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第27章 苦しむ者


「清白ちゃーん、起きてー」


頰を優しくつつかれ、重たい瞼をゆっくりと開くと、ピンク色の眼をこちらに向け、優しい笑みを浮かべている白雪が白いシーツに身を包んでいた。


「っ!?」


反射的に体をベットから起こすと、体に感じる感覚がやけに冷たい事に気が付き、不死の顔から自分の体へ眼を向けると、自分の小さな胸と白い肌が見え、自分が裸だという事に気付いた。


(なんで!?)


今の状況を頭が遅れて状況を理解すると、シーツを体に巻きつけ体を隠すが、そうするとシーツが白雪から取れ、雪白の綺麗な体が露わになる。


けれど雪白は恥ずかしがる素振りを見せずに、私に体を寄せる。


「く、くるな」


そんな意味が分からない雪白に恐怖を覚えていると、雪白は私の肩に細い手を乗せ、私に顔を近付けてくると、私の耳元にそっと口を運んだ。


「忘れたの?」


そんな囁きが頭に響くと、体が震え、謎の甘い快楽が全身を巡り、断片的な記憶が頭を駆け巡る。


昨日の夜、私は・・・白雪と・・・絡み合った。


「思い出したね」


そんな記憶を思い出し、白雪に恐怖と恥ずかしさを覚えるが、そんな私とは裏腹に、白雪はとても優しい笑みを浮かべ、裸のままベットから降りて行った。


(ここは?)


白雪から眼を離して、取り敢えず辺りを見渡してみると、広い一室に机やクローゼットなどの生活用品が置かれており、そのクローゼットの中を漁る白雪の姿を見て、ここは白雪の部屋だと理解できた。


自分が何故こんな所に居るのか、寝る前の記憶を辿ろうとするが、自分が起きる前の記憶があれ以外全くなく、頭には白い靄がかかっているようだった。


「清白ちゃんの着替えと汗拭きシート置いとくね」


少し重たく違和感がある頭を回していると声をかけられ、そっちに眼を向けると、白雪は白い下着と服と濡れたティッシュをベットの上に置き、私が居るにもかかわらず、その場で着替え始めた。


その艶やかな白い肌や大きな胸に何故か目が行ってしまい、それを見ていると口の中によだれが溜まってくる。


「もう、そんなにジロジロ見ないでよ」


その声を聞いて慌てて白雪の顔を見ると、白雪は悪戯っぽく笑い、頰を少し赤く染めていた。


「ご、ごめん!」


その顔に釣られて私も顔が熱くなり、顔を急いで隠す。


白雪を見ないように置かれた服を自分の方に寄せ、濡れたティッシュで脇や首を拭き、下着を付けて服を着る。


「あ・・・れ?」


何気なく服を着たが、自分がどんな服を着ているのかが何故か分からない。


ふらふらとした足取りで、部屋に置かれた大きな鏡に向かって足を運ぶと、本で見たことがある、メイド服を着た白髪の綺麗な不死が立っていた。


「えっ?」


その光景に頭が混乱し始め、ズキズキと疼く痛みが頭を襲う。


痛む頭を抑えて息を荒くしていると、なにかの映像が脳裏に浮かび、なにかを思い出しかける。


(私は・・・なにをして)


「ほーらどうしたの?」


なにかを思い出した瞬間、メイド服を着た白雪に肩を掴まれ、その記憶が何処かへ飛んでしまい、それと同時に得体の知れない恐怖が胸の奥に絡みつく。


「ねっ、ねぇ、白雪。私は何をしに・・・ここに来たの?」


「・・・忘れたの?清白は」


白雪は私の肩を掴んでいる手に力を入れ、背伸びをしながら私の耳に口を近付けて来た。


「私を愛しに来たんだよ」


細い息に混じったその小さな囁きは、また私の頭に響き、甘い快楽が頭に潜り込む。


それに頭がぼーっとし始めると、白雪は私から顔を話し、明るい笑顔を浮かべた。


「なーんて、冗談だよ。清白はここで今日から働き始めるんだよ」


「そう・・・なんだ」


ぼーっとした頭で白雪の言葉に頷くと、白雪は私の手を取り、部屋の扉を開けた。


すると、どこかで見た事があるような廊下が広がっていた。


「さ、今日のお仕事頑張ろう」


「・・・うん」


笑顔を向ける白雪に頷き、その細い手を握って廊下を進むが、その途中も、頭にかかる靄のような物は晴れることは無かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うーん、間違いはねぇかな?」


