表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/71

第19章 合格


「ただいま」


縁側で靴を脱いで部屋に上がるが、自分の声が響くのを感じ、寂しさが胸の中を掻きむしる。


たった1日だけなのに、誰かが家に居ないとこうも寂しくなるものだとは思いもしなかった。


「・・・はぁ」


鞘を腰から抜き、服に付いた血を落とそうと湯殿に向かっていると、電話から赤い光が出ていることに気がついた。


「・・・大和?」


その電話を取り、耳に当てると少し不快な音が流れ始めるが、しばらくするとプツッと不快な音が途切れ、電話からクリアな音が聞こえ始めた。


「お、桜。やっと出たな」


電話から聞こえて来た声は、いつも通り元気そうな大和の声だった。


「ごめん、また来てたから」


「・・・そうか。じゃあ気にすんな。それで、全員クレアのところに向かわせたか?」


大和のその言葉に心が痛み、胸に手を当てその痛みを和らげようとするけど、その痛みは怪我をしたばかりの傷のように、ズキズキと痛みを発し続ける。


「うん、行かせたけど、大丈夫・・・かな?」


「分からん。あいつら次第だからな」


無責任に言う大和に少しだけ腹が立ったが、 それ以上に胸の奥の不安感がとても大きくなって行くのを感じる。


そんな不安を感じていると、電話の向こうから大和のため息を吐く音が聞こえて来た。


「そういや桜、お前に伝える事を忘れてたんだが」


「んっ、何?」


「戦の国で魔術式が実戦配備されたから、気を抜かないようにな」


「戦の国が!?」


魔の国は外交を一切しない国で有名なのに、魔の国の技術がどうしてか戦の国に入っている事が私の中では驚きだった。


「魔の国の技術が戦の国まで流れたんだ。まぁ、流石に実戦配備までは時間は掛かってくれたからこうして情報が入ったんだがな」


「そう・・・時代は変わってるんだね」


自分が不死になって50年、その間に周りの景色が変わらなすぎて自分の時が止まっている様に感じていたけど、それはただの勘違いで結局時はずっと動き続けていた。


それが分かると、自然と口からため息が漏れてしまう。


「あぁ、人は怖いからな」


その大和の言葉には同感だった。


人は欲が大量にあり、短命だ。


だからこそ何かに対しての欲求が強く、その欲求を満たすためならば普通なら考えも付かない様な手段を使う。


それが私達だった。


「あっやべ、ちょっと急ぎの用事があるから切るな」


そんな事を考えていると、向こうから聞こえる音が段々と慌ただしくなって行く。


「そうなんだね。気をつけて」


「お前もな、じゃ」


そんな言葉を最後にプッという音が鳴ると、大和からの声が途絶え、それを確認してから電話を元の場所に置くと、電話を当てていた左耳が少しだけ聞こえづらくなっている事に気が付いた。


「やっぱり電話は合わないかな」


耳の違和感を感じながら体に付いた返り血を落とすために湯殿に向かおうとすると、風鈴の音が耳に入った。


「はぁ。また・・・なんだ。」


大きなため息を吐いて鞘を腰に差し直し、縁側に向かう。


心の中に生まれた、倦怠感を強く感じながら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「では、始めましょうか」


「いやいや待ってくださいよ」


あれからクレアさんに付いて行き、さっきまで魔法の練習をしていた場所に着いた途端に、クレアさんは急に試合を始めると真顔で言い始めた。


「どうしました?」


「いや、急に始めるって言われて少し焦ってるだけです」


少しだけ速くなった心音を落ち着かせるために、胸に手を当てて深呼吸をしていると、ゆいは僕にため息を吐き、嫌そうな顔をこちらに向けた。


「どうでもいいから早く始めよ」


僕の言葉をいつも通り無視して、ゆいは短剣を背中から抜くと、クレアさんもため息を吐いた。


「どうでもよくは無いですけどね。まぁ、そろそろ始めましょうか。『(てん)(かい)(つるぎ)』」


クレアさんが右の手の平を上にしてそう呟くと、薄く光る半透明な釼が現れた。


その劔はクレアさんの背丈より少し短く、けれど刀身は細くて美しかった。


どこからか現れたその劔に見惚れていると、クレアさんは作った様な笑顔をこちらに向けた。


「では、始めましょうか」


クレアさんはその劔を握ったままだらんと腕を脱力させ、クレアさんは鳥のような白い面をはめる。


真っ黒な瞳がこちらを見始めると同時くらいに隣から柔らかい風が吹いた。


そちらを見ると、ゆいが身を低くしており、その周りには柔らかい風がゆいを包み込んでいた。


ゆいはさらに姿勢を低くすると、顔に楽しそうな笑みを浮かべてそのままクレアさんに向かって突っ込んだ。


その速さは多分、僕が見た中でも一番速かった。


「えっ?」


クレアさんに突っ込んだゆいを眼で追うと同時に見えた光景に、僕は声を漏らした。


だって僕の視界には、ゆいの右腕が宙を舞っているのが見えたから。


その光景に目の奥が熱くなっていると、ゆいは切れた右腕を左手で掴み、クレアさんに鋭い左足の蹴りを入れる。


その蹴りは劔で防がれるが、その反動を利用してゆいはこちらに帰ってくると、顔に脂汗を滲ませたゆいは自分の右腕を噛むと、獣のような唸り声を辺りに響かせた。


(えっ?腕が、なんで、どうして、なんでなんでなんで!!??)


