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第31章 開いた傷


「撃て!!」


「っ!?」


氷の盾を目の前に想像し、迫り来る弾丸を氷の盾で防ぐが、銃の威力が強いのか、氷の盾に段々とヒビが滲んでいく。


((エリアル)(ブーツ))


弾丸を防げないと悟り、すぐさま想像で足回りに風の靴を作り出して空へ飛び、氷の足場を作りながら銃を乱射する兵士の頭上を飛び回る。


そんな私の姿を見てか、チラリと見える兵士達の顔は恐怖に満ちていた。


「惑わされるな!!全兵弾幕を張り続けろ!!」


そんな指揮官のような男性の声に、全員とは言えなかったがほとんどの兵士は銃を上に撃ってくる。


(あの人が、指揮官・・・)


氷の盾を想像して迫り来る弾丸を防ぎながら空を飛び回り、その隙に氷のクナイを左手に生成し、割れる寸前の盾を踏みつけて空に飛ぶ。


神器で身体能力を強化し、左手のクナイを指揮官に投げつけると、空を切る音と共にそのクナイは指揮官の右脳とその後ろの兵士の左足を貫いた。


けれどその付近の人間以外は気づいていないのか、私に銃を撃ち続けてくる。


((そう)(てい))


また氷の盾で銃撃を防ぎながら、雷の槍を五本盾の周りに作り出し、それをばらけさせて人の群れの中に撃ち込むと、悲鳴と共に弾幕は無くなり、気軽に動けるようになった。


銃声が止んだ静かな空気の中で頭を使い、槍が弾けるよう想像をすると、雷の槍は凄まじい轟音を響かせ、槍の周りに居る兵士達を一気に感電させる。


(うるっ!?)


うるさい音に耐えながら、壊滅状態の兵士達の間に足を下ろし、取り敢えず逃げようとしている1人の首を刀で刎ねると、辺りから雄叫びが聞こえた。


「「「あああああぁぁぁ!!!」」」


自分の耳を叩く3つの雄叫びを不快に思いながら、武器を捨ててこちらに向かってくる兵士達の首を刀で刎ねようとした瞬間、ピンッという耳に残る高い音が響いた。


その音にぞわりと肌が疼き、辺りの地面を慌てて隆起させた瞬間、自分の耳を殴るような爆音が辺りに響き渡った。


「っう!!?・・・・・・ぁーーー」


鼓膜が破れたんじゃ無いかと思うほどの轟音に、心配しながら自分の口から声を出すと、鼓膜に微かに自分の声が届いてくれた。


それに安心しながら、ゆっくりと周りの壁を下げてみると、肉の焦げた匂いと血の生々しい匂いが鼻の奥に入り込み、吐き気が込み上げてくる。


「うっ・・・ふぅ」


仮面の下に手を入れて鼻を抑え、少しでも匂いを抑えようと口呼吸をしながら辺りの状況を見ると、さっきの槍で殺した男達は消えていったけど、自爆した人達の肉片はいくら待っても消える事は無かった。


「自爆、したから・・・」


兵士は死んだ。


昔は普通に人を殺していたし、全く知らない人が死んでも別に悲しまないけど、久しぶりに見た本当に死のせいで気分が悪い。


「・・・大和に、どう報告しよう」


大和の夢の事は知っているため、どうやったら大和が考え込まずに済むかと悩むけど、どう考えても人が好きな大和が考え込まないような答えが浮かんでこない。


「はぁ」


ため息を吐きながら刀を鞘に納め、血と魔術式が張り付いた銃を拾って家に向かって家に足を進めていると、誰かの足音が聞こえた。


(なんか、聞いた事があるような)


そんな事を思いながら、草が生い茂る地面を進んでいると、『I like to be a free spirit. Some don’t like that, but that’s the way I am.』と白く書かれた黒いTシャツと青いズボンを履いた陽毬が、こちらに歩いて来ていた。


「桜様。お疲れ様です」


「あ、陽毬!久しぶり」


久しぶりに合った陽毬に笑みを向けると、陽毬も何処か男性勝り笑みを向けてくれ、少し嬉しくなってしまう。


けれど陽毬の服装を見る限り休日なのに、どうしてこんな所に居るのかが少し分からない。


「どうしてこんなとこにいるの?休日なんでしょう?」


「いえ、休日では無いんですよ。琴乃様達に神器に付いて教えていいと言われたので、力が比較的に安全な私が選ばれたという訳です」


「あ、それは大変だね」


神器に付いて教える。


それはつまり、神器 展開に付いて教えるという事だ。


(私の時は・・・美琴さんだったなぁ)