仕事部屋で、王都で新しく建設予定のステーキ店の情報に誤りが無いか眼を光らせていると、外から扉をノックする音が聞こえた。


「時雨です。今日の資料をお持ちしました」


「おう、入って良いぞ。」


外に居る時雨に部屋に入る様に促すと扉は開き、空色の髪を二つに纏めた時雨が、扉からひょっこり顔を出した。


「失礼します」


時雨は1度頭を下げると、私の机に近付き、書類の山を机の上に置いてくれた。


「ありがとう」


「はい」


今日の分の仕事を持ってきてくれた時雨にお礼を言うと、時雨は嬉しそうに笑い、それにこっちも嬉しくなったが、時雨から感じる感情はどこか硬かった。


「そういや時雨、忍は大丈夫か?」


「はい、大丈夫ですよ。魔法で心の傷は治しましたから」


可愛らしくドヤ顔をする時雨から感じ取れる感情は、いつもの通りの時雨だったが、それとは別にある不安が頭をよぎる。


時雨の魔法、『恢復(ケア)』は心の傷を治せるありがたい魔法なのだが、忍の心の傷を治そうが、一ヶ月後には忍は癇癪を起こしたように暴走し始める。


それだけならば癇癪が起こる前に傷を治せば良いのだが、最近その感覚が短い。


そのせいか、最近時雨も疲れているように見える。


「なぁ時雨、お前今日は休んで良いぞ」


「嫌です」


私の提案を即決で断られ、面をくらいながらも時雨の顔を見ると、その顔には優しい笑みが浮かべており、私に伝わる感情はどこまでも優しさに溢れていた。


「みなさんが心配なので、休みませんよ」


その優しい顔を見て、逆に胸が締め付けられる。


だってその顔には、自分が見えて居ないから。


「いや、お前は」


時雨に言葉を投げかけ用とした瞬間、机の中からコール音が響き、一瞬心臓が高鳴る。


けれどそのコール音が桜からの着信だと分かると、様々な不安は心から消え、喜ばしい気持ちを胸に感じながら机の中からケータイを取り出す。


「どうした?」


ケータイを耳に当て、明るい声で桜に声をかけるが、帰ってくるのは無音だけで、無音から伝わる感情からは、強い不安を感じられた。


「なぁ、大丈夫か?」


「あっ、急にごめん大和。今日少し空いてる?」


久しぶりに桜の声を聞いて、普段通りなら嬉しいが、桜の声から伝わる不安があるせいで、心の中で嫌な感情が育つ。


「桜、気を使わなくて良い。要件を言ってくれ」


「・・・ごめん。実はゆい達が攻めて来た子に合わせろって言ってるの。どうしてかな?」


その声を聞いて胸の中の嫌な感情が蠢き始め、気持ち悪くなってくる。


それを少しでも楽にする為にため息を吐き、頭を抑えて清白に付いて簡潔にまとめる。


「あいつはまぁ、ゆい達の故郷を滅ぼした奴だ」


「えっ、じゃあ」


「あぁ、ゆい達がしたいのは復讐だろうな」


私の言葉に桜は黙り込み、その微かに聞こえる細い息使いからは悲しさを感じられ、自分の胸の中には不安が押し寄せる。


ゆい達は清白が生きている事を知っていて、また殺そうとしている。


けれどゆい達が持っている復讐心は、清白を殺そうが、辱めようが、地下深くに閉じ込めようが晴れる事はない。


だって、何をやっても死なないから。


(けど、あいつらは不死殺しの存在を知ってるからな)


個人的には、不死は全員守りたい。


けれどゆい達と清白を合わせれば、ゆい達が清白を襲うのは明らかだし、かといってゆい達を合わせなければ、ゆい達の怨みは積もるばかりだ。


(クソッ!考えろ、全員を救う方法を!)


