第10章 神器
「ふぅ…やっと行ってくれたか 」
大和と言われる白髪の女性は、長い髪を揺らしながら大きなため息を吐くと、私の首に当てていた冷たい刃物を首から離してくれた。
その隙に大和から距離を取り、急いでゆいの方を向くと、ゆいも腕が軋むほどの力で掴まれていた右手を離して貰っていた様だ。
「いやー、すまんな。これくらいしねぇとお前ら忍のこと殺しにかかってただろ? 」
「お兄ちゃんを…どうする気なの? 」
正直な気持ち、私もその答えを聞きたい。
けれどその答えが理不尽なものだった場合、私はこの人をここで殺さなきゃいけない。
「忍はちょっと過去に嫌な記憶があってな、男が嫌いなんだ 」
「そんなどうでもいい理由で傷つけようとしていいの? 」
ゆいの言葉に共鳴するように、だんだんと辺りの空気が重くなって行くが、大和さんは一貫して不敵な笑みを浮かべたままだ。
「よく無いな、だから釘を刺したんだ…なんもするなってな。多分、あれ言わなかったら悠人ヤバイことなってたと思うぞ 」
大和の不敵な笑みが視界に映ると、弓を握る力が強くなってしまう。
そう…あの時の忍と言う使用人からは殺意を感じた。
だから攻撃しようとしたのに、私は大和から刀を首に突き付けられ、ゆいは右手首を掴まれて動きを止められてしまった。
「…口約束で止まるような人なの? 」
「そこが微妙だったから紬を着いて行かせた。お前は分かるだろ? あいつは忍より強い 」
大和さんの言葉にゆいは目を閉じると、構えていた短剣を下ろし、気を落ち着かせるように長い息を吐いた。
そんなゆいを見てか、大和は安心した様なため息を吐くと、地面に転がっている鞘を拾い、銀色の刀を鞘に納めた。
「お姉ちゃん…この人、嘘ついて無いよね? 」
「うん、ついてない。心臓の音とか全く乱れがなかったから 」
「話が早くて助かる。見る限り、ちっちゃい方は武の才能によったんだな。そこの赤髪の方は頭脳か 」
多分この人が言ってる事は、私達の才の事なんだろう。
半獣人は純血の獣人族よりも弱いと思われがちだけど、実際はそうでは無い。
むしろ半獣人の方が強いと言われている。
理由は分からないけど、獣人族の瞬発力や動体視力に加え、生まれつきに才が身につくらしい。
ゆいは大人顔負けの武への技量、私は物覚えが凄く良いらしい。
「つうかすまん、今更なんだが名前教えてくれないか? 」
そう言えば自分の名前をこの人に言ってなかったことを思い出してしまい、慌てて自分の名前を大和さんに伝える。
「雅です 」
「…ゆい 」
「そうか、いい名前だ。んじゃゆいと雅にちょっと聞きたいことがあるだが… 」
大和さんは面倒くさそうに髪を掻き毟ると、突如として辺りの空気は軋み、恐怖を感じた体は本能的に後ずさってしまう。
「お前ら…人間を恨んでるな 」
「っ!? 」
自分の核心を突く様な言葉に、心臓は不自然に収縮し、痛みと違和感を産んでいく。
そう…私は人を恨んでいる。
家を…母を…そして愛すべき弟の心を壊した人間を。
多分…ゆいもほとんど同じ考えだろう。
「それは悪いこと? 」
ゆいはまたも威圧的な声を出すけど、大和さんは不敵な笑みを浮かべたまま首を軽く横に振った。
「いや全く。むしろ恨んでいない方がおかしい。だが、不死になった以上は人に復讐することは許さん 」
大和さんの真っ直ぐな言葉に、ゆいの顔が今にも誰かを殺しそうな表情になり、短剣を握る右手から骨が軋む音が聞こえる。
「じゃあ…どうしたらいいんですか? 」
ゆいを落ち着かせるように大和さんの間に入り込み、自分の中にある疑問を大和さんにぶつけてしまう。
復讐が許されなければ、私達の中にある恨みはどうすればいいのかを。
「簡単な話だ、強くなりゃいい 」
