第24章 修行の成果
「よし、じゃあ私と戦いたい人?」
悠人が用意してくれた食事を食べ終わってから私が手を挙げると、みんな少し驚いた顔をした。
何故こんな事をしたかと言うと、修行する前でもかなり強かったゆい達が、2年間の修行を得てどこまで強くなったのかが物凄く気になっていたからだ。
「やる!」
「うん、じゃあ外に出よっか」
ゆいの言葉に合わせて悠人以外のみんなが神器を持って立ち上がると、空気が少し乾いた。
(ここまで・・・強くなってるんだ)
乾いた空気を感じ、強くなったみんなの気配に少し嬉さを感じていると、いつの間にか家の中に残っていたのは悠人と私だけだった。
「あっ、桜さん。僕も行った方が良いですか?」
「うん、一応見るだけでも学べるからね」
「はい!分かりました神器を持ってくるので待ってて下さい」
悠人は明るい返事を私にすると急いで立ち上がり、襖を開いて走って何処かへ行ってしまう。
悠人が帰ってくるのを待とうと思ったけど、ゆい達を待たせるのもあれだと思い、縁側に向かうと、そこにはもう武器を構えているゆい達が見えた。
「みんな、速いね」
「次は・・・勝つよ」
私を無視したゆいの言葉に、ゆい達の周りの空気は一層重くなり、肌にヒヤリと冷たい風を感じた。
もうやる気だなぁと思い、下駄を履いて家から離れ、ゆい達から数歩離れた位置に移動してからゆい達に眼を向ける。
「さぁ、おいで」
刀を抜き、ゆい達に優しく手招きをすると、ゆいは自分の肌を短剣で斬り裂き、鮮やかな緑色の短剣を血で染めた。
すると、強い風が吹いた。
(あっ)
来る!と思った瞬間、首に迫る短剣を一瞬遅れて刀で弾く。
体制を崩したゆいを追撃しようとすると、ゆいは赤色に染まった短剣を軽く私に投げて来た。
(えっ?)
神器を手放すという行動に、一瞬それに気を取られてしまい、その隙を突いた様に私の顔に鋭い火の矢が迫ってきた。
「っ!?」
飛んでくる矢を刀で弾くと、火は刀に吸い込まれる様に消えたが、そんな私を囲むように雷牙達が接近し、極め付けには全員が体の周りに魔法を纏った。
(ちょっと・・・不味いかなぁ?)
そんな事を思いながら誰が攻めてくるのか警戒していると、後ろから砂を踏む音が聞こえた。
反射的にそっちを向いてしまうと、背中に強い衝撃が走った。
お腹の中に感じる、冷たい金属の感覚を感じて自分が刺された事が分かった。
(風)
急いで心の中でそう唱えると、私の周りに強めの風が吹き、その風がゆい達の眼を一時的に潰してくれる。
眼が潰れたゆいのお腹を軽めに蹴り、ゆいを吹き飛ばしてから背中に刺さった短剣を引き抜き、それを左手に持つ。
ゆいは無力化したから、次はこの中で厄介な琴乃にターゲットを絞り琴乃に接近すると、琴乃は容赦なく見た事がない舞を叩き込んできた。
緩急をつけた鋭い舞に少し苦戦をしていると、後ろから雷が弾ける音がした。
(大地の針)
地面を音を鳴らすように左足で踏むと、後ろの雷牙を岩の針が襲うが、やけに冷たい風が吹いた瞬間、左手の短剣が地面に落ちた。
いや、落ちたのは私の左手だった。
その落ちた私の左腕に少し驚いていると、当たり前だが琴乃は待ってくれず、鋭い3撃の舞を披露し、それを弾こうとすると、背中に刺された時と同じような感覚が4回走った。
後ろにちらりと目線を向けると、渦を巻いた風の刃が私に突き刺さっているのが見えたが、後ろを振り向いたおかげで、雷牙の右の突きが飛んでくるのが見えた。
琴乃の追撃を勘で躱すが体勢が悪く、雷牙の突きを刀でいなせない。
その突きを左の肘で止めようとするが、その突きを左肘で止めた瞬間、雷牙の腕に纏った雷が収縮した。
(まず)
次の瞬間、紫色の雷が弾け、私の肘からは焦げた肉と白い骨が露出した。
その光景に少し驚いていると、顔面に左の突きが飛んできた。
