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第3章  来訪者



「はぁ…はぁ… 」


 疲れた。

 当たり前だ、2人も背負っているんだから…


「休憩…いや…だめだ 」


 今は奇跡的に人間達と遭遇はしていないけど、この状況で『(せん)の国』の人達に会えば捕まるのは目に見えている。


 顔を隠すために顔に巻いた布が視界を遮るが、それを首を振って払い、地面を踏む足に力を入れて歩く速度を上げると、背負っている2人が大きく揺さぶられ始めた。


「ごめんね、ゆい…姉ちゃん…もうすぐ着くから 」


 背負っている2人に声を掛けるけど、後ろからは返答は無く、その代わりに荒い息遣いだけが聞こえてくるだけだった。


「急げ… 」


そう自分に言い聞かせ、震える膝に鞭を打って更に進む速度を上げる。


「不死の国に… 」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…疲れた 」


 口からため息が漏れてしまうけど、それを隠すように温かいお茶を啜る。


 疲れている理由と言うのは、『(せん)の国』の兵士達が、ここ一週間絶えずに『不死の国』に攻めてくるからだ。

 恐らく、不殺の魔術が完成し、人という人的資源を失わずに済む様になったからだろう。


(でも…人を殺さずに済んだことはいいことだよね )


 そうやって自分を納得させ、無くなったお茶を片付けようと台所に行こうとした瞬間、天井に吊ってある風鈴が急に高い音を響かせた。


「わっ!? 」


 風鈴の音にびっくりしてしまい、湯呑みを落としそうになったけど、間一髪で湯呑みを落とさずに済んだ。


「また…来たんだ 」


 鳴り響いた鈴の()は、『不死の国』の周りに貼ってある結界に人が入ってきた合図だ。


「はぁ… 」


 胸に手を当て、ビックリしたせいで荒くなった心音を落ち着かせてから、壁に掛けた白い狐の面を顔に付け、縁側に置いていた刀を腰に差してから立ち上がる。


「よし…頑張ろう 」


 そう自分に言い聞かせ、神経を研ぎ澄ませながら森の中を駆ける。

 不死の国を…守るために…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ここが…不死の国? 」


 背負っている二人の重さを忘れてしまうほどの光景を見てしまい、口から声を漏らしてしまう。

 だって…ずっと平原続きだったのに、急に広い森が広がっているのだから、これは誰でも驚いてしまうと思う。


「えっと…確か 」


 微かなあの人との記憶を頼りに、その森を見渡していると、森の中に不自然に整備された様な1本の道を見つけた。


(あそこを通れば… )


 長い息を吐いて足を進めようとした瞬間、聞いた事がある様な音が後ろから聞こえると、景色がぐらりと揺れ、背負っている2人を地面に落としてしまう。


「あ…れ? なん…で? 」


 何が起こったか分からず、地面に転がってしまった2人を見ていると、左足の脹脛(ふくらはぎ)に違和感がある事を感じ取った。


「…え? 」


 嫌な予感がした…


 直感がそれを見るなと訴えて来るけど、左足を恐る恐る見てしまう。

 するとそこには不完全に肉が抉れ、皮の下から赤いものが湯水のように溢れ出る足が見えた。

 次の瞬間、自分の喉から自分の声とは思えない喉を裂ける様な声が溢れ出た。


「いっ、ああぁぁぁ!! 」


 頭を裂く様な痛みのせいで地面にのたうちまわってしまうが、しばらくすると白い煙が足から上がりはじめ、痛みが治まっていく。


「姉ちゃん…ゆい… 」


 焼けるような足の痛みを味わいながら、地面に無造作に転がった2人に右手を伸ばそうとするが、また聞き覚えのある音が響き、伸ばした右腕を何かが貫いた。


「あ゛あ゛ぁぁぁああ!!? 」


 さっきより強烈な痛みが頭をぐちゃぐちゃにし、腕を抑えて地面を暴れまわっていると、後ろから声が聞こえた。


「なんだ…こいつが不死か 」


 その言葉を聞いた瞬間、悪寒が体を逆撫でた。

 咄嗟に後ろを振り向こうとした瞬間、空気を裂くような音が何度も響き、背中にあの痛みが走る。


「うっ!! 」


 声が出ない。

 痛すぎて。


「がっ!! 」


 のたうち回れない。

 痛すぎて。


 永遠に続くほどの痛みを味わい続けていると、急に火が消えた様に…世界が…真っ暗…に…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はぁ、こんなもんかよ… 」


 目の前に居た不死の背中を弾切れになるまで撃ち、そいつが動かなくなったのを確認してから、マガジンを銃から引き抜き、新しいマガジンを入れ変える。


 開いたスライドを引いて銃の装填を終えると、ちょうど自分の隊のリーダーと、同期の隊員達がこちらに向かって来ているのが見えた。


巡気(しゅんき)! お前には偵察を命じたはずだ! なぜお前は人間を撃っているんだ! 」


 めんどくせぇ…


 この隊長は俺より弱いくせに、不死と一度遭遇しているだけで隊長になっている奴だ。

 どうしてこんな雑魚から怒鳴られないといけない?