自分が待っていた言葉とはあまりにも違う言葉に、思考が止まってしまう。
一瞬遅れてゆいの方に目を向けたけど、ゆいも殺意のこもった表情を面を喰らった様な表情にしていた。
「強くなったら復讐しますけど? 」
「その場合は私が止める 」
「止められなかったら? 」
「今のお前らじゃ私に勝てない 」
ケラケラと笑う大和さんに対して、こっちはとても複雑な気持ちだ。
この人の腹の底が全く読めない。
なんというか…盲信者を相手しているみたいだ。
けれど私達はこの体については全く知らないため、この人に情報を貰う以外の道はない。
「じゃあ、どうしたらあなたに勝てますか? 」
「率直だな。まず神器と魔法の使い方を今から教えてやる 」
大和さんの喋り終えると、浮いていた神器達が透明な膜に包まれて上昇し、白い天井に吸い込まれるようにして神器達は消えてしまった。
すると大和さんは優しそうな笑みを浮かべた。
「神器を持つための最低条件は魔法を使えること。だからお前らは魔法をもう使えるはずだ 」
「どうしたらいいの!? 」
ゆいはさっきまでの顔が嘘のように、大和さんに興奮気味に質問すると、大和さんは質問されるのが嬉しい様に笑う。
「ぶっちゃけ魔法の使い方は妄想だ。自分が妄想したことが自分の魔力とあっていれば使える 」
大和さんは当たり前のようにそう言うけど、それはかなり難しい事だなと思ってしまう。
だって妄想をいくらしようと、現実の辛さや苦しみの方が強いから。
そんなことを考えていると、自分の耳が不自然な風の動きを感知した。
「お姉ちゃん…できた 」
「え? 」
風が吹くゆいの方に顔を向けると、ゆいの小さな体を纏うように風が吹いているのが見えてしまった。
「マジか…私が見て来た中でお前が一番魔法を使うのが速いぞ 」
苦笑いしながら大和さんはゆいに笑みを向けるけど、こっちはこっちで胸の奥が軋む様に痛む。
ゆいは昔からコツをつかむのが異様に上手かったから、すぐにできたんだと思う。
それに比べて私は…
「お姉ちゃん 」
そんな暗い考えを遮るように、ゆいが横から声をかけて来た。
「お姉ちゃん昔から考えすぎだから、考えずに適当にやればいいよ 」
そう当たり前の様に言われてしまうと、笑みが自然と口からこぼれてしまう。
自分の考え方が馬鹿馬鹿しくなったからだ。
私はもうあの里には居ない。
だから失敗を恐れる事はない。
「分かった適当にやるね 」
投げやりに近い笑顔を浮かべて目を閉じると、真っ暗な世界が辺りに広がった。
何もないようで、何かあるような世界。
その世界の中に、何か熱いものを感じた。
炎だ。
その炎は明るさは無く、ただその世界に存在しているだけの炎。
そんな炎を見て思い出す。
里が襲われた時、母を焼いた炎を…
その炎に触れてみると、頭に痛みが走り、肉を焦がすほどの熱が肌を舐め回す。
けれど振り払おうとは思わない。
だってその炎は、私を求めているから…
炎が腕を通し、体にまとわりつくと、理解できた。
この炎は私の怒りだ。
だからこの炎で…私は…人を殺す。
「お姉ちゃん!! 」
「っ!? 」
耳を塞ぎたくなる大きなゆいの声が聞こえ、慌てて意識を現実に戻してゆいの顔を見ると、その顔は少し怯えているようだった。
「な、何? 」
「体、燃えてる… 」
「…え? 」
自分の体を見てみると、体のあちらこちらが燃えていたけど、その炎からは熱さは感じず、服も燃えない不思議な炎だ。
「おめでとう雅。それがお前の魔法だ 」
大和さんは私を褒めるように手を叩くけど、急に自分の体が燃え始めた事に戸惑いを隠せないし、これをどうやって消せば良いかが分からない。
「えっと…コレ、どうやって消せばいいんですか? 」