それを刀でそらすと、赤い短剣を持ったゆいが視界の端に写っており、その小さな左足からは考えられないほどの衝撃を顔面に食らってしまう。
「っ!?」
すぐに背中で受身を取り、体を起こすと熱気が肌を叩き、少し形が違う矢が私に迫ってきた。
その火の矢を刀で弾こうとすると、何か違和感を感じた。
その矢は、さっきよりも遅過ぎる。
それが分かった途端、肌がざわりと危険を知らせた。
(エンチャ)
心で魔法を唱えるよりも速くその矢は収縮し、視界を埋め尽くすほどの爆炎となった。
咄嗟に後ろに飛びながら顔を腕で守ったが、その腕と体は焼かれ、赤白い火傷を体に負い、傷の一部は黒く焦げていた。
「凄いねみんな」
足と左手で勢いを殺してゆっくりと立ち上がり、みんなに笑顔を向けて魔法で作った水を被り、少しだけ火傷を和らげる。
そして状況の確認をする。
左肘は焼かれているおかげであんまり出血は無いけと、背中と左手から溢れる血を見て、あまり長くは持たないなと思い、少し焦ってしまう。
けれど心はどこか穏やかで、息を軽く吸い、冷たい空気を肺に入れる。
「じゃあ、そろそろ私からも行くね」
私の笑顔を怖がったのか、ゆい達は眼光を鋭くし、武器を構えた。
氷で左手と背中の数カ所を凍らせて軽く止血をし、言葉を唱える。
「エンチャント 植物」
私の言葉に合わせて地面から植物の蔓が刀に巻き付くと、刀に巻き付いた緑い蔓は枯れ、生命の温もりが感じられなくなった。
「・・・行くよ」
体を前に倒しながら神器の力を使い、雷牙に急接近する。
「っ!!?」
驚いた雷牙を刀で斬ろうとするが、私の4撃は寸でのところで躱され、弾かれる。
(おぉ!)
ゆいと琴乃が避けるのに精一杯な雷牙をフォローするように、私に攻撃しようとして来るのを見て、蔓に目を向ける。
すると蔓は弾けるように拡散し、琴乃の腕を貫く。
貫いた蔓の色が少し緑くなると、琴乃は膝の力が抜けたように前のめりに倒れ、蔓を避けた雷牙とゆいの攻撃を逸らして蔓をわざと大きく唸らせると、その蔓を火の矢が貫いた。
(かかった)
雅が誘いに乗ってくれた事に安心して笑みを浮かべると、雷牙とゆいは体を強ばらせた。
無い左手をゆい達に伸ばすと、ゆいは私に攻撃を、雷牙は数歩引いて身構えた。
(光玉)
そう呟くと無い左手から光の球場の物が現れ、それを想像で一気に弾けさせると、眼を焼くほどの光が私達の眼を潰した。
「がっ!?」
「っ!?」
目は潰れたが、雷の音を頼りに雷牙に接近し、雷牙の脚を軽く斬ると、肌で感じた空気の揺れで雷牙が倒れたのだと分かり、すぐさま地面を蹴る。
白く塗りつぶされた視界の中で微かな風を肌で感じ、その中心にいるゆいに斬りかかるが、その攻撃は防がれ、三つほど新たな風が生まれる。
その風の塊を肌の感覚で避け、地面を擦る音を頼りにゆいの脚を踏み、刀で脛を軽く斬ると、短剣が落ちる音がし、ゆいが音で倒れたのを確認して何回か瞬きすると、目が少しずつ見えてきた。
(よし・・・)
ふぅと息を吐くと、眼の端で鋭い矢が迫ってくるのが見えた。
けれど眼が慣れたのか、矢は刀で簡単に弾けた。
雅はそれに驚いた顔をし、すぐに何発も撃ってくるけど、さらに遅いと感じるせいで、簡単に刀で撃ち落とせる。
私から離れようと後ろに飛ぶ雅に合わせて神器の力を使い、雅に急接近して弓を峰で叩き落とし、雅の綺麗な首に黒い刃を突き当てる。
「私の・・・勝ち」
私の言葉に雅は膝から崩れ落ち、ぺたんと地面に膝を着いてしまった。
それを確認してから後ろを振り向いてみると、琴乃達が倒れている事を確認して安心して私も肩の力を抜くと、ふらっと意識が遠のいてしまい、刀を地面に落としてしまう。
「ちょっ、桜さん!?」
私が倒れる寸前に、どこからかやって来た悠人が体を支えてくれて、私の無事な右肩を担いでくれる。
「ありがとう、悠人」
