、言葉を理解した瞬間に急に顔が熱くなってしまった。


「あいつ男か! 」


「えっ、気が付かなかったのですか? 」


「初対面でわかるか! てかお前、分かって入れただろ!? 」


 不死は男女問わず顔が綺麗過ぎるせいで、顔だけ見ても男か女なのかがはっきりと区別がつかず、性別の割合では圧倒的に女の方が多い。

 けれどそうなってくると、ますます忍があの男を部屋に入れた理由が分からない。


「えぇ、もちろん分かっていましたとも 」


「なんでそんな事をしたんだよ!? 」


「確認するためでございます 」


 忍が乾いた笑みを浮かべると、周りにゾッとする空気が出現し、空気が怯えるような圧を体に感じてしまう。


「あの男が…邪な考えをしていないかを 」


 忍は殺気を込めてそう言い放ったが、こっちからして見ればまたかとしか思えず、ため息が口から漏れてしまう。


「で、結果はどうだったんだ? 」


 辺りから感じる殺気を無視してそう忍に聞いてみると、辺りに充満した殺意は消え失せ、乾いた笑みは忍本来の優しい笑みに変わってくれた。


「全く持ってそんなこと思っていませんでした。というか純粋過ぎです。しかも初対面の私の言葉を疑うことなく信じましたから、それはそれで問題かと 」


 忍の綺麗な笑みを眺め、その笑みから伝わる感情は少なくともさっきより安定して居るお陰で、少し安心してしまう。


「まぁ、ご主人様が下着を見られた事には変わりありませんがね 」


「思い出させるなよ!! 」


 せっかく冷めていた顔が熱くなり、恥ずかしさを隠すためにそう叫ぶと、忍はいつも通りの子供のように幼い笑みを浮かべながら、首を少し傾けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「悠人様、お待たせしました 」


「あ、分かりました。今入ります 」


 忍さんの声が扉の向こうから聞こえ、急いで冷たい廊下から立ち上がり、少し痛いお尻をさすりながら扉の前に立つ。


 今度は扉を極力音が出ないようにそっと開けると、扉の向こうには机と一際目立つ椅子置かれていた。


 机の奥にある椅子には、雪のような留袖(とめそで)に身を包み、その服を赤い帯で結んだ、白髪の女性が座っている。

 忍さんとは違う、真っ直ぐで美しい女の人がさっき着替えていた人だと分かると、心の底から申し訳なさが溢れ、変な汗が背中にべっとりと染み出てくる。


「よく来たな。私が不死の国の王、(やま)


「申し訳ございませんでした!!! 」


 何か言いかけた女性の言葉を遮り、すぐさまその場に土下座をすると、そのせいか辺りが静寂に包まれてしまった。


「いや待て、私は怒っている訳じゃないんだぞ 」


 そう言われるが、どうしても頭を上げることができない。


「それでも女性の裸を見たのは事実ですので、謝らせて下さい! 」


「はぁ…お顔をお上げください、悠人様 」


 忍さんから申し訳なさそうに声をかけられ、言葉通りに顔を上げてしまうと、少し申し訳なさそうな顔をした忍さんが僕の方に灰色の目を向けていた。


「私が悠人様を騙したようなものなので、悠人様は全く悪くないですよ 」


「…へ? 」


 状況がよく分からず、気の抜けた返事を忍さんに返してしまうと、忍さんは呆れ顔をしながら言葉を続けてくれた。


「ですから、私が悠人様に悪戯をしたんですよ 」


「ど、どうしてですか? 」


「単純にからかいたかっただけです 」


 忍さんは大人びた顔からはあまり想像が付かない、幼くいたずらっぽい笑顔をその顔に浮かべた。


 そんな笑顔を見て、どういう返事をすれば良いのか困っていると、白髪の女の人は机に左膝を付き、その左手の上に顔を乗せてため息を吐いた。


「こいつ、主人の私に向かっても色々するから気を付けた方がいいぞ 」


「えっと…分かりました 」


 白髪の女の人にそう返事をしてから急いで立ち上がり、その人の赤い眼をしっかりと見つめ、僕達を助けてくれたお礼を言うために名前を呼ぼうとするけど、その人の名前を遮った事を思い出し、少し申し訳なさを感じながらも名前を問う。