私はそれを美琴さんに教えてもらったけど、その力を扱えるようになるのには半年ほどかかってしまった。


そんな事を思い出しながら、陽毬と一緒に私の家へ向かっていると、陽毬が私の右手にある銃を興味津々に見ている事に気が付いた。


「それ・・・なんです?」


「これ?これは銃だよ」


「へー、初めて見ました」


陽毬は銃に手を伸ばすけど、暴発でもしたら危ないと思い、銃を左手に移すと、陽毬は少し残念がってしまい、その顔を見て少し胸の奥がもやついてしまう。


どうしたら良いんだろうと思いながら、少し急ぐ様に草道を進んでいると、聞き覚えのある足音が聞こえ、胸の奥が暖かくなってしまう。


「あ、桜さん!おかえりです」


「ただいま悠人」


こちらに向かって来てくれる悠人に嬉しい気持ちを表す様な笑顔を向けると、悠人も私に明るい笑みを向けてくれた。


けれど悠人は私からすぐに眼を離すと、陽毬の方にも笑顔を向けた。


「あ、陽毬さん!その服かっこいいですね」


「ありがとうございますね、この服はお気に入りなので」


悠人の返事に笑みを浮かべる陽毬を見て、少し胸の奥がチクリと痛くなってしまい、突然胸奥に感じた痛みに困惑してしまう。


(・・・なんで?)


「桜さん・・・どうかしましたか?」


「んっ!?何!!?」


「いえ、ご飯出来てますよ」


突然の悠人の声に驚いて顔を上げると、悠人の暖かい笑顔を向けられている事に気が付き、さっきの痛みが嘘のように胸の奥が暖かくなってしまう。


「ありがとう、悠人」


「どういたしましてです」


私の言葉に悠人は笑顔をさらに明るくさせ、嬉しそうに家の中に帰っていった。


その行動に頰が緩んでしまっていると、隣から吹き出すような笑い声が聞こえ、そっちに顔を向けてみると、笑みを手で隠している陽毬が見えた。


「どうしたの?」


「いえいえ、何も、無いですよ」


何も無いと言われるけど、笑いながらそう言われてせいで、頭の中に疑問が残ってしまう。


そんな疑問を感じながらも、取り敢えずは家の中に戻ろうとするけど、この血の付いた銃を食卓へ持っていくのは気が引け、自分の部屋に持って行こうと思っていると、後ろから声が掛かった。


「桜様!」


「なぁに?」


「あの、大和様に会って頂けないでしょうか?」


陽毬にしては珍しい頼み込むような態度に疑問を覚えてしまうけど、その真っ直ぐな顔を見て、なにも聞き返せず、頷いてしまう。


「・・・うん、分かった」


「ありがとうございます」


黒紫色の2つの眼がこちらを見ている事に、少し心臓がドキッとしめしまうけど、それを隠すように慌てて陽毬に笑みを向け、自分の部屋に銃を隠しに足を運ぶと、誰とも会う事なく、自分の部屋に着いた。


長い銃を机の下に隠して、悠人が用意してくれた料理を楽しみにしながら、食卓へ足を運んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふぅ」


顔を冷たい水で擦り、顔と髪に着いた水を用意された布で拭きとると、微かな風が水を乾かしてくれ、心地が良い。


(朝に顔を洗うのは、意外に良いものだな)


そんな事を思いながら、眼帯の下に付いた水気もしっかり拭き取り、シワが付いた布を木でできた籠の中に入れて、立て掛けておいた鞘を腰の帯に差して居間に向かって足を運ぶ。


その途中、見たことも無い服を着た陽毬と呼ばれる女性が、縁側の外で身の丈よりも高い木の杖の様なものを持っているのを見つけた。


(何をしているんだ?)


ただ突っ立っている陽毬をじっと見つめていると、陽毬は俺に気づいたのか、こちらに笑顔を向けた。


「あ、琴乃様。家の中にいる人達呼んでくれませんか?」


「・・・はい、分かりました。」


何故そうする意味があるのかと疑問に思うが、別に断る理由も無いためそれに頷き、家の居間の中に足を進めると、ゆいと雷牙が幸せそうに壁に寄りかかっているのが見えた。


「ゆい、雷牙。陽毬から外に出ろと言われているぞ」


「何するの?」


「さぁ?・・・多分だが、戦うんじゃ無いのか?」


ゆいを説得するのはめんどくさいため、適当にそう答えてみると、ゆいは眼を輝かせて床に置いてある短剣をその小さな背中に背負った。


「雷牙、行こ!」


「えぇ、だる」


ゆいの言葉に雷牙は嫌そうな顔をするが、ゆいは雷牙の足を掴み、ズルズルと雷牙を引きずりながら縁側に向けて進み始めた。


(神器忘れてるし)


一応本当に戦うかもと考え、置いて行かれた雷牙の小手を拾い、多分悠人達が居る台所へ向けて足を運ぶと、台所の入り口で悠人と雅が洗い物をしているのが見えた。


けれど雅が視界に入った瞬間、首の血管がピクピクと脈打ち始め、心臓が高鳴り始める。


(どうして・・・いつもこうなんだ)


あの夜から、雅が近くにいるといつも心臓が高鳴り始め、血管が疼き始める。


けれどそれが嫌な訳ではなく、その疼きの中で感じる温かい心地良さをもっと欲しいと思ってしまう。


「はぁ」


そんな事を思ってしまう自分にため息を吐き、小手を脇に挟んでから両手で顔を抑えていると、誰かの気配を感じた。


そっと両手を顔から退けてみると、悠人の顔が俺を覗き込むようにしている事に気が付き、小手を落としてしまうほど驚いてしまう。


「琴乃さん?どうしましたか?」


「えっ?いや、陽毬に悠人達を呼んで来いと言われたので」


「あ、分かりました。すぐ行きますね!」


「・・・分かりました」


俺の言葉に悠人は元気よく返事をしてくれたが、雅は小さな声を俺に返し、悠人は俺に頭を下げて前を通ったが、雅は俺の顔を見ないようにしながら、俺の前を通り過ぎていってしまった。


