第28章 力比べ
「それでえっと……あなた達はなんの用かな? 」
左眼だけに映る、黒い紬を着る女は、耳に籠る柔らかな声で語りかけてくるが、今はその声色すら不愉快だ。
だが……闘いは避けたいという気持ちが衝動に歯止めを掛け、冷静に息を吐いて心を落ち着かせる。
「……この国に、霧を使う不死はいるか? 」
「……? 居るけど、それがどうしたの? 」
奴が居る……
それが分かっただけで全身の血流は煮えかえり、太刀を握る手の骨が軋む。
「ならそいつを出せ。私達はそいつに用がある 」
激情が思考を蝕んだためか、言葉が出なかった。
けれど隣に居る雷牙は荒事を避ける様に、冷静な言葉を返してくれた。
「うーん、それは無理。だって君達、あの人に会ったら殺すつもりでしょ? 」
だが女は薄く笑いながら、両の指先でバツの字を示した。
一瞬、なんの事だか分からなかった……けれどそれが拒絶を意味してると理解した瞬間、激情を抑えていた綱は千切れ、気付けば地面を蹴りあげていた。
駆ける足は女との間合いを詰め、激情に任せた一太刀を浴びせる。
しかし女は静かに抜いた打刀で一撃を受け止めた。
「っ!! 」
ただ構えただけの刀に受け止められた。
その事実に一瞬の混乱が生じるが、そんな混乱を呑み込む程の力が刀から伝わり、全身を押し返されてしまう。
「っう!? 」
咄嗟に刃をずらして刀を弾き、両足を滑らせ間合いから離脱するが、自分の鼓動は驚く程に高まっており、浅い呼吸が止まらない。
たった1度の攻防……けれど向こうがその気になっていれば、この太刀ごと体は泣き別れになっていた。
「琴乃…… 」
「あぁ 」
雷牙の静かな声に頷き返す。
どうやら雷牙も女の力量を把握したらしく、灰色の篭手を強く握り込んだ。
すると女も刀で空を切り、優しげな笑みと共にこちらへ刃先を向けてきた。
「大和ほどじゃないけど、私も力比べは得意だよ 」
この場に似つかわしくない、幼さの残る声。
それが戦いの合図となった。
大地を蹴り、こちらの太刀先が届く間合いで太刀を振るう。
幾度となく、致命傷となる部分へと斬撃を放つが、女は後退しながら太刀の側面へと刀をぶつけ、虫を払うかの如く攻撃を捌き続ける。
(っう!! )
柄に伝わる衝撃は腕に響き、筋肉は既に気を抜けば太刀がすっぽ抜けるほどに疲弊している。
だが疲弊を……圧倒的な力量の差を呑むほどの激情を宿して太刀を握り込み、女の刀を上へと弾く。
僅かの間……しかし隙はできた。
腰を据え体を回し、太刀の重さを利用した一振を撃ち込むが、女はすぐに刃先を地に向け、渾身の一撃すらも容易く受け止めた。
しかしその隙を突く様に、女の左側面から雷牙の拳が迫り、こちらも太刀を引いて次の一撃へと備える。
「はぁ 」
けれど女は心底つまらなそうにため息を吐くと、迫る雷牙の右腕を容易く左手で掴んで逸らし、棒立ちの右足を僅かに曲げた。
次の瞬間、乾いた土が飛び散り、鋭い華奢な足先が俺のみぞおちを抉った、
「おっ!!? 」
蹴られた胃を中心に、絞られる様な痛みが体を巡りゆき、苦く酸味のある吐瀉物が鼻にまで込み上げた。
「あっ……が……ぇ 」
1度蹴られただけにも関わらず、背や額には脂汗が滲み、喉が閉じて息ができない。
だが激情に呑まれた体はそれだけでは止まらず、震える腕でもう一度太刀を握り締め、顔を上げた。
瞬間、雷牙の背中が視界を覆った。
「がっ!! 」
背中と首に鈍い衝撃が走り、視界が揺れる。
何が起こったのか理解できず、辛うじて空いた喉の隙間に空気を通し体を起こす。
傍らには痛みで体を揺らす雷牙が倒れており、その右肘は歪にゆがんでいる。
どうやら……肘を折られた様だ。
「頭は冷えた? 」
仲間を傷付けられた怒りと痛みが籠る頭に、優しげな声が響いた。
