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第25章 原因


「あ・・・う?」


ぼやける白い視界の中、冷たい何かから重い体をゆっくりと起こすと、辺りには大量の霧が舞っていた。


「ここ・・・は?」


自分が寝てしまう前、何をしていたかを思い出そうとすると、足元にぐにゃっとした感覚を感じた。


「な・・・に?」


その奇妙な感覚に、足で踏んでいるものを恐る恐る見ると、それは・・・黒紫色に変色しかけた人の体だった。


それを見て眼が覚め、急いでそこから離れようとするけど、ここが大きな穴だという事を思い出すと、絶望感が胸の中に漂う。


「はぁ・・・はぁ」


そのせいで鼓動が速くなると、頭の中がパニックになり、呼吸が速くなるせいで頭がぼやけていく。


(なんで!出たい!助けて出して助けてだれか!)


いつのまにか涙で視界が滲んでおり、死体の上に膝をつく。


「もう・・・なんなんだよ!」


死体の上で蹲り、ただ何もできず泣いていると、辺りの霧がゆっくりと蠢き始めた。


そして、体が宙に浮かんだ。


「えっ?」


その状況に困惑していると、体が上に引っ張られ、柔らかい地面に背中から落ちた。


現実離れした体験をし、夢か現実かを確かめるために、自分の手の平に爪を立てると、痛みと同時に、なにか違和感を感じた。


「えっ・・・」


違和感を感じる自分の手の平を見ると、その手は私のゴツゴツとした指ではなく、細くしなやかな、女性なら誰でも憧れるような白い手だった。


「えっ?いや、なん、で?」


体を起こして辺りを見ると、湿った地面に無数の水溜りがあった。


その水溜りを恐る恐る覗くと、そこには私達の敵、不死の綺麗な顔があった。


「嘘・・・だろ!?」


あまりにも現実離れした光景に、逆に口角が上がってしまう。


どうしてこうなったかを、必死に頭を回して考えていると、腰の重さに気づいた。


そこに目を向けると、そこには腰に銃がぶら下がっていたが、その銃をみるとある違和感に気が付いた。


(安全装置が・・・)


外れていた。


ズキンと頭が痛み、自分の嫌な予感が気の所為だと確かめるためにマガジンを取り出して銃弾を数えると、私の銃はマガジンに7発入るのに、マガジンの中に6発しか入っていなかった。



どうして、と考えるたびに頭が痛む。


ふと、自分が今まで入っていた穴の方を見ると、無数の死体達の傍に松葉杖が転がっていた。


その松葉杖を見ると、頭が強く痛み、それに続くように頭の中で断片的な映像が流れた。


(追いかけた、痛む足、霧、傷、落ちた、死体、銃)


「私は・・・死んだ?」


頭が真実に気が付くと手から銃は落ちたが、そんなどうでもいい事は無視して、森に向かってかってふらふらと足を進める。


(私は・・・人間?それとも・・・敵?死ぬべき?生きるべき?お母さんに・・・会える?)