(あっ・・・)


そんか雅を何故か引き止めようとしてしまうが、何故止めなければならないと言う考えが頭の中でぶつかってしまい、体が止まってしまう。


「・・・はぁ」


ため息を吐き、落としてしまった雷牙の小手を拾ってから重い足取りで縁側へ行くと、俺以外は全員縁側の外に立っていた。


「遅い!」


「・・・すみません」


怒鳴るゆいに言葉だけの謝罪を返し、ため息を吐きながら草履を履いてから、雷牙に向け小手を軽く投げる。


「おっ、あんがとな」


「あぁ」


礼を言ってくる雷牙の言葉を返し、雅が視界に入らないよう雅の左側に移動して陽毬を見ると、陽毬は女性にしては男らしい笑みを浮かべ、長い杖を片手で軽々と降り回してそれを地面に向けて突き刺した。


「さて、皆さん揃った事ですし、そろそろ始めましょうか」


「何を?」


「神器に付いて指導します」


陽毬は杖を指先で叩いて笑うが、何を言いたいのかいまいち分からない。


「それが、何になるんだよ?」


「大和様を倒す手助けになりますよ」


その言葉に頭の中が急激に熱くなり、爪が手のひらに食い込む痛みを感じてしまう。


「で、それはどうやるの?」


けれどそんな楽しそうな声を出したのは、意外にもゆいだった。


ゆいとは何回か大和を倒すために一緒に戦ったが、今のゆいの声色には怒りが微塵も感じなかった。


(どう・・・して?)


「簡単ですよ。神器に触れて、この神器の元になった神と自分が共通する記憶を見つけるんです」


「・・・えっと、それが分かったらどうなるんですか?」


「それを今から見せますから、皆さん、戦う準備を。・・・悠人様はもう受けましたし、大丈夫ですよね」


「あ、あれの事ですか。お布団の用意しておきますね」


「・・・ありがとうございます」


その声に顔を上げると、俺以外はみんな散らばっており、悠人は家の中に帰って行っていた。


「琴乃、何してんだ?戦うんだとよ」


「あっ、あぁ」


雷牙の言葉に心を切り替えて刀を抜き、雷牙達から離れて陽毬の方に顔を向けると、陽毬は軽い笑みを浮かべ、杖を槍を持つようにして構えていた。


「では、『(とき)(また)ぎ』・・・神器 展開」


その言葉に合わせ、陽毬が持っている杖に青白い文様がゆっくりと浮かんで行き、それが杖中に浮かび切った瞬間、全身に鳥肌が立ち、体が警戒しろと訴えてくる。


それは雷牙達も同じらしく、ゆいはすぐさま自分に傷を付けて短剣に血を吸わせ、雷牙は全身に雷を纏った。


((めぐ)(しな)()(かぜ))


それに遅れて自分の身体にも風を纏い、いつ攻撃が来てもいい様に体の力を抜いて集中していると、陽毬の足元には青い炎が纏い、杖を右脇に挟んで構えた。


「さぁ、いつでも良いですよ」


その言葉にゆいは素直に陽毬に突っ込み、俺と雷牙と一瞬遅れて間合いを詰めようとした瞬間、突如、ゆいのこめかみを杖が抉り、ゆいは横に吹き飛んで地面を転がると、そのまま動かなくなった。


「ゆい!?」


この中で一番機動力のあるゆいが、一撃を食らった事に焦るが、それとは別にある違和感が脳裏にこびり付く。


(攻撃の瞬間が、見えなかった)


そんな事を思いながら足元に風を集中させ、攻撃に備えて陽毬に2人で接近するが、陽毬は俺らが接近すると、何もせずに距離を開ける事しかしてこない。


(何故だ?)


そんな行動に疑問を感じながらも、雷牙とさらに接近を試みると、俺の左の耳元を掠めるような鋭い炎の矢が通り過ぎた。


けれどそれが陽毬に当たる直前、急にその矢は方向を変え、俺の方に飛んできた。


「っ!?」


咄嗟に足を横に滑らせて矢を躱すが、地面から前に顔を上げた瞬間、鈍い音が辺りに響き渡り、雷牙が横へ吹き飛んだ。


「なっ!?」


雷牙の魔法の事は本人に聞いた事があるため、その力を使ってなお攻撃が当たるのはおかしいと考え咄嗟に後ろに飛ぶが、陽毬はこれ見よがしに俺へと間合いを詰めてくる。


けれど間合いを詰めてくるならと思い、体の力を抜いて、心の中で言葉を唱えながら足裏に風をさらに集中させる。


((ふう)(じん)(まい) (ひょう)(ふう)!!)