唐突に湧き出した苛立ちを抑えるために頭を左手で掻き毟り、そんな都合がいい方法を考えていると、掻き毟っている左手を弱い力で抑えられる。


はっと顔を上げると、瞳を私と同じ赤色に染めた時雨が視界に入った。


それは、時雨が『共感(リンク)』を自分の精神に負担をかけるほど使っている証拠だった。


「時雨!?」


椅子から慌てて立ち上がると、時雨は膝から崩れ落ちる。


急いで時雨の肩を掴み、頭を打たないよう首の後ろに腕を回すと、時雨は汗が滲む顔に弱々しい笑みを浮かべた。


「大和様、多分、ですけど、ゆいさん達と、清白さんを合わせるのは、やめておいた方が良いです」


「それじゃ」


「後は、寄り添ってあげる事です」


時雨は私の頰に触れ、笑みをより一層深くさせると、赤く染まった瞳を閉じ、細い寝息を立て始めた。


「寄り添う、か」


時雨が言った言葉を繰り返しながら、時雨の簡単に折れてしまいそうな脚にも手を回し、そのまま抱き抱えて時雨の頭を撫でる。


「お前も、救ってやるからな」


時雨を部屋の隅にある長椅子に寝せ、覚悟を決めながら、机の上に置いたケータイに向かって足を運んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「では、この奥にご主人様が待っておりますので、私は失礼します」


銀色の眩い光を放つ扉の前で、忍はめんどくさそうにそう言い残すと、その場から空に消えていった。


桜が言うには、俺達をあの霧を使う不死に会うためには大和の話を聞けと言われたが、その大和に会おうとすると良く分からない地下に案内された。


その銀色の眩い光を放つ扉を、苛立ったゆいが無造作に蹴破ると、その先には白い空間が広がっており、その空間の中心には長い白髪に似合う広袖を着た大和が立っていた。


その赤く静かな(まなこ)を俺達に向ける大和を見ると、肌がざわつく。


大和はその腰に差している白い鞘をゆっくりと抜くと、その白い鞘から、銀色の凛々しい刀身を露わにしたが、その刀を地面に無造作に突き刺し、俺達に向かってため息を吐いた。


「やっと来たか、ここはマジで退屈だ」


「そんなのどうでもいいから、あの不死を出して」


そんなゆいの重い言葉に、大和は軽い笑みを返した。


「すまんがそれは出来ない、たった今そういう(おきて)を作ったからな」


その言葉に怒りが頭を駆け巡り、それと同時に体から怒りの熱が込み上げてくる。


「それは・・・どういう事ですか?」


「まんまの意味だ、復讐をさせないために作ったが、ゆいは知ってるよな?それを変えさせる方法を」


大和がゆいに薄い笑みを向け、首を搔き切る仕草をすると、ゆいは見た事が無い激しい剣幕を露わにし、体に風を纏い、短剣で肌を切りつけた。


それを見て、その掟を変えさせる方法とやらを俺も直感的に理解し、視界を怒りに染める。


(巡れ (しな)()の風 。纏え (せい)(ふう))


自分の体には清らかな風を、刀には怒りを込めた風を纏わせ、神経を研ぎ澄ませながら足裏を擦らせた一瞬、ゆいが大和に飛びかかり、それにわざと遅らせて自分も地面を蹴り上げる。


ゆいの突きを大和は首をしならせて躱し、その傾いた隙だらけの体に合わせ刀を逆手に持ち替え、心で言葉を唱える。


(風神の舞 (きょう)(ふう)!)