声の先には刀を構えた女が居たが、その刃先を地を向いており、ただ心底心配する様な優しげな瞳で、俺らを傍観している。
「っう!! 」
その立ち姿に頭の血が沸騰し、咄嗟に太刀を振るうが、女は後ろに飛んで容易く攻撃を躱した。
「うぶ……おっ…… 」
体を捻ったからか、胃の下から苦い物が絞り出された。
黄緑色の吐瀉物が通った喉は熱く、口と鼻は苦く、臓物の痛みで未だに息は上手く吸えない。
だが激情で体を無理やり立ち上がらせ、震える足と地に刺した太刀で体を支え、潤む左眼で女を睨み付ける。
「はー……はー…… 」
「無理しない方が良いよ。お腹痛いでしょ? 」
腹を蹴った張本人からかけられる、心配そうな声。
そんな声色に理由も無い怒りが込み上げ、またも無策に飛び込もうとしてしまうが、耳元に届いた静かな声がその激情を押さえ付けた。
「琴乃。ふぅ……ふぅ……あれを使う。最悪私ごと斬れ 」
地に伏せる雷牙からの言葉。
一瞬、その言葉に反論しようとしたが、そうしなければ女を殺す所か一太刀すら入れれないと、頭は無情にもそう判断した。
静かな頷き返すと、雷牙は土を被った金髪を左手で払い落とし、怒りの矛先を遠く離れた女へと向けた。
すると雷牙の周りには紫電が弾け始め、その顔には痛々しい火傷が浮かんでいく。
「ふぅ……すぅぅぅ 」
火傷を負っていく雷牙の姿を見ていると、目の奥が熱くなる。
だが長い息を吐いて自分に意識を向けて神経を集中させると、その間を潰すように、雷牙は大きな呼吸と共に跳躍し、紫電を残して女に突っ込んだ。
「っ! 」
雷の如き雷牙が放つ左拳の一撃を、女は体を傾けて躱したが、隙が出来た右腹に左足が打ち込まれた。
すると女の体から紫電が弾け、赤い脈状の火傷を白い頬へと刻み込んだが、雷牙は止まらない。
雷で動きが鈍った女の左胸に突きを打ち込み、鋭い左の前蹴りはみぞおちを抉り、高く上げられた右足は首元へと華麗に打ち込まれ、その華奢な体を吹き飛ばした。
けれど女はすぐに体を転がして体制を立て直した。
その佇まいは、先程の連撃が効いていない事を示しやていたが、雷牙が時間を稼いでくれたお陰で、俺は太刀に風を纏わせる事に成功した。
「風と雷……綺麗だね 」
女は葉脈状の火傷を負う口角をやんわりと上げたが、静寂を纏う太刀を向けると、その笑みは僅かだが張り付いた。
一瞬の静寂。
響く無音を破る様に太刀を横に振るうと、産み出された風は四方向に別れ、当たらぬ斬撃は女が動ける領域を制限した。
「ふっ!! 」
俺の意図を汲んでか、雷牙は女へと間合いを詰めて接近戦へと持ち込む。
雷牙の空を穿つ突きは刀に寄って逸らされ、荒々しい紫電を纏う蹴りは後ろに飛んで躱されたが、その着地際を狩る様に俺も間合いを詰める。
(風神の舞……舞風! )
心で言葉を綴りながら間合いに入り、縦に構えられた黒刀へと太刀を振るうが、攻撃が当たる寸前で軌道をずらし、刀の表面だけに刃を滑らせる。
そして太刀を振るう勢いのままに身体を回し、刃先が地面を削る程の低さから一気に切り上げる。
「っ! 」
不意を突いた一撃。
けれど刀を横に構えられ、下からの一撃を防がれたが、風を纏った太刀はその華奢な体を打ち上げた。
空中で身動きが取れない女へ、飛び上がった雷牙の一撃が打ち込まれ、紫電が空を飛び交う。
しかし拳は左手で防がれており、空中から吹き飛んだ女は刀を地面に突き刺し、勢いを殺して華麗に着地してみせた。
「うん、強いね 」
不敵に笑う女は短い賞賛を俺達へと送ってきたが、余裕もここまでだ。
教えられた俺にしか分からない、紫電が弾ける音の変化。
それを見計らい、雷牙と同時に前へと突っ込むが、俺だけは女の間合いギリギリで後ろへ飛び、雷牙だけは女の間合いへと侵入させる。
瞬間、雷牙は折れた右腕を地へと打ち込んだ。
「っぐ!! 」
苦悶の籠り声が響いた直後、右腕に取り付けられた篭手は白き雷を放ち、女もろとも自身を感電させた。