足裏の風を爆ぜさせ、その勢いのまま陽毬の顔面に刀を突くが、その突きは空を刺しており、いつの間にか自分の間合いの外に陽毬は杖を横に構えていた。


(なん)


何かがおかしい。


そう心の中で確信するが、迫り来る杖のせいで考えてる暇がない。


その杖を逆手で受けて一旦距離を取ろうとするが、刀に杖が当たる瞬間、その杖は刀を飛び越える様に移動し、俺のがら空きの腹へ杖が抉り込んだ。


「がっ!?」


後ろに吹き飛んでしまい、地面に身体を擦らせながら勢いを弱め、勢いが弱まってから刀を杖代わりにして立ち上がると、杖を雅に振りかぶる寸前の陽毬が見えた。


「みがっ!!」


それを止めようと踏み込んだが、その勢いのまま血を吹き出してしまい、膝をついてしまう。


(臓物、がっ!?)


唐突な痛みと吐血のせいで動けないでいると、辺りに鈍い音が響き、硬いものが地面に落ちる音がした。


(クッ・・・ソ!)


こんなちんけな痛みだけで動けない自分を歯がゆく感じていると、軽い足音が近付き、風切り音が聞こえた。


するとこめかみに強い衝撃が走り、景色が回った。


・・・・・・・・・・・?


・・・・・?


・・・・・・・?


見覚えがある道を、骨が皮膚から浮き出る男が歩いている。


それは、自分が生贄の洞窟に行っている時の光景だった。


(悔しい)


そんな声が聞こえた。


(・・・ふざけるな!ふざけるな!!)


その声は、自分の胸の中から聞こえる。


(なんで俺が!なんで俺なんだ!!)


その声に合わせ、右拳に力が入る。


生贄の代わりには、自ら進んで身代わりなった。


けれど納得なんて出来ない。


なんで、自分なんだ。


なんで周りの大人は止めようとしない。


なんで、俺はこんな怪我をしている。


そんな感情が頭の中で蠢いていたが、水も飯をろくに食わせては貰っていなかったため、紐も解く事は出来ず、洞窟から逃げ出す事は出来なかった。


(寒い・・・寒い)


身体をこすり合せるが、身体が自分の身体とは思えないほど冷たい。


それからしばらくの間、寒さに身体を震わせていると、身体の震えが止まり、瞼が閉じた。


自分は、死んだ。


けれど眼が覚めると、自分は不死になっていた。


俺は、この世に生まれて一番喜んだ。


怪我がない体。


跳ねても着地が出来る足。


物を強く握れる指。


痒くない背中。


包帯を毎日変える必要もない。


嬉しかった。


嬉しかった。


嬉しかった。


そんな感情に涙を流しながら喜んでいると、洞窟の外から誰かが歩いてきた。


「おぉ、目ぇ覚めたか?」


何処か聞き覚えのある声に両眼の涙を拭うと、生贄が着る白い服を着た金髪の女性が洞窟の入口に立っていた。


「お前は・・・」


「私は雷牙って言うんだ。・・・お前と一緒に縛られてた奴」


「あっ」


その言葉を聞いて、思い出した。


俺と一緒に手首と足首を繋がれ、顔に獣に引き裂かれた様な傷跡を負った、シラミが湧いて居そうな黒髪の痩せ細った女の事を。


けれど俺に近づいてくる女は痩せておらず、その顔は人では無いように美しい。


まるで、巻物に描かれた神のような顔だった。


「大丈夫か?お前結構寝てたし」


「あぁ、大丈夫だ。・・・お前は何をしてた?」


「・・・帰ってたんだがあいつら、私達を受け入れる気は無いみたいだ。・・・生贄は死んでいろと言われたよ」


血の付いた袖を見せられ、ただ何も言えずに顔を俯かせる事しか出来なかった。


「・・・そう、か」


雷牙の悲しそうに話す姿に胸が痛くなり、これからどうして生きて行けば良いかと考えていると、雷牙に肩を掴まれ、顔を近づけられた。


「なぁ、これから妖怪達が住んでいる場所に行かないか?」


「・・・どうして?」


「・・・私らはもう、人間じゃ無い。だから人間が住んでいる場所には居られない」


「・・・そう、だな」


人は、自分と似ても似つかない者とは相容れない事は知っている。


だから、その雷牙の提案は正しいと思った。


「分かった」


それから、2週間かけて北に向かった。


森の中で魚や虫を食べ、飢えを満たしながらぼーっとした頭で北の森へ進んでいると、暗い森の中に笑い声が聞こえた。


「こんな森の中に人が居るのか?」


「いや、多分・・・」


怯える様な雷牙の肩を掴み、2人でその笑い声が響く場所へ足を進め、光が溢れる草木を払うと、この世の者とは思えない者達が、灯篭の光が満たす空間で酒を飲んだり踊って居たりした。


「なんだ、これ?」


「え、なんだよこれ」


その光景に俺も雷牙もただ呆然としていると、1人の肌が鬼の様に赤く、鼻が木の枝の様に長い天狗の男がこちらを見ている事に気が付いた。


「雷牙、まず」


「よぉ、不死の姉ちゃん達。こんな辺境に何の用だ?」


雷牙と2人で森に逃げようとしたが、一瞬の内に男は俺らの肩を掴んでおり、一瞬のうちに俺らは転ばされてしまった。


(クソっ!)


