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第19章 誰も居なくなった場所



「ここが…洞窟か? 」


 多分悠人達が言っていたであろう、しめ縄が何重にも巻かれている洞窟を、ようやく見つけた。


 ここに来てからはすぐに洞窟を見つけたが、ここに来る前に民家の屋根を勢い余って踏み壊してしまい、

ずっと屋根の修復をしていたため、すっかり夕暮れ時になってしまった。


(まぁ…自業自得だがな )


 そんな事をぼんやりと思いながらも、『神器』の回収を急ぐために、しめ縄の中に足を運び入れる。

 その瞬間、背中と両腕に鳥肌が無数に立った。


(…凄い『神気(しんき)』だな )


 『神気』。

 それは、神が居た場所や神が使っていたものが放つ気の事だ。


 私が今現在、腰に差している刀も『神器』なため、微弱ながらも『神気』を感じるが、この洞窟からする気は、『神器』とは比にもならない。

 そんな重い『神気』が漂うを感じながらゆっくりと足を進め、洞窟へと向かう。


 人の手入れがされていない為か、しめ縄は所々解れ、黒く変色していたが、そのしめ縄を(くぐ)る度に鳥肌が増して行く。


(こんだけの『神気』があるって言うことは…それだけ神が長時間滞在したのか? )


 そんな事を思いながらも足を前に進めていると、とうとう洞窟の入り口に着いた。


「すぅ…はぁ… 」


 心を落ち着かせるために1度深呼吸をし、覚悟を決めて洞窟に足を踏み入れた瞬間、本能がこの空気に怯え、頭にも鳥肌が立ってしまう。

 けれど『神器』を回収する使命が体を動かし、刀を探しながら暗闇の洞窟に足を進める。


 1歩前へ進む度に体へのしかかる恐怖は濃くなっていく。

 体は逃げろと訴え、本能はこの空間に拒絶反応を示すが、使命だけを胸に足を前に進めていると、とうとう洞窟の奥に着いてしまった。


 そこは入り口から見える光は一切入っておらず、闇が深過ぎて目の前も見えない。

 けれど自分の呼吸音が微かに反響するため、恐怖心を冷たく、より深くしていく。


「やばいな…此処は… 」


 止まらない鳥肌を擦りながら、そんな言葉を口から漏してしまう。


 恐らくここに入ろうとする者…嫌、動物や虫すらも入ろうとはしないだろう。

 けれどここに来た理由を再確認し、『神器』を探す。


 光が見えない洞窟の中を把握するため、地面を軽く踏み付け、音を響かせる。

 するとその音は、意外にもすぐに反響してきた。


(…意外に狭いな。後、地面に穴がある… )


 光が見えなかろうが、これだけ狭いと悠人が言っていた刀があればすぐに気が付く。

 そう考えるとめぼしい場所は1つしかない。


 音を響かせながら足を進ませ、どのくらいの深さがあるか分からない穴へ身を投げ入れる。

 けれど穴の深さは意外に浅く、降りてすぐに凹凸(おうとつ)が目立つ岩の上に着地した。


(んだこれ? )


 暗闇でよく見えないため、壁を軽く叩いて音を響かせると、音の僅かな反響で、岩に穴がある事に気が付いた。


 穴の形を把握するために手を岩に当てると。その穴は刀がすっぽり入るような形をしている事が分かる。

 しかし穴があると言うことは、そこに刀自体はないという事を意味してしまう。


(おいおい、誰かが持ち出したのか? )


 こんな場所にある刀を持ち出すなど、絶対にロクな奴では無いと容易に想像できる。

 すぐさま『神器』を見つけようと地面を蹴ろうとしたが、自分が触れている穴から、微かに風を感じている事に気が付いた。


(岩が塞いでいるのか? …よし )


 一応岩の向こうにある空間を確認しようと、拳を高く上げて岩を砕こうとした瞬間、全身に細い針が刺さった様な鳥肌が立った。


 今まで感じていた鳥肌ではない。

 これは命の危機を感じた時のものだ。

 そう本能で理解した瞬間、岩を蹴って縦穴から飛び出し、洞窟の壁を蹴って全力で洞窟の外へ逃げる。


(なんだったんだ今の!? )