「えっと、どういたしましてです。・・っ!?桜さん服!!」
顔を急に赤くさせる悠人を見て自分の体の方に眼をやると、せっかく紬さんから貰った黒い紬がボロボロになっており、サラシも千切れかかっていた。
「あ、ごめんね」
恥ずかしがる悠人に謝り、傷が治ったら服を取りに行こうと思っていると、不機嫌そうな顔をしたゆいが、私の神器を拾って持って来てくれた。
「はい、神器」
「あっ、ありが」
その神器を貰おうと再生しかけた左腕をゆいに伸ばした瞬間、なにかが私の左腕を貫き、後ろに凄い力で引っ張られる。
(敵!?何!?誰!?悠人を!?逃げて!!)
飛ばされる寸前に思考がいっぺんに重なるが、かろうじて右腕を悠人に絡み付け、悠人の頭を胸に抱えて一緒に森の中を飛ばされる。
「っう!!」
強い風圧を感じながら森の中を吹き飛ばされていると、背中に鋭い衝撃が走り、強い痛みが頭に響いた。
「げほっ!」
「桜さん!?」
悠人の無事なのを確認し、左腕に刺さった物に目を向けると、何かの魔法で作られたような霧の杭が刺さっており、左腕が木に貼り付けられ、右手で何度も杭を引き抜こうとするが全力を出しても抜けないほど、杭は深々と木にめり込んでいた。
「悠人、ちょっと離れて」
「はっ、はい!」
私の胸の中で困惑している悠人に少し離れるように指示し、悠人が私から離れてから氷の刃を頭で想像するが、いくら想像しても氷が出ない。
「魔法が・・・使えない!?」
考えたくも無い事を考えてしまい、頭が焦り始め、鼓動がどんどん速くなっていく。
(どうしよう!?どうしたら!!?)
「ぼ、僕、ゆい達呼んできます!」
「ダメ!!」
私の大声に悠人は肩を震わせ、その綺麗な黒色の目を潤ませたが、最悪の状況を考えると、絶対に悠人を向こうに行かせたら行けない。
「悠人は魔法上手く使えないでしょ。だから、行っても役に立たない」
少し厳しい事を言ってしまうが、それは本当の事だ。
悠人はいくら鍛えようと、全然上手く魔法を使えなかった。
(どうしよう、もし、敵が不死殺しを持っていたら・・・)
目眩がするほど頭を回していると、ふと、ある事を思い付き、泣く一歩手前の悠人に声をかける。
「悠人・・・お願いがあるの」
悠人は私の声を聞いてか、今にも何そうな顔を上に上げた。
「悠人の蝿で、私の腕を攻撃して」
私の提案に悠人は眼を見開き、首を横に振った。
「だって、そんな事したら」
「悠人!!!」
自分でも珍しいと思う大声を聞いてか、悠人の黒い瞳から涙が零れ落ちる。
「もし、今来た敵が不死殺しの神器を持っていたら、ゆい達が死ぬかもしれないの。だから・・・お願い」
悠人はしばらくぐずっていたが、とうとう覚悟を決めたのか大きな涙を流しながら、私の腕に手を当てた。
「いき・・・ます」
指を自分の口の中に入れて舌を噛み切らない様にしてから悠人に頷くと、悠人の周りに一匹の蝿が生み出された。
その蝿が私の腕に当たると蝿は弾け、私の腕に強い違和感と不快感を刷り込んだ。
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「へへ、手頃な不死がいやがる」
白狐に似た強そうな奴を飛ばしたおかげで、残った奴は弱そうな奴らだった。
頭が痛い。
吐き気がする。
腹が減った。
けれど不死を戦の国に連れ帰ったらと思うと、そんな事どうでも良くなってくる。
霧を出そうと痛む頭を使うと、嫌な事を思い出す。
友達から裏切られた記憶を。
そんな記憶を思い出していると、いつの間にか辺りには濃い霧が漂っていたが、その霧を見てか、犬に似た耳を付けた小女が、私を驚くように見ていた。
すると少女は短剣で自分の左腕を切り裂いた。
「はは、自殺でもしてくれんのか?」
そんな冗談を口にすると、少女の周りには風が吹き始めた。
(なん・・・だ?)