持参した短剣を腰から抜き、その男の顔に短剣を突き刺そうとしたが、その手首を手刀で殴られ、強い衝撃のせいで短剣を落としてしまう。


「もう一度聞く、何をしに来た?」


「・・・私達は、逃げてきたんだ。・・・不死だから」


「雷牙!?」


大人しく本当の事を話す雷牙を止めようとしたが、天狗の男は唐突に優しい笑みを浮かべ、俺達を無理やり立たせ、その宴会を行なっている様な場所達に引きずり出した。


何をされるのかと思い、この状況から逃げられるかどうかと眉を寄せていると、肩に温かい布を掛けられ、後ろから手拍子の音がした。


「お前ら!!不死様が腹が減ってるらしいぞー!!」


「えーほんと!?じゃあこれ、お稲荷さんだよ」


「んじゃ儂は魚で。・・・食いかけだが」


「はいはい、それは置いておいて、イノシシの干物ですよ、醤油を塗ってあるのでお酒と合いますよ」


その手拍子に合わせ、その場で宴会をしていた妖怪達は一斉に俺達に群がり、急にをもてなし始めた。


「はっ!?」


「いやえっ!?どういう事?」


急過ぎるもてなしに慌ただしく困惑していると、後ろから白くふわふわとした物が顔に絡みつき、慌てながら後ろを振り返ると、2つの白い尾を揺らす白髪の年老いた女の獣人が俺達を貫禄がある青い瞳でじっと観察していた。


「おや、見ない不死だね」


「あぁ、逃げて来たんだとよ」


「・・・そうか」


その獣人は地面に膝を付くと、俺達に優しい笑みを向け、俺達の頭を白い尾で撫でて来た。


「何があったか聞かない。だから・・・ここでゆっくり過ごすと良い」


その言葉は何処までも優しく、温かい声色は冷え切っていた俺の心に染み込んだ。


すると安心感が込み上げ、大勢の妖怪達の前で大量の涙を流し、その場で泣きじゃくった。


それから俺は、こんな優しい妖怪達が人間が言っていた酷い奴らと言う考えは間違っている事に気が付いた。


だから妖怪達は良い奴らだと、人間に伝えようと考えたが、それは天狗の爺さんに止められた。


止める理由を天狗に問うと、天狗は笑い、俺達にこう言った。


「儂らはどう足掻こうと人間じゃ無い。今和解できたとしても、年代が変わる事にその考えは薄れていく。だから儂らは、静かに暮らすんだ。儂ら妖怪が滅ぶまで」


その考えに言葉が出ず、自分の考えが何処までも浅はかなのかが良く理解できた。


だからこそ俺達もこの状況をよりよくするのではなく、この人達の平和を守るために動こうとした。


そのために妖術を学んだ。


妖怪達は意外にも神を信仰しており、その儀式で行う舞を足裏の皮が禿げるまで練習した事を思い出した。


酒を飲んだ。


子供達と仲良くなった。


妖怪達の子供が生まれた。


そのために舞を披露した。


楽しかった。


嬉しかった。


別れは辛かった。


人間の時に体験出来なかった思いを、ここで体験し、ここで成長出来た。


なのに・・・・・・みんな・・・死んだ。


大切な人達だった。


殺された。


許さない。


許さない!


許さない!!!


あいつを殺す。


刺し殺す。


首を落として殺す。


袈裟を斬り落とす。


峰で殴り殺す。


柄で頭を割って殺す。


殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


「殺して、やる」


「えっ?」


桜の驚く様な声に眼を開き、体を起こして辺りを見渡してみると、全員が飯を食べて終えた後の様にくつろいでおり、俺の方を驚く様に見ていた。


「えっと、琴乃。大丈夫?」


その言葉に自分が見ていた物が夢だと悟り、長い息を吐いて高くなった体温を落ち着かせてから、桜の方へ顔を向ける。


「・・・はい、大丈夫です」


顔を抑え、柔らかい布団の上でため息を吐いて気を落ち着かせるが、胸の奥に暗いなにかを感じる。


(・・・この気持ちを、忘れていた様な気がする)