「お前、頭の中で燃えてる自分の姿を想像してるだろ。その炎を消してみろ、そしたら消えるから 」
大和さんに言われるがまま、頭の中にある自分の炎を消す想像をしてみると、体に纏っていた炎は強い風に掻き消される様にして消えた。
けれど火が消えた後の煙の臭いもしない。
本当に不思議だ。
「魔法は私たちの武器だ。だからどんな状況でも使えるようにしとけよ 」
「は、はい…分かりました 」
魔法の使い方は少し分かった。
けれど、理解できない事が更に思い浮かんでしまう。
「神器って何か意味あるの? 特に体に変化ないけど… 」
私が質問するより早く、考えていた疑問をゆいが代わりに答えてくれた。
すると大和さんは嬉しそうに笑い、手をこちらに差し出して来た。
「神器は私たちのもう1つの武器だ。ちょっと神器貸してくれ 」
大和さんの要望を断る理由もないから、自分が持っている短弓の神器を渡すと、ゆいも風色の短剣を大和さんに手渡した。
「『神器 起動』 」
大和さんは少し変な事を言うが、特に神器に変化はない。
「ほい、とりあえず持ってみろ 」
すぐに返される神器に戸惑いながらも、差し出された神器を手に取ると、急に熱い何かが自分の全身を叩き、世界が変わったような気分になってしまう。
「えっ…これはなんですか? 」
突然世界が変わったような感覚に襲われ、瞬きを何度もしながら大和さんに聞いてみるが、大和さんはあっけからんとしていた。
「…お前らなんともないのか? 気分悪くなったりとか気持ちが落ち着かなくなったりとか… 」
大和さんは心配そうに赤い目を私達に向けてくるけど、特に気分など悪くない。
むしろどこか気分が良い。
「ぜんぜん 」
「大丈夫です 」
ゆいと重なるようにそう答えると、大和さんは苦笑いをしながら、心配の目を嬉しそうな目に変え、気さくな笑みを浮かべた。
「お前ら本当にすごいな。普通、始めて神器を起動した状態で持つと、少し位は気分が悪くなったりするはずなんだけどな 」
「…これで何が変わったの? 」
大和さんの話を待たず、目を光らせながらゆいは神器に付いて質問すると、大和さんは私達から少し離れ、指を上に指した。
「そうだな…とりあえずゆい、軽く上に跳んでみろ 」
ゆいは大和さんの指示に素直に従い、すぐに上に跳ぶと、ゆいは一瞬で私の視界から消えてしまった。
慌てて視界を上へ向けると、そこには宙を舞うゆいの姿があり、その高さは里の屋根ほどだった。
「「え? 」」
宙から白い地面に軽々と着地をしたゆいは、心底不思議そうな声を漏らしたが、その顔は興奮を隠せないような、きらびやかな笑みを浮かべていた。
「とまぁ、こんな風に基礎的な能力を高めてくれる。それが神器だ 」
「凄い… 」
ゆいはとても嬉しそうに目を輝かせると、その顔に好戦的な笑みを浮かべ、大和さんの方に顔を向けた。
「私と…戦って? 」
「あぁ、いいぞ 」
ゆいの唐突な願いに、大和さんはすぐに笑みを浮かべて、戦う事を承諾した。
そんな願いに、すぐに頷いた大和さんも好戦的な性格なのかなと考えていると、大和さんのゆいに向けていた笑みが、急に私の方に向いた。
「でも、1対1じゃ勝負にならん。2対1で来い 」
「え、私も巻き込まれてる!? 」
「お姉ちゃん…がんばろ 」
ゆいは不機嫌そうな顔をこちらに向けてくるけど、そんな顔をしたいのは私の方だとため息を吐きながら、弓を構える。
「というか私、神器の扱い方習ってないんだけど… 」
「まぁとりあえず戦いながら教えるわ 」
大和さんは投げやりな感じで言葉を放り投げると、私達から距離を離し始め、その足を私達からかなり離れた場所で止めた。
すると腰に刺していた刀を鞘から引き抜き、それを床に突き刺して残った鞘を地面に投げ捨てた。
「武器は使わないの? 」