「何を驚いているんですか?」


その現状を理解しようと必死に頭を回す中、優しい声が辺りに響いた。


「これは死合いですよ」


その優しい声に思考は止まり、心臓が警戒しろと告げる様にうるさく脈打ち始めた。


多分、この人は僕達を殺す気だと感じたから。


その場から動けない僕とは裏腹に、ゆいと雷牙さんと琴乃さんは一斉にクレアさんに突っ込み、後ろからは弓の弦を引く音がした。


雷牙さんがクレアさんの顔面に拳を打とうとするが、クレアさんはそれを首をしならせて躱し、目に見えない速度で雷牙さんの両足を切り落とすと、前目乗りに倒れる雷牙さんの首をで突き刺し、釼を横に払った。


すると雷牙さんの首が不完全に繋がったままの状態で横に吹き飛び、地面を数回跳ねてその死体は地面に転がった。


雷牙さんを殺したクレアさんを左右からゆいと琴乃さんが挟み込む形で斬り掛かろうとするが、上から十字型の光の剣が降り注ぎ、ゆいの足と背中を貫き、ゆいは地面に貼り付けにされる。


琴乃さんはその劔を刀で捌き、ワンテンポ置いて、乱撃をクレアさんに叩き込むが、それらは全てを1本の釼によって全て防がれるが、強い風が一瞬吹いた。


次の瞬間、何故かクレアさんの右腕が宙を舞った。


けれどクレアさんは腕が飛んだにも関わらずに表情を崩さず、琴乃さんに向かって光で作られた十字の剣を無数に飛ばす。


「っう!?」


琴乃さんはそれに驚きながらも、飛んでくる無数の剣

を刀で捌いて接近を試みるが、琴乃さんの横腹をどこからか現れた半透明な槍が貫いた。


「ぐっ!?」


琴乃さんは痛みに耐えながら剣を捌き続けるが、いつの間にかクレアさんは琴乃さんの後ろにおり、飛んでくる光の剣を掴むと、その剣で琴乃さんの首を刎ねた。


琴乃さんの首が雷牙さんの死体の近くへ飛んでいくと、足から力が抜けてしまい、湿った地面に尻餅をついてしまう。


クレアさんは血を大量に流す肩を気に留めず、腕と一緒に落ちた釼を左手で拾い上げるも、地面に固定されたゆいに近付き、その釼をゆいの小さな頭に突き立てた。


骨を穿つ生々しい音が辺りに響くと、ゆいのは体を数度痙攣し始めたが、最終的には動かなくなった。


次々と命が無くなって行く中、クレアさんの黒い眼がゆっくりとこちらを向いた。


そのクレアさんの冷たい眼を見て、体が恐怖で支配され、目を反射的に姉ちゃんの方を向けて助けを求めようとしたが、その姉ちゃんの綺麗な顔は半透明な釼によって貫抜かれていた。


その姿を僕が見た途端に姉ちゃんは前向きに倒れ、顔面に刺さった釼が姉ちゃんの重みで後頭部を貫通した。


その光景に唖然していると、お腹に強烈な衝撃と痛みが走り、そのせいで地面に転がるが息が上手く吸えずに、バタバタと手足を動かすしか出来なくなる。


「カヒュー、コヒュー。」


「魔法、使わないんですか?」


そんな優しい声とは裏腹に、地面に倒れ込んだ僕の首をクレアさんは乱暴に掴み、そのまま首を絞めてくる。


「ガッ!!ヒュー」


「使わないんですね」


息が吸えず、吸えない息を吸おうと、必至に首を絞めている手に爪を立てるが、僕の爪が白い皮膚を削ろうとも、血管を引きちぎろうとも、その手は決して離れてくれない。


「なら、死にましょう」


「かっ、ふっ、はっ・・・」


無理矢理息を吸おうとするけどもやはり息は吸えず、痛みと苦しみで足をバタつかせてもがいていると、下半身から温かいものが漏れ、次第に手足から力が抜けていき、苦痛が無くなり、頭が熱くなり、冷たくなり、なにも・・・か・・・じ・・・し・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふぅ」


ため息を吐き、白目を剥いて泡を吹いている悠人さんの死体を地面に投げ捨てると、右肩からは煙が出始め、少しずつ右腕が再生していく。


「今回も全員不合格ですね」


ため息を吐いて魔法を解くと、ゆいさんの四肢を磔にしていた剣は消え、その空いた穴からは大量の血が溢れ出始めた。


(さて、全員運べるかな?)