少し警戒をするが、そんな警戒が無意味だと言う用に、突如として自分の腹に冷たい感覚が入り込んだ。
(えっ?)
短剣の根元を持っている少女の両腕は、私が生み出した霧のせいか肌を伝うように血を流しているが、そんなもの御構い無しと言わんばかりに短剣を引き抜き、私のみぞに蹴りを入れる。
一瞬のこと過ぎて体が何も理解してくれなかったが、何が起こったかを体がやっと理解すると、苦しみと痛みと生暖かいなにかが一気に体から溢れ出た。
「オェェェ!?かはっ!あぁあ!!」
地面に落ちた血が混じった吐瀉物を目と鼻の先で眺めていると、顔面をすくい上げる様に蹴られ、空を見上げてしまう。
(なんだ?)
何が何だか分からず、綺麗な青空を呆然と眺めていると、私の顔面を潰そうと金色の拳が飛んでくる。
「っ!!」
腹の傷を抑えながら転がってそれを避けると、地面から土が舞い上がり、霧と相まって視界が塞がれる。
(にげ)
この隙に逃げようとした瞬間、左眼から右頬にかけて何かから斬り裂かれた。
「あぁぁぁぁ!!」
「ッ、外した」
霧のお陰で砂埃はすぐに地面に落ちるが、それは絶望的な光景を綺麗に見せた。
自分自信も良く分かってないが、おそらく私の力は、私が生み出した霧に触れた奴を傷つけるといったものだ。
なのにあいつらは全身から血を出しながら、ゆっくりと、冷酷にこちらに近づいてくる。
「来るな!」
反射的に左手をそいつらに向けるが、その左手をなにかが貫いた。
右眼だけの視界でその傷を見えると、手の平を火の矢が貫き、左腕にかけて綺麗に入り込んでいた。
刺された衝撃から遅れてくるように、頭を叩く痛みが体を襲う。
「あぁあぅあぁあ!!!!!」
強い痛みを感じ、地面をのたうち回っていると、金色の拳が腹に打ち込まれ、眩しいなにかが弾けると、後ろに吹き飛ばされ、地面を何度も転がって腹から熱い物を飛び散らしていると、やっと勢いは止まってくれたが、勢いが止まると何かが切れる音がし、意識が遠のき始める。
(死ぬ・・・のか?)
ふと、そんな事を思ってしまい、笑ってしまう。
けれどそれとは別に、冷たい恐怖が体を支配した。
恐怖が体に纏わり付くと、土が大量に口の中に入っているのにも関わらず歯がガチガチと音を鳴らし始める。
(死にたく・・・ない)
その恐怖に呑まれるような感覚を冷たい地面と熱い全身で感じていると、右眼から熱い涙が零れてしまった。
(死にたくない!死にたくない!!生きたい!!!)
((死にたく、無い!!!))
心の中で叫んだ筈なのに、誰かと声が重なる。
(えっ?)
それに疑問を持っていると、体が勝手に起き上がり、腹から赤い内蔵が零れたが、特に痛くはない。
「なっ!?」
私が起き上がった事に驚いたのか、そいつらは私から距離を離した。
(なんだ・・・これ?)