ふらふらと足は進み、葉が自分の顔を斬るけど、なにかを焼く音と共にその痛みは無くなっていく。


それからどれくらい歩いたか分からない。


ただ真っ直ぐにだるい足を進めていると、足になにかが引っかかり、高い段差から落ちてしまう。


「っ」


痛む身体をゆっくりと起こし、顔についた気持ち悪い砂を払って顔を上げると、そこには石で作られた、小さな家みたいなものが立っていた。


その石には、文字か紋なのか分からないものが無数に彫ってあり、家の扉の場所にはさらに変な紋が彫ってあった。


普通、こんなものを見ると見て見ぬ振りをするのだが、なぜか扉に手が伸びる。


その扉に手が触れると扉は一瞬だけ光り、私を待っていたかのようにその扉はゆっくりと開いた。


そこには、白身がかかった透明な短剣が綺麗に置かれており、どこからか冷たい風が吹いた。


「綺麗」


そんな奇妙で綺麗な短剣を右手で掴み、それを石の家の中から引きずり出すと、急に頭痛と吐き気に襲われた。


「っ・・・あぁあ!!」


そんな頭が割れるような痛みと、内臓をぶちまけそうな気持ち悪さを蹲って耐えていると、意識はそこで途切れた。


「っ・・・う」


冷たい風を肌で感じて目を覚ますと、辺りからは日は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた


「もう・・・夜か」


これからどうすれば良いんだろう。


そんな事を思いながら体を起こそうとすると、体は驚くほど簡単に起き上がり、心成しか体がとても軽かった。


頭もスッキリしていて、右手には温もりが感じ、温もりを感じる右手にはあの短剣が握られていた。


「なんだ、この短剣?」


その短剣を握っているとなんでも出来るような感覚を感じ、試しにその場でジャンプしてみると、体がぐいっと浮かび上がったような感覚を感じた。


「・・・凄い」


綺麗に地面に着地をし、胸に感じる高揚感を抑えられずに森の中を駆けると、人間とは思えないスピードで走る事ができ、夜の気持ちが良い風が心の中の気持ち悪さを跳ね除けてくれるようだった。