ここにいる全員の死体をどうやって運ぼうかなと、再生する右腕を見ながら考えていると、耳障りな羽音が辺りに響いている事に気が付いた。



その音がなる方に顔を向けると、1匹の蝿が悠人さんの死体の上を飛んでいた。


(死体に?いや、腐臭はまだしないし)


どうしてこんな場所に蝿が居るのかと疑問に思っていると、その蝿が突然視界から消えた。


次の瞬間、視界がぐるりと回った。


「よっと」


倒れながら左手を地面に付き、身体を回しながらすぐに起き上がると、右足に強烈な違和感を感じた。


その違和感を感じる右足の裾を上げてみると、そこには何百匹もの蛆が、黒く壊死した僕の右足に沸いていた。


「わぁ〜、逆に凄いなぁ」


その異様な光景に笑いながら、右足を光で作った剣で切り落とし、切り落とした足に代わる義足を光で創造し、その場から離れながら辺りを警戒する、


けれど、辺りには人影も無く、自分以外の気配はない。


「んっ?」


ふと、何かが蠢くような音が聞こえ、音が鳴る方に顔を向けて見ると、そこには悠人さんの死体があり、その所々変色しかけた肌が、脈打つように唸っていた。


そして肌の唸りを止まった途端、無数の蝿が悠人さんの皮膚を食い破って体外へ飛び出して来た。


「・・・貴方だったんですね」


耳障りな羽音をたてながら、無数の蝿が明確な殺意を持って私にゆっくりと向かってくる。


「『()(えん)(てん)』」


義足を強く地面に打ち付けてそう唱えると、透明な炎が地面から立ち登り、飛んでいる蝿達は全て燃やしたが、体を冷たい何かが撫で、反射的にその場から後ろに飛ぶが、それよりも早くに何かの液が左眼に入った。


「っ!?」


左目を反射的に閉じ、地面を蹴っとその場から距離を取ると、左目の中に何かが蠢くような、強烈な不快感を感じた。


(嘘でしょ!?)


眼に何が入ったかは分からないが頭が不味いと判断し、自分の瞼の周りを左手で強く押さえて目を体外へ取り出し、それに着いた血管やらを引き千切ると、その抉り取った左眼には大量の蛆が蠢いていた。


(うーん、ヤバイなぁ)


左目は潰れ、光の魔法の素早さも脚が無いせいで生かせない。


しかも神器は雅さんに突き刺さったままだから、本気を出そうにも出せない。


その左眼を手の平で燃やし、まぁまぁまずい状況にどうしようかと考えていると、急に悠人さんの肌の蠢きが止まり、辺りから立ち込めていた殺気がふっと消えてしまった。


「・・・もう、終わりですか?」


横たわっている悠人さんに挑発的に尋ねるが、返事は返って来ない。


さっきまで殺気立ってたのに急に怒りが収まる事は考えにくいと思い、右足の義足で悠人さんを足蹴にして顔を上向きにするが、悠人さんはとても静かに眠っている(死んでいる)だけだった。


「えっ・・・死んでたんですか?」


顔を近付けて悠人さんの頰をペチペチと左手で叩くが何も返事がない。


「ははっ、面白い魔法ですね」


そう笑いながら少しだけ痛む左眼の傷を魔法で治し、横たわった全員を回収するための方法を考える為に、頭を回した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んっ・・・うぅ?」


「あ、起きましたか悠人さん」


優しいクレアさんの声が聞こえ、目をゆっくりと開けると、クレアさんが僕の顔を覗き込むように見ている事に気が付いた。


「っう!?」


その顔の近さに驚きながらクレアさんの顔から離れ、慌てて何が起こったのかを理解しようと頭を回す。


「えっ、クレアさん!?どうしたんですか!?」


「まぁ、ちょっとした事ですよ。とりあえず起きれるんだったら付いて来て下さい」


「は、はい」


クレアさんは僕に作った様なぎこちない笑みを浮かべると、何処か分からない部屋から出て行ってしまう。


少し戸惑いを覚えながらも艶がない黒色の紬を着たクレアさんと一緒に家の中を歩いていると、食欲をそそる匂いが襖の隙から漏れている事に気が付いた。


「あっ、悠人くん!おはよう」


その部屋には嬉しそうに笑みを浮かべている心花さんが正座で床に座っていて、その前にある卓袱台にはとても豪勢な食事が並べられていた。


「おっ、おはようございます」


「とりあえず座って下さい」


とりあえず心花さんに挨拶をすると、クレアさんに優しく背を押され、転ばない様に足を進めながら、卓袱台の前に胡座で座る。


僕が座ったのを確認すると、クレアさんも卓袱台の前に座り、そのせいか辺りが少し静かになると、クレアさんは僕にまた作った様な笑顔を向けて来た。


「悠人さん、正式な守り人の任命、おめでとうございます」


「・・・はい!?」


急に思い当たりが無い事を言われてしまい、思考がまとまらずに大きな声が口から漏れてしまう。


「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください。守り人って大和さんがいるところで任命されるんじゃないんですか!?」