「あ、えっと、ご飯食べます?」


「・・・お願いします。」


女の様に優しく聞いてくる悠人に頷いて汁物達が置かれた席に座ると、隣には雅がいた。


けれど、今は何とも思わない。


話す気にもなれない。


無心で差し出された白米と一緒に、すーぷと呼ばれる汁物の様な物を啜っていると、ゆいが桜の方を睨んでいる事に気が付いた。


「ねぇ!神器展開って何!?」


「えぇ、今琴乃がご飯食べてるし、後にしない?」


「お構いなく。俺も・・・知りたいので」


白米を飲み込んでからそう伝えると、桜は仕方がなさそうに短い息を吐き、腰に刺している刀を持ってその場に立ち上がった。


「まず、陽毬からは何処までも聞いた?」


「何か、神器に触れて、神器の元になった神との共通点を見つけろって言われました」


「なら、もうそれが答えだね。」


「いや待て待て!私の頭が悪いかもだけど、意味が分からないんだが!?」


「私も意味分かんない」


雷牙とゆいは桜にそう伝えるが、桜自身も苦笑いをし、こめかみに手を当てた。


「うーん、私もそう教えられたからね。雅とゆいは神器を貰う時に何か言われたでしょ?」


「うん、人を守って殺された獣とか」


「私は、50年弓を引いた女神と」


「そうそう。それを自分の人生に当てはめて行くんだけど、雷牙が言った通り意味が分からなくて当たり前。だから、不死の国でも使える人が全然居ないの」


桜の言葉に内心ため息を吐き、焼かれた魚をほぐして口に運んでいるとある事を疑問に感じ、魚の身を飲み込んでから、桜に質問をする。


「あの、桜はその力を使えるのですか?」


「うん、使えるよ」


「・・・そう、ですか」


体感で言えば、大和と桜で言えば大和の方が強い。


けれど、桜も大和に近い何かを感じる。


だからこそ、あいつを殺したければ大和に。


大和を殺したければ、桜を殺せる力がいる。


(クソが)


内心悪態をつきながら箸を置き、食べ終えた器の前で手を合わせる。


「ご馳走さまでした」


会釈をし、食器と残された魚の骨を台所へ持っていこうとすると、横から雅の細い手が伸び、勝手に持っていかれてしまった。


「・・・ありがとうございます」


雅の後ろ姿にそう伝えるが、雅はこちらを振り向かず、台所へそそくさと向かって行ってしまった。


その雅の行動に、やはりあの時抱きついてしまったのを気持ち悪がっているのだろうと思い、ため息が口から漏れてしまう。


「はぁ」


そうして自分の軽率な行動に後悔していると、後ろから雷牙が近付いて来た。


「なぁ琴乃、お前なんか雅にしたのか?」


「いや、何も・・・してない」


「嘘」


俺の言葉を否定する様にゆいが前からじっと俺を見つめ、その場から逃げようとすると、雷牙から肩を掴まれた。


「喧嘩かなんかしたのか?相談になら乗るぞ?」


「いや、今は放っておいてくれ」


ため息を吐き、布団の横に置いてあった自分の刀を持って縁側へ向かう。


その途中、桜から声をかけられた。


「あ、琴乃。何処に行くの?」


「少し・・・外に」


優しく聞いてくる桜に軽く頭を下げ、ため息を吐きながら縁側に置いてある草履を履き、夜の森の中へ足を進める。


しばらく涼しい森の中を進み、いつか桜に神器の合わせ技を教えてもらった広場に着くと、やっと1人になれた様な気がして、少し心が落ち着いてしまう。


「ふぅ」


刀を逆手で抜き、鞘をそっと地面に置いてから、心の中で言葉を唱える。


((めぐ)(しな)()(かぜ))


すると体には静かに風が纏い始め、夜の冷たい空気で肺を満たして体を動かす。


((ふう)(じん)(まい) (きょう)(ふう))


足を滑らせ、そこに敵がいると想像しながら刀を振るい、次の舞に繋げる。


((ふう)(じん)(まい) (みだ)(かぜ))


刀を両手の間を何度も移しながら空を斬り、刀を横に振るう。


((まい)(かぜ))


刀を両手で握り、足を滑らせながら体を回して体制を低くしながら刀を振るう。


((しお)(かぜ))


刀を下から上へと3度斬りあげ、刀を背中へ回す。


((おろし))


風切り音が辺りに響き渡り、静かになった辺りの空気を感じていると、ある思い出が脳裏をよぎった。


楽しかった事。


大変だった事。


褒められた事。


恋をした事。


それが実らなかった事。


その人と別れた事。


けれど、みんなの死体が脳裏に浮かぶと、どうしようもない感情が胸の中を虫の様に蠢き、その気持ち悪さに耐えきれず刀を地面に叩きつけてしまう。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁああっ!!!!」


喉が張り裂ける勢いで声を出す。


けれど蠢く感情は止まらず、胸の奥を掻きむしろうにも、肉が邪魔で搔きむしれない。


「クソッ!!クソッ!!!クソォォォ!!!!!」


あの死体の山が脳裏にこびりついて離れない。


憎い相手を、殺せなかった。


だから殺したい。


それを邪魔するあいつが腹立たしい。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!!」


左拳で地面を殴りつけると拳から痛みが頭に走るが、その痛みに耐えるためにまた地面を殴りつける。


弱い自分が憎い。


弱い自分が腹立たしい。


弱い自分が不甲斐ない。


弱い自分が・・・・・・


弱い、自分が・・・・・


涙が瞳から溢れた。


止めようがないほどの勢いだ。


「クソ・・・が」


体を丸める。


赤子の様に。


硬い、地面の上で。


「弱い、なぁ」


自分の無力さを味わいながら、硬い地面の上で泣きじゃくってしまう。


死にたいとは、思わない。


けれど、今は自分の無力さが憎い。


(クソ、クソ、クソ、クソ・・・・・・クソ)


痛い地面の上で眼を閉じ、体を丸めながら泣いていると、意識・・・は・・・・・・・・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁー」