けれどふと喉の渇きに気づき、どこかに飲める水は無いかと思いながら辺りを探すと、小さな川を見つけた。


その水を啜ろうと手を水に近づけると、持っていた短剣から大量の霧が溢れ出した。


「なんだ!?」


その霧を見て頭痛を感じていると、カァ!ギャア!という声を出しながら、木の上から何かが落ちて来た。


そっちを見てると、羽が切り刻まれたカラスが地面で暴れて居て、しばらくすると大人しくなったが、死にかけのカラスの眼が自分の方をじっと見ていた。


それを見て気持ち悪さを感じ、急いで水を飲みその場から離れると、誰かの声が聞こえた。


その何処か聞き覚えのある声を聞いて急いで辺りを警戒するが、その声をよくよく聞いていると、激しい頭痛と共に思い出した。


同級生の松下(まつした)出口(でぐち)の声だった。


それが分かると体が前に進み、2人の前に飛び出すと、小柄な松下とがたいが良い出口が居たが、2人から銃を向けられ慌てて両手を上げる。


「っ、誰だ!?」


「私だよ、清白(すずしろ)だよ!」


私の声を聞いて2人は銃を少し下げるが、私の顔を見てかまた銃を構え、安全装置を外す音がした。


「待って!2人の名前も知ってるよ!2人でやらしい本を寮に持ってきて先生から怒鳴られた事も!女風呂を覗いて同級生から撃たれかけた事も!」


咄嗟に出た同級生しか知らない事を聞いて、二人は唖然とした顔をした。


「お前・・・ほんとに清白か?」


「うん・・・ほんと」


出口が銃を下げると、松下も少し疑いながら銃もを下げてくれた。


出口が話を聞くと言うから、細い枝と太い枝を辺りから拾って貸してもらった火打ち石でとりあえず火を焚くと、松下が保存食を分けてくれた。


「ありがとう、松下」


「いいよ全然、こんな可愛い奴と飯が食えるんだから」


松下は嬉しい冗談を言ってくれると、出口がため息を吐き、木の枝を火の中に投げ入れた。


「そんな事より・・・なんでお前が不死になってんだ?」


「いや、石水(いしみず)を追ってたら」


私のその言葉に合わせて火からパチリと音が鳴ると、2人の顔が少し怖くなる。


「俺らも一緒だ。石水を少し茶化しに行こうと思ったら、あいつは森の中に入ったんだ。しかも、夜にはちゃんと帰ってるらしい」


そんな話を聞くとみんな黙り込み、火が弾ける音だけが夜の森に響く。


「石水、いや、悠翔の事は私は置いときたい」


私の考えに出口は頷くけど、松下は私に不思議そうな顔を向けた。


「なんでだよ?あいつを問い詰めたら森の事実が分かるかもしれねぇのに」


「だから、そんな手間な事しなくていいって言ってるんだ」


松下はよく分からないような顔をするけど、出口はまたため息を吐き、木の枝を火の中に投げ入れた。


「つまり、俺らを国に戻してくれて、清白が戦の国とよう分からん国との案内役になってくれるって事だ。授業で習ったろ?」


出口の話を聞いて、やっと松本は納得したような顔をした。


「そっか、不死と一緒にいれば森の影響を受けないんだったな」


それを聞いて授業の事を思い出す。


昔、戦の国が異様な不死を捕まえ、その不死と隣の国の森を調査をすると、なぜか全員が迷わずに生還できたらしい。


けれど、それには一つ問題がある。


「それをしたいんだけど、私は今見ての通り不死だから国の信用が取れない。だから、少し向こうの国を攻めようと思う。そしたら、国の信用を得られるかもしれないから」


私の話に松下は素直に頷いてくれたけど、出口はなかなか首を動かさずに腕を組んで考え事をしていたが、左目だけを開かせ、それを私に向けて来た。


「なぁ、清白って魔法使えんのか?」


「多分・・・使える」


「んじゃもうちょい人数がいるな」


現実主義な出口は意外にも協力的で、戦の国に送ってくれれば、人数を集められると説明してくれた。


「ねぇ、出口。なんでそんなに協力的なの?」


森の中を東北に向かって歩きながら出口にそう聞くと、出口は顔はこちらに向けずに声だけで答えてくれた。


「母親に金送りたいんだろ?それで評価が貰えれば金を送れるじゃねぇか。しかも、俺らにも金が貰えるしな」


そんな私を気遣ってくれている出口の言葉に胸が暖かくなっていると、いつのまにか戦の国の畑に着いていた。


「本当に・・・着いたよ」


松下が驚きの声を漏らし、私も前をしっかりと見ると、懐かしい戦の国の畑が広がっていた。


「んじゃ、清白。俺らは人集めに行くからここで待ってろよ」


「うん」


出口達が森から遠ざかり、それを後目にここで待っていようとすると、ここから自分の家が見える事に気がついた。


「あっ」


そこに自然と足が向かおうとするけど、自分が今不死である事を思い出し、足が止まってしまった。


泣きたくなるような、悲しいような、そんな感情を胸の奥に感じていると、AR(アサルトライフル)と支給武装具を付けた、出口と松下と6人が歩いてきた。


「ねぇ出口、ほんとにあれが清白?」


その中で銃を手に持つ浅野(あさの)が、私の前ににやって来ると、無警戒に私の顔を右手で触り始めた。


「う、うん、ちょっと浅野辞めて」


顔をべたべたと触る浅野から少し離れ、後ろの人達をみると、私の顔見知りばかりだった。


「信用できる奴らを呼んだ。これなら裏切りの心配も無いだろ?」


出口は私が心配している事を答えてくれ、胸を撫で下ろして覚悟を決めて少し複雑な顔をしている同級生達に説明をする。


「えっと、私は不死になったけどみんなの味方。だから、みんなで隣の国を少し攻めようと思う。そしたらみんなの信用と国の信用が得られて、それを成功させてみんなの功績を取りたい。そうすれば、みんなの願いが叶えられるから」


私の言葉にみんな目を輝かせて銃を上に抱えると、同級生達に一体感が生まれた。


それから、みんなで森を進んでいると、後ろからヒソヒソと不安の声が聞こえ、そのせいで自分の心の中にも不安感が生まれる。


けれどそれを無視してまっすぐ森を進んでいくと、夜の森に似合わない、2人の幼い子供が見えた。


その2人の頭の上には動物の耳があり、その耳をピコピコと動かしながら、石のナイフで獣の肉を解体していた。


「ねぇ、何をしてるの?」


「猪の心臓取り出してるの」


そんな悍ましいの光景を息を飲んで見ていると、私達に気づいたのか、2人はこちらに顔を向けた。


「ねぇ、誰かいる?」


「いるね」


黒い耳を揺らす、女の子がにたりと笑みを浮かべると、地面を踏み切る音が聞こえ、咄嗟に何も反応出来ずにいると、私の横を何かが通り過ぎ、後ろからなにかを刺す音が聞こえた。