「そんな大事な仕事をあんな事で請け負えるとでも思ってるんですか?」


クレアさんに真顔でそう言われてしまい、確かにと納得してしまうけど、それならどうして自分達はあそこで紙に名前を書いたのかが理解できない。


けれどそんな事より、どうして僕が任命されたのかがよく分からない。


「え、じゃあなんで僕は任命されたんですか?」


「あ、それは私と戦ったからです」


クレアさんは何故か私と言いながら話してくるが、そんな事よりも気になっていた少し前の事を思い出すと、地獄のような光景が脳裏に過ぎり、辺りに僕だけしか居ない状況に考えたくもない事を考えてしまう。


「ゆい達は!!?」


「ゆいさん達なら帰らせましたよ。あの人達は全員失格ですから」


クレアさんの言葉でみんなが普通に生きているんだと言うことが分かり、少し安心してしまうけど、その言葉には大きく引っかかる場所があった。


「失、格?」


「はい」


クレアさんから冷たい笑みを向けれ、状況が一切理解できない。


そのせいか恐怖が足元からゆっくりと這い上がってくる。


「これ、1からちゃんと説明せんか」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、首を急いで後ろに回すと、白く艶のある広袖を着た紬さんが縁側に立っていた。


「悠人、とりあえずその顔拭(ぬぐ)え、話はそれからじゃ」


そう言われて、自分の頰の熱いと言うことにやっと気が付き、いつの間にか僕の瞳からは涙が無数に流れていた。


その涙を慌てて袖で拭うが、紬さんを見て安心してしまったのか、涙は次々と零れて行く。


「はい、タオル」


「あっ、ありがとうございます」


いつの間にか僕の後ろにいた心花さんがタオルをくれ、頭を下げてそのタオルで顔をゴシゴシと擦っていると、涙はやっと止まってくれた。


まだ少し潤んだ視界を擦って前を向くと、縁側で靴を脱いだ紬さんが、僕の事を心配そうな顔で見ている事に気が付いた。


「落ち着いたか?」


「あっ、はい、なんとか」


鼻水を啜って紬さんに笑顔を向けてお礼を言うと、紬さんは安心出来る笑顔を僕に向けてくれた。


「ならよし。クレア、ちゃんと説明せんと儂がお前を殴るぞ」


紬さんはクレアさんに目を向け、拳をチラつかせると、クレアさんの顔から少し血の気が引いた様な気がした。


「あっ、それは遠慮したいので今度はちゃんと説明しますね」


クレアさんは作った様な笑顔で手を合わせ、僕に笑顔を向けると、今度はちゃんと説明をし始めてくれた。


まず、不死の国では守り人は少数しか居ないらしい。


守り人は人間から不死を守る仕事だけど、自分から進んでやりたがる人は少なく、逆に自ら進んでやる不死は人間を恨んでいる事が多いらしい。


だからクレアさんはそういう人達の選別をする人らしいけど、その話を聞いていると、ある疑問が頭の中に生まれてしまった。


「えっ、そうだったら、ゆい達は人を恨んでいたから失格だったんですか?」


「いえ、そういう訳では無いですよ。単純に弱かったからです」


その言葉を聞いて、結局何が何だかわからなくなってしまう。


そんな僕の顔を見たのか、クレアさんは少し首を捻り、言葉を選ぶ様に首を傾げて悩み始めた。


「えっとですね、人を恨んでいるかどうかは最終的に制御が効けばどうでもいいんです。でも、一番警戒すべき事、不死との戦いには結局は強さなんです。だからあの人達は失格にしました。」


「つまり、ゆい達は弱かったって事ですか?」


「そういうことになりますね」


「いやそれっておかしくないですか!?僕よりゆいの方が強いですよ!!」


なんでクレアさんがそんな判断をしたのかパニックになってしまうけど、後ろから紬さんから落ち着けと言われ、少しだけ息を整えて落ち着く。


そうして前を向くと、片目を閉じ、明るい眼だけをこちらに向けているクレアさんが僕の顔を覗き込んでいるのが見えた。


「多分悠人さんが言ってることはですね、技術と筋力の事だと思います。人の戦いならそれで解決しますけど、不死の戦いはそんな単純じゃありません。極論ですが、魔法が強ければ筋力とかが無くても普通に勝てますからね」