「あぁ、コレ使ったら勝負にならねぇしな。ちなみにお前らの勝利条件は私に武器を使わせることだ 」
不敵な笑みを浮かべる大和さんに対して、ゆいは更に不機嫌そうに表情を曇らせる。
けれど私には気になる事があり、弓を構えながら大和さんに問いを投げる。
「この勝負に勝ったら…人間に復讐していいんですか? 」
「いやダメだ。人間に復讐しに行きたかったら私の首を刎ねることだな 」
大和さんは空の笑みを浮かべながら、自分の人差し指で首を狩る仕草をすると、すぐに赤い瞳を鋭くさせ、体の力をだらりと抜いた。
するとゆいは曇った表情を塗りつぶす様な濃い笑みを浮かべた。
「いいの? 」
「あぁ。つうかそっちのタイミングで始めていいぞ 」
大和さんが言葉を言い終えた瞬間、ゆいは身を低くし、風のような速さで大和さんに突っ込んだ。
ゆいは容赦なく大和さんの首を短剣で掻き切ろうとするが、剣を握っていたその右手首を大和さんの左手で掴まれた。
「受け身を取れよ 」
大和さんがそう呟いた瞬間、ゆいは横に大きく投げ飛ばされ、2回も大きく跳ねて床に激しく転がった。
すると大和さんはやってしまったと言いたげに口を開け、心配そうな声で転がったゆいに声をかける。
「だ、大丈夫か? 」
大和さんの言葉に反応する様に、ゆいはすぐさま体を起こし、不機嫌そうな顔で、再び大和さんに向かって突っ込んだ。
今度は短剣だけではなく、蹴りや突きなどを混ぜるが、蹴りは躱され、突きは手首を掴んで止められ、そのまま横に投げ飛ばされる。
神器を持っているゆいの突きや蹴りの威力もかなり上がっているはずなのに、どうしてあんな簡単に受け止められるのだろうか…
「雅! 」
「は、はい! 」
そんな違和感を感じていると、急に大和さんから呼びかけられ、反射的に大きな声で返事を返してしまう。
その間にもゆいは、種類を変えながら大和さんに攻撃するが、大和さんには喋れるだけの余裕があるようだ。
「その弓の矢は炎だ。炎の矢を魔法で作ってそれで撃て! 」
大和さんに言われるがまま、慣れない想像で炎の矢を作り、出現した矢を左手で掴んで弦を引くが、矢は全く熱くない。
獣人族の里にいる時、狩や祭事でかなり弓を使った事があるため、弦を引いた時に感じる圧がとても懐かしい。
神経を研ぎ澄まし、動くゆい越しに大和さんに狙いを付ける。
「どいて! 」
私の言葉にゆいは矢の射線上から逸れるように横に飛んだ。
その瞬間に矢を離すと、引き伸ばされた弦は風を切りながら縮み、炎の矢は空を切り裂き、一直線に大和さんの眉間へ向かう。
(当たる! )
そう直感で理解した。
けれど矢は大和さんに当たる寸前で止まり、よく見るとその矢を側面から右手で掴んでいた。
「熱!? 」
大和さんは小さな悲鳴を上げながら掴んだ矢を床に落とすと、炎の矢は風に吹かれて消える様に白い空間に溶けていった。
「弓の腕は結構いいな。ゆいも短剣の扱い方は結構いいぞ 」
こちらに笑顔を向ける大和さんの右手からは白い煙を上げ始め、火傷の跡がなくなっていくのが見えた。
そして実感する。
この人には勝てない。
「ゆいは風を体に纏ってみろ。雅は弓を引いた状態でしばらくじっとしてろ 」
けれど大和さんは、不安を感じている私達に稽古をつける様にそう言うと、傷が消えた右手を前に出した。
「さぁ…こい 」
大和さんの好戦的な笑みに釣られて、ゆいも好戦的な笑みを浮かべ、その小さな体を中心に風が吹き荒れる。
その間に私は炎の矢を作り、弦を引いた状態でじっとしてみると、弓に埋まっている赤色の石の1つが光を放ち始める。
美しい宝石に目を奪われていると、前からは激しい音が聞こえ始め、私の視界にはゆいがさっきとは比にもならない速さで動き、大和さんに攻撃しているのが見えた。