(風神の舞…… )
雷牙が身を呈して作った大きな隙を潰さぬよう、最速……かつ全力の舞を体現する。
腰は低く、足は地を掃き、僅かな力で握られた太刀を下半身と連動させ空を裂く。
(旋風!! )
普通ならば届く事のない一閃。
けれど神器である太刀は風と同化し、見えぬ斬撃が女の両眼を骨ごと切り裂いた。
「っ!! 」
裂かれた黒き眼からは鮮血を飛び散り、女は困惑した様子で目元を触っていたが、その隙を見逃すほど雷牙は甘くなく、渾身の左突きを女の顔面へと打ち込んだ。
鈍い音が響いた瞬間、雷牙の神器である篭手からは白き雷が爆ぜ、女の華奢な体を吹き飛ばした。
その体は三度跳ねても勢いは収まらず、地を転がりながら生木へとぶち当たり、ようやく女は静かに倒れた。
(勝った……のか? )
実感の湧かない勝利に困惑し、静かに太刀を下ろすと、それに続くように雷牙は前に倒れ込んだ。
「……雷牙!! 」
「だいじょ……ぶ。少し……休む 」
耳を澄まさなければ聞こえない、絶え絶えな声。
弱々しい……というより、もはや死にかけとも取れる声に鼓動が早まり、すぐさま雷牙へと駆け寄ろうとした瞬間、砂を擦る音が……微かに聞こえた。
「……っう!? 」
音がしたであろう方へと目を向けると、そこには既に立ち上がっている女の姿があった。
すぐさま太刀を構えるが、目に飛び込んできた女の顔を見た瞬間、思考が白く塗りつぶされた。
女の顔中には黒い火傷が広がっており、瞳から流れる血涙は白い肌を赤く染めている。
一番損傷の酷い口周りは肉ごと焼け焦げており、炭化した口の中に見える白き歯は、黒い肉と相まって異質な輝きを見せている。
「んぷっ 」
女の姿は屍体そのもの。
それを見た思考は、思い出したくもない記憶を脳裏に写し出したが、咄嗟に太刀を握り締めて気を保ち、吐き気が篭もる喉に唾を通す。
「目を潰されたお前に勝ち目はない……大人しくしていろ 」
喉から絞り出した脅し文句だが、これには正直……願望が混じっている。
雷牙は妖術を扱う度に己自身を感電させ続けていた。
皮膚こそ傷は少ないが、臓物には相当の疲弊が溜まっているはずだ。
女と単身でやり合えば、敗北する事は明確。
故に相手が降伏する事を願っていたが、女は屍のように崩れた顔を傾け、白い歯を上下に動かした。
「え〜まだやるの? ここまで殴れば落ち着くと思ったのになぁ 」
だが女はため息混じりの弱音で、返答してきた。
その姿はもはや……化け物そのものだった。
強い怯えからか、構える太刀は震え、呼吸は絶え絶えなものへと変わり果てる。
しかし女は子供を安心させるように黒焦げた口角を吊り上げ、熱で歪んだ歯茎を見せ付けてきた。
「大丈夫だよ。もう……終わらせるから 」
「……あああぁぁあ!!!! 」
怯えで強ばる体を大声で奮い立たせ、全力を持って大地を蹴りあげる。
異質であろうと目が見えぬことには変わりない。
故に斬り合えば勝てると思っていたが、女は右手に持つ刀を鞘に収めた。
「っ!? 」
あまりにも不自然な行動に混乱した瞬間、足元がぐにゃりと歪み、流体となった土は無数の針と成りて眼前へと迫ってくる。
「っう!? 」
初撃は体をよじってギリギリで躱せたが、迫る無数の針は捌けず、後ろへと大きく後退する。
(あいつの妖術か!? )
しかし思索の余地すらなく足元は歪み、現れた無数の針は明確な殺意を持って襲いくる。
顔へと迫る針を身を伏せて躱し、下からの一振で針を切り落とすが、生み出される針に際限は無く、次々と生み出される殺意は反撃を許さない。
倒れた雷牙の方へと攻撃が行かぬよう、最低限の範囲で攻撃をいなし続けるが、突如として足元が隆起し、逃げ場のない空へと投げ出された。
「くっ!! 」
大地より迫る無数の針からはわ容赦がない無機質な殺意を感じ、背に恐怖が這い上がる。