クレアさんの言葉をそうなんだと理解していると、クレアさんの話の一部分を聞いて、期待感が胸の中に生まれてしまった。


「えっ・・・じゃあ僕って魔法使えたんですか!?」


体を前目乗りにしてクレアさんの顔をじっと見ると、クレアさんは慌てる様に乾いた笑みをその小さな顔に浮かべた。


「えぇ、貴方の魔法は凄かったですよ」


「どんな魔法でした!?」


ワクワクしながらクレアさんの返答を待っていると、クレアさんは少し困った様な顔をし、気まずそうに黒く短い髪の毛を弄り始めた。


「えっと、蝿の魔法でしたね」



「え?蝿って・・・目が赤い?」


「はい」


「死体から湧いてくる?」


「それは蛆ですね」


自分が期待していた答えとは全く違う答えに心が重くなってしまい、地面に肘を付いてしまう。


そんな悲しさを感じていると、クレアさんは慌てて僕の下に向けた顔に手を当て、顔を無理やり上げさせられ、視線を合わせられる。


「そんなに落ち込まないで下さい。結構強かったですから」


「そうなんですか!?」


その言葉に反応して、勢いよくクレアさんの顔に近づけてしまうけど、少し冷静になると、とても恥ずかしくなってしまい、クレアさんの顔からそっと顔を離して両手で顔を抑えて悶えてしまう。


「と、取り敢えず、ごはん冷めちゃいますので先に食べましょうか。話はそれからです」


クレアさんは僕の両手を無理やり引き剥がすと、後ろに立っていた紬さんが僕の隣に胡座をかいて座った。


「おぉ、さっきから腹が鳴りっぱなしじゃったから、ありがたいのぉ」


「じゃあ私は紬さんの分のお椀持ってくるから。ご飯は自分達で注いでて」


心花さんはそう言い残すと、縁側に出て行ってしまう。


心花さんの後目にしながら少しぼーっといると、肩を横からつつかれ、慌ててそっちに顔を向けると、紬さんが僕の前にあるお椀を指差していた。


「悠人、その椀取ってくれぬか?」


「あ、はい!」


紬さんに言われるがままに卓袱台の上に置かれた黒色の線が入ったお椀を渡すと、それを受け取った紬さんがご飯をよそいでくれた。


「ありがとうこざいます」


「たらふく食えよ」


「あ、紬さん。僕のは少なめでお願いします」


「んっ」


クレアさんがお椀を勢いよく投げるが、それを何食わぬ顔で紬さんは掴み、それにご飯を注ぎ始める。


そんなやり取りに、次は何が飛んでくるのだろうかと警戒してしまうけど、ご飯をよそいだお椀を紬さんは丁寧に手渡しで回してくれた。


それを見て安心していると、白いお椀と黄色い何かが乗っている小皿を持った心花さんが縁側から帰って来た。


「紬さん、お椀と漬物持ってきました」


「おう、すまんな」


紬さんは心花さんにお椀を貰い、それにご飯を注いで紬さんは自分の分の白米を卓袱台の上に乗せた。


「んじゃ、頂きます」


紬さんは目を閉じながら合掌すると、広い袖が汚れないように抑えながら、スープを飲み始めた。


「おぉ、じゃがいもか」


「はい、じゃがいもと牛乳のスープです:


紬さんの言葉に心花さんは笑顔を浮かべ、心花さん自身もそのスープを飲み始め、クレアさんもその小さな顔に微笑みを浮かべて手を合わせ、ご飯を食べ始めた。


「ほら、悠人さんも食べて下さい」


「あっ・・・はい。えっと、いただきます」


僕も手を合わせ、そのジャガイモのスープをスプーンで掬って口に運ぶと、優しく塩味が効いたじゃがいもの風味が口の中に広がった。


「悠人くんどう?お口に合ったかな?」


「あっ、はい!とても美味しいですよ」


自分の心からの言葉を心花さんに伝えると、心花さんはとても明るい笑みを浮かべて、切り分けられたお肉を食べ始め、それに続く様に僕も切り分けられた柔らかいお肉を口に運ぶ。


それからお腹がいっぱいになるまで肉やスープを食べ続け、心から湧き出る満腹感に浸りながら、手を合わせる。


「ご馳走さまでした」


心花さんに向かって頭を下げると心花さんはにっこりと笑い、空いた食器を片付け始めた。


「あっ、僕も手伝いますよ」


「お主らは汗臭いけ、さっさと湯殿に行ってこい。片付けは儂らがやっとってやる」


「えっ、いや」


「とっ、言うわけで、お風呂に行きましょうか」


紬さんの優しい言葉に食い下がろうとすると、クレアさんから両腕を後ろから掴まれ、優しく縁側の方に押されてしまう。


それに抗えず、縁側に引っ張りだされると、辺りはもうすっかり暗くなっており、空から降り注ぐ柔らかい月光を辺りに咲いた花達が反射して、夜の中で淡く光る綺麗な花々が瞳に映り込んで来た。