ため息を吐きながら紅茶の茶葉をティーストレーナーに入れ、少し冷ました熱湯で茶葉を蒸らしていると、後ろからそっと両眼を隠された。


「だーれだ?」


「ちょっと白雪さん!危ないですって!」


耳につく様な綺麗な声で、後ろに居るのが白雪さんだと分かり、慌てて首を横に振るうと、少しお湯を零していた。


「もーう、白雪さんのせいで零したじゃないですか!!」


「ごめんねー時雨、久しぶりの外だから興奮しちゃって」


確か白雪さんは魔法を私欲のために使い、大和様から2週間の謹慎処分を受けて居たのを思い出したけど、それよりも白雪さんが無事に外に出られて良かったと安心してしまう。


そんな安心感を胸に感じていると、私の肩に白雪さんの顔が乗り、その目線は私の手元の茶葉を見ていた。


「・・・オートムギアールグレイ入りに青リンゴって、全部抗鬱だね」


「・・・えぇ、大和様に飲ませます」


背中に伝わる2つの大きな感触を羨ましく思いながら砂糖の準備をしていると、その温かい2つの感触は離れ、台所の扉を開く音と何かを探す音が聞こえた。


「ねぇ時雨、白ワインは何処〜?」


「それなら冷蔵庫の野菜室に入ってますよ」


「ありがと〜」


白雪さんは私にお礼を言うと、そのまま大きな冷蔵庫の中を探し始めた。


その間、少し蒸らし過ぎた茶葉にお湯を注ぎ、その中に少しお砂糖を入れてから少し揺らす。


砂糖と切った青リンゴを馴染ませた物を、氷を入れた大きなグラスに入れ、きめ細かい網の上から紅茶を入れる。


それを太いストローで軽く混ぜ、トレーに乗せて後ろを振り返ると、食器に置いたクリームチーズを舌先で舐めながら、冷やした白ワインを飲んでいる白雪さんがテーブルの上で蕩けて居た。


「ねぇ時雨〜、飲み相手になってよ〜」


「えっ、私は」


私は普段お酒は飲まないため、それを断ろうとしたけど、白雪さんが2週間も1人で居たことを考えると、断る気が失せてしまった。


「・・・分かりました、大和様にこれ届けたら帰ってきますね」


「ん〜、ありがとう」


蕩けた顔の白雪さんに笑みを向け、廊下を急いで進んで階段を登り、大和様が居る王室の扉をノックするけど、大和様の声は帰って来なかった。


「大和様?・・・入りますよ!」


何か嫌な予感がし、急いで扉を開くと、月光を背に頭を抑えている大和様が見えた。


「しぐ、れ?」


「はい・・・何か、ありましたか?」


私を見た大和様は慌てて歪な笑みを作り、私に暗い部分を隠すように明るい声色で声を返してくる。


「あーいやなんでもねぇよ。少し・・・問題事があるだけだ」


「あの、自爆の事ですか?」


「・・・あぁ」


大和様が夢のために、不殺の魔術を使って不死たちは力は持っているが人間を攻める気は無いと証明しようと考えて居たらしいけど、兵士達が自爆をしたせいで、向こうの国から見たら、不死が兵士を殺したと見られてしまうし、軍事的に利用する事は簡単だと思う。


「それは」


「でも大丈夫だ。最悪戦の国との同盟ができなくても、科の国には不死の国の情報を、魔の国には色々な武具の設計図を餌に同盟に持ってけるかもしれねぇから」


「あっ、そうなん・・・ですか」


意外に前向きな大和様に少し嬉しくなってしまうけど、何かが胸の奥に引っかかる。


けれど、ここに居てはお仕事の邪魔になるし、白雪さんとの約束もあるからと思い、足を前に進める。


「大和様、私の特製の紅茶です。カフェインはあまり入ってませんので、飲んでもちゃんと寝れますよ」


「おー、ありがとな」


大和様に近付き、仕事机の上の空いている場所に結露したグラスを置くと、甘酸っぱい果実の様な匂いがほのかに鼻をかすめた。


「なんです?・・・ブラックベリー、ですか?」


「分かるか?悠翔がくれた木製のアロマの匂いだ」


その悠翔と言う人物は真白様から聞いた事がある。


確か戦の国の人間だけど、不死を敵対していない、大和様の夢を実現した様な人。


(そんな人が、もっと増えれば良いんですけどね)


そんな事を考えてしまうけど、人の考えはそれぞれ違うものだから、それは無理なんだろうと思ってしまうが、顔だけは明るくし、大和様に笑顔を向ける。


「では大和様、私はこれで失礼します」


「おぅ、お疲れ様」


大和様に頭を下げ、扉を出る前にもう一度お辞儀をして扉をそっと閉める。


(元気そうで、良かった)


自分の嫌な予感が外れてくれた事に安心しながら、白雪さんが待つ台所へ急いで降りると、クリームチーズを舌先でチロチロと舐めながら、チビチビとワインを飲んでいる白雪さんが待っていてくれた。