咄嗟に風を纏う太刀を振るい、その一太刀で生み出された斬撃の反動で攻撃を躱し、地へと着地する。
しかし着地した地はまたも歪むと、今度は僅かな穴を生み出され、跳躍できない状況を作り出された。
瞬時に次の攻撃へ備えようと地を警戒するが、突如として足元を影が覆った。
「っ!? 」
咄嗟に空を見上げると、そこには巨大な氷塊が迫っていた。
すぐさま斬撃を放つが、この氷塊を一太刀で破壊する事は叶わず、2つに別れた氷塊は未だ俺を押し潰せる質量を持っている。
「…………クソ 」
「ふんっ!! 」
終わりを悟った頭は潔く死を認めたが、目の前へと迫る氷塊は紫電によって粉々に粉砕された。
それを見た体は困惑を置き去りにして地面を蹴り、紫電が飛んできた方へと後退すると、そこには不自然な呼吸をする雷牙の姿があった。
「時間はねぇ。ゼェ……ゼェ……ふぅぅぅ、やるぞ 」
「あぁ 」
雷牙の短き言葉から意図を汲み取り、気を整えて息を吐く。
そして紫電を纏う雷牙と共に、前へと跳躍する。
視界を呑むほどの針山が迫るが、風の斬撃で根元を針山の根元を切り倒し、空から落ちる氷塊と岩屑は紫電によって消し飛ばされた。
先程までは接近する隙すら無かったが、雷牙の協力のお陰で、障害は恐るべき速さで処理できる。
斬る……砕く。
切り落とし……砕く。
処理を数度と繰り返し、ようやく盲目なる女の間合いへ侵入しようとしたが、突如としてその体の周りの土が隆起し、女を包み込んだ。
しかし、今更そんな土壁で身を守ったところで遅い。
壁を三度の斬撃で崩壊させ、雷牙の紫電でそれを吹き飛ばし、身を守る壁を失った女を屠ろうとした瞬間、異変に気が付いた。
目も見えず、壁を失った女には逃げる素振りすら無く、その白き右手は収められた刀の上へと乗せられていた。
見覚えがある構え……低い低い重心……捻られる腰……
(抜刀術!!? )
横への一閃を警戒し、すぐさま太刀を前へと構えたが、黒き刀が横に振るわれた瞬間、四肢を何かに貫かれた。
「っぐ!! 」
肉がえぐれた痛みに苦痛の声が漏れる。
けれど激情の前では些細な痛みであり、追撃が来る前に太刀を振ろうとしたが、体は何故か動かず、受け身すら取れずに地へと倒れ込んでしまう。
「っ? 」
すぐさま体を起こそうとするが、体に力は入らず、太刀を掴んでいた手にすらも力は入らない。
横で倒れている雷牙も、困惑した表情で俺に金色の目を向けている。
「何故……からだ……が…… 」
「私の神器、『枯れ桜』の効力だよ。斬った相手から養分を吸っちゃうの 」
(相手を……無力化する神器…… )
今一度動こうとするが、身をよじる事すらできない体は気絶させられた獣と同じ有様であり、後は死を待つだけの肉塊だ。
「……ク……ソ 」
死を察した体には熱が篭もり、唯一自由なまぶたを強く閉じて覚悟を決めていると、何故か刀を収める音が聞こえた。
状況が理解できず、まぶたを開いて上へと目を向けると、そこには顔から白い煙を上げる女の姿があり、右手に持っていた刀はいつの間にか鞘へと収められている。
「な……ぜ、ころさ……ない? 」
「えっ? だって私達は不死でしょ? 死ぬだけ無駄だよ 」
そう言われて初めて、忘れていた事を思い出した。
俺達はもう……人ではない事を。
「と言っても、国に攻めてきたのは事実だからね。ちょっと大和に……この国の王様に保護してもらうね 」
そのおうさまと言うのはよく分からないが、俺達は何処かへ連れていかれるらしい。
奴を殺したいと言う激情は健在だが、今暴れれば被害をこうむるのは俺だけではない。
(大人しく……従うべき……か )
未だ困惑の表情を浮かべる雷牙へと目を向けていると、何処からともなく、全く知らない女の声が聞こえてきた。
「んっ? どした桜? 何か用事でも」