その横一文字の攻撃を、大和はなんの躊躇もなく左手で掴むと、風が纏う刀を万力とも言える力で引っ張り、体制を崩した俺にゆいを投げつけてきた。


飛んでくるゆいを膝の力を抜いて躱し、その圧倒的な力で掴まれている刀を風と同化させ引き抜き、その見えない刃で大和の左眼と膝裏を斬る。


「いつ!?」


(風神の舞 )


刃を刀に戻し、跪いた大和に向かって足を滑らせる。


(旋風(せんぷう)!!)


その渾身の一撃が首に達した瞬間、あり得ない衝撃が両手を襲い、刀が落ちる音が辺りに響く。


「っう!?」


痺れた自分の両腕に来た衝撃は、重たく硬い物を斬れ無かった時のような衝撃だ。


そんな衝撃を感じながら頭を上げると、いつの間にか立ち上がっていた大和が左手で俺の刀の刃を掴み、こちらに柄を向けていた。


「ほら、落としたぞ」


俺に優しい笑みを浮かべる大和を見ると、全身の血液が体を一気に巡り、怒りに任せ刀を指から引き抜くと、肉を斬った感覚が刀に響いた。


その大和の細くしなやかな指達は、皮一枚の状態で左手に繋がっており、斬れた指の間から、鼓動に合わせる様に血は溢れ、引きを繰り返し、その光景を見ると全身の血液は急速に冷め始める。


慌てながらもその指から眼を離し、大和の顔を見ると、その顔は笑っていたが、その笑みに(いか)るように、大和の顔をゆいの背が覆い隠し、鈍い音が辺りに響く。


「・・・・・いてえな」


そんなドスの効いた声が聞こえると、体がざわりと疼き、身体中に鳥肌が立つ。


大和は右手でゆいの襟を掴むと、そのまま強引にゆいを引き剥がして顔を露わにしたが、その顔を見て頭が白く染まってしまう。


その顔の右眼の部分には、ズッポリと短剣が刺さっていた。


その短剣を大和は右手で掴むと、生々しい音と共に短剣を引き抜き、綺麗な白い肌を赤黒い血で染めて行く。


大和は短剣に付いた塊を腕と服の間で抜き取ると、赤く染まる短剣をゆいの方に軽く投げ、辺りには剣が落ちる音が響く。


「ゆい・・・落ちたぞ」


眼と鼻から血を流す大和を見て、恐怖が体を巡るが、震える腕で刀を掴み、顔を血で染める大和に突っ込む。


「あああぁぁぁあ!!!」


久しぶりの恐怖で体が硬ばらないよう、叫びながら大和に接近し、刀の剣先を左の指先で掴む。


(風神の舞 (はや)()!!)


その突きは易々と大和の腹を貫くが、大和は苦しむ様子もなく、歪な顔をこちらに向けた。


「そこじゃカハッ!・・・ねぇ」


大和は血を吐きながら俺の刀を右手で掴むと、体からゆっくりと刀を引き抜き、その刃を自分の体にまた沈めていく。


(なんなんだ・・・こいつは・・・)


そんなおぞましい光景の中、自分は何もできずに刀だけを握っていると、その柄に硬い手応えが響いた。


「背骨だ。ここを断てば、私は死ぬ」


その言葉に怒りも悲しみも憎しみも全て恐怖が包み込み、体に纏う風が解けてしまう。


そんな俺の怯えを殴るように、ゆいの短剣が大和の首元に突き刺さり、それを抉るようにゆいは短剣を振り抜いた。


飛ち散る血飛沫が顔に掛かると、刀が手から離れてしまい、大和は喉元から大量の血を溢れ出す。


けれど大和は死ぬしかないほどの血液を出しながらも膝を付かず、冷静に右手でその傷を覆うと、俺達に笑みを向けた。


その笑みに恐怖の中から恐れと怒りが顔を出し、その刀を奥に押し込もうとした瞬間、その刀の柄が俺の腹を抉った。


「オッ!!?」


その唐突な腹の痛みに息が吸えず、口から涎か良く分からない物を流しながら白い地面を見ていると、風切り音が聞こえた。


その瞬間、甲高い砕ける音が響くと、硬い破片のような物が頭に当たり、今度は鈍い音が響いた。


地面になにかが落ち、視界の端でゆいの右腕が見えると、自分の頭に冷たい感覚が入り込み、地面と激しく接吻をすると、意識はそこでブツリと途切れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ、雅ちゃん」