「綺麗・・・ですね」


「えぇ、とても綺麗です」


そのクレアさんの横顔もとても美しく、その黒い瞳にも月光が反射して、さらに綺麗さに磨きがかかっていた。


そんな花とクレアさんの顔に見惚れていると、クレアさんは僕に優しく微笑み、縁側を進み始めた。


「まっ、取り敢えずお風呂に行きましょうか」


縁側を小さな足音を立てながら歩いて行くクレアさんに付いて行き、クレアさんが木で出来た引き戸を開けると、そこは木の匂いが広がる脱衣所が広がっていた。


するとクレアさんは僕がいるのにも関わらず、何の躊躇もなく紬の帯をほどき始めた。


「よいしょっと」


「クレアさん!?」


「・・・あの、悠人さん。私が男だって忘れていませんか?」


クレアさんのそんな呆れた顔を見て、少しだけ冷静になり、クレアさんが自分の事を男だと言っていた事を思い出すと、なら大丈夫だと思う様になり、僕も紬の帯を解く。


布が擦れる音が聞こえ、少しだけ隣を見てみるとそこには綺麗な白い肌が見え、反射的に目を背けてしまう。


「じゃあ悠人さん、僕は先に入ってるので、逃げないで下さいね」


そんな意味深な言葉を残してクレアさんはタオルで前を隠すと、お風呂の中に行ってしまう。


少しだけ戸惑いながら、それに付いて行く様に僕もお風呂の戸を開けると、そこには人が5人ほど入れる位の広さを持った湯船があった。


「悠人さん、とりあえずここに座って下さい」


そのお風呂の中でクレアさんの小さな指が指していた物は、椅子にしてはやけに低いものだった。


けれどクレアさんを待たせるのは申し訳ないと思い、とりあえずその椅子にゆっくりと座ると、クレアさんはにんまりと作った様な笑みを浮かべた。


「前は自分で洗って下さいね」


急に後ろから泡が沢山付いた物を差し出され、頭を下げながらそれを受け取り、自分の体の前側をその懐かしい泡を使って擦る。


そうしていると背中にくすぐったい感覚が走り、反射的に後ろを向いてみると、クレアさんが泡で僕の背中を擦ってくれていた。


「えっと、自分で洗えますよ」


「いえいえ、今から聞く質問に答えてもらうのでいいですよ」


そんな一方的な言葉が聞こえた瞬間、締め切っているお風呂の中に、冷たい空気が吹いた様な嫌な予感を感じてしまった。


「貴方は・・・どうして僕を恨んで無いんですか?」


いつもの優しいクレアさんの声とは違い、何か暗い雰囲気を出すクレアさんの言葉に少し戸惑ってしまう。


「どっ、どういう事ですか?」


「僕はあなたの姉妹(きょうだい)達を、ましてや貴方も惨たらしく殺したんですよ?なのにどうして貴方は僕を憎まないんですか?」


背中を擦る力を強くするクレアさんの言葉に、僕はさらに困ってしまう。


「どうして憎まないつさって言われても・・・困りますよね」


そんなはっきりしない事をクレアさんに伝えるが、背中を擦る力はどんどん強くなっていき、それがクレアさんが納得していないという事がはっきりと僕に伝えて来た。


強く擦られる痛みに耐えながらも、クレアさんを納得させる方法を必死に考えていると、ふと、ゆいの言葉が頭に思い浮かんだ。


「生きていたら問題ないって、ゆいが言ってくれたから・・・ですかね?」


「ゆいさんが言っていたから・・・ですか」


僕の言葉にクレアさんは小さく呟くと、僕の背中から手を離してくれた。


そのせいで、背中にヒリヒリした痛みが走るが、その痛みを塗り潰す様に急に緩いお湯をかけられ、体がビクついてしまう。


急な暖かさに驚きながら後ろを振り向くと、そこには普段通りの少し作った様な笑みを浮かべたクレアさんが僕の顔を見ていた。


「はい、ありがとうこざいました。湯船に入ってどうぞ」


「あっ、ありがとうこざいます」


クレアさんの態度の変わり様に少し戸惑いを覚えながらも、極力クレアさんの体は見ないようにして、用意されていた湯船にゆっくりと体を沈める。


すると口から勝手に吐息が漏れてしまい、体を心地よい熱が包み込んでいく。


しばらくその心地がいい感覚に身を委ねていると、お湯が大量に落ちる音が聞こえ、なんの躊躇いもなく、僕の隣にクレアさんが入って来た。


「はぁ」


クレアさんの艶のある吐息を聞いてしまい、心音が少しだけ速まるのを感じる。


その速まる心音を誤魔化そうと必死に話題を探していると、一つだけ気がかりな事を思い出した。


「えっと・・・クレアさん、質問いいですか?」


「はい、いいですよ」


「どうして僕は合格なんですか?」


クレアさんは今思いついた僕の問いに少しだけ考えると、湯船の縁に腕を乗せ、その腕に気持ちよさそうに小さな顔を乗せた。


「あれ?僕は貴方が強いからって言いませんでしたっけ?」


「言ってましたけど、僕が選ばれたんだったら琴乃さんも選ばれないとおかしくないですか?」


僕が選ばれた理由が魔法が強いことだとしたら、魔法を使ってクレアさんの腕を飛ばした琴乃さんが選ばれないのはおかしいと、今更ながら疑問に思ってしまった。


「・・・あの中で、貴方が一番不死らしいと思ったからです。」


「えっ?」


「じゃあ私は上がるのでごゆっくり」


クレアさんは急にそう小さな声で呟くと、湯船からそそくさと上がってしまう。


「いや待っ」


そんかクレアさんを呼び止めようとすると、急に頭に痛みが走り、クレアさんの細い右足から、黒いもやが一瞬だけ見えた。


その痛みに気を取られている内に、クレアさんはお風呂から出て行ってしまった。


(・・・行っちゃった)


お風呂の中に1人だけぽつんと取り残され、さっきクレアさんが言った言葉を、自分でも理解できるように少しだけ疼く頭で考えるけれど、結局答えはです、もう一度肩まで浸かり、出ない答えを考えるのをやめ、大きなため息を吐いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おぉ、上がったかクレア」