「不死が2人攻めてきたよ。それで今無力化したから、保護をお願いできる? 」
「……はっ!? 」
僅かに動く目を声がする方に向けると、そこには奇妙な紫色のモヤがあり、そこから目が離せない。
意識が吸い込まれそうな紫色を凝視し続けていると、不意に……そのモヤから新たな女が姿を現した。
女は髪も紬も白で統一された姿をしていたが、血を写した様な眼で黒い女を見た瞬間、その瞳孔は獣のように鋭くなり、震える手で桜と呼ばれる女の頬を指先で撫で始めた。
頬は黒く焦げており、半端に焼けた場所は痛々しい桃色をしていたが、そんな事をお構い無しに、白い女は指を動かし続ける。
「……大丈夫か? 」
「うん、見た目が酷いだけでそんなに辛くないよ。あっ、でも眼は再生に時間が掛かると思う。骨ごと断たれたから 」
「……そうか。傷が治るまではじっとしてろ、誰かを派遣しておく 」
「うん、ありがとね 」
血涙を流す桜の笑みに、白き女は気安い笑みを返したが、その赤い眼は笑っておらず、ヘドロの様に濁った殺意で俺たちを凝視している。
「それじゃあこいつら、連れてくな 」
「あっ、ちょっと待って 」
桜は見えていないからか、白い女の眼を気にせずに言葉をつづけた。
「……どうした? 」
「何もしないでね 」
「……あぁ、もちろんだ 」
白い女は眼が閉じる程の笑顔を浮かべたが、すぐにその笑みは消え失せ、俺の襟を片手で掴んだ。
すると体を驚くほど簡単に持ち上げられ、そのまま紫色のモヤへと投げ込まれた。
「がっ!! 」
受け身も取れずに地面へと落ち、抉れた肉と前歯に痛みを感じながらも視界を上げる。
そこは先程の様な森の中ではなく、見事に磨かれた石が作り出した、何かの建物内だった。
「うぉあ!? 」
見たことが無い技術で作られた建物に困惑していると、背後から雷牙の叫び声が響く。
目の端には、俺同様に投げ込まれた雷牙が倒れており、それに続くように白い女が紫色のモヤから現れた。
「ゲボっ!! いっっづ…… 」
腹を打ったのか、雷牙は苦悶の表情を浮かべていた。
その顔を見ると、頭の奥に熱い血液が集まり、辛うじて握っている太刀を握りしめてしまう。
「大丈夫……か? 」
「あぁ、さっきより……苦しくない 」
「そうか、そりゃ良かったわ 」
「「っ!? 」」
突如として会話に割り込んできた白い女は、背丈に似合わない無邪気で幼い笑みを突如として浮かべた。
そんな笑みに困惑した瞬間、辺りに鈍い音が響く。
「……えっ? 」
頬に飛んできた生暖かい感触。
それは手足から流れる血の感覚に似ていた。
……これは
「ああぁあ!!? っぐ! うぅぅぅう!!」
頭が答えを出す寸前、雷牙は見た事がない表情で悶え苦しみ初め、浅い呼吸は必死に痛みを紛らわせようとしているように見えた。
「はぁ、はぁ、はぁ 」
「おーおー、痛そうだな 」
「ひぐっ!? 」
(何が起こっている!? )
首すらも動かせない体は、視界の外で何が起こっているか分からない。
だがタダ事ではないのは雷牙の顔で理解でき、精一杯の力で首を動かそうとした瞬間、今度は目の前に何かが落ちてきた。
(なんだ!? これ……は…… )
それを一目見た瞬間、分かってしまった。
血を垂らし、細く引き締まったそれは……足だった。
「がぁあ!!? あぐっ! あああ!!! 」
「あっ、そういや自己紹介を忘れてたな 」
視界を足が塞ぎ、雷牙の悲鳴だけが耳へと響く中、場違いなほど冷静な声が聞こえた。
すると視界の上側から白髪が降り、獣の様な赤い眼が倒れた俺を覗き込んだ。
「私は『不死の国』の王、大和。よ ろ し く なっ 」
鼻息がかかるほど密着した表情はもはや顔には見えず、赤い眼だけが俺を凝視する。
血走った眼には押し潰す様な殺意が込められており、息すら吸えない圧に耐えきれない体は、死を覚悟してしまった。