何か嫌な予感がし、神器の間への階段を降りていると、眠るゆいちゃんを暗い顔で抱えている雅ちゃん達とばったり会ってしまった。


「あ、どうも」


「ちょい雅、止まらないでくれよ。琴乃以外に重いんだから」


暗い顔を向ける雅ちゃんの後ろには雷牙と呼ばれる女の子がおり、その子の腕の中には琴乃と呼ばれる男の子が眠っていた。


その状況を見て、ある事に気がついた。


「ねぇ、雷牙ちゃんと雅ちゃんは、大和ちゃんと戦わなかったの?」


そんな不躾な言葉を言ってしまい、慌てて口を塞ぐと、雅ちゃんは複雑そうな顔を私に向けた。


「はい」


その弱々しい顔を見て、心配しながら雅ちゃんの頰に触れ、雅ちゃんの炎の様な赤い眼をじっと見る。


そして過去を読み取ると、ある事が分かった。


雅ちゃんと雷牙ちゃんの怒りが、冷めている事に。


別にそれは悪い事じゃ無いし、むしろ良いことなのに、二人が暗い顔をしていたのは、恐らくゆいちゃんと琴乃ちゃんのせいだ。


雅ちゃん達は怒りは色々な理由で冷めてしまったけど、ゆいちゃん達の怒りは日に日に増している。


そのせいで2人は怒りが冷めた自分に怒り、復讐に燃える2人が心配なんだろう。


そんな事を思いながら意識を過去から戻し、雅ちゃんの炎のような赤い眼をしっかりと見る。


「ねぇ2人とも、あまり、自分を追い詰めないでね」


「・・・ありがとうこざいます」


雅ちゃんは私に赤く何処と無く暗い瞳を向けると、頭を下げて私の隣を通り過ぎ、2人は無言のまま階段を登って言った。


(大丈夫・・・じゃないよね)


振り向かない2人を見て心配してしまうけど、それよりも自分が何故ここに来たかを思い出し、急いで階段を降り、閉まっている神器の間の入り口を開ける。


すると、真っ白な空間の中心に血だらけで倒れている大和ちゃんが居た。


それを見た瞬間、大きな鼓動が鳴り響き、冷や汗が全身に滲む。


「大和ちゃん!!?」


倒れている大和ちゃんに慌てて駆け寄り、下を向いて血を吐いている顔を膝の上に乗せると、その顔には、どう見ても手遅れな酷い傷が右眼を抉り、それと同等の傷が首元を抉っていた。


その光景に顔が冷たくなり、急いでその傷を治そうとすると、ワンピースのスカートの部分を治りかけの左指で掴まれた。


「いぃ、づか、う、な」


「大和、ちゃん」


そんな苦しそうな言葉を聞いて魔法を使うのを止め、大人しく大和ちゃんの傷が治るのを待つ間、大和ちゃんの過去を読み取ろうとすると、残った赤い眼が私を鋭く射抜いていた。