「えっ?」


後ろに顔を向けると、そこには短剣で首を刺された出口が倒れており、そいつは短剣を捻った。


すると、辺りに生々しい音が響いた。


「1人」


そいつの足元にある、さっきまで生きていた出口の死体を見つめると、あの死体の山を思い出してしまい、なぜか辺りに霧が立ち込めた。


「走って!!」


私の声にみんな走り出し、その場には私と出口の死体と、二人の獣だけが残った。


霧が出口を刺した子に当たると、その子の肌から血が噴き出し、2人の獣は後ろに跳びのいた。


「ゆい・・・手伝って」


「うん」


2人の子供は短剣を構えるとありえない程の高さまでジャンプして辺りの木々の上に上がり、木から木へと飛び移りながら私に攻撃をしてきた。


迫り来る短剣を短剣で弾きながら、後ろに引いていると、柔らかい物を踏み、そのせいで転んでしまう。


「っ!?」


何を踏んだか確かめると、私が踏んだのは手だった。


それを見ているも冷たいなにかが腹の底から溢れ、短剣を強く握る。


すると私の顔に短剣が向かってくるが、その小さな反射的に手を掴み、短剣を構えてその手を引っ張ると、その子の首に刃は綺麗に滑り込んだ。


首から短剣は抜くと、その子の口から泡が混じった血が溢れ出る。


「あ・・・れ?」


その子はよく分からなさそうな顔をしながら地面に倒れ込むと、そのまま動かなくなってしまう。


死体が増えたと心の何処かで感じていると、地面を踏み切る音がした。


その方に反射的に顔を向けると、もう一人の子供が短剣を構えて突っ込んできた。


迫り来る短剣を両手首を抑えて止め、その手首を掴んで動きを封じようとすると、その子の顔が見えた。


その顔には大粒の涙を流しており、その小さな顔は真っ赤に染まっていた。


死んだ子を悲しんでいるように。


それを見た私の心に生まれた感情は、悲しみでも後悔でもなく、怒りだった。


私の仲間を殺したのに、自分の仲間が殺されて悲しむ虫のいいガキに対しての。


私の怒りに反応するように霧が私の周囲に現れ、関節を固め地面に少女を押し倒すと、少女の肌は切り裂かれるように傷ついていき、金切り声が周囲に響いた。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁああぁっあ!!!!」


その声を聞いて口角が釣り上がるのを感じていると、少女とは思えない力で暴れられ、押さえ付けられない。


(大人しく!死ね!!)


細い腕を無理に抑えていると、生々しい音が辺りに響き、少女は体を捻りながら体を無理やり起こすと、私の頰に踵を入れ、森の中へ逃げていく。


「っ・・・待て!!」


痛む顔を抑えながら逃げた少女追いかけるが、その少女の方が足が速く、距離を離される。


(クソ!クソ!!)


このままよく分からない少女が浅野達に会えば、また誰かが死ぬかもしれない。


そんな事させたくない!


そんな考えが体を突き動かす。


(急げ!!)


一心不乱に森を駆けていると、木々の隙間から赤いものが見えた。


森を完全に抜けると、木でできた家達が燃えており、銃声と狂気の笑い声が遠くの方から聞こえていた。


それを見て襲撃が成功したのだと分かると、心の底から喜びが溢れ出る。


その光景を見て喜んでいると、声が聞こえた。


「殺してやる、殺してやる!殺してやる!!全員、殺してやる!!!!」


少女は怒りを口にし、そこから燃えている住宅地へ突っ込もうとする。


それを止めようと急いで手を伸ばすと、辺りに霧が立ち込め、少女の足が止まる。


「逃げ足だけはあるな」


少女に恐怖心を植え付けるように声をかけると、少女はゆっくりとこちらに、怒りに満ちた顔を向けた。


「殺してやる!!」


迫り来る少女に合わせて後ろに飛ぶと、少女は私を見失ったのか、頭の上の耳をピンと立てる。


「どこだ!?」


どうやってこいつを殺してやろうかと考えていると、少女は急に膝から崩れ落ち、何か呟き始めた。


それからしばらくすると、少女は動かなくなった。


(死んだ?)