不思議な気分だった。
冷たい霧の中に居るのにどこか心地よく、痛みが消えて力が溢れてくる。
そして、その力をどう使えばいいかがなぜか分かる。
「ははっ」
頰が釣り上がり、口の中に湿った空気が取り入れていると、辺りを更に濃い霧が呑み、白が視界が塞ぐ。
だけど、なぜかあいつらの居場所が分かる。
背中に力を入れると、霧の中を泳ぐように移動でき、あいつらの背中側に移動し、誰かの左胸辺りを突き刺す。
「ごぼっ!て・・・めぇ」
心臓を貫かれた両手に金色のグローブを嵌めていた不死は、口から濃い血を溢れ出した。
その刺さった短剣を引き抜くと、そいつの金色の眼が上を向き、膝から崩れ落ちた。
「貴様!!」
眼帯をした不死と少女が私を襲ってくるが、向かってくる長いナイフと緑色の短剣を一撃で弾き、眼帯をした不死の首に短剣を差し込む。
「き・・・さ」
差し込んだ短剣を横に滑らせると、うるさいそいつは黙り、膝から崩れ落ちた。
呆然としている少女の顔面を蹴り、ボウガンの様な物を持っていた不死の太ももに短剣を刺して矢で貫かれた左手で赤髪の不死の首を掴み、地面に押し倒す。
「っ!?」
短剣を逆手に持ち替え、そいつの綺麗な顔面を突き刺そうとするが、ボウガンの様なもので間一髪の止められる。
けれど右腕に力を入れると、ゆっくりと刃が女の顔に近づいていき、目に刃先が当たると、不死は悲鳴をあげた。
「あ」
すると刃は簡単に沈み込み、硬いものを貫いた感触が手の平に残った。
「ははっ・・・」
変な感触が残る手の平に付いた血を眺めていると、背中の中に冷たいものが入り込んだ。
(あれ?)
けれど全く痛くない。
後ろをゆっくりと振り向き、動物の耳を付けた少女の怯えた顔を睨むと、辺りの霧が少女を襲い、少女は金切り声を上げ始めた。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!!!!」
血を撒き散らしながら地面をのたうち回っていた少女はしばらくすると動かなくなり、浅い呼吸を繰り返すだけの赤い肉の塊に変わった。
(終わった・・・のか?)
赤い髪の不死から短剣を引き抜き、まだ微かに息がある少女にとどめを刺そうとすると、霧の中に誰かが入ってきた。
「あっ?」
その方に顔を向けると、硬いものを拾う音が聞こえたと同時に私の顔に刃が迫ってくる。
それを避けて後ろに飛び、白い視界の中で眼を凝らすと、私に長いナイフを振るったのは最初に飛ばした、白狐に似た不死だった。
(白狐!?)
そいつを見て焦るが、そいつには右腕が無く、その傷からは骨と赤く細い管が伸びており、傷を縛ってはいるが出血は酷い。
しかも顔をしかめ、脂汗を顔に浮かべていた。
「ひひ、はははは!!」
その有様を見て笑みが止まらない。
だって、こいつを持って帰れば莫大な金を貰える。
けれどそいつは私を無視し、浅い呼吸を繰り返す肉となった少女に近付くと、その細い首を長いナイフで切断した。
「・・・ごめんね」
そいつは首を切断した少女に謝ると、私に顔をゆっくりと向け、その眼から発せられる怒りを肌に感じた。
「神器 展開!」
そいつは意味が分からない言葉を唱えると、辺りの霧がそいつが持っている武器に吸い込まれ始めた。
「なっ?」
なにか不味いと思い、霧の中を移動しながらそいつを殺そうとするが、霧の中からのどんな角度からの攻撃も防がれ、躱される。
そうこうしている間に辺りの霧は晴れ始めた。
「このっ!!」
霧が晴れないように新たな霧を作り出してそいつを襲わせるが、その霧もそいつの長いナイフに吸い込まれて行き、意味をなしてくれない。
それを見て早く決着を着けようと思い、地面に着地し、そいつの胸めがけ突っ込む。
(死ね!!)
「咲け!霞桜!!」
そんな言葉が聞こえたが、それを無視して突っ込むと、そいつの胸に刃が滑り込む直前に違和感に気づいた。
それは・・・そいつの冷たい眼が私の眼を見ている事だった。
(えっ?)