「お待たせしました」


「おかーり〜」


その言葉は呂律が回っておらず、かなり酔っ払っている事が普段お酒を飲まない私にも容易に分かってしまい、少し心配になってくる。


「大丈夫なんですか?」


「大丈夫、大丈夫。それより、時雨も飲もうよ〜」


「・・・分かりました。でも、少しだけですよ」


食器棚に置いてあるグラスを取り、半分以上減ったワインをグラスに入れて席に座ると、白雪さんは顔を机に付け、眼線だけを私の方に向けてきた。


「大和様、どうでした?」


「・・・元気でしたよ」


自分が見て来た事を伝え、久しぶりのワインを少し飲んでみると、それはとても甘く、何杯でも行けそうに美味しい。


「美味しい」


パチパチと口の中で弾けるワインをチビチビと飲んでいると、白雪さんが私の事をトロンとした眼で見ている事に気が付き、なんだろうと疑問に思ってしまう。


「どうかしました?」


「ん〜とね、清白ちゃんってどうなったの?」


白雪さんの心配そうな声に、答えるか答えないかで悩んでしまうけど、悩んだ挙句、心配してるならと思い、白雪さんに笑みを向ける。


「清白さんなら、ここの料理長の元で働く事になりましたよ。普通に働かせるのは、白雪さんの魔法のせいで困難なので」


「・・・そっか〜、大和様にもお礼を言わないとね〜」


白雪さんはワイングラスを揺らし、その中に入っているお酒を一気に飲み干した。


それを見て私も少しお酒を口に含み、ワインのスッキリとした甘さを感じていると、ふと、ある疑問が頭に思い浮かんだ。


それは、白雪さんの魔法の事に付いてだ。


「そう言えば、どうして白雪さんって清白さんに魔法を使えたんです?」


白雪さんの魔法、『(いん)(きゃく)』は対象にした人物と性交をする事によって、相手の過去を快楽で隠し込む魔法だけど、それには条件がいる。


それは、その人物が極限まで・・・自ら死を選ぶほどに弱っている事。


「・・・私ね、清白ちゃんにお仕事教えてたんだけど、私が少し眼を離した隙にナイフで自分の首を刺しちゃったの。それで生き返ったら、物凄いパニックになっちゃってさ、また自殺をしようとしたから、それを止めるために、ベットに押し倒したんだよ」


その言葉に、白雪さんが自分の欲望のために魔法を使っていない事が分かりホッとしてしまうけど、それとは別にある事が胸の奥で引っかかった。


「・・・その事を、大和様は知ってるんですか?」


「いんや〜、あの人は優しいから、またどうでもいい事で悩んじゃうよ〜」


ワインをグラスに注ぐ白雪さんの言葉に、大和様の事をみんな大切に思ってくれているんだと分かると嬉しくなってしまい、胸の奥が暖かくなってしまう。


けれどぼんやりする頭でさっきの言葉を繰り返していると、ある事に気が付いた。


「白雪様〜?どうして清白さんの事を私に言わなかったんです〜?そしたら治したのに」


「だって〜、時雨ちゃんの力、傷を塞ぐだけじゃん。だからさ〜、何かのきっかけで傷が開いたら二度手間じゃん?」


「そう〜、ですね」


確かに白雪さんの言う通り、私の魔法は心の傷を塞ぐではなく、傷口を無理やり縫う様な感じだ。


だからこそ、その人の嫌な思いを無くすと考えれば、私より、白雪さんの方がよっぽど優秀だ。


(このままだと、私が)


「ねぇ〜時雨ちゃ〜ん。」


「・・・はい?」


「私ね〜、こんなんだけど、ここに居られるのがとっても幸せなんだ〜」


顔をほのかに赤く染める白雪さんの言葉に、さっきの痛みが嘘の様に胸が暖かくなってしまい、頰が自然と緩んでしまう。


「奇遇、ですね〜。私も今は、幸せですよ」


「良かったね〜」


「えぇ、本当に」


白雪さんに笑みを向けて、グラスに入ったワインを全部口に含め、口の中に広がる甘さを舌で味わいながら空になったグラスを流し台にそっと持っていき、割らない様に優しく洗う。


「あ、白雪様〜、飲み終わったらぐらひゅ持ってきて下さ〜い」


後ろにいるはずの白雪さんに声を掛けるけど、声が帰ってこない。


その事を疑問に思い、水を止めてから後ろを振り返ると、机にうつ伏せになり、静かな寝息を立てている白雪さんが見えた。


(あ、酔いひゅぶれちゃったんでひゅね)


泡が付いた手で、机の上に置かれたお皿とグラスを取り、流し台でそれらを洗ってから水切り台に乗せて、体を伸ばす。


(これりゃと、ゲームが出来ましぇんね〜)


自分の頭がどれくらいぼーっとしているか確認し、手を洗ってから台所の下に入れてある毛布を白雪さんに掛け、ふらふらとした足取りと頭で、自分の部屋へ向かう。


(たまに酔っ払うのも、良いでしゅね〜)


頭がポワポワする感覚を感じながら、足を進めていると、急に眠たくなってしまい、歩きながら眼を閉じてしまう。


すると・・・・・・・・倒れ・・・・・?


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