その少女が死んだのか確認しようと、一歩踏み出すと、突如右半身に鳥肌が立つ。


反射的に顔をそちらに向けると、そこには長いナイフのような物を持った黒い何かが居た。


そいつの黒はただ黒いじゃない。


この世界を塗りつぶして存在している、人型の何かだった。


(はっ?えっ?はっ!?)


「誰だ?」


心は困惑しているが自分の冷静に口は動き、そいつに目を向ける。


けれど心臓は勝手に高鳴り、息が上手く吸えない。


(なんなんだ、こいつは!!)


そいつは無言のまま私に向かって一歩踏み出した。


その瞬間、黒い何かは瞬間移動したように少女の隣に居た。


その少女に何かをするのかと思うが、そいつは優しく少女の頭に左手を当てた。


「ありがとう・・・ごめんね・・・おやすみ」


優しい男の声が聞こえると、黒い何かは少女からゆっくりその手を離し、火が回る住宅地へ顔を向けると、何度も瞬間移動しながら、住宅地へ向かって行く。


そいつが私の前から完全に消えると、やっと上手く呼吸ができ、心臓がだんだんと落ち着いていく。


けれどそいつが住宅地へ向かっている事を思い出すと、落ち着いた心臓がドクンと高鳴り、顔と頭に血が回る。


「待ちやがれ!!」


また、誰かが殺される。


そんな気持ちが体を突き動かし、そいつを追いかけ住宅地に着くが、そいつを見失い焦る。


(急げ!!)


そいつを探そうと人間とは思えないスピードで高い木に登って辺りを急いで見渡すと、窓ガラスが割れる音がした。


そっちに目を向けると、燃える家の前に誰かが顔を抑えながら(もが)いており、その人の苦しむ顔をじっと眺めているように、黒い影はその人の立っていた。


その光景を見て血の気が引き、急いで辺りを見渡すと、浅野達が火が落ち着いた住宅地辺りに集まっていた。


木の枝を伝って急いで降り、浅野達がいた場所に走る。


(無事でいて!!)