しかし、速くなった蹴りも突きも斬撃も、逸らされ、受けられ、躱され、そして手首を掴まれ投げられる。
けれど風を纏っているためか、投げられた体はそこまで飛ばされず、ゆいは空中で身をひねり、着地と同時に地面を蹴り、大和さんに突っ込んで行く。
そんな久しぶりに見るゆいの戦い方に目を奪われている中、短弓に埋め込まれた5つの宝石全てが光っている事に気がついた。
「ゆい! 」
ゆいの名を叫ぶと、ゆいは驚くべき速さで射線上から外れる。
その瞬間に矢を離すと、矢はさっきとは比べものにならない速さと火力を出しながら、巨大な炎の矢は大和さんを飲み込もうと迫る。
「やま」
桁外れの威力に大和さんが危ないと思うが、大和さんは避けようともせずに右手を前に差し出した。
すると手を右に払い、巨大な炎を払いのけるようにしてかき消した。
「それがお前の神器の特徴だ、覚えておけ 」
私に真っ直ぐな笑みを向けてくる大和さんに、申し訳ないが恐怖が足と心にまとわりつく。
あれだけの火力でも全く傷を与えられない。
そして、実感する。
この人は私達以上に化け物だと。
「おいおい、そんな化け物を見るような目で私を見るな、傷つくだろ 」
大和さんは苦笑いしながらそう言ってくるけど、私の目には化け物にしか見えない。
「お姉ちゃん… 」
凄い速さで私の横に来たゆいが、私の名前を呼ぶ。
「どうする? 」
心配そうにこちらに顔を向けるゆいを見て、あの時のことを思い出してしまう。
里を焼かれて、家族を失い、絶望に呑まれた時の顔を。
「ゆい…風の道を作れる? 」
頭で軽く作戦を考えてから、ゆいに小声で提案すると、ゆいは何かを察したように頷き、大和さんに向かって行く。
その背中を追いかけながら、私は弦を引き、精神を落ち着かせるために細い息を吐く。
「また同じ手か? 」
大和さんは余裕の笑みを浮かべながら、ゆいの風のような攻撃を捌き続ける。
ゆいは投げられては突っ込むを繰り返し、時間稼ぎをしてもらっていると、弓の赤い石が光を放ち始める。
「ゆい!! 」
5つの石が全て光った瞬間に妹の名を叫ぶと、ゆいは上へ飛び、矢の射線上から離脱した。
すると、私と大和さんの間に、巨大な風の道が現れる。
冷静に炎の矢を離すと、凄まじ火力と速さで矢は大和さんに向かい、その炎の矢が風の道を通過した瞬間、この空間を燃やし尽くす様な火力になり、大和さんの姿を覆い隠した。
(これなら… )
「上出来だ 」
空気を炎が焼く中、そんな言葉が聞こえた。
すると炎が大きく乱れ、嵐のような突風が体を叩く。
「っう!? 」
巨大な風圧の中、辛うじて開いた片目で前を見ると、その視界には刀を持った大和さんが居た。
(炎を…描き消した!? )
さながら、山火事を刀1本で消した様な強さに絶望していると、大きく乱れた炎の中から、風を纏ったゆいが飛び出してきた。
その位置は完璧に大和さんの死角。
「っ!? 」
大和さんは遅れてゆいの存在に気が付いたが、その短剣は既に首を掻き切る寸前だった。
けれど突如として激しい金属音が空間に響き渡り、反射的に目を閉じてしまう。
「っ!? 」
急いで目を開けた世界には、白い空間に横たわったゆいと、地面に突き刺さった短剣が見えた。
「っ! …ゆい!! 」
倒れたゆいに急いで駆け寄ろうとした瞬間、膝から力が抜け、そのまま前に倒れこんでしまう。
「…えっ? 」
視界が歪み、体を起こせない。
頭を割る様な耳鳴りが激痛を起こし、手足の感覚もハッキリとしない。
しまいには吐き気が込み上げ、空っぽの胃の中から酸っぱいものが逆流してくる。
(くる…たす…け… )
生きていた中で味わったことの無い苦しみの中、不意に視界が上を向き、見えた白い天井は横向きに倒れて地面に落ちた。
そし………て………?