 そんな事を思いながらため息を吐き、顔に布を巻いた不死の首根っこを掴み、そいつを隊長達の前に投げ飛ばす。


「見て分からないんですか? 不死を撃ってただけですよ 」


 適当に説明すると、ちょうどよく穴だらけの不死から白い煙が上がってきた。

 すると隊長は信じられないと言いたげに立ち尽くしたが、はっと気がついた様に後ろの隊員達に顔を向けた。


「た、直ちにこの不死達を拘束し、戦の国に連れて帰るぞ 」


「…あっ? 」


 その命令は理解ができなかった。


「…何言ってるんですか隊長。このまま不死の国に行けばまだ不死はいるじゃないですか。こいつはこんな簡単に捕まえたんですから、大量に捕まえましょうよ。そしたら俺らは金が大量に貰えて楽ができるんですよ? …お前らもそう思わないか? 」


 俺が言葉につられるように、他の隊員たちは頷き始めるが、隊長だけは何かに怯えるように顔を青ざめさせ始めた。


「違う! お前達は知らないだけだ! 奴が来ればこの隊は全滅する。奴が来る前にさっさと退却し」


 そんなうるせぇ隊長の言葉が遮るように、不自然な突風が後ろから吹くと、隊長から何かが飛び、その何かは地面に転がった。


(…あっ? )


 その現実離れした光景を目にすると思考が止まり、周りの隊員達も、戦争に来た事を忘れたような顔をした。


 足元に落ちていたのは、ほんのさっきまで喋っていた隊長の頭だった。

 そして後ろから誰かが空から降りてくる音が聞こえた。


「っう!? 」


 すぐさま銃を構えながら後ろを振り向くと、黒い見慣れない服と白狐の面を付けた女が立って居り、その細い腰には長いナイフの様な物を携帯していた。


 その姿を見て…理解した。

 こいつが隊長が言っていた不死の国の『守り人』、白狐だと。


 それを理解した瞬間に体が動き、HG(ハンドガン)を女に向けて撃つが、激しい金属音が耳を叩いた。


「…はっ? 」


 辺りが静寂に包まれた。

 何が起こったか分からずに呆然としていると、白狐の手にいつの間にかナイフが握られている事に気が付いた。


(弾を…斬った? )


「しゃがめ!! 」


「っ!? 」


 それに絶句して居たが、後ろから聞こえた叫ぶ様な声に反応して咄嗟に身を低くすると、激しい発砲音が後ろから無数に響き続けた。


氷の盾(アイスシールド)


 凛とした声が響いた。

 すると氷の盾が出現し、弾丸は全てその氷の盾に防がれる。


 そんな氷とは思えない程の強度に絶句していると、盾の向こうでは白狐が手に持っているナイフを空に掲げるのが見え、嫌な予感が鳥肌となって俺に訴え掛けてきた。


雷の村雨(いかづちのむらさめ)


 そのナイフを白狐は振り下ろすと、空から黄色に発光している何かが何十と俺達に降り注いで来た。

 それを地面を転がりながら避けるが、肉が潰れる音に反応するように後ろを振り向くと、その謎の物体は隊員の胸や頭を次々と貫通し、隊員の命を等しく無常に奪っていく。


大地の鍼(グランドニードル)


 そんな言葉が聞こえると、生き残った隊員の足元から細い岩の棘が出現し、生き残った隊員達をBBQの様に串刺しにしていく。


「ダメだ! 逃げろぉ!!! 」


 それを見た残りの兵士達は、恐れをなして逃亡を試みようとする。


「まて!! 逃げるな!!! 」


 隊員達にそう叫ぶが、誰も俺の言う事を聞く事なく不死に背を向ける。


「エンチャント (ウィンド)


 前からそんな言葉が聞こえると、氷の向こうに居る白狐の手にあるナイフに風が纏い始める。


 そのナイフを横に振られると、斬撃の様なものが氷を裂きながらこちらに迫る。

 自分はなんとか身を伏せて避けたが、頭の上を通り過ぎた斬撃は逃亡を図る隊員達の上半身と下半身が泣き別れにしてしまった。


 そして…絶望的な状況を理解する。

 この隊の生き残りは…俺だけだと。


 絶望的な状況の中、白狐はナイフを構えたままこちらにゆっくりと歩いてくる。


「来るな!! 」


 銃の引き金を引くが、またしても激しい金属音が耳を叩き、白狐には弾は届かない。


「来るんじゃない!! 」


 何発も弾を撃つが、それらは全て1本のナイフに弾かれて行く。

 何度も何度も…ヤケクソの様に引き金を引くが、不意に発砲音とは違う音が銃から聞こえた。


(…ホールドオープン!? )