焼けた焦げた住宅地へ着くと、そこには銃を構えた浅野達が居り、それに一安心していたが、みんなの顔はどこかおかしい事に気が付いた。


その笑っている口からはよだれを垂らし、その眼はどこか虚ろだった。


「あさ・・・の?」


そんな浅野達に近づこうとすると、一発の銃声が響き、右肩に衝撃が走り、短剣を後ろに落としてしまう。


「えっ?」


撃たれたと分かった瞬間、頭に痛みが走り、激しい痛みを感じながすぐにその場から逃げようとするが、踵部分を撃たれ転んでしまう。


「っ、ぐ。」


「まだころすなよー!」


そんな声が聞こえ松下の声が聞こえ後ろを振り向くと、みんなのニタリと笑っている顔が見えた。


「なん・・・で?」


そんな疑問の声を無視し、また銃声が響く。


「あぁ!っ、あぁあ!!!」


その痛みは下半身からじわじわと上に向かって来る。


それが背中に来た瞬間、足とは比べものにならない痛みが走る。


「あぁああ!ぐぅ!?ぁあ!!」


痛みが止まったり 、走ったり。


痛みが増したり、減ったり。


そんなよく分からない痛みを感じていると、意識が遠のき始めたが、いつのまにか銃声が止んだ。


掠れる視界の中で後ろを振り向くと、浅野達の虚ろな顔を黒い刃のようなものに貫抜かれていた。


それを見た途端、頭が意味がわからない感情に支配され、短剣を持ってその場から逃げる。


「なんで!なんだなんだよーー!!!?」


走るたびに増す痛みを叫びながら耐え、森の中に向かって走る。


「なんで!?私は!?なんで!?」


森の中に入ると、足からの痛みがじんわりと和らいでいき、その撃たれた足を見ると、足からは煙が出ていた。


それは、戦の国で見た不死の映像と一致した。


「そっか・・・私は・・・不死」


自分が置かれている状況を理解すると、色々な感情が心に生まれた。


眠い。


疲れた。


痛い。


悲しい。


痛い。


死にたい。


死にたい。


死にたい。


そんな事を思考がまとまらない頭で考えながら、暗く心細い森の中を歩いていると、明かりが見えた。


夜の虫のように、その光におぼつかない足取りで向かうと、そこには化け物たちが居た。


一つ目の子供、顔が赤く、鼻が異様な形をしたじじい、頭の上に角を乗せた奴、首が異様に長い奴。


それを見て、絶望に似た何かが膝に巻きつき、地面に膝をついてしまう。


「なぁ、そこの不死の嬢ちゃん・・・大丈夫かい?」


心配そうな声と共に爺さんがこっちに近づき、赤いヨボヨボの手が頭の上に乗るのを感じると、自分の中の何かがぷつりと斬れ、とある考えが頭の中に生まれた。


(こいつらがここに住んでいる住人なら、殺したら金は・・・貰える?)


そんな考えが頭の中で思い浮かぶと口角が釣り上がり、体が動いた。


膝から立ち上がり、その老人の胸に短剣を刺す。


骨が脆かったのか、砂の塊を崩すように刃は胸に滑り込んだ。


「き・・・ざま」


胸から短剣を引き抜くと、面白いように血が吹き出し、そいつは前のめりに倒れた。


「きゃゃああ!!」


「何が起こった!?」


「なんで!?どうして?」


「お前は!?」


「おじいちゃん!!」


そんな声が辺りから聞こえたが、それを無視してその死体の頭を踏むと、辺りから霧が立ち込めた。


すると辺りから悲鳴や困惑の声が聞こえたが、霧が赤く染まった途端、辺りを苦痛の声が埋め尽くした。


「アハハハハハハハ!!!!」


その声を聞いて笑いが止まらない。


(・・・なんで?)


そんな自分の狂気に満ちた笑い声を聞いていると、体は勝手に動く。


一つ目の子供の頭を貫く。


長い首を両断する。


綺麗な子供の首を刺す。


男の背中。


もがいている女の腹。


背中。


首。


胸。


腹。


肩。


誰かの頭から短剣を引き抜くと、いつの間にか辺りからは悲鳴は聞こえなくなっていた。


辺りを見渡すと、血を流す化け物達の死体があり、自分が踏んでいるものを見ると、そこには頭が割れ、赤い塊を頭の中からこぼす子供がいた。


それを見て自分がした事をやっと理解すると、胃から酸っぱいものが上がり、赤い頭にそれをぶちまけてしまう。


「オエッ!!カッ、み・・・ず」


その場から逃げるように森の中に走る。


なんでこんな事をしたのか。


誰のせいだとか。


気持ち悪い感情を胸の中に積もらせながら、森を走っていると、綺麗な湖を見つけた。


けれどそれを見た感動よりも、水を飲みたいという欲求の方が強く、頭を湖に突っ込み水を飲んで顔を上げると、頭に血が上ったのか、意識がふらっとし、湖に落ちてしまう。


「カボァ!?」


水を大量に飲むが、苦しくは無かった。


綺麗な湖の中に沈む自分が見えた。


手を上に伸ばす。


けれど、誰も上げてくれない。


死ぬ?


あれ?


なんで?