「あの…すみません。お名前はなんでしたっけ? 」


「私は大和だ。よろしくな 」


「あっ、はい。よろしくお願いします大和さん 」


 大和さんは綺麗で気さくな笑みを僕に向けてくれるおかげで、僕の体を強ばらして居た緊張が少し軽くなってくれた。


「では、悠人様。こちらへお座りください 」


 忍さんは部屋の端から木製の椅子を軽々と運んでくると、大和さんが座っている椅子の対角線上に椅子を置いてくれた。

 そこに座る前に忍さんにお辞儀をし、そっと椅子にお尻を乗せてから前に顔を向けると、大和さんはゆっくりと口を開いた。


「さて、そろそろ本題に入ろう 」


 重い声が響いた瞬間、空気がパリッと乾き、反射的に体が強ばってしまう。


「これからお前にいくつか質問をする。それにお前は嘘偽りなく答えろ…いいな? 」


 大和さんの雰囲気が一気に変わり、その威圧感のせいで唇が乾き、胸に痛みを感じるほど心臓がバクバクと脈動する。


「は…はい 」


 そんな空気の中、精一杯喉から声を絞り出すと、大和さんは赤い眼を鋭くさせながら、質問という名の尋問を始めた。


「悠人。お前は不死についてどこまで知っている? 」


「え、えっと…傷や寿命で死なないんですよね。あっ、あと…歳をとらない事と、傷ついた部位から白い煙が出しながら再生することまでは知っています 」


 自分の体験談も交えながら、乾いた唇を無理やり動かすが、大和さんはずっと僕の目を鋭く睨んでくるせいで、乾いた唇を湿らせる事さえも忘れてしまう。


「…2つ目の質問だ。悠人、お前の出身はどこで、どうやってここまで来た? 」


「ぼ、僕の出身は『()の国』です。そして…ここまで歩いてきました 」


「あの2人を背負ってか? 」


「は、はい 」


 僕の答えに、大和さんは短いため息を吐いた。

 次の瞬間、辺りは空気が揺れる様なおぞましい雰囲気に包まれた。


「3つ目の質問だ。お前が背負っていた奴らはなぜ半獣人なんだ? お前は人間なのに… 」


「っ!? 」


 その質問をされた瞬間、心に重い物がのし掛かり、何も答えれずに黙る事しかできなくなってしまう。


「どうして答えない? 」


 大和さんの声は更に辺りの空気を重くさせ、息苦しさに押されながらも、口を無理やり動かして質問に答えていく。


「僕は…捨て子だったらしいんです。森の中に捨てられていたみたいで…そこで獣人族の村に住む人間に拾われて育ちました 」


「待て。獣人族は人間を毛嫌いしているじゃなかったのか? 」


「確かに毛嫌いする人もいましたけど…母は獣人族と結婚していたので、その村の中ではあまり嫌われていませんでした 」


「ならなぜ、そこから出てきたんだ? 不死になったからと言って、その村を出て行かなければいけない訳ではないだろ? 」


 何度も鋭く返される質問に言葉が詰まり、またも黙り込んでしまう。

 けれど何も言わない事には何も変わらないと決意を固め、頭の中で言葉を整理してからゆっくりと口を開く。


「僕が育った獣人族の里は…滅びました。人間の手によって… 」


 僕の答えを聞いてか、大和さんは何か嫌そうに顔を顰めたけど、鋭い赤い眼だけは僕の目から視線を離さない。


「そいつらはどこの国の人間かわかるか? 」


「た、多分ですけど、『(せん)の国』の人だと思います 」


 そう僕が答えた瞬間、辺りに広がる圧迫感は更に苦しくなり、幻聴か僕が座っている椅子から軋む様な音が聞こえてくる。


「また…あいつらですか 」


 新たに生まれた圧迫感が流れる方に顔を向けると、そこには忍さんが暗い顔をしているのが見えた。


 見えない何かに殺意を向ける忍さんに恐怖を覚えていると、大和さんが真剣な顔が僕の顔をじっと見ている事に気がついた。


「悠人…1つ聞きたいことがある 」


「は、はい 」


 おぞましさと憎悪が混じり合った空気の中、僕は大和さんにひと言返すので精一杯だった。


「お前…人間を恨んでいるか? 」


 心の底にある物を揺さぶられる様な質問に、何も言えずに黙り込んでしまう。

 どう答えればいいか分からずに混乱してしまうけど、心の中にはもう答えがあるため、冷静に深呼吸をして体を落ち着かせ、しばらく続いた長い沈黙を意を決して打ち破る。


「僕は…人間を恨んでいます 」


「そうか…だったら」


「でも! 復讐は絶対にしません!! 」


 僕がそう言ったせいか、おぞましさと憎悪が混じり合った空気は一瞬だけ途切れ、大和さんは少し困ったような顔を僕に向けて来た。


「それは何故だ? 」


「約束だからです。死んだ母との…最期の約束だからです 」


「そう…か 」


 大和さんは鋭い瞳を閉じながらゆっくりと頷くと、少しの沈黙の後に体に纏わり付いていたおぞましさが消え、それに続くように辺りの冷たい空気も薄れて行った。


「悪かったな悠人。こんな脅迫みたいなことをして 」


 大和さんは僕に申し訳なさそうな顔をしながら、机に手を付いて頭を下げた。


「いえ…大丈夫…です。この国に住むために…必要なら…しょうがない…はぁ…ですよ 」


 精神的な疲労のせいで、途切れ途切れで喋るので精一杯で、椅子に寄りかかりながら返事をしていると、いつの間にか机の上に水筒が置かれている事に気が付き、その先を持っていたのは忍さんの細い指だった。


「悠人様、これをどうぞ 」


「あ…ありがとうございます 」


 忍さんの声に震える手で水筒に手を伸ばし、蓋を開けてその中に入っている水を勢いよく喉に流し込むと、乾いた唇が潤い、カラカラに乾いた喉に冷たい水の感覚が染み渡る。


「ふぅ… 」


 そんな気持ちが良い感覚を感じていると、大和さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる事に気が付いた。


「少しは落ち着いたか? 」


「はい…まぁ…少し… 」


「よし、んじゃこれから不死の国に住むために、最低限必要な事を教えるからしっかりと聞いてくれよ 」


「え? それって… 」


「あぁ…テストは合格だ 」


 その答えは、自分の疲れを忘れるほどのものであり、力が抜けた体は前にへたり込み、喉からは勝手に声が上がってしまった。


「よかったーー!! 」


 そう叫ぶと、大和さんと忍さんは僕を見守る様な優しい笑みを浮かべてくれた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、これ好きな世界観です(*≧艸≦) 悠人の純粋そうな感じも好きですが、何よりも忍が良い!個人的にとても好きです!笑 賢いドSキャラって魅力的ですよね(謎) それに、この国の男の人が一…
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