温まった体を冷ますために、縁側をうろうろしていると、徳利(とっくり)と小さな器を盆の上に並べてくつろいでいる、紬さんの姿が見えた。


「上がりましたよ。今は悠人さんがくつろいでいる筈です」


「そうか。まぁ、とりあえず座れ」


紬さんから誘われ、徳利を乗せた盆を挟むように紬さんの横に座ると、紬さんはもう一つの器にお酒を入れ、自分が持っている器に口を付けた。


「いや、紬さん、私お酒飲めないんですけど」


「そうじゃったっけ?最近物忘れが激しくて困るのぉ」


それは冗談なのか本気なのかよく分からない事を紬さんは言うと、器に入れたお酒を飲み干し、真面目な眼をこちらに向けて来た。


「さて、お主に質問がある。」


「なんですか?」


「彼奴らを失格にした理由が知りたい」


その質問は意外でもなく、ただそんな質問が来るだろうな的な事は思っていたが、理由はと聞かれた、少し悩んでしまう。


「理由ですか」


その理由をどう表現しようかと悩んでいると、結局はいつも自分が考えている事と重なってしまった。


「強いて言うなら・・・人らしいからでしょうか」


「人らしい・・・か。」


紬さんはそう小さく呟くと、もう一つの器を持ち、そのお酒も飲み始めるが、その金が濁ったような眼は、ずっとこちらを見つめていた。


「じゃが解せんのは、なぜ琴乃も失格にしたんじゃ?雅の話によれば、お主の右腕を持っていったらしいが?」


「本当は琴乃さんも合格にするつもりだったんですよ。けど、一度死んだくらいでビビり過ぎなんですよね。死んだ後に僕を見だ途端に、全身に力が入って震えるくらいに」


それを聞いた紬さんは少しだけ渋そうな顔をして、何かを考えていた。


「その話じゃと、あのボウズは死に慣れとったんか?」


「慣れていたと言えば語弊があります。こう、慣れていると言うより、気にしていないような感じ、ですね」


「ふむ」


「後これを見てください」


自分の右足にかけた魔法を解き、自分の右足の未だに黒い傷を紬さんに見せると、紬さんは興味深そうな表情を顔に浮べ、器をお盆の上に置いて顎に手を当てた。


「これ、治りますかね?」

「心配せんでええ、あと一時(いっとき)くらいで治る」


一時(いっとき)・・・二時間くらいですね」


昔の和の国の表現を理解しようと頭を回していると、紬さんは少し黒く変色した私の足にそっと触れて来た。


「で、それは誰に受けたんじゃ?」


「悠人さんですね」


その言葉に紬さんは大きなため息を吐くと、少し暗い表情をその顔に浮かべ、苛立つ様に自分の膝を指先で叩き始めた。


「その魔法を得るために、どれだけの事を体験したんじゃろうな」


「まぁ、きっとろくな事ではないでしょう」


多分、紬さんがこんなに暗い顔をしているのは、この魔法の力のせいだ。


魔法は、人だった頃に体験した物や心情の中から決まる。


だからその魔法が強ければ強いほど、その人は辛い体験や悲しい過去を持っている。


そんな悲しい過去を知り、こんなに悲しい顔をするのは、私は不死の国で紬さんとあの人以外は見た事がない。


そんな事を考えていると、紬さんは縁側からゆっくりと立ち上がり、私に明るい笑みを向けて来てくれた。


「じゃあ儂はそろそろ帰るわ。彼奴らは城におるが、全員飯も食わんけ心配じゃ」


「ご迷惑をお掛けしますね」


「お互い様じゃ」


紬さんは僕の言葉に苦笑を返すと、花の道を歩いて行ってしまう。


静かになった夏の夜を感じていると、急に風が乱れるのを察知した瞬間、紬さんが焦る様な表情を浮かべながら、猛ダッシュでこちらに走って帰って来るのが見えた。


「・・・どうしました?」


「いや、丸薬(がんやく)渡すの忘れとってな」


紬さんは灰色の布で出来た袋を留袖の中から取り出すと、それを私に優しく投げ、それを掴んで中身を見てみると、その中には黒い丸薬が無数に入っていた。