 弾切れだ。

 それを察した様に白狐は歩く速度を上げ、俺の方に近付いてくる。


 死を具現化した様な足音から逃げようとするが、足に恐怖がまとわり付いて動けない。

 死の実感のせいで、生暖かい尿まで漏らしている。


「嫌だぁ! やめてくれ! たの」


 俺の言葉を遮るように首に冷たいものが入り込んだ。

 すると声は出せなくなり、景色はぐるりと回る。


 目の前には砂粒が見え、地面に居たアリが赤いものに溺れて行く。


 そし………て……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「相変わらず…この臭いは嫌だなぁ… 」


 そう独り言を呟きながら、刀にべっとりと付いた血を持ってきた布で拭いていると、辺りに散らばっている死体達は消えて無くなっていた。


「…帰ろう 」


 死体が消えた事を確認してから刀を鞘に収めて帰ろうとすると、細く…けれど荒い息が聞こえて来た。


 生き物から発せられる音がする方に視線を向けると、私の視界には地面に倒れている3人が見えた。


「あれ…あそこにも人が居たんだ 」


 倒れている3人にやっと気が付き、すぐさま体の何処かを刀で傷付けようとすると、地面に倒れている1人の手足から白い煙が出ている事にも気が付いた。


(えっ…もしかして )


 ゆっくりとしゃがみ込み、布で隠れている顔を確認しようと左手で布を退ける。

 するとその顔は、人間のものとは違う、華のように綺麗な不死の顔だった。


 人ならざる綺麗な顔を見て、やっぱりと納得していると、その不死の瞼が微かに開いていることに気が付いた。


「姉ちゃんを…ゆい…妹を…助けてください… 」


 倒れている不死は、掠れ声で必死に訴える様に手をこちらに伸ばしてきた。

 すると何故かは分からないけど、その手を反射的に握り返してしまった。


「分かった…絶対に助ける 」


 私の言葉に名も知らない不死は安心したような表情をその顔に浮かべると、事切れる様にして意識を失った。


「よいしょっと…『ゲート』 」


 立ち上がって刀を収め、腰に刺した木の枝の様な杖を抜いてそう呟くと、紫色の人が1人通れる位の歪みが私の前に現れた。


 これは不死の国の研究員が開発した魔術で、座標を設定した場所に空間を繋げる物であり、この杖で設定した場所は王宮の前だ。

 その歪み中に倒れている3人を一変に抱えてから足を進めると、平原の景色は急に王宮の前に変わってしまった。

 すると、ちょうど王宮の入口を掃除していた時雨が箒を投げてこちらに小走りで近付いて来た。


「どうしたのですか桜様!? あとその3人は!? 」


「多分だけど不死。助けてあげて 」7


 私の言葉に時雨は力強く頷くと、時雨は小走りで王宮の中に戻り、数人の使用人達と共に戻って来た。

 すると使用人達は、担架で3人を王宮の中に運んでくれた。


 私が助けた3人が王宮に運ばれて行くのを見終え、後は大和がやってくれるだろうとため息を吐いて時雨に声を掛ける。


「じゃあ…私は家に帰るね 」


 この間に『戦の国』の兵士達が来ては不味いから、すぐに帰ろうとしたけど、時雨が私の服を摘んでいることに気が付き、その姿は私を引き止めている様だった。


「待ってください。その服には血がついていますし、ご主人様も桜様とお話がしたいと言っていたので、王宮でシャワーを浴びて少しくつろいではどうでしょう 」


 時雨はそう言ってくれるけど、私を嫌っている人もいるし、きっと邪魔になってしまう。


「でも、私がいれば迷惑になるかもしれないし 」


「それは王都の話です。この、王宮にあなたを悪く思っている方そういませんよ 」


 時雨は私の言葉を遮るように、とても優しい笑顔を私に向けてくれた。

 それを見ていると、なぜか時雨の提案を断ろうとは思えなかった。


「…分かった。じゃあ少しだねゆっくりさせて貰うね 」


 観念するように時雨に笑顔を向けると、時雨は更に優しい笑顔を小さな笑顔を浮かべ、王宮の中に入って行き、それに私も着いて行く。


(………誰かの手を握ったのはいつぶりだろう? )


 手の平に残った、他人の温もりを感じながら。



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― 新着の感想 ―
[良い点] おおお、主人公ちゃんがカッコよくて抱いてほしくなりました。
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