自分らしき自分が地面に落ちると、意識がプツリと途絶えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで、悠翔っていう人間に手当てされて意識が戻ると、一目散にここに来て、桜ちゃん達とドンパチやったって事」


「つまり、他の不死が関与してる訳じゃ無いって事だな」


「分かる範囲でわね」


広袖を着た大和ちゃんが私が書いた紙とにらめっこしてる間、大和ちゃんが飲んでいた紅茶を啜り、喋り疲れた喉を潤すと、大和ちゃんは私が書いた紙を机に置き、私に笑顔を向けてくれた。


「とりあえずお疲れさん。時雨に頼んで美味い肉でも用意する」


「ありがとう」


大和ちゃんの白い髪にそっと触れてお礼を言うと、大和ちゃんは少し微笑み、紙をじっと見ていた。


「何か・・・気になることでも?」


「いや、あいつの苗字石水って言うんだなって」


幸せそうに笑みを浮かべている大和ちゃんの顔を見ると、ある不安が生まれてしまい、そんな自分の心を落ち着かせるために、大和ちゃんの頭をそっと撫でる。


「ん、どうした?」


「・・・なんでもないよ」


話をはぐらかし、大和ちゃんの髪をくるくると回すように弄ると、大和ちゃんは恥ずかしそうな顔をしながら椅子から立ち上がった。


「くすぐってんだよそれ!」


顔を赤くさせながら少し笑う大和ちゃんを見て、こっちも少し嬉しくなってしまう。


「さてと」


そんな嬉しさを感じていると、大和ちゃんは髪を掻きながら机を開けて黒い携帯を取り出し、それを少し操作した後に携帯をを耳に当てた。


しばらくすると、桜ちゃんや紬とは違う、明るい声が聞こえた。


「はーい、今日も元気なリアでーす」


「はぁ!?」


リアちゃんの意味不明な挨拶を聞いて、大和ちゃんは驚きの声を上げた。


「ねぇねぇ大和、今の桜に手を出していい?神器使ったら一日起きないんだよね?手を出していい!?」


かなり食い気味に話すリアに、大和ちゃんは焦りながら携帯に向かって声を荒らげる。


「忍は!?」


「昨日時雨と徹夜してたから寝るって」


大和ちゃんは一瞬唖然とした顔をするけど、それから椅子に寄りかかり、ため息をついた。


「んじゃ、お前が動けない桜に変わって戦うのか?」


「それは流石に無理。でも、あの純粋な子がやってくれたよ」


「・・・純粋?」


そのリアちゃんの言葉に大和ちゃんは何かに気づいたような顔をさせ、椅子から大急ぎで立ち上がった。


「なぁ、それって悠人の事か?」


「うん、そうだよ」


その悠人という名前を聞いて、私も色々と思い出す。


過去が読めなかった男の子を。


そして・・・あの黒い刀を持っていた事を。


「悠人は、どんな戦い方をしてた?」


その質問に私も息を止め、リアの返答を待っていると、電話から悠人ちゃんの声が聞こえた。


「ただいま帰りました」


「あ、お帰りー」


リアが軽く悠人に向かって挨拶をすると、電話から騒がしい足音が聞こえてきた。


「お兄ちゃん!」


「悠人!」


ゆいちゃんと雅ちゃんの声を聞き、悠人ちゃんがそこに居ることが分かると、リアちゃんは大きなため息を吐いた。


「はーい、じゃあ手は出さないね」


リアは悠人達に怪しまれないようにそう言ってから電話を切ると、大和ちゃんはため息を吐いて、ケータイを机の中にしまい込んだ。


「取り敢えず・・・お前は明日、悠人の過去をもう一度見てくれ」


「・・・?今日でもいいけど?」


「いや、今日はお前疲れてんだろ?ゆっくりしてろ」


私を心配するように大和ちゃんはそう言うと、顎に手を当て、なにかを考え始めた。


その真剣に悩んでいる姿を見て、少し心配になってしまう。


「どうしたの?」


「いや、清白は性格上戦の国に帰りたがるからここに置くとして、清白に復讐したいゆい達はどうする?」


その疑問に、右手で口を覆い隠して考える。


誰かに復讐したいと思った事がないため、どうしたらいいか考えがまとまらない。


そんな無駄な考えをしていると、、大和ちゃんはため息を吐き、椅子から立ち上がった。


「取り敢えず、ゆい達にはちゃんと説明した方がいいな。そして、あいつらとは二度と合わせない」


「ねぇ、そしたら大和ちゃんが恨まれない?」


(・・・あっ!)