「それを一日五粒飲ませておけ。そうすれば少しは楽に眠れる」


「・・・ありがとうこざいます。」


噛みしめる様に紬さんにお礼を言うと、紬さんは私の目の前に足を運び、こんな老人の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。


「無理はするなよ」


「そっちもですよ」


私の言葉に紬さんは頰を上げ、僕の頭から手を離すと、今度は急いで花の道を走って行った。


それを見届け、取り敢えず残された徳利達をお盆の上に乗せ、魔法で義足をもう一度作ってから、お盆を台所に持って行こうとすると、顔が赤くなった悠人さんが、縁側の隅で小さく丸まって居るのを見つけた。


「・・・どうしたんですか?」


「あ、どうもクレアさん。えっと、まさか心花さんが入って来るとは思ってなかっただけです」


その言葉に、どうして悠人さんが縁側でひっそりと丸くなって居たのかを、同じ男だからだいたい予想が付いてしまった。


「あ〜、なんかすみません」


顔が赤くなった悠人さんの背中をさすり、とりあえず手洗い場と水飲み場の場所を教えて寝室に案内する。


「では、おやすみなさい」


「おっ、おやすみなさい」


寝室に案内して悠人さんと別れ、縁側にお盆を置いて、嫌な予感を感じながら風呂場へ向かう。


脱衣所の戸を急いで開くと、そこには心花さんの服と下着しか置いておらず、そこに本人は居なかった。


(・・・あそこか)


ここに心花さんが居ないと言うことは、今心花さんがいる場所は幻影の泉と和の国の国境に近い場所という事になる。


それを瞬時に悟り、光を体に纏って大急ぎで霧の中に突っ込んで心花さんが居る場所に向かうと、そこはむせ返るような臭いと腐臭が広がっていた。


その気持ちが悪い空気を肺に取り入れ、霧の中に向かって心花さんの名前を呼ぶ。


「心花さん・・・居ますか?」


「ちょっと待ってね〜」


その場に似合わない明るい子供のような声が聞こえると、少しだけ頭痛がし、気分が悪くなってしまう。


「はい、ご苦労様でした。・・・お待たせ」

心花さんは霧の中なのに迷う素振りを見せずにこちらにやって来る。


その心花さんの姿は全裸で、体からは男なら誰でも嗅いだ事がある生臭い臭いを放っており、こちらを見る眼はどこか虚ろで、笑顔だけを顔に張り付いていた。


その笑顔を見て心が疼き、苛立ちが頭に生まれて来るが、落ち着くために一息吐き、生臭い空気を肺に取り入れるら、


「心花さん、帰ったら一緒にお風呂に入ってくれませんか?」


「えっ、どうして?大人達からは男と風呂には入るなって言われてるけど?」


首を傾げる心花さんの言葉に人間共に殺意が湧くが、それを押し殺して心花さんに話し続ける。


「僕は子供ですから」


「あ、そっか。やったぁ〜、一ヶ月ぶりのお風呂だ」


子供のようにニコニコと笑う心花さんに対して、こっちは怒りで爪が手の平に突き刺さっている。


(馬鹿な人間は、全員死ねばいいのに)


そんな怒りを押し殺し、心花さんに右手をそっと差し出す。


「では、行きましょうか」


精子で汚れているであろう心花さんの手を強く繋ぎ、極力裸を見ないようにして、2人で霧の中を進む。


辺りに転がっている人の死体を、心花さんに気づかれないように燃やしながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 日常部分の不気味さがぐっときます。戦っているときよりよっぽど怖くて、ほっこりしてほしいのにせつない。 この暗さ救われなさが好物なんだなと再認識です! [一言] 悠人さんの魔法、蝿とは衝撃…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