その眼から伝わる鋭い覇気に何もできないでいると、

大和ちゃんの右眼と首から白い煙が吹き出し始め、ゆっくりと顔が元に戻っていく。


「ふぅ」


傷が治った大和ちゃんは直ぐに体を起こそうとするけど、体は起きず、私の膝に頭を乗せたままだった。


それは不死として当然の事だった。


人間の体は、右腕を無くしてもその感覚が残るように急な変化にとても弱い。


だから、傷が治ろうが1度ダメージを受けたと認識した人の体は、物理的ではなく感覚的なダメージが根強く残る。


今も無理やり体を起こそうとする大和ちゃんの姿は、大和ちゃんがどれだけ傷付いたかを明確に物語っていた。


それが分かってしまい、胸の奥が締め付けられる。


「大和ちゃん、起きなくて良いから教えて。何をしようとしてそんなに傷ついたの?」


「・・・あいつらの牙を抜こうとした」


「ごめん、ちゃんと説明して」


牙を抜くとは比喩なんだろうけど、比喩表現過ぎて意味が分からず大和ちゃんに聞き返すと、大和ちゃんは眼を誰も居ない方に向けた。


「今日あいつらをここに呼び出して、2度と戦えなくなるくらいまでボコボコにしようと思ったんだ」


「それは・・・どうして?」


「あいつらが清白を殺したがるのは恨みもあると思うんだが、1番の原因は殺せるって言う自負があるからだ。だから、それをボロボロにして自分を見つめる時間を作れば良いかと思ったんだ。けど・・・」


「けど?」


その私の問いに、大和ちゃんは完全に治った左手で自分の顔を隠すと、しゃくりを上げ始めた。


「あいつらの必死そうな顔を見て、出来なかったんだよ!あんな、怨みに満ちた顔を見て私は!あいつらの心を折らなかったんだ!!」


悔しそうに、悲しそうに叫ぶ大和ちゃんを見て、胸の奥がぎゅっと締め付けられるけど、気持ちを切り替えて息を吐き、大和ちゃんの左手を顔から引き剥がす。


すると子供のように瞳を潤す大和ちゃんを見て胸が痛むが、ため息に似た息を体から吐き出し、大和ちゃんの顔を真剣に見つめる。


「大和ちゃん、そんな余計な事しなくて良いの」


「えっ?」


そんな心底不思議がる大和ちゃんを見て、本当にそれが王の責務と思っている事が分かり、もう一度ため息を吐いて大和ちゃんの赤い瞳を見つめる。


「大和ちゃん、あの子達は確かに血迷ってる。それが続けば桜ちゃんを振り切ってどうしようもない怒りを人間にぶつけるかも知れない」


「なら」


「けど!それを止めるのは大和ちゃんじゃ無い」


その私の言葉に、大和ちゃんは瞳から涙を溢れさせ、またしゃくりを上げ始めた。


「なら、私は、どうしたら、良いんだよ」


「どうもしなくて良いの。ただ、暴走しないように見つめるだけ」


「・・・・そう言う、事か」


大和ちゃんは急にしゃくりを止めると、涙を右手で拭い、何事も無かったかのように勢いよく体を起こした。


「悪りぃな、最近泣く事が多いんだよ」


眼の周りを赤くさせ、少し恥ずかしそうに笑う大和ちゃんを見てまた胸の奥が痛むけど、今は精一杯の笑顔を向けようと思い、大和ちゃんに笑顔を向ける。


「うん、大丈夫だよ」


「ありがとな」


大和ちゃんは私にお礼を言うとゆっくりと立ち上がり、私に手を伸ばしてくれる。


その手を握り、大和ちゃんから起こしてもらうと、大和ちゃんは地面に突き刺した『(かみ)(ぎり)』を拾い、地面に置いてある白い鞘に刀を戻すと、下緒を刀の柄に丁寧に結び始めた。


「さて、待たせたな」


「うん」


下緒を結び終え、笑顔をこちらに向ける大和ちゃんに頷き、一緒に神器の間から出て地上へ続く階段を一緒に登っていると、透明な階段に足が達した瞬間、首が締められたような感覚に陥る。


(今日、は、一段と、酷い)


苦しい窒息感を味わいながら、急いで階段を登ろうとすると、鈍い音が狭い空間に響き渡った。


その音が響くと窒息の苦しみは無くなり、慌てて息を吸いながら後ろを振り向くと、壁を少し怖い顔で壁を眺める大和ちゃんが、刀の柄を壁に当てていた。


「よし、これで良いだろ?」


「んっ、ありがとう」


()()()の圧を払ってくれた大和ちゃんにお礼を言い、見えない階段を登り終えて白い階段を登り終えると、清々しい夜風の空気を感じ、ゆっくりと体を伸ばす。


「ん〜っ!!」


少し冷たい夜風を肺に取り込み、ほっと息を吐くと、後ろからも気持ちが良さそうな声が聞こえた。


「あ〜っ、やっと地上に出れた」


「そうだね、おつかれ」


後ろを振り向き、大和ちゃんの頭をそっと撫でると、大和ちゃんは少し恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