自分が言ってしまった事を理解し、大和ちゃんに慌てて弁明しようとすると、机からとてつもない音が聞こえ、大和ちゃんの手には机の抉り取られた一部分が掴まれていた。


「もう・・・嫌だ」


大和ちゃんは抉り取った机を机の上に置き、顔を抑えてため息を吐きながら椅子に荒っぽく座ると、何かに怯えるように手を組んだ。


そんな大和ちゃんの頭を撫で、私の三つ目の魔法、『(あい)()』で過去を少し変え、机を治して大和ちゃんに謝る。


「大和ちゃん、ごめんね」


「いい、私が全部、悪いんだ」


泣き始める大和ちゃんの頭をしばらく撫で続けて、それから10分くらい経つと、大和ちゃんは顔を擦って、まだ少し目の周りが赤い顔を上げた。


「すまん、落ち着いた」


「別に良いよ、私も少し疲れてるみたいだから」


大和ちゃんに気を使わせないように頭を軽く撫で、歴史の間に戻ろうと出口に向かう。


「あ、真白」


扉を開けようとした瞬間、後ろから声がかかった。


後ろを振り向くと、大和ちゃんが椅子から立って、私に少し恥ずかしそうな笑みを向けていた。


「昨日はありがとな」


「うん、どういたしまして」


自分ができる精一杯の笑顔を大和ちゃんに向け、扉を閉める。


そして歴史の間に歩いて行こうとすると、後ろから時雨の声が聞こえた。


「真白様」


時雨が誰かの名前を呼んでいる。


「真白様、大丈夫ですか?」


時雨は誰かを呼んでいるけど、真白という人からは返答がない。


(時雨を無視する人とか居たっけ?というか、真白っていう使用人は居たっけ?)


「まーしーろーさーまー!!」


その大声に反射的に顔を向けると、そこには時雨以外誰もいなかった。


「やっと振り向いてくれた」


時雨は私の顔を見ると、大声を出して疲れたのか、大きなため息を吐いた。


そんな時雨の顔を見て、時雨が勘違いしているのかなと思ってしまう。


「時雨、間違えてるよ。私の名前は(すず)し・・・」


自分が言っている言葉に違和感を感じると、強い不快感が心を襲い、膝をついてしまう。


(私は真白。私は真白。私は真白)


自分に言い聞かせるように、自分の名前を永遠と心の中で唱え続けていると、私の目の前に小さな手を差し出された。


「真白様、とりあえず立ちましょうか」


時雨から言われるがままにその手を取り、気持ちが悪い体でゆっくりと立ち上がると、時雨は私の手を引っ張り、どこかへ連れて行こうとする。


「これからご飯食べて、一緒にサボりませんか?」


「えっ?」


時雨の突然の提案に疑問の声を上げてしまうと、時雨は幼い笑みをこちらに向けてくれた。


「疲れた時は、休むのが一番ですよ」


その言葉を聞いて、自分が大和ちゃんに言っていた言葉を思い出した。


「・・・うん、そうだね。でも、一時間だけね」


「はい、それだけで十分ですから」


私の返事に時雨は楽しそうな顔を小さな顔に浮かべ、私から手を離して、鼻歌交じりに階段に降りていく。


それに付いていこうとすると、時雨は階段の途中で振り向き、私の顔をじっと見て来た。


「どうしたの?」


「いえ、やっぱり綺麗だなって思っただけです」


こちらに手を伸ばす時雨の顔は明るくかったけど、その瞳はどこまでも闇に満ちていた。



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