突如として視界が周り、地面の砂つぶがしっかりと見えた。
(? !? !!?)
そんな状況に困惑していると意識が遠のき始め、最後に見えた景色には、丁寧に切り分けられた私の四肢が見えていた。
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「ふぅ、疲、れた」
地面に体を倒して空を見上げると、今日の空は意外にも晴れていた。
「さて・・・人が攻めてきたらまずいなぁ」
そんな事を思うが、心地がいい土の感触を感じていると、まぶたが重くなってくる。
すると、足音が聞こえてきた。
「桜様〜?生きてますか?」
そんな声が聞こえると、短い白髪と深い黒色の眼をした久隅が、私に顔を近づけて来た。
そのおかげで、心底安心してしまう。
「やぁ、来てくれたんだね」
「えぇ、クソ野郎が泣きながら懇願していたのでね」
久隅が言うクソ野郎とは、多分、悠人の事だろう。
「ごめんけど、ゆい達と、バラバラの子を、運んで、あげて。私はちょっと、寝るから」
「はい、了解しました。今はごゆっくりお休みなさい」
その言葉に安心して眼を閉じると、久隅とは違う誰かが私の頭を優しく撫でてくれた。
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「はぁ〜」
長いため息を吐き、机に体を倒して足をパタパタさせる。
なんでこんなことをしているのかと言うと、机の上に置かれている『少年の願い』という本の題名の意味が分かってしまったからだ。
「なんで・・・こんな終わり方にしたんだろう?」
この本は面白い部分とつまらない部分が半々くらいに入っていたが、この本の最後はあまりに釈然とせず、胸に不快感が生まれてしまうほどだった。
「はぁ・・・」
しばらく机に顔を乗せ、この本はどこに置こうかと考えていると、私の隣にある柵に誰かの手がかかった。
その柵から身を乗り出したのは、体系が変わらない不死なのに、酷くやつれて見える大和ちゃんだった。
「よっ、よう、真白」
「えっ、何かあったの?」
「2徹しただけだ。なんか和の国で研究所の襲撃が不死のせいだって噂が広がって同盟を無くせって声が多くてそれに合わせて不死達が人を滅ぼせってわーわー言ってもう全員弾圧してやろうかって思ってるだけだ」
その早口の話を聞いて、大和ちゃんがどれほど疲れているのかがよく分かった。
「えっと、大和ちゃん・・・寝よっか」
「あぁ?寝てる暇なんてねぇんだよ。なんか不死が一人攻めてくるし桜は傷つくしなんで全員仲良く出来ねぇんだよ」
口周りを両手で押さえて座り込む大和ちゃんを見て、これはかなり重症だなぁと思ってしまい、そんな大和ちゃんの肩を摩り、心の中でため息を吐く。
「大和ちゃん、じゃあめんどくさい人達・・・みんな殺す?」
私の言葉に大和ちゃんは眼を見開き、少しの間考え込んでしまう。
「ダメ・・・だ。んな事したら、あいつらみたいじゃねぇか」
「それが嫌なら、どうする?」
大和ちゃんの綺麗な顔に鼻を近づけ、あんまり自信のない胸に大和ちゃんの顔を抱き寄せる。
「休んでから考えよう」
「やす・・・む?」
「うん、だって上の人の機嫌で色々決められたら下の人達困っちゃうでしょ?」
「そう・・・だな」
私の言葉に大和ちゃんは焦点があっていない眼を閉じると、もう小さな寝息が聞こえてきた。
そんな大和ちゃんの背中を何度も軽く叩いてあげ、その温かい体温を感じながら、重たい大和ちゃんを頑張って私の寝室に運び、私のベットに寝せる。
「ふぅ」
静かな寝息をたてる大和ちゃんに白い布団を被せ、自分の指先を少し舐めてその唾を大和ちゃんの額に軽く付ける。
「良い夢を」
私のただ良い夢を見せるだけの魔法を使い、部屋の電気を消して扉を閉める。
「・・・さて」
大和ちゃんを運ぶ時に、大和ちゃんの肌に触れて記憶を少し見てみたけど、事態は少し複雑になっていた。
琴乃ちゃん達が復讐したがってた霧を使う不死を不死の国で保護したらしい。
大和ちゃんがここに来た理由は、不死の国を攻めてきた不死が誰かの引き金では無い事を確かめたいらしかったけど、疲労とストレスでそれを伝えそびれたらしい。
「はぁ・・・」
こまめに休まない大和ちゃんにため息を吐き、柵から飛び降りて歴史の間の力で膝にかかる衝撃を消し、照明も消してから真っ暗になった歴史の間から出ると、辺りは微妙に暗くなっていた。
(黄昏時・・・かな?)