「恥ずかしいからやめろよ」


大和ちゃんはそう言いながら私の手を頭から剥がし、急いで階段へ向かっていく。


それに何となく付いて行き、一緒に階段を登っている途中、とても良い匂いが鼻に届いた。


「時雨、か?なぁ真白、時雨がクッキー焼いてると思うから食ってくか?」


「うん、行く」


大和ちゃんに頷き、時雨ちゃんが作るクッキーの味を楽しみにしながら6階の台所へ足を運ぶと、そこには意外にもネグリジェを着た時雨ちゃんと、白い鞘の刀を机に立て掛けた悠人ちゃんが一緒にクッキーを食べていた。


「あっ、大和様!真白様!ちょうど良くクッキーが焼けたんですけど、いかがですか?」


「あぁ、頼む」


「お願い」


「はい!」


時雨ちゃんは元気な笑みを私達に向けると、調理場へパタパタと走っていった。


それを見て微笑んでいると、悠人ちゃんが急いで端っこに置かれている椅子を、机の周りに持ってきてくれた。


「ありがとう」


「あ、ありがとね」


「どういたしましてです」


椅子を持ってきてくれた悠人ちゃんに笑顔を向けると、悠人ちゃんは顔を少し赤くし、急いで椅子に座りなおした。


照れている悠人ちゃんを見て、少し可笑しいなっと笑みを浮かべていると、大和ちゃんが急に部屋の隅に顔を向けた。


忍ちゃんが居るのかと思ったけど、不思議がるような顔をする大和ちゃんを見て、それは忍ちゃんでは無く、何かが気になっているような感じだった。


「・・・ナイフ?」


「えっ?」


そんな声が聞こえ、悠人ちゃんの方を見てみると、悠人ちゃんも大和ちゃんが見ている方向に何故か顔を向いていた。


「えっと、2人共どうしたの?」


私の問いが聞こえてないのか、大和ちゃんは壁の隅の方へ行くと、白髪が地面に付かないようにしながら右手で髪を抑えながら台所の隙間を覗いた。


「あっ、ナイフが落ちてるだけだ」


そう呟くと、大和ちゃんは隙間から顔を離し、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。


「なぁ、細長くて硬いも」


大和ちゃんは辺りを見渡していると、机に立て掛けてある悠人ちゃんの神器に視点を定めた。


「だ、ダメですよ!?」


「ふっ、冗談だ」


神器を庇うように抱く悠人ちゃんを見て、私は笑ってしまうけど、大和ちゃんは辺りを少し困った顔でまた探し始めた。


その顔を見て私も何か探そうと思い、辺りを見渡していると、悠人ちゃんが何かに気が付いたように椅子から立ち上がり、刀を腰に差して部屋の隅っこの方に向かうと、地面にしゃがみ込んだ。


「あのー、虫が嫌いな人は耳を塞いで下さいね」


悠人ちゃんが急にそんな事を言われたけど、私は虫が大丈夫だからと思っていると、悠人ちゃんの右手の指先の皮膚が蠢き、皮膚の下から豆粒大の蝿がゆっくりと這い出てきた。


その光景に鳥肌が立っていると、悠人ちゃんが魔法で生み出した蝿は台所の隙間に入り込み、しばらくすると、蝿が重たそうに落ちたナイフを持ってきてくれ、そのナイフの刃先を悠人ちゃんは右手で掴んだ。


「はい、取れましたよ」


「おぉ、ありがとな」


大和ちゃんは悠人ちゃんにお礼を言いながらそのナイフを受け取ろうとするけど、悠人ちゃんはナイフをじっと見ているだけで、大和ちゃんに渡そうとしない。


「どうした?」


「いえ、このナイフから黒い靄が見えるので、誰かが自殺でもしたのかなって」


そんな悍まし事を笑いながら悠人ちゃんは言い、細く煙が出る手で大和ちゃんにナイフを手渡したけど、大和ちゃんもそのナイフを不思議そうに眺めていた。


「自殺・・・か」


1本のナイフを不思議そうに眺める2人に少し戸惑いを覚えていると、後ろから足音が聞こえ、誰だろうと思いながら後ろを振り向くと、白髪の女性が恥ずかしそうに顔だけを覗かせていた。