 形あるものならまだしも、形がない空間から命の終わりが感じた事に困惑していると、風が入った洞窟からは、呻き声に似た風の音が響く。


 気が付くと全身から冷や汗が出ていたが、それよりも不味い状況に焦ってしまう。


(こんな所にあった『神器』だ。人間が持ってたらロクな事にならねぇ )


 『魔の国』では、人間達が『神器』の核心に迫ろうとした研究があった。

 けれどその結果、1人の人間が『神器』に乗っ取られて、衝動のままに人を数百人も殺したという事件がある。

 その時の神器は、アイツの手にあるから大丈夫だが、そんな『神器』より、ここのあったハズの『神器』の方が断然やばい。


 考えたくもないが、万が一ここにあった『神器』に人が乗っ取られれば、犠牲者は数百人ではすまないだろう。

 下手をすれば、国1つ滅ぶほどの力を込めているに違いない。


 首の汗を手で拭い、焦りながらも冷静に頭を回す。


 『神器』を探すにしても、手当り次第では非効率だ。

 だからまずめぼしい場所を見つけるため、洞窟から離れ、森の方へ向かう。


(確かここら辺に… と、あった )


 朧気な記憶を頼りに森を駆け抜けていると、自分が探していた崖が見えた。

 ここなら里を、一目で見渡せる。


(っ…見事に焼かれてるな )


 見下ろした里は見事に焼かれており、ここで生活をしていた者達が居たと考えると、あまりいい気分にはなれない。

 けれど『神器』を探すために、焼けた黒が目立つ里を見下ろし続けていると、黒が続く里の中に、大量の赤色が見えた。


(なんだ…あれ? )


 あからさまに怪しい場所に目星を付け、崖から飛び降りてその場所へ向かうと、そこには赤く染まった土が広がっていた。


 試しに赤い土の塊に右手で拾い上げると、その塊は簡単に崩れ、手に残った感触と辺りから漂う臭いで、それがなにかを理解できてしまった。


(…血だ )


 ここから感じる感情は絶望と恐怖に満ちており、恐らくだが…ここで処刑される様に何人も殺されたんだろう。

 けれど気になるのは、血の跡だ。


 何かを引きずった跡がある。

 その跡が妙に気になり、跡を辿り続けていくと、その先には数え切れないほどの角材が地面に突き刺さっているのが見えた。

 しかも、角材全てに和服につける帯が釘で打たれており、その角材の前には小さな花が置かれていた。


 恐らくだが、これは墓だろう。

 それが分かると、自然と手を合わせてしまい、死者の魂の平穏を願ってから、その場所を後にする。


 いくら歩こうが、視界に見える色は黒はばかり。


 微かな幸せと絶望…焦りや恐怖…恨み…嘆き…


 それら全てを感じてしまうため、正直言って一刻も早く、この場から逃げ出したい。

 けれど逃げ出す訳にも行かず、重苦しい空気に耐えながら歩き続けていると、辛うじて焼け崩れていない家の玄関に、そこにあるのが不自然に思える、白い紙が貼られている事に気が付いた。


 手がかりは1つでも欲しいため、白い紙の元へ足を進める。


 紙の内容が見える距離まで来たが、そこに書かれていたのは文字ではなく、点と線を繋いだ妙なものだった。

 けれどこれは見た事がある。

 えっと確か…


(モールス信号…か? )


 試しに言葉を当てはめていると、それはしっかり文字になる。

 だが、1つ…気掛かりな事がある。


 モールス信号とは『和の国』のものではない。

 これを使う国はたった1つ…『戦の国』だ。


 こんな物が何故『和の国』にあるのか…誰に向けての物なのかと、色々と思う事はあるが、取り敢えずモールス信号の解読を進める。


(ジ、ン、ギ、ハ、コ、ノ、サ、キ、ノ、ヤ、シ、ロ、二、ア、ル。『神器』はこの先の(やしろ)にある…か 」


 モールス信号を解読し終わってから顔を上げると、この1本道の先には、大きくもなければ小さ過ぎない社が建っている事に気が付いた。


(あそこに神器が…後、この紙を書いたやつも多分いるよな? )


 罠と言う可能性ももちろん考えたが、いざとなれば戦って逃げられる。

 そう思う事にして、『神器』があるであろう社に向かって足を運ぶ。


 モールス信号が書かれた紙から感じる、今まで感じた事がない感情に、興味を持ちながら。



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