そんな事を思いながら、1階の黒い扉に向かう。
黒い扉を開き、音のならない白い階段を淡々と降りて見えない階段の所まで行き、透明な階段に足をつけた瞬間、首を締められたような感覚に陥ってしまう。
「はぁ・・・」
それを無視して階段を降りて行くと、上の扉よりも更に黒い、異様な扉を見つけた。
(ここ・・・だったよね?)
その扉を開くと、扉が無数に並んでいる長い通路が見え、その通路のすぐ右側に緑色の扉を開けると、白髪の女性が、様々な拘束具でガチガチに縛られていた。
「多分、忍ちゃんだよね」
ため息を吐きながら鉄で作られた拘束具を少し外し、その名も知らない不死の肌に手を当て、憂鬱な気分を感じながら眼を閉じる。
「ごめんね」
その人の肌の熱を感じていると、だんだんと意識が遠のき、自分の体は暗闇に落ちていった。
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「お母さん」
「なぁに?」
振り返る母の顔を見て肩が震え、涙が溢れそうになる。
「あの、私、兵士に、なれなかったの。ほんとに、ごめ」
私の話が終わるより速く、私の顔に平手が飛んできた。
心と肌の痛みを感じながらゆっくりと母の顔を見ると、その顔は怒りに満ちていた。
「あんたも・・・役立たずだったのね!」
母は怒りの涙か悲しみの涙なのか分からない涙を流しながら、私の顔を何度も叩いて来る。
私の家は、三人家族だった。
母と兄と私。
お父さんは病気で亡くなったらしいけど、私が幼い時に亡くなったため、一切の記憶が無い。
けれど、母は優しく、強い人だった。
お父さんの、お父さんやお母さんを介護したり、私と兄のお弁当を毎日作ってくれたり、銃のメンテナンスもしてくれていた。
そんなお母さんの肩を揉んだりすると、とても喜んで私の頭を撫でてくれた。
その時の母の顔が、大好きだった。
けれど2年前、不死の討伐部隊に入ったお兄ちゃんが軍を抜け出し、もう戦争なんかしたくないと言い出した。
そんなお兄ちゃんを、お母さんにしては珍しいと言えるほど強めに怒っていた。
「あんたが仕事をしてくれなきゃ、この家は終わるのよ!?私ももう体にガタが来始めてもう長く無いかもしれないのに!」
「うるせぇ!!もう、戦争なんか行きたく無いんだ!!あいつらと関わりたく無いんだ!!」
そう泣きながら訴える兄の姿を見ても、母は兄をどうにか職に就かせようとした。
軍が嫌なら科の国に行って技術を学べば良いと。
それが嫌なら、軍事服などの生産工場で働けば良いと。
けれど兄はそれら全てを投げ出し、何処かへ行ってしまった。
それから母は変わってしまった。
「いい?あいつは役に立たないの。だから、貴方がどうにかするしか無いの」
母は私を抱きしめて、いつもそう言っていた。
だから私は兵士になりたかった。
兵士になれば、多くのお金が貰える。
だからそのお金を使ってお母さんを楽にしてあげようと思った。
そう決めてからは、色々辛い事があった。
男から嘲笑われ。
女のくせにと言われ。
同級生からもあんな奴、女じゃないと言われ。
それでも母のために頑張ろうと思い、男よりもきついメニューを選び、あまり寝ずにトレーニングを沢山頑張り、男達よりも良い成績を取れた時は最高に嬉しかった。
けれどある日、足に強烈な痛みが走った。
病院で調べると、それは何かの病気だった。
医者が言うには、筋肉と骨を酷使し過ぎたからこうなったと言われた。
しかもタイミングは最悪で、兵士になる為の試験の数日前だった。
それでもやるしか無いと思い、医者に無理を言って痛み止めを使って貰って試験に挑んだが、結果は散々なものだった。