「あの、すみません。トイレは何処にありますか?」


その声と顔でこの子は清白という不死だという事が分かったけど、清白ちゃんのおどおどしている態度を見て、読み取った記憶とあまりに人が違う事に戸惑いを覚えてしまった。


「ねぇ」


そんな清白ちゃんに声を掛けようとした瞬間、肌に鳥肌が立ち、温かな空気は上から押さえ付けられるような圧に変わって行く。


「清白・・・お前は何をしに不死の国に来た?」


「えっ!?えっと、働き・・・に」


その言葉に汗がポタリと自分から落ちると、辺りの空気もより一層重くなっていく。


「清白ちゃん、トイレなら次の曲がり角の奥だよ」


「あ、ありがとう。えっと、失礼します」


清白ちゃんは恥ずかしそうに私達に頭を下げると、急いでトイレへ走って行き、清白ちゃんが向かった方向とは別の方から、薄い笑みを浮かべた白雪ちゃんが姿を現した。


「白雪・・・説明しろ」


「私が清白ちゃんの記憶を書き換えただけですよ?」


重たい口調の大和ちゃんに白雪ちゃんは悪気が無さそうにそう説明すると、辺りの空気が軋み、後ろから重たい物が落ちる音がした。


その音を聞いて咄嗟に白雪ちゃんの前に立つと、鋭い風が辺りに吹き荒れた。


後ろを振り向くと、そこには刀を私の首を切り裂く寸前で止められており、その刀の根元を赤い眼を鋭くさせた大和ちゃんが握っていた。


「・・・どけ」


「・・・やだ」


こちらを睨む大和ちゃんの眼をじっと見つめ、怒りを鎮めようと大和ちゃんの手の上に私の手の平を置く。


しばらくすると大和ちゃんは刀を落とし、その手で顔を抑えてため息を吐いた。


「白雪・・・お前は部屋に戻れ。後で処分を下す」


「はい、分かりました」


白雪ちゃんは悪気が無い顔を私達に向け、自分の部屋へ歩いて行った。


大和ちゃんが落とした刀を拾い、柄を大和ちゃんの方に差し出すと、大和ちゃんは無言で刀を受け取り、その刀を白い鞘に納めた。


すると大和ちゃんは無言で私を横切り、重たい足取りで何処かへ向かっていく。


「ごめん悠人ちゃん、2人で食べてて」


後ろでぽかんとしている悠人ちゃんにそう伝え、急いで大和ちゃんが向かった場所へ足を運ぶ。


そして大和ちゃんが居るであろう、仕事部屋の扉を開けるけど、そこには誰も居なかった。


おかしいなと思いながら扉に触れ、軽く過去を覗き込むと、たしかに大和ちゃんがここを通った過去があった。


「・・・大和ちゃーん?」


大和ちゃんの名前を呼びながら部屋の中に入り、窓辺の付近へ行くと、仕事机の足場から広袖の裾が見えている事に気が付いた。


「大和ちゃん?」


そこへ近づくと、誰かがすすり泣いて居るような声が聞こえ、机の足場へしゃがみこむと、大粒の涙を沢山流している大和ちゃんを見つけた。


「大和ちゃ」


そんな大和ちゃんに声をかけようとした瞬間、大和ちゃんは私に飛び付き、子供のように泣き始めた。


「もう・・・私は・・・死にたいよ」


「大和、ちゃん」


死にたいと繰り返しながら、永遠と泣く大和ちゃんが泣き止むのを、私はその背中をさすりながら待つしか出来なかった。


(あぁ、私はなんて・・・無力なんだろう・・・)


そうやって、自分を罵りながら。



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