周りからは嘲笑われ、母をぬか喜びさせないように正直に話したけど、結局嘘を付いた方が良かったかもしれないと思うほどだった。
松葉杖をつきながら森の近くでため息を吐き、これからどうしたら良いのか、途方に暮れていると、視界の端に見た事がある人影を見つけた。
そいつは、兵士の育成場で私を馬鹿にしなかった人達の1人だった。
その中でそいつは一番の変わり者で、しょっちゅう嘘をつく奴だった。
けれど嘘かほんとか分からない話に、何度か励まされた事があった。
懐かしいなと思いながらそいつを見ていると、そいつの手にはロープが握られていた。
「まっ」
そいつが森に入るのを止めようとしたが、右膝に走った痛みのせいで転んでしまう。
それでも急いで顔を上げると、そいつはもうそこには居なかった。
そいつは入ったら出る事が出来ないで有名な森の中に入っていき、その手にはロープが握られていた。
その状況を見れば、ある事が絶対に頭に思い浮かぶ。
「自殺・・・」
自殺を止められなかった事を悔やみ、そいつとは特別親しい訳でも無いのに静かに泣いていると、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
そんな真っ暗な畑の中でため息よりも暗い息を吐き、帰りたくない家に帰ろうとしていると、森の中に明かりが見えた。
それが何かと思い、木の陰に隠れてじっとその光を見ていると、光は懐中電灯の様な物で、それを持っていたのは、あいつだった。
「えっ?」
それを見て、とある考えが胸の中に生まれた。
戦も科の技術者達がお手上げな森の抜け道を、そいつが見つけたとすれば。
それを私が奪って国に提供すれば、お金を沢山貰えれば。
そしたら、お母さんは元に戻るはず。
そう考えてからの行動は速かった。
水と少量の食料と国から支給されるHGを用意し、次の日の朝からそいつが森に入るのをじっと待っていた。
食料をつまみながらそいつを待っていると、そいつは昼頃にやっとやって来た。
そいつが辺りを少し見渡し、特定の場所から森の中に入って行くのを見てから松葉杖で急ぎ、そこから森の中へ入る。
そいつはもう見えなかったが、急げば追いつくと思ってしまい、ただ真っ直ぐにその道を進む。
真っ直ぐ。
真っ直ぐ。
不安感が胸に積ろうと、葉が私の肌を裂こうと、真っ直ぐに。
そうしていると、いつの間にか辺りには霧が立ち込めていた。
(なに・・・これ?)
どこからが現れた霧を眺めながら、ゆっくりと1m先も見えない霧の中を歩いて行くと、何か大きな穴に落ちてしまった。
「うわぁ!?」
けれど下のヌメッとしたもののおかげで、あまり痛くなかった。
「いっつつ」
打ったお尻を撫でながら、そのブヨブヨとした下に目を向けると、それは・・・腐敗しかけた死体達だった。
「きゃ!!?」
急いで後ずさり、この穴から出ようとするが、この脚では登れず、そもそも土が柔らかすぎるせいで上から引っ張って貰えないと登れない。
後ろを振り向くと、死体達の目が心なしかこちらを見ているようにも感じてしまった。
「いや!嫌!!」
目を閉じ、蹲って頭を抱えるが、葉が切り裂いた傷に霧が当たり、その傷がズキズキと痛む。
(嫌、だれか、助けて)
強い孤独感とだんだんと体が冷たくなって行くのを感じ、ただ現実を受け入れない様に震えていると、金属が何かにぶつかる音に気がついた。
そこに目をやると、HGが腰にぶら下がっている事を思い出した。
「あっ・・・」
それを見た途端、ボロボロな自分の中で何かが切れ、その銃の安全装置を外して、自分の頭の隣にそれを持って行く。
そして引き金を引くと、大きな音と共に視界がぶれ、自分の体は冷え切った死体の上